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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第三章 学園編
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冒険者ギルドにて


 まずメニューだ。何があるのかを見なくては……

 そう思って木札に記されたメニューを眺める、が酒の類しか書かれていない。フードメニューはどこへ。

 やはりアルコール類が多い。場所柄だろう。それも質が良いとは言えない品々が多く並んでいる。……場所柄だろう。


「らっしゃい! 新入生さんかい? 悪いね、騒がしい店で。これがウチのメニューさね、決まったら呼んどくれよ」


 俺たちの元に来てメニューを渡して来たのはしゃがれ声で喋る、恰幅の良いおばちゃんだった。頭をバンダナで縛り、片手には酒瓶の大量に乗ったトレーを手にしている。凄いバランス感覚だ……

 やんややんやと大騒ぎしているテーブルに酒を配りながら、彼らと会話を交わしつつさり気なく注意している。酔っぱらいも彼女の言うことを聞いている辺り、この店の名物店主か料理人みたいなもんだろう。 


「ウォルター、早く決めちゃいません? もうお腹が空いてしまって、動きたくありませんし」

「そうだな」


 俺はメルの方から聞こえる可愛らしい腹の音を聞いてニヤつきながら(それを見たメルは俺の肩を叩く)メニューを開き、メルに渡す。

 彼女が料理を選んでいる間に、店の中をゆっくりと見回す。


 賑やかそのものな店内は人で埋まりきり、あちこちで騒ぐ者もいれば、静かに食事だけを楽しむ者も居る。

 カウンター席には一人でゆっくりと酒を楽しむ人の姿も見受けられる。彼らに共通しているのはゆで卵の様な料理を皆一様に注文しているという事だ。

 あれがこの店の名物なのだろう。


「私は決まりましたわ。はい、メニュー」

「ん、ありがと」


 俺は料理の絵や解説が記されているメニューに目を通す。

 その一角に、『当店名物、サラマンダーのタマゴ』という名前を見つけた。これがあのゆで卵の様な料理なのだろうか。

 『中身は食べてみてのオタノシミ』と記されている事から、本物のサラマンダーのタマゴでは無い様に思える。


 それとオーソドックスなサンドイッチに決めた。

 若い女性のウェイターを捕まえて注文して、早く出来上がるのを待つ。

 ちなみにメルはレイクフィッシュのマリネと髭根人参のサラダ、それとローストビーフを頼んでいた。


「メニューの量とセレクトは合格ですわね。少し大衆向け過ぎる気がしますけれど」

「そりゃ、大衆食堂みたいなもんだからだろ」


 ツンとお高く止まっているメルに呆れながら、料理を待つ。何だかんだで腹が減ってきた。


 そんな時だった。入り口から無駄にデカイ声が近づいてくる。


「ガハハハハッ、帰ったぞ! ローク団様のお帰りだあ!」


 四人組の男女パーティーだ。上半身裸で毛まみれの男をリーダーとした、如何にも乱暴そうな一群。

 彼らは肩で空を切りながら、周囲を威嚇しつつ食堂の方へと歩いてくる。

 

