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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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魔術対決


「瓶、瓶、瓶~」


 よく分からない歌を口ずさみながら、ジャム用の瓶を選んでいるキルシュ。

 エレオノーラは店内の食器をあれこれ手に取って眺めている。特に大きな大きな木べらに興味津々の様だ。


 アザリアを店の入口に立たせて警戒させつつ、子供達の買い物の様子を見守る。

 流石に店内でまで仕掛けてくるつもりは無い様だ。

 このまま何事も無ければ良いのだが。


「少しばかり迂闊だったな」


 独りごちる。俺とアザリアはともかく、残りの二人まで危険に晒す訳には行かないというのに。

 買い物を終え店の外に出た俺たち。後は帰るだけだが、それが大変だ。


「!」


 店の外に出た途端に、強い殺気を感じた。

 見れば、虚ろな目をした男たちが三人、こちらに向かって不確かな足取りのまま歩いてくる。

 何かに操られているな。そう判断した俺はやり過ごそうと決める。


「キルシュ、エレオノーラ、突然だが走るぞ」

「?」

「え、え」


 俺は二人の手を取り、少し歩を早める。後方の警戒はアザリアに任せつつ、先へ先へと進んでいく。

 だが、通りを一つ過ぎると更に別の一団が姿を見せた。

 彼らをやり過ごそうと辺りを見回すと、お誂え向きに裏路地への小道が存在している。


 分かりやすいまでの罠だ。この先に待ち受けているのは恐らく敵の親玉、それも魔術師だろう。

 だが、他に道はない。後方からはさっきの三人が迫る中、俺たちは迷わずに裏路地へと足を踏み入れた。

 

「変、な感じ」


 最初にこの空間の変化に気が付いたのは、キルシュだった。

 俺もまた歯噛みしながらこの空間を眺める。結界だ。


 裏路地という日の光が入らず、人気の少ない空間ならば中位以上の魔術師であれば結界を張り、外部と隔離する事も出来るだろう。


「ようやく捕まえたわ、かわいい坊や達」


 路地の奥から聞こえる女性の声は、まるで洞窟の中のようにあちこちに反響して聞こえる。

 それ以外の音は何一つとして聞こえない。先程までは浮ついた街の喧騒がどこに居ても聞こえたというのに。


 外部との繋がりが完全に閉ざされる程、この場は既に彼女の魔力によって満ちている。随分とセッティングに時間を掛けたようだ。


 そして、彼女はゆっくりと姿を見せた。


 フード付きのローブで顔は覆い隠され、艶やかな紫の口紅をした口元だけが露わになっている。

 だが、彼女から感じるのは強い魔力だ。水属性のじっとりとした感覚が彼女が近づいてくる度に増す。

  

「下がれ、エレオノーラ、キルシュ」


 俺は不安そうにしている二人の前に立ち、目の前の魔術師を睨みつけた。


「あらあら、随分と美しい兄妹愛だこと」


 女はチロチロと蛇の様に舌を出しながら俺たちを値踏みする様に眺めている。


 手配書にあった内の一人だ。

 名前はギュスティーヌ。罪状は幼児殺害と各種詐欺行為。その罪状からして危険な存在である事は間違いない。

 

「うふふ、本当は手を出しちゃいけない、って言われていたのだけれども。私は小さな子どもが大好きなの。こんな極上の餌を目の前にぶら下げられて、我慢できる訳が無いわよね」


 そう言って再び舌を出して笑うギュスティーヌ。

 彼女から発せられる隠すことのない悪意と殺意。この女は危険だ。


 アザリアは既に短剣を抜き、ギュスティーヌに向けて構えている。すぐにでも飛び出して行きそうだ。


「アザリア、後方を頼む」

「あいつは私が!」

「君は、エレオノーラを守ってくれ」


 有無を言わせぬ強い口調で命令する。俺にこうまで言われれば、彼女とて従うしか無い。

 しかし俺はキルシュを守れ、とは言わなかった。


 それは何故か? 理由は単純だ。彼女は既に最初にギュスティーヌが敵意を向けてきた時から……


「私が、相手、です」


 キルシュは胸を張りながら高らかに宣言する。

 彼女のその言葉を聞いて苦笑するギュスティーヌ。


「アッハ、随分と可愛らしい魔術師さんだこと」

「魔法に、歳は、関係ありません」

「そ。良いわねえ。ますます生気を吸うのが楽しみになっちゃう。だってこんな小さな魔術師を見たのは初めてだもの」


 ギュスティーヌは高らかに笑いながら、手の中に背丈ほどのスタッフを一瞬の内に作り上げる。

 キルシュもそれに合わせるように、捻じくれたスタッフを作り上げた。


「手加減は出来ないからね?」

「それは、こちらの、台詞です」


 魔法の発動はほぼ同時に行われた。

 互いのスタッフから眩い光が発せられ、その魔力同士がスパークする。


 そして、ギュスティーヌの背後からはスライムの様に粘性の強い液体が津波の様に押し寄せ、それを突如地面、そして壁から突き出した木の根が押し留める。


「良いわあ! もっと楽しませて頂戴!」


 高笑いしながら更に次の魔法を行使しようとするギュスティーヌ。だが、遅い。

 

「何ッ!?」


 彼女は自らの異変に気が付く。右腕が、まるで老人の様に骨と皮だけと化していたからだ。

 最初、幻覚魔法を疑ったのだろう。懐から短剣を取り出して太腿に突き立て、もう一度腕を眺める。


 だが、その光景は何一つとして変わりはしない。

 

「このガキ! 私に何をした!」

「……」


 キルシュは木の根を指し示す。

 見れば、木の根はまるで薔薇のように全面が棘で覆われている。  

 その棘が膨らみ、そしてギュスティーヌ目掛けて放たれる。


「クッ!」 


 咄嗟に魔法によって障壁を張ろうとする彼女。だが、それが発動する事は無い。


「!? 魔法が、どうして」


 狼狽する彼女の腹部に棘が突き刺さる。

 そして、次は肩に、足に、そして顔に。


 彼女の生気が失われていくと同時に、結界は解かれた。ざわついた街の喧騒が遠くから聞こえてくる。


 何故魔法が発動しなかったか? 答えは単純だ。彼女が少しばかり冷静になれば容易に気づけた事だろう。

 俺のエーテル操作だ。

 ギュスティーヌがわざわざ閉鎖空間を作ってくれて助かった。お陰で完全に魔法発動を阻害出来る程の操作を容易に行えた。


「ご苦労さん、キルシュ」

「ウォルターさんも、ありがと。早く、戻って、ジャム、作ろ?」


 キルシュはそう言って俺に、そしてエレオノーラに控えめに笑いかけた。


 

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