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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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かしましい委員長

「これは一体、どういう事ですか?」

「ご挨拶を、と思いまして」


 そう言って敵意の見えない笑みを浮かべるシルヴィア。

 その豊かな胸を揺らしながら俺に近づき、俺の手を無理やり握る。


「ふふ、年のわりに随分とがっしりとした手をしているんですね」

「少しばかり、鍛えていますから」


 眼鏡の奥に見える瞳の色には敵意は見当たらない。

 その割には彼女の背後に控えている男女の敵意は凄まじい物があるのだが。


「すみません、状況が飲み込めないのですが。どうしてこんな夜分、しかも自治会の方々が総出で俺の様な新入生の所に?」

「ああ! そうですね、二人の紹介を忘れていました」


 イマイチ話が噛み合わない。わざとそう振る舞っているのか、天然なのか。

 しかし偶然や新入生皆に対する挨拶周りという訳では無い事は確かだ。


「こちらはダリン・ハーツ。四年で経理を務めています」

「……よろしく」


 高身長で鋭い目つき、髪を少しばかり尖らせた男を紹介する。

 

「で、こちらがヴィエンヌ・ソロターン。私と同じ五年生で書紀を務めています」

「ふん!」


 未就学児としか思えない低身長の少女が精一杯背伸びをしながら俺を睨んでいる。隣の男と違って最低限の礼儀すら示すつもりは無いようだ。


「えっと、宜しくお願いします。だけど自治会の役員の方々が、一体どうして俺なんかの所に?」

「そう、そうですよね。いきなり訪ねてきても、戸惑うばかりですよね。でもこれにはちゃんとした理由があるんです」

「会長、こんな奴に遠回しに言う必要なんて何も無いでしょう。さっさと――」

「そこまで。ダリン君、周りを見なさい?」


 シルヴィアの言う通り、遠巻きに俺たちを見ている生徒たちが多く見受けられる。

 それを理解したのか、頭に血を上らせながらもダリンは引き下がる。

 

「そうそう。私達がなんで貴方の所に来たのかなんだけど、思い当たることはある?」

「ありませんね」


 即答する。大体の予想は付くが、わざわざ自分から言う必要は何一つとしてないだろう。

 俺の答えでダリンとヴィエンヌの二人は更にカッカした様子を見せるが、シルヴィアは依然として微笑みを口元に浮かべたまま何も言わない。

 ただ、俺の顔をじっと見つめているだけだ。


「そうですか。うん、予想通りね」


 うんうんと一人で何かを納得したように頷いているシルヴィア。

 そして、口を開く。


「貴方が先程受け取った鍵と手紙、その一式を私達に渡してくれない?」

「嫌です」

「どうして?」

「理由がない」


 こうまでバッサリと切り捨てられるという予想はしていなかったのだろう。流石にシルヴィアも面食らった様子を見せる。

 しばらく口元に指を当てながら考え込んでいた後に、再び微笑みを見せながら言う。


「そう。……それが非常に危険な代物だと理解している?」

「ええ。あれだけの強い魔力を感じる鍵はそうある物じゃありません。かなり危険な代物でしょうね」

「そっか。なら、しばらくは貴方が持っていて」


 それだけを言い残してシルヴィアは踵を返し、階段の方へと歩いていく。

 あっさり引き下がった事に対して驚いているのは俺だけではない。彼女のお供をしていた二人は一瞬何が起きたのかも分からず立ち尽くしていた。 


「またね、ウォルター君」


 二人が自分の元へと駆けてくるのを確認した後に、ひらひらと俺に向けて手を振るシルヴィア。  

 ただ頭を下げて俺は彼女を見送った。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「一体何があったの、ウォルターさん! なんで会長がいきなり、こんな場所に!」

