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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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会長と副会長

「さて、こんな夜更けに何をしているのか、そろそろお話しては下さいませんか?」

「アアラ! 何時からそんなエラっそうな口を聞ける様になったのかしらねえ、貴女は!」

「私が今行っているのは、自治会としての活動です。普段ならともかく、今は身分の差はあまり関係ないと思うのですが……」

「生意気ねえ。実に生意気! 貴女みたいなクズと違って、ワタシは高貴な血筋に産まれたのです。そんな相手になんて口調! アンタの親の顔が……、アラ失礼。貴女の本当の親は、何処の馬の骨とも知れない人間だったわね」

「アンタねえ! いくら何でも言って良いことと悪いことが!」


 会長に対して居丈高に対応する縦ロールに食って掛かるヴィエンヌ。それを止める会長。その表情はいつもと同じく穏やかな物だが、どことなく疲れた雰囲気が漂っている。

 無理もない。俺でもこんな女の相手は嫌だ。


「アラ、シルヴィアの犬風情が、誰に向かって口を聞いているんでしょう。飼い犬の躾もまともに出来て居ないのですね。……自治会長! 聞いて呆れる!」

「お嬢様、その通りです」「ですね」


 生き写しの様な双子の少女が合いの手を入れつつ、縦ロールのご機嫌を取っている。

 しかも、こんな露骨なご機嫌取りで上機嫌になっている縦ロール。

 背後の二人は口元にニヤけた笑いを浮かべながら頷くだけだ。


「シルヴィア、貴女には立場の差という物をまた教え込まないといけないのね。貴女に従う可愛げのない犬達にも」

 

 あまりにも酷い言い方である。

 俺ですらイラつく口調なのだから、会長に心酔していると思わしきダリンとヴィエンヌの怒りは既に限界を迎えているだろう。


 だが、散々に言われているシルヴィアは何ら表情を変化させる様子一つ無い。

 いつもの様に口元に優しげな笑みを湛えたまま、何も言わずにじっと縦ロールの少女を見ているだけだ。

 それが逆に、縦ロールの少女にはこたえたようだ。何を言われた訳でもないのに、ムキになって怒りだす。


「チッ、何なの、その目は!」

「副会長、お願いです。今は新入生を迎えたばかり。貴女が私に対して不満を持っているのは分かります。ですが、模範となる上級生が率先して風紀を乱すような行為を行うの見逃すわけには行きません」


 副会長とシルヴィアは相手の女を呼んだ。

 この女が副会長なのか?

 

 うわー。付け込める隙になるかと思っていたが、あの様子だと俺なんかじゃ相手にすらされなさそうだ。

 それに、個人的にもあまり好きな質じゃない。


「その下らない役職名で呼ばないでくださる? ワタシには、クリーフル・ストラットという名前がありますの」

「クリーフルさん」

「クリーフル“様”だ」「お前の様な輩が呼び捨てにして良い方ではない!」

「うふふ、ネフィ、デレス、その辺にしておきなさいな。あまり虐めても可哀想ですし。……まあ、今日はこの辺で退いてあげますわ」


 そう言い残してクリーフルは図書館から立ち去っていく。お供の双子や、奇妙な二人はじっとヴィエンヌたちを睨みつけていた。


「クソっ、なんて連中だ」

「会長、アイツら、またやってつもり来るじゃないですか! どうにかして対抗策を!」

「落ち着きなさい、ダリン、ヴィエンヌ。彼女達はまだ“彼”には気が付いていないようです。まだ時間はあるでしょう」


 しかし、後ろに控えていた見知らぬ少年がここで初めて声を上げる。


「奴らに気が付かれる前に、多少強引な手段を使ってでも奪い取り、破棄するべきです!」

「シュルツに賛成だ。これまでは説得が功を奏してきたから良かったけど、今回のアイツ……ウォルターだっけか、アイツはかなり頑固そうだ。意思を曲げないというのなら、それ相応の対処をしなければ」


