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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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賽は投げられた

 リーベッカと両親とが挨拶を行っている間、俺は連絡に現れたシオと会話を交わしていた。


「いや、大変だったっすよ。でもまあ、明日辺りには見つかるんじゃないっすかね」


 “後始末”を終えた彼女の表情は晴れ晴れとしている。


「ご苦労さん、そうだ、皆の様子は?」

「もう大騒ぎっすね、でもまあ、主賓が居ないのでなんか締まらない感じっすね。明日は顔を出して下さい」

「わかってる。それは大丈夫だ」


 あまり話し込んでいるとマズいと判断したのか、シオは忙しそうに去っていく。しっかりと道中のテーブルで口の中に料理を放り込みながら。

 ちゃっかりしているな、相変わらず。 


「明日は私と、そしてお邪魔なローゼンプラウムさんと一緒に回る筈ですけれど」


 シオを見送っていると背後から不機嫌そうな声が聞こえる。メルだろう。

 溜息をつきながら振り返ると、声以上に不機嫌そうな顔をした彼女が腰に手を当てながら俺を睨んでいる。


「盗み聞きとは感心しないな」

「“たまたま”耳に入っただけですのよ。ですから、盗み聞きなんかではありませんの」

「はいはい」


 そのやり取りの後、俺たちは言葉を発する事無く、隅で人々に囲まれながら会話を交わしている互いの親を眺める。

 今日も酒が入っている筈なのだが、父の顔はすっかりと真っ青になっている。先程までの機嫌の良さは何処へやら。

 まあ、仕方のない事だろう。


 その側にはキルシュが大皿いっぱいに甘味を取り分け、エレオノーラと二人で食べている姿が目に入る。

 そんな二人の口元を時々拭いてやるのが今のアザリアの仕事である。


「君のお母さんから話を聞いたよ。あの二人を説得したんだってな。……本当にありがとう」

「礼など要りませんわ。もう私達はそういう関係では無いでしょう、運命を共にする相手なのですし」


 そうだ。俺は、この子と共に生きていくことになる。

 死がふたりを分かつまで。……それか、メルが俺に愛想を尽かすまで。


「私、随分と長く側に居た筈なのに貴方という人がまだまだ分かりませんの。いつもしょぼくれた顔の、頼りない人の様に思えるんですけれども」

「随分と手厳しい言い方だなあ」

「あら、これでも手控えるつもりなのですけれども」


 この調子だと、死ぬより前に愛想を尽かされそうだな。

 そう思って俺は笑う。


 そんな俺を見て怒るメルだったが、駆け寄ってくるエレオノーラを見て怒りを収める。


「あら、どうしたんですの」

「……んー」


 話を切り出せずに、モジモジと足を動かし続けているエレオノーラ。

 そんな彼女の側に近寄ると、彼女の顔の高さまで屈んで話を切り出すまでじっと微笑みながら待つメル。 


「……えっと、メルキュールさんは、兄様のお嫁さん?」

「その前段階と言う所かしら」

「……じゃあメルキュールさんは、これからは姉様?」


 そうエレオノーラに言われた途端に、何かに気が付いた様にハッとするメル。


「そう、ですわね」


 気が付いて居なかったようだが、確かにそうだ。


「これからも宜しくね、エレオノーラさん」

「……ん。姉様」


 珍しく微笑むエレオノーラ。


「本当に、良い妹さんだこと」

「うん。本当に良い子だ」


 俺は、再び両親と、そしてキルシュの元に戻っていく妹の姿を眺めながら、今までの事に思いを馳せる。


 同じ年、同じ日。

 アザリアも、エレオノーラも、キルシュも、メルも、誰も居ない世界。俺はもう、そんな世界を想像すら出来やしない。

 居なかった筈の人物が、出会う事の無かった人物が、今の俺の側には沢山居る。


 ……きっと、このまま皆で平穏無事に暮らせたのなら、それが一番幸せなのだろう。

 だが、俺はもう決断を下し、川を渡った。

 もはや後戻りは出来やしないのだ。


 望む物全てを手に入れるか、全てを失うか。

 辿ることの出来る道筋は、この後には何もない。

 それでも、今の俺には共に歩んでくれる人が居る。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 そして、時は再び流れる。

 三年後へと。


 ……背後で、扉を叩く音がした。

 少しばかり雑で、力の篭ったその音だけで誰が来たのかすぐに分かる。メルだ。


 寝巻き姿となっている彼女は寮の規則を破り、夜遅くだと言うのに平然と異性の部屋を訪れている。見つかれば大目玉を食らうことになるだろうがそんな事を気にしている様子は何一つとして無い。

 そんな彼女も(彼女自身は何もしていないが)引っ越しですっかりとくたびれてしまったようで眠そうに目を擦っている。


「ウォルター、何をしているんですの?」

「少し、調べ物を」

「もう明日の準備をしませんと。明日は貴方の師と、そしてキルシュちゃんの所にも行くのでしょう?」

「そうなんだけど、少し準備をね」

「……下の談話室で待っています」  


 俺がそう言うと、深い溜息を立てた後、名残惜しそうに部屋を去っていくメル。

 何時までも待たせているわけには行かない。仕方なくランプの灯りを消して背伸びをしながら立ち上がる。


 ここは王国第二の都市にして、学院都市、大陸の中でも名高い“知の都”としても名高いステアマルク。 

 そして、俺の今いる場所は、そのステアマルクの中心に位置する王立ステアマルク学院、その寮。

 新たなる物語の、幕開けだ。  


第二章完結です、お疲れ様でした。

次回から学園編という事で舞台を改め、新たな人物も数多く現れます。

とは言うものの、どちらかと言うと学校の話よりもそれ以外の話の方が多くなる予定です。

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