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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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買い物デートは楽じゃない

 トトン、トトン。

 どこからか聞こえる太鼓の音に負けない程に賑やかな呼び込みの声。それらを楽しげに見ながら歩く人々でごった返している通り。まさに祭りと言った様子だ。


 出店代わりのテントとその店先には沢山の風変わりな商品が並び、そのどれにも目を惹かれる。ル=バル族や、彼らが住んでいる砂漠や高原の雰囲気を感じさせる物が沢山あるからだ。

 だが、その内の一つである古びた装丁の本、そしてまじない用と思われる古びた祭具に目を奪われていると、強く手を引かれて無理やり連れて行かれる。


「次はあちらに行きますわよ!」


 メルだ。彼女の興味は次から次に移り変わり、そのどれもが装飾品や服などという俺があまり興味のないジャンルの物だから困る。

 彼女が次に足を踏み込んだのは、他のテントと比べても一際大きいサイズの物だ。どうやら、テントの前にテーブルを並べるタイプの出店ではなく、このテントの中が店になっているようだ。


 中に入ると、厚手の絨毯の上に沢山の服が折り畳まれ、並べられている。奥にはカーテンで区切られた区画があり、どうやら試着も行えるようだ。


「ウォルター、見て! これ、綺麗じゃありません!?」


 そう言って、メルはワインレッドの衣装を持ち上げ、手で吊り下げて俺に見せる。

 どことなくエキゾチックな雰囲気がする。丈が少しばかり長いが、十分に似合っている部類だと言えるだろう。


「うん、それも似合ってるな」

「もう少し具体的に言ったらどうですの? 色合いとか、デザインとか」

「んー、じゃあ少しだけ。一色よりは何かアクセントとして別の色が入ってる奴の方が似合うんじゃない? でも何を着ても似合うよ、メルは。元の素材が違う」

「んもう、お上手ですこと」


 悪い気はしていないようで、今の服を使用人に渡して俺のアドバイス通りの服を探し出すメル。

 

「これも違う、これも違いますわね……」


 独り言を呟きながら、渋い顔でテントの中を彷徨くメル。そしてようやくお目当ての物を見つけたが、その区画に置かれている値札は他のものとは二桁違っている。  

 今度、彼女が選んだのは目を引く様な瑠璃色に白いラインと刺繍があちこちに施されているドレス。生地の質からしてこれまでの物とは全く違う。艷やかで、滑らかだ。


「どうです?」

「うん……いいじゃないか!」


 俺が褒めると、またメルは指を鳴らして使用人を呼びつける。


「そこの物を全て。あと、生地について詳しく聞き出して頂戴」


 相変わらずの豪勢さを見せつけた後に、彼女は満足そうにテントを出ていく。

 その時、メルの腹が可愛らしい音を立てた。


「なんですの、そのニヤけた顔は」

「いや、メルのお腹も鳴るもんなんだなって思って」

「当たり前でしょう! 貴方、私を何だと思っているんですの!?」


 ムキになったメルを宥めるように、俺は広場の中心の方を指さしながら言った。

 丁度、様々な軽食を売っている辺りだ。


「じゃ、あれ食べに行こうよ」

「え、ええ」


 今度は俺がメルの手を取り、無理やり連れていく番だ。

 小さくて冷たい彼女の手を取り、屋台の立ち並ぶ辺りに連れていく。


「凄い匂いですのね」

「スパイスの香りだろうね、何に使われているのかは分からないけど……」


 見れば、様々な軽食を売っている屋台の間にポツポツとスパイスそのものを売っている店が幾つもある。スターリーフ、グラウンドペッパーなどが山積みにされている。

 興味を持って近づくと、歯の欠けた老人が俺たちを見て笑いかけながら、乾燥した果物を二つ差し出してくる。

 断ろうとしたが、無理やり押し付けられた。礼をして足早に立ち去る。


「なんですの、それ?」

「乾燥させたフルーツ。長い長い旅の間に食べる物なんだってさ」


 俺は萎びたリンゴに似たそれをひと齧りする。すると、一瞬芳しいお酒の匂いがしたあと、濃厚な甘味が舌に伝わる。

 凄い味だ。


「これは……凄いな……」


 メルは驚く俺の手に握られていたもう一つのドライフルーツを勝手に取り、全部を口の中に放り込んだ。


「ふなっ、なっ、なんですの、コレ! けほっ、けほっ」


 無理やり飲み込んだメルは軽くむせっている。その背中を優しく叩きながら、彼女が落ち着くのを待つ。


「お酒か何かに漬け込んで味を濃くしてるんだよ。旅の間に食べる物だから、英気を養う為の物でもあるからね」

「それにしても、とても単体で食べられる物ではありませんわよ、これ!」


 ぷんすかと怒るメルの為に、近場の店で見つけた乳飲料を買い与えてやる。

 土で出来た一メートルはある龜の中から白く濁ったヨーグルト状の物をすくい取り、素焼きの薄いカップに注ぐ。それを湯冷ましで溶かし、粉末にしたハーブと黒い蜜を混ぜ合わせて完成だ。


 それを渡すと、またもや勢いよく飲み込んでいく。


「少し変な味ですけど、さっぱりしましたわ」


 