 頑固で悪かったな。

 今すぐ出ていって文句の一つでも言ってやろうという気持ちをなんとか抑える。


 ダリン、そしてシュルツと呼ばれた少年、そしてヴィエンヌも同じ意見の様で頷く。

 しかし、そんな彼らを見てため息混じりに首を横に振り、否定の意を示すシルヴィア。


「まだそう焦る状況ではないですよ、ダリン、シュルツ。最後の手段としては検討する価値はあると思いますが」

「アイツは“潜る”気です! 説得なんて、上手く行くはず無いじゃないですか!」

「ヴィエンヌ、止しなさい。たとえそうだとしても、私は最後まで説得を行います。彼もきっと解ってくれる筈です」

「会長……。分かりました。私は会長に従います。ですけど、多分そう時間はないと思います。あの女の手先……というか、貴族派の子息が今年は多いみたいですから、数日中には彼が誰なのか特定されちゃうかと」


 そこで、これまで何一つ声を上げなかった少女が手を上げる。発言の意を示しているようだ。

 その少女の顔を、というよりはお下げを見て思い出す。先日あの鍵を貰った後、俺たちを尾行してた子じゃないのか?

 

 少女の全身から陰気そうな雰囲気が漂っており、髪は目を隠すように目元まで伸び、常におどおどとしている。

 手を上げた後も、不安そうに辺りを見回している。


「リリカ、どうしたの?」

「あ、あの。彼の側に居た子は、多分貴族派の子だと思うんです。だって、その、スヴォエの家の子でしたし、随分仲が良さそうで……。腕まで組んでいて、風紀の面でも、ちょっと良くないと思いますっ」

「ありがとう、リリカ」


 リリカは早口で小声。少し遠い場所だったので聞き取るのに苦労した。

 しかしシルヴィアは普通に聞き取れたようで、リリカに優しく微笑んで見せる。 


「スヴォエ? 確かに有力貴族ではあるけど、確かあそこは王党派でも、貴族派でも無かったような。でもなんでそんな有力貴族が、田舎の小領主の子供と付き合いがあるんだ?」

「人にはその人なりの事情があります。あまり根掘り葉掘りするものではありませんよ」


 そう言ってシュルツを嗜めるシルヴィア。


 成る程。なんとなく状況が読めてきた。

 俺の持つあの鍵をどうしても彼らは手に入れたい。それが有する重大性は多分あの縦ロール女も知っている。 

 あの女はその状況を探りに鞘当てしにやって来たという訳だろう。


 そして縦ロール女は会長達が鍵を手に入れていない事に気が付いた。

 という事は、俺が餌を見せれば思いっきり食いついてきてくれそうだ。

 ……個人的にあの女が気に入らないという問題はあるが。


 そんな事を考えていると、シルヴィアが仲間たちに背を向けているのが目に見える。


「私はもう一度図書館の周りを見回ってから帰ります。皆さんは寮へ戻って下さい。私一人で十分ですので」

「じゃ、じゃあ私もお供します!」

「ヴィエンヌ、私一人で大丈夫です」


 有無を言わせぬ強い口調だ。先程あれだけ好き放題言われていた時にすら見せなかった態度に、ヴィエンヌも渋々従い、名残惜しそうに図書館を後にした。

 しかし、シルヴィアは彼らが去った後も、扉の前で考え込むように立ち尽くしている。動くことはない。


 何をしているんだ? 俺の目は彼女に注がれている。まるで何かを待っているかのようだ……

 そう思っていた所で、唐突に彼女は言った。


「そこに隠れてる人、出てきて下さいな」


 シルヴィアは俺の方を向いて、ハッキリと告げる。

 気付かれていたのか。


 暗闇に乗じて逃げるというのも一つの手だ。

 だが、俺は姿を見せることにした。

 

「こんばんは、会長さん」

「貴方は……」


 シルヴィアは俺が潜んでいたとは思っても見なかったようだ。

 流石に優しげな笑みを浮かべていられなくなり、口元を抑えている。

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