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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
52/127

トーナメント予選

 馬車から降りた俺は、ヴァルトハイム内の臨時の闘技場へと歩を進める。

 既に会場には数多くの参加者が集まっている。屈強な者、華奢な者、重厚な鎧に身を包んだ者、裸かと思う程に僅かな布切れを身に纏った者、俺よりも幼い者、生きているのが不思議な程に歳を重ねている者。

 

 様々な人々が一箇所に集い、栄冠を求めようとしている。

 それを感じ取っただけで、俺の身は自然と喜びに震えていた。


 しかし、これだけ人が多いと、どこが受付なのかすら分からない。一体どこに向かえば……

 迷う俺に後ろから誰かが声を掛けてきた。


「坊主、そっちは違うぞ」

「えっ、ありがとうございます」

「そっちはトイレだ。あのデカブツが立ってる側に、受付がある」


 誰かの言葉通り、巨漢のスキンヘッドの男が仁王立ちしている側に受付らしき物が人の波の切れ目で時折見る事が出来る。

 ひっきりなしに人が訪れているようで、受付の者もてんてこ舞いという様子だ。


 その状況を見てから、改めて俺は声を掛けてきた相手に目をやる。

 気の良さそうな兄ちゃんだった。口元に少しばかりのお洒落な髭を残し、滑らかな素材で出来たシャツを身に纏っている。

 とても、参加者には思えない。


 彼は足を止めた俺を見て、カラカラと威勢よく笑う。


「しかし、お前さんみたいな子供まで参加する大会とはなあ。ありとあらゆる制限が取っ払われてる大会、って話は本当みたいだな」

「腕が一番大事、って大会ですからね」

「お前さんはまだいいよ。それよりも小さな女の子まで参加してるのにはタマゲたぜ。あ、俺はバーバリーってんだ。よろしくな」

「ウォルターです」


 バーバリーはカラカラと笑いながら、背伸びを一つしている。


「頑張れよ坊主、俺がちょいと見た感じでも強そうな連中がちらほら混じってる。トラッドリアのコーウェンは剣術の師範をやってるような奴だし、アカーシュのロアークは評判も高い。それに傭兵のマリネや元騎士のジル、バウンサーのディーモスなんかも要注意だろうな。それと、名前は忘れたけどここの領主の息子も相当な腕前だってんで評判だな」


「へー、詳しいんですね」

「おうよ、俺はマニアだからな。今言った連中の詳しいプロフィールまで言えるぜ」

「遠慮しときます」


 苦笑しつつ、礼を言ってその場から離れる。

 こういう人も居るのだな、と思いつつ露骨なまでの解説キャラっぽさに笑いそうになってしまった。


 受付を済ませると同時に、二番と書かれた札を渡された。

 

「すいません、これは?」

「ああ、予選は多数の人間を集めて二人生き残るまでそれぞれで戦ってもらう形になっています。今渡した札はグループ分けの為です。……二番という事は、二回目に行われる戦いに参加してもらう事になります」


 つまりバトルロイヤル形式という事か。悪くない。

 運も絡んでくるだろうが、これだけの人数が参加するとなれば、仕方ないだろう。 


「もうすぐ緒戦が始まりますよ」

「ありがとう」


 受付の者に礼を言うと、俺は臨時の観客席に向かうために階段を登っていく。

 今日は予選という事もあり観客席には人はまばらだ。大体が空席であり、座っているのは多くが他の闘技者か既に顔の赤いおっさんがメインである。


 眼下の闘技場に目をやると、中々多くの者達が集まっていた。三十人程度だろうか。

 老若男女、その格好も様々な人々が思い思いの得物を手にして立っている。


 レフェリーらしき人が彼らに何かを言うと、闘技者達はそれぞれ距離を取り始める。

 雰囲気が一変し、ピリピリとした痛い程の気迫が会場に満ちていく。試合が始まるのだろう。


「第一試合、始め!」

 

 その合図と共に、戦いが始まる。

 剣や斧を手にした者、槍に棍棒、珍しい所ではただの鎖を手にしているだけの者すら居る。

 さっそく得物を失い、降参する者が現れている。開始数分で人の数は面白いほどに減っている。


 俺はその様子を見ながら会場を後にした。じきに俺の試合が始まるからだ。

 どこまで通用するのか、本当に俺は強いのか。

 それが試される時が来た。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 控室で最後の準備を整えつつ、いつも通りのルーチンをこなしていると下卑た笑い声が背後から聞こえてきた。