「アニエスさん、もう少し静かにして下さいませんこと? 貴方の声、耳に響きますの」

「うー、悪かったよ。でもなんで初日からこんな事に……」


 がっくりと肩を落とすアニエス。

 メルは頭を抱えながら、いつの間にか彼女の背後に控えていた自らの使用人であるカリンから茶の入ったカップを受け取り、飲み始めていた。


 俺とメルとカリン、そして何故か加わってきたアニエスとの四人で談話室の一角を占拠していた。

 他の者達は遠巻きに眺めているだけだ。まだ初日で名前も覚えていない相手には中々近寄り難いだろうし、それにいきなり会長とその取り巻きとトラブっていた人に近付こうとする物好きはそう居ないだろう。

 俺の目の前に約一名存在しているが。


「アニエスさん、私達はこれから大事なお話をしますの。席を外して下さる?」

「お断り。委員長として怪しげな行動を取っている人には注意する義務があるし」

「はあ……」


 口ではそんな事を言っているが、もうアニエスの表情から面白そうな事を見つけたという喜びが隠せていない。

 この娘、トラブルに自分から首を突っ込んで引っ掻き回すタイプと見た。

 あんまり関わってほしくないんだが、この手合は一旦腰を据えたら絶対に引かないだろうしなあ。


「いいや。メル、始めよう」

「この子は……」

「どうせ減るもんじゃない。別に問題ないだろ」

「わーい」


 俺の許しが出たことでソファに飛び込むように座り、カリンに茶を要求している図々しさを見せているアニエス。

 図太い。


「あの手紙の内容を要約すると、この学院のなんかに触れたコーネリアが地下書庫の奥に秘密を隠したので、見つけたら持ってっていいよって話」

「お宝はありそうですの?」

「あるってさ。それ以上にこの学院の秘密が解き明かせるかもしれないのが大きい感じ」

「財宝? 秘密?」


 良く分からないで頭を悩ましているアニエスを無視して俺たちは会話を続ける。

 

「でも、なんでそんな回りくどい方法を取ったんですの?」

「公にすると問題があるんだろ。実際、学院側でも何度か調査団は送り込んだんだろうし、さっきは自治会の会長がわざわざ手を引けと警告してきたよ」

「ああ、あの騒ぎはそれでしたの」


 涼し気な顔で流すメル。


「役員を二人も引き連れてね。ただ、その割にはあっさり退いたのが気になるけど」

「明らかに何か企んでますわね、身元調査も含めて周辺を探りませんと」

「なる。要は先々代の校長先生が残したダンジョンを踏破すると色々貰えるってことね。そして会長達はそれを阻止しようとしてると」


 アニエスは手を叩きながら納得したように頷く。

 意外と頭の回転が早い。馬鹿にしていたがこれは侮れない相手かも。


「そういう事だな。で、どうする?」

「どうするって?」

「この事を学院側に伝える?」

「まっさかー。こんな面白そうな事を台無しにするような事をするわけ無いじゃん、この私が!」


 俺とメルは同時に頭を抱える。この娘はこれからも首を突っ込むつもりだ。

 

「どうしますの、この娘?」

「しばらくは泳がせとくしか無いだろ。初日からいきなり同級生を消したくもないし」

「はあ……」


 小声で囁きあう俺たちを見て不審そうにするアニエス。

 

「ていうか、二人ってなんでそんなに仲良いの?」

「古馴染みですのよ。そしてこれからも付き合っていく相手です」

「へー」


 恋愛方面には一切興味が無いようで、適当に流したアニエス。

 イマイチこの娘がよく分からない……


 そして、その時丁度鐘の音が聞こえてくる。

 消灯の合図だ。


「はーい、今日のお話はここまで。二人は悪だくみを止めて、さっさと自分の部屋に戻るように!」

「はいはい」

「はあ……」


 完全にアニエスのペースに振り回されてぐったりとしているメルを残して俺は足早に去っていく。

 その俺の肩に置かれる手。カリンだ。

 

「アザリアにも伝えておいてほしいんだけど、あの子の見張りをお願いします」

「……」


 俺が顎でアニエスを指し示すと、カリンはこくりと小さく頷いた。

 何か変な背景があるのなら、さっさと退場してもらう事になる。せっかく同じクラスになった仲ではあるが。

 だが、そんな相手だとは思えないのはなんでだろうか。

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