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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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冒険者になりました

「ほら! たんと食べな!」

「あの、俺こんなに頼んでない……」


 そんな俺の言葉は見事に無視され、次々にテーブルの上に置かれていくありとあらゆる料理。

 注文した筈の料理は来ていない。


「好意には甘えておくべきだと思いますわよ、ウォルター」

「他人事だと思って適当言いやがって」

「あら? 他人事ですわよ」


 メルはそう言いながらナイフを自在に操り、鳥の丸焼きを切り分けていく。

 どう考えても手で持ってそのままかぶり付くタイプの料理だと思うのだが、彼女は淑女と書いてレディと読むタイプの人種である。そんな下品な真似をするはずが無い。

 

 しかし、そんな素敵な淑女は運ばれてくる料理を次から次へと口の中へと放り込んでいく。

 凄い速度だ。それ以上にアレだけの騒ぎの後で平然と食事が出来る精神の図太さが凄い。食が細い俺も見習いたい。


「あいよ、お待ち!」


 ジルが(頼んでいない)次の料理を持ってきた。魚に大量のソースが掛かった煮物らしきものと、揚げ物だ。

 いい香りはするんだが、とても食べる気にはなれない。


「どうしたんだい、しょげ返って。らしくないねえ。あのアホンダラを張り倒した男とはとても思えないこと」

「はあ……」


 仕方なく、パンを手に取って口に運びながら、スープを飲む。

 美味しいのだろうが、味がしない。食堂中の人間の目が俺に注がれているのと同時に、ジルが俺を凝視しているからだ。


「味はどうだい? 美味いだろう?」

「はい」


 愛想笑いで味のしないスープを飲み続ける俺。

 このジルとか言う人、食いついたら逃さないタイプの人間だ。勧誘に首を縦に振るまでこの調子で居るのだろう。


「あんたのその体に度胸、それに実績。もう現時点で相当なもんさ。名前はなんて言うんだい?」


 偽名でも使ってやり過ごす事にしようか。

 そんな事が頭を過った瞬間に俺の背後から声が聞こえてくる。


「彼はウォルター。ウォルター・ベルンハルトだ」

「おんや、まあ! テミスじゃないか」


 テミス。聞き覚えのある名だ。

 声のした方向を見ると、槍を背負った金髪で切れ長の女性がこちらに歩んでくる。


「ああ、二年前の!」

「久しいな、少年。まさかここで再開する事になるとは思わなかった」


 握手を求めてきたテミスに答えるために立ち上がり、その手を握りしめる。

 その途端に客たちから嘆息が聞こえる。


「テミスと知り合い?」

「一体何者なんだ、アイツは」


 どうやら彼女はここでは有名人のようだ。彼女に話しかけたそうにしている若い冒険者らしき姿もちらほらと見受けられる。


「まさか君とギルドで再開するとはな、ウォルター」

「テミス、この子と知り合いなのかい?」

「知り合い、と言えばそうなのでしょうね。一度戦い、そして負けた相手です」

「アンタが、負けた?」


 そう言って口をあんぐり開けたまま固まるジル。

 テミスはその言葉に苦笑しながら肯定の意を示すだけだった。


「あんな年端も行かない子供が、テミスを?」

「A級の冒険者だぞ、アイツは。それが負けた? どうなってるんだよ」

「テミス様……」


 店内のざわめきが更に大きくなる。

 俺は助けを求めるようにメルの方を見たが、彼女はこちらにも目もくれず、ただひたすら料理と格闘しているだけだった。

 それなりに広いテーブルに並べられていた料理の半分程が既に彼女の胃袋に消えてもペースを落としている様子は見受けられない。


「アンタ何者なんだい? このテミスはね、ここのギルドの常連の中でも相当な使い手さ。そこらで飲んだくれてる連中が何人居たって相手にすらならないんだよ。それを倒すって……」

「そんな君がここに来たのも何かの縁だ。冒険者になると良い」


 あなたもですか。あなたもそういう人だったのですか。

 これで完全に四面楚歌である。一歩後ずさりすると、テミスが距離を詰めてくる。

 メルを置いて俺だけ逃げればどんな事になるのか想像もしたくない。


「はあ、分かりました。分かりましたよ。取り敢えず話を聞くだけ聞きます」

「それでこそ男だ! よーく言った!」


 そのまま俺はジルとテミスに両脇をがっちりと固められ、ギルドカウンターの方へと連れ去られていくのであった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 無理やり連れてこられた俺は、ソファが置かれて周囲から仕切られたブースの一角に座らせられる。

 その横に二人が腰を下ろし、完全に逃さない体勢だ。


「で、俺に何をさせようってんだ?」

「簡単さあ、アンタはここで任務を請け負ってそれをこなす。完了すればお金が貰える。学術都市という事でアチラコチラ、それこそ他国からも人が集まるんで仕事は幾らでもある。そしてそれを捌く数はいつでも足りてないんさ。特に、少しばかり危険な仕事をこなせる腕の良い冒険者はね」

「そうそう。あの学院の生徒達も多く登録している。何も怖がる必要はない。君もこのギルドで栄光を掴もう!」


 宗教か何かの勧誘としか思えないワードが次から次へと飛び込んでくる。

 正直もう帰りたい。 


 金に困った事は無いし、名誉も要らない。というより目立ちたくもない。

 冒険者として有名になる? いやいやいや。


 乗り気じゃないが、この鼻息が荒い二人は俺が首を縦に振るまで離そうとはしないだろう。

 まるでどこかの絵売りの様だ。どうしたものか。


「冒険者として有名になれば、私のように素敵な異性が次々と集まってくるようになるぞ。友達も出来る!」

「そうそう、進学にも便利だ!」


 俺は貴族だ、そう言いかけた所で止めた。

 登録するだけならタダだ。そして放置しておけばいい。

 観念した俺は遂に首を縦に振った。


「やった!」

「よしよし。おい、パム、書類を持ってきてくれ!」


 ダルそうにして椅子でだらけていたパムと呼ばれた女性が持ってきた書類に手早く目を通し、サインを行う。

 これで俺も晴れて本業学生の副業冒険者、というわけだ。履歴書にも書ける。履歴書なんて無いけど。


「いい子だねえ。じゃ、手早くこのギルドの説明をしていくよ」


 また引きずられていく俺。もう抵抗する気力すら無い。


「これがボード。いろんな任務がある。アイテムの採集から、魔物の討伐。それに人探しや相談、変わった所では“奇怪通り”の魔術師の実験の手伝いや貴族の子供の教師依頼なんてのもあるね」

「へえ、割と色々あるんだな」


 ジルが指さしたのは、長く長く続いていく掲示板。そのありとあらゆる所に依頼の張り紙が所狭しと張られている。

 目を通していくと、やはり荒事関連の依頼が多いが、それと同じほどにそれ以外の仕事も存在している。

 ここはイメージとは違っていた。


「だけど、アンタみたいな手練はここにあるような仕事じゃ満足できない。そうだろ?」

「いや、俺は別に……」

「そんな時はカウンターの子達に声を掛けな。 ミグティス! アレを持ってきな!」

「アレ? 何ですか、それ」

「特別依頼だよ! 早く!」


 さっきのパム以上にやる気の無さそうな女性が、スローモーションで戸棚の一角から紙の束を持ち出してくる。

 かなり分厚い。凄まじく分厚い。俺の拳を二つ縦にした程の厚みがある。


「これが特別依頼さ。表には載せられないような依頼がたんまりと存在してる。やりたい時には声を掛けな」

「ソウデスネー」


 多分そんな事が来ることは無いと思うが、表面上はにこやかに答える。


「ま、話はこんな所さね。何か質問は?」

「何もありません」

「なんかある筈だぞ、ここでは私が先輩だ。なんでも聞いてくれて構わない」

「いえ、今は何も」


 よし、良い感じだ。このまま受け流して……

 

「お話は終わったんですの?」

「あら、なんだい」


 口元をハンカチで拭いながらメルが現れる。俺たちの居た席には大量の皿の山が積み上げられており、あの量を一人で完食した事が伺える。

 しかし、ナイスタイミングだ。彼女を回収してさっさと出るとしよう。


「飯は美味かったか?」

「ええ、悪くはないわね」

「そうかいそうかい! そりゃ良かった!」


 ガッハッハと笑うジル。

 よし、このまま彼女を連れて……


「……なんですの、これ。変ですわね」

「ん?」


 掲示板に貼り付けられた一枚の依頼書を剥ぎ取るメル。

 それの仕草を見た途端に、二人の目の色が変わった。

 ああ、なんてことを……

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