「ギャハハ、ガキがいっちょ前に何かやってやがる」

「とっとと帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」


 見るからに下品そうな男達だ。筋肉ばかり無駄に付けているが、動きの全てが荒っぽい。見るからに脳筋タイプである。

 相手にする必要もないので無視していると、彼らは調子に乗ったのか、更に何か言っている。


「どうしたあ? ブルちまったか?」

「オシメを変えてもらわなくて良いのかなあ!?」


 周囲の目が彼らに注がれる。文字通り白い目で見られている事に気が付いた彼らは突然態度を翻し、


「んだあコラァ! 何見てんだよ!」

「やるか!?」

「下品な連中」


 二人組の恫喝に静まり返っていた控室内に、澄んだ声が響き渡る。

 男たちすらも思わず言葉を失い、声のした方を黙って見る。


 そこには気だるげに椅子に腰掛け、俯いている一人の女性の姿があった。

 長い金髪と、通った目鼻立ち。切れ長の瞳が男たちに冷たく向けられる。

 その格好は胸甲をしっかりと身に纏い、傍らに布で包まれた長い槍を立て掛けている事から、騎士かそれに近い物である事が察せられる。


 彼女は立ち上がると。その槍の布を取り去りながら男たちに向かって宣言する


「これ以上狼藉を行うというのなら、私がここで相手しよう」

「て、テメエ、この場で喧嘩なんてしたら、失格になるだろうが!」

「貴様らが撒いた種だろう」


 背丈程ある槍を構え、穂先を二人に向ける女騎士。それを見てたじろいだ彼らは捨て台詞を残しながら去っていった。


「すいません、ありがとうございます」

「礼を言われる程の事は何もしていないさ。私はあの様な輩が大嫌いでね」


 そう言った彼女の目には、何か含む物があった。


「僕は、ウォルターといいます」

「ウォルター……ああ、この領地の! 失礼した。私はテミス。“元”騎士です」


 恭しく一礼する彼女。唯でさえ目立っていた控室内の人々の目線が、痛いほどに突き刺さってくる。

 俺としてはあまり目立ちたくないのだが……


「そんなに畏まらなくても。ここでは僕もただの参加者ですから」

「ふふふ、試合では手加減はしませんよ」


 彼女は柔らかく微笑む。まるで姉が弟に対して接するようだ。


「あ、試合が始まるようですよ」


 彼女に諭されて、控室から会場へと進んでいく。

 先程の男たち、テミス、それに他の男女が次々に闘技場に進んでいく。皆、一様に険しい表情をしている。

 緊張を誰一人として隠せていないのだ。


 俺は深呼吸を最後に一つすると、逆に笑みを浮かべる。

 よし、行くぞ。


「では、第二試合、始め!」


 闘技場に顔を並べ、ある程度間隔を取った後に開始の合図が伝えられる。

 それと同時に俺は剣を抜き、辺りを見回す。

 

 そして、先程の二人組がにやけた顔でこちらへと向かってくるのが目に見えた。


「いよう、坊主」

「さっきの姉ちゃんはここには居ないぞぉ、あっちで戦ってる」

「そして、審判からも丁度死角になってる場所だ、ここは」

「俺たちに恥を掻かせてくれた報い、たっぷりと受けてもらうぜ」


 下品な笑い声を上げながら、男たちはそれぞれ手にしている得物を勢いよく振り回す。

 手斧と剣。オーソドックスな武器だ。 


 二人は俺を取り囲むように別れ、ジリジリと距離を詰めてくる。

 同時に攻撃しようとしているのだろう。

 だが、その足運びや手の動き、全てが素人レベルである。


「どうした、ビビって動くことすら出来ねえのかあ!?」

「行くぜえ!」


 男たちは同時に動く。そして、大きく振りかぶった武器を俺目掛けて振り下ろしてきた!


 だが、彼らの放つ武器は空を切る。

 

「えっ」

 

 彼らが何が起きたのかを理解したのは、地面に崩れ落ちた後。

 俺の手にしている魔法剣の切っ先には、僅かばかりの鮮血が付着したが、懐から取り出したハンカチでそれを拭って投げ捨てた。

 

「て、てめえ、何をした」

「いてえ、いてえ」


 腕と足を抑えながら地面でもがき苦しむ二人組。両者の膝と利き腕に剣を突き立てただけなのだが、彼らはまだ状況が理解出来ていないようだ。


 俺は手を上げて、係員に彼らを指し示す。すぐに救護班が駆けつける事だろう。

 そして俺は剣を手に、ジリジリとにらみ合いを続けている一団の中に飛び込んでいった。

 剣を振るい、得物を弾き飛ばし、切っ先を首筋に当て、振るわれる剣を躱し、受け止め、そして再び剣を交わす。

 

 どれだけの時間が過ぎたのだろうか。剣を振るう度に体が軽くなっていくかのような錯覚に襲われる。

 そして、周囲に人が居なくなっている事に気が付いた。

 残ったのは、テミスと俺だけ。


「なるほど、なるほど! 噂通りの人物のようだ、君は!」

「ありがとうございます。じゃあ、始めましょうか」


 俺とテミスはほぼ同時に再び得物を構え、にらみ合う。

 俺は剣を構え、その場から動くこと無く彼女を見通している。

 しかし、彼女はゆったりとした足運びを行いながら、俺のスキを伺い、その槍を突き立てようと只ならぬ殺気を放ち続けている。


 そして、遂に彼女が動いた。


「そこまで! そこまで!」


 俺たちの間に、突如として審判が割り込んできた。


「既に試合は終了しています! あなた達二人が勝者です!」


 審判が涙目で俺に告げる。

 俺はそれに苦笑で答えるしか無かった。

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