 そして、手近な人の居るテーブルを見つけると、無理やりそこに座ろうとする。

 静かに酒を飲んでいたおじさんの集団の席だ。


「あの、ここは」

「うるせえんだよ! とっとと退きやがれ!」

「ひーっ」


 料理を残したまま逃げ出すおじさん集団。

 そこにどっかりと座り込んだローク団は、残されていた酒やツマミを一気に食べ尽くし、飲み尽くすとカウンター方面に向かって無駄にデカイ声で呼び掛ける。


「おい! 姉ちゃん! 早く来いやあ!」

「ゲラゲラゲラ、またあのババアが出てくるぞ、ローク!」

「知るかよ! あんなババア怖くもなんともねえ!」


 しかし、カウンターや厨房からは誰一人としてやってくる様子は無い。何度も何度も呼びかけても無駄だ。

 見る見る内に彼らは不機嫌な様子となる。


「チッ、相変わらずフザケてやがる!」

「おい、何見てんだよ! ローク団に喧嘩を売ろうってのか!?」


 不機嫌さを周囲の客にぶつけ始める連中を見て顔を顰め、睨みつけるメル。

 それを見つけたローク団のリーダーらしき半裸の男が立ち上がり、近づいてくる。


「なーに見てんだよ、嬢ちゃん」

「下品な輩ですこと。近寄らないで頂けます?」

「ああ? 何言ってんだ、コラ」

「ボスぅ、良いじゃないですかあ。こんな女の子ですよ! 君君、俺たちの席に来てさあ……」


 部下と思わしき一人の酔っぱらいがメルに手を掛けようとした所を、俺がその手を払いのける。

 その途端にロークと呼ばれたボスの男がこちらを物凄い形相で睨みつけながら、食堂中に響き渡る声で怒鳴りつけてくる。


「んだあ! やるってのかあ?」

「そんな小さな体で、俺たちに勝てる気で居るのか?」


 無駄に威勢の良いロークと、ケラケラと笑い立てる部下達。 


「あなた達、さっさと謝った方が宜しくてよ」

「謝るう!? 誰にだ? 俺たちにか? 『生意気言ってごめんなさい』ってか?」

「ヒャッヒャッヒャッ」

「謝るのはなあ、テメエだよ。まず裸に……」


 俺の右ストレートがロークの顔面に突き刺さって吹き飛んだ。

 キレイに飛んだ。ギルドのカウンター方面まで吹き飛び、そのまま動かなくなる。


 食堂は一瞬静まり返った後、大騒ぎだ。

 客達が歓声を上げながら俺たちを囃し立てる。


「いいぞ! 少年!」

「やっちまえ! やっちまえ!」

「シュッシュッ、シュッシュッシュッシュッ」


 ロークが吹き飛ぶ姿を呆然として見ていた仲間の酔っぱらいは、彼が全く立ち上がらない事を悟るとゆっくりと、ゆっくりと後ずさりを始める。

 しかし。


「あら、御免あそばせ」


 メルが彼の足を引っ掛け、見事にすっ転ぶ。それを見てまた歓声が一段と盛り上がる。


「こんの、女!」


 その酔っぱらいが立ち上がり、メルに掴みかかろうとする前に俺の飛び膝蹴りが彼の顔面を捉える。

 嫌な音と同時に男は囃し立てていた連中のテーブルに突っ込んで行き、テーブルの上の物を散乱させながらノビ、そのまま気絶した。


「いいぞお」

「おらおら、飲め飲め飲め。もっと欲しいか?」


 ダウンしている男にドバドバと酒が注がれる。

 その様子を見ていた俺は、残る二人の男女に目をやる。


「うおっ、俺はやんねえよ、関係ねえし」


 二人は転げているロークと酔っぱらいを無視するように目を背けつつ、立ち上がる。


「逃げんのか!」

「やれ! やれ! 戦え!」


 いつの間にか彼ら二人を取り巻くように人の輪が作り上げられていた。騒ぎを聞きつけて店の外からも人々が駆け込んできた様だ。


「何騒いどるんじゃオンドレらぁ!」

「ひ、ヒイイイッ」


 先程のロークの怒鳴り声とは比べ物にならないほどに恐ろしく、デカイ声が食堂中に響き渡る。

 耳鳴りがする程にデカく、叫び終わった後もまだキーンとする程に高い声だった。


 この騒ぎを眺めていた客達は突然黙りこくり、輪の一角に穴が穿たれる。

 そこに姿を見せたのは、最初に俺たちにメニューを持ってきてくれた恰幅の良いおばちゃんだ。

 しかし彼女の今の表情はまるで赤鬼の様。


「誰が騒ぎを引き起こした! 誰だ! あん? マンじゃないか。ということはまたロークの阿呆か! このボケナスがあ!」


 彼女の凄まじい怒りに誰一人として口を開こうとはしない。


「喧嘩の相手はアンタか、アンタか、それともぉ、お前かあ!」

「俺です。俺がアイツに絡まれたんです」


 俺は手を上げつつ、ギルドの方まで転がっていったロークを指さしつつ名乗り出る。メルはそんな俺の様子を見ながら頭を抱えながら唸っていた。


 しかし、おばちゃんは俺の様子を見て鼻で笑う。


「はん? 坊や、冗談は良しな。そこらで寝っ転がってる阿呆共は、このギルドの中でもそれなりに名の知れた冒険者さあ。……B級だっけか、そこで寝てる阿呆のロークは。ま、坊やは見た所学院の生徒、それも新入生じゃないか。幾ら何でも」

「こいつさ! こいつが、マンとロークをやったんだよ! 俺たちは何の関係もねえ!」

「うっさいよ! アンタらが原因だろうに!」


 ビンタが雷の様な音と共にロークの仲間の一人の頬を打つ。

 そのまま倒れ、動かなくなった。


「本当みたいねえ。面白い、面白いじゃないかあ!」


 突然腕を広げながら俺に近づいてくるおばちゃん。

 やる気か!?


 しかし違った。俺の手をがっしと掴むと、ブンブンと千切れそうな程に上下に振り回す。


「アタシはここのギルド長をやってるジル・マッケンジーだ。いいねえ、気に入ったよ、アンタ! 冒険者になりな!」

「は、はあ……」


 俺の手を掴んで目を輝かせているジル。俺はただ適当に頷くしか無かった。

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