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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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キングメーカー

 今、俺は自身の剣術大会優勝を記念した盛大な祝賀会に出席している。

 そして、予期しなかった人物と、二人きりになってしまっている。

 近く、挨拶に伺わなければならない人物だと思っていたが、まさか相手から出向いてくるとは予想外だった。


 眼の前に居るのは、スヴォエの女帝にしてメルキュールの母親。

 リーベッカ・フランソワーズ・スヴォエ。


 その美貌は五人もの子を持つ年齢の女性とは思えない程。

 プラチナブロンドの流れるような髪、宝石の様なコバルトブルーの瞳に通った目鼻立ち。その肌にはシミもシワも存在しない。この世界には存在しないとは言え、整形を疑ってしまう程の美貌だ。


 だが、この美貌の下に牙と毒を隠している事は周知の事実。あのスヴォエ家の泥沼のお家騒動を勝ち抜き、今も尚実権を握り続けているのだ。

 そんな彼女が直々に出向くという事実が持つ重みを考えれば、ただの挨拶などではあり得ないだろう。


「そこまで固くならなくて良いのに」


 そう表面上はにこやかに言っていても、彼女から滲み出してくる“圧”がこれまで接してきた人物とは格が違う。これがプレッシャーという奴か。


「あの子の話を聞いて、どんな人なのか会ってみたくなったの。メルキュールがあそこまで我を通そうとするのは初めての事だったから、どれ程惚れ込んでいることやら」


 そう言ってころころと笑うリーベッカ。

 だが俺は全く笑えない。針の筵に座らせられている気分だ。


 スヴォエの現支配者が直々に面接に来たという事だ。

 圧迫面接ではないか? ……いやそんな事を言う立場ではないな、俺。


「さて。この度は剣術大会優勝おめでとうございます。メルも喜んでいたでしょう」

「……はい」

「本題に移りましょう。おおよその話は聞き知っています。アカーシュの人々の件も、そしてメルキュールの事も」


 リーベッカは何も言わなかったが、ある程度の話はメルから聞き知って居るのだろう。

 そうでなければ、スヴォエの兵が送り込まれる筈もない。


「今回は兵をお貸し頂きありがとうございます」

「礼など必要ありません。メルキュールの選択です。あの子は貴方を確固たる意思で選び、私達を説得したのですから。礼を言うのであればあの子に」

「はい。改めてお礼を言おうと思います」


 俺がそう言うと、もう一度口元に笑みを浮かべるリーベッカ。


「面白いですわね。あれだけの事を成し遂げながらもなお、子供の様に純粋。実際子供なのですけれども」

「やるべきことをやったまで、です」

「単刀直入な言い方。好きですわ。時間は無限にある訳ではありませんからね。特に私のような老人には」

「えっ」

「そこは、『まだまだお若いのに!』などと言って相手の機嫌を伺う所ですのよ。ふふふっ」


 イマイチ、雰囲気が掴めない。

 凄まじい圧を持って接してきたかと思えば、今のように朗らかな笑顔にもなる。

 まるで百面相のように表情も雰囲気も変化する。これがスヴォエ家の支配者、リーベッカなのか。


 だが、底知れぬ何かがある事は今の俺にも十分に理解できる。


「私どもは爵位を戴いてはいますが、元から商人の身。後ろ暗い事も多く成しています」

「聞き知っています」

「それを知った上で、貴方はメルを選んだ」

「違います。メルが俺を選びました。ベルンハルトとしての俺ではなく、ウォルターという一人の人間を。だから俺は、彼女に答えた」


 その答えを聞いた途端、リーベッカは口元に笑みを浮かべる。

 

「若い、若いわね。その真っ直ぐな瞳、嫌いじゃない。だけどそれが危うい物だというのは、私はよく知っています」

「それでも、僕はこういう生き方しか出来ませんから」

「貴方には、二つの側面がありますわね。その真っ直ぐな瞳、馬鹿正直な生き方。でもその一方で冷酷に敵を排除する計画を組み立て、それを容易に実行する姿。……本当に、面白い」


 彼女はそう言って、俺を下から上までじっくりと舐るように眺める。

 得物を狙う蛇の様に、品定めを行う商人の様に。

 じっくりと俺の商品価値を見抜こうとしているのだろう。


「貴方は何を欲しているの? それを述べなさい」

「“力”を。『永劫たる自由』よりも広く、そして深く世界に根付き、『黒の王冠』以上に驚異を持った、“力”を」


 俺がその名を口にすると、リーベッカの表情が一変する。

 おそらく、俺からその名が出てくるとは夢にも思わなかったのだろう。


「貴方、どうしてのその名を……」

「色々と、事情が」


 俺が出した名は、裏の世界の組織の中でも知る人は少ないであろう、組織の名だ。

 『黒の王冠』、それは俺の因縁深い相手でもある。

 なにせ、前世ではそこの当主と決着をつけようとした時に俺は死んだのだから。


「貴方がたの『連盟』も聞き知っています」


 それは、スヴォエ家を始めとする国家を越えた商人や貴族たちによる緩やかな繋がり。

 やがて来るであろう、世界を巻き込む大戦に備えた保険だ。


 リーベッカが俺を見る目は、先程までの子供を嗜める親としての物ではない。

 己の前に座る人物を、驚異を持った相手として認めた上での物だ。


 俺はそれに答えるように真正面から彼女の目を見通す。


「あなた、何を求めているの?」

「高貴な者も、貧しき者も、異人も、亜人も、ヒトならざるモノですらも畏敬と恐怖を持って見上げる存在を“創り上げる”それが僕の目的です」


 玉座に座るのは、俺ではない。

 俺ではない誰かを飾り立てよう。俺の姿を人々の間に隠そう。

 

 だが、全てを握るのは俺だ。 


 俺の言葉を聞いて笑いだすリーベッカ。

 心底愉快そうに、いつまでも笑い続ける。


「キングメーカーになるという事ね。今までいろんな人を見てきたけれど、そんな事を真顔で言うのは貴方が初めて。しかも、そんな若さで」

「でしょうね」


 口ほどに若くもない、とは言わない。言っても信じてもらえないであろうから。


「いいでしょう。メルキュールを連れていきなさい」


 その言い方には腹が立ったが、ここで彼女の機嫌を損ねる事もあるまい。

 恭しく頷く。


「貴方の野望、そして生き様は下手な歌劇よりもずっと面白そう。いいでしょう。気に入ったわ」

「ありがとうございます」


 そして、リーベッカは立ち上がる。

 

「貴方の両親ともお会いしたいわ。案内してくれる?」

「ええ、喜んで」


次回、第二部最終話です。

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