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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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初授業

 翌日。

 いよいよ本格的な授業が始まった。

 まずは魔法学の授業だ。


 腰の曲がった年配の男性が教師であり、億劫そうに教室に入ってくる。見かねたアニエスが手にしていた教科書類を代わりに持ったり、手を引いたりしている。流石は委員長だ。


「皆さん、おはようございます。私が皆さんの魔法学を担当する事になったヴィアスです」

 

 そして間もなく授業が始まる。ヴィアスが言うには、初年度は基礎的な内容が中心となり、三年時からそれぞれの特性に沿った専門課程に進むという話。

 説明が一段落した後に、彼は言う。


「では、まず実演を……」

「私がやります、先生」


 呼ばれても居ないのに現れたのは、キザったらしい上にカールした髪の毛を自慢げに弄っている如何にもお坊ちゃまな生徒。

 目立ちたがり屋なのだろう。制服の上によく分からないネックレスやケープを身に纏っていたりと人と違っていないと気が済まない性質が容易に見て取れる。


「タラス君、今は……」

「いえいえ、実演でしょう? 任せてください」

「はあ」


 彼の強引さに負けた教師は、彼に何やら話しかけている。実演の手順を説明しているのだろうが、彼は全く聞いている様子はない。

 

「では、ご覧頂こう! これこそが魔法だ!」


 タラスは叫びながら魔法を唱えると、彼を中心として突如として爆発が巻き起こる。

 

「きゃあっ」

「うわっ!」


 窓は割れ、長テーブルの上に置かれていた生徒たちのノートや筆記用具などは次々に吹き飛んでいく。

 俺は直前に障壁を張っていたので助かったが、周囲の被害は甚大だ。

 見た所、怪我をした子も少なからず居る。


 何を考えているんだ、アイツは。頭がどうかしたのか?

 こんな所で自分の力を見せびらかす為に魔法を使うなんて、正気の沙汰じゃない。


「はははは! どうだ! これこそが僕の実力だ!」

「何をしているんだね、君は!」

「おや? 何を言っているんですか、先生。魔法という物が何であるかというのを実演して見せただけじゃないですか」

「魔法はそんな事の為に使う物ではない! 君は今、何をしたのか理解しているのかね!」 


 激昂するヴィアス。穏やかそうな物腰からは想像も出来ないほどの怒りだ。

 大混乱に陥っている教室を見渡しながら、彼は怒りに震えている。


「ふっ、教師といいながらその程度の認識なのですか? いいですか、魔法というのは相手を屈服させるために使う手段の一つに過ぎないのですよ。少なくとも我がアンブロシア家ではそう伝えられて居ます。どうやら貴方から学ぶ事は何一つとして無い様ですね。この学院のレベルも知れている!」

「魔法について教わっても、他人様に対する礼儀作法は教わってないようだな」


 思わず俺は席を立ち、タラスを睨みつけていた。

 

「ウォルター、また目立ちますわよ」

「構うものか。……おい、お坊ちゃん。聞いてるのか?」

「誰だ、お前は」


 俺が奴の近くに近づいていくと、彼はすぐさま魔法を唱えようと目の前に陣を形成していく。

 魔法を唱えようとしているのは明らかだ。


「礼儀作法だと? 僕はそんな物を学ぶ必要など無い! 傅くのはお前の方だ!」


 そう言いながら、魔力を集中させ始めた。

 それを見た俺は指を一つ鳴らす。タラスがそれに気を取られた一瞬の隙に、彼の周りのエーテルに干渉した。

 もちろん、彼はそれに気が付いている様子はない。


「喰らえ、馬鹿め! “ファイアストーム”!」


 無駄に自信に満ちた表情で俺を指差すタラス。彼の叫び声と共に、クラス中の混乱が更に酷くなる。

 

「逃げろ!」

「巻き込まれるぞ!」


 だが、彼の望んだ魔法が発動する事は無い。まるでガス欠の車の様に、小さな炎が煌めき、そして消えた。

 皆が驚いた様子で彼を見ているが、一番驚いているのはタラス自身のようだ。


「なっ、どうして。おかしい、こんな事……」

「てい」


 動揺する彼の元にゆっくりと近づいていき、彼の頭に手刀を一つ入れる。

 そのままタラスは崩れ落ちた。


「じゃ、あとは普通に授業を続けて下さいな、先生」


 俺はそれだけ言い残してさっさと自分の席に戻る。

 唖然としているクラスメイトやヴィアスの視線をたっぷりと浴びながら。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「ねえ、聞いた?」

「うんうん! あの人が噂の……」

「あいつ、どこの家なんだ?」

「ベルンハルトとか聞いたことも無いぞ」


 昼休み。授業での一件、そして寮に会長が訪れたという事ですっかりと有名人になってしまった俺は無駄に衆目を集める立場となってしまった。

 噂の対象となるのはあまり良い気分ではない。メルにそう言ったら、わざわざ目立つ事をするのが悪いとバッサリだったが。


 そんな俺は執行部の元へ訪れる。

 様子を見に来たのと、彼らに聞きたい事が少しばかりあったからだ。


「お、お疲れ様っす」

「お疲れ様です!」

「ウォルターさん、聞きましたよ! アンブロシアの奴をノシたって」

「勘弁してくれ……」


 くっついてくるアランを押しのけ、俺はすっかりと様変わりした部屋の中を見回す。

 床に散らばっていた書類はいつの間にか片付けられ、どこか甘い匂いが漂っていた室内はいつの間にか清潔な空気が漂っている。

 遊び道具が散らばっていたテーブルの上は整頓され、酒瓶や食べ残しなどは跡形もない。


 見違えた物だ。感心しながら辺りを見回していると、せっせと本棚の中身を並べ替えているケレス。

 その男勝りな体格を有している容姿からは想像も出来ないほどの甲斐甲斐しさだ。


 彼女に一礼しながら、俺は執行部長に話しかける。

 俺を見た途端に彼は目の色を変えてにこやかにすり寄ってくる。


「名簿はどうなった?」

「いや、その。まだ手に入れられて居ないんで」

「……生徒会のプロフィールは」

「それもまだ……」


 まあ昨日の今日だ。仕方がない。

 それよりも、だ。


「会長のシルヴィアに付いて教えてくれないか? 大まかな話でいい」

「シルヴィア会長ですか? でしたらある程度は……。あの人の親父さんであるウィンドラス辺境伯については知ってますよね?」

「ああ。西方にあるブルターニャとの国境沿いに領地を持つ有力貴族の一人だろ? ただ、あんな若い娘さんが居たとは知らなかったけど」


 この王国の西に相対するのがブルターニャ公国。その最前線に領地を持っているという事は、それなりの力と権力を有している家柄だということだ。

 王国は北の半島国家であるフランダリア王国を除き、東の山脈を挟んで相対するヴィスル聖王国、そして南のメディア都市連合とは敵対している。


 そして、その三方向の最前線に領地を持つのが辺境伯であり、彼らは皆一様に強大な軍事力を有する事で知られている。


「会長は養子なんですよ。ただ、あの人はあんまりそういうのは気にしてないみたいですね。頭もキレて、剣の腕も立ち、魔法も一流。どこか浮世離れしてるというか、近寄り難い感じがあるんですよ。俺たちにも微妙に厳しいですしね。特に、これが」


 そう言いながら執行部長は手で金を示す仕草を行う。

 

「あ、これは自治会の面子の前ではタブーなんで、迂闊にそんな事を口走ろう物なら生きて帰れません。あの自治会は副会長を除いてバリバリの王党派で固められてるんで」


 俺は頭を悩ませながら、執行部長の話を必死になって頭に記憶していく。

 あの会長は養子でありながら、王党派、つまりは国王とその一族に固い忠誠を誓う貴族達の子弟の長となっている訳か。

 だが、一つ気になる所がある。


「副会長を除いて?」

「ええ。副会長だけが役員の中で唯一の貴族派なんです。一応ポストだけ貰ってるって感じで、一度も会合に姿を見せたことが無いって話です」


 貴族派。国王とその支持者達からは距離を取って独自の権益を手に入れようとしている対抗派閥だ。

 なるほど。自治会も一枚岩ではないって事か。

 出来ればその副会長と一度会ってみたい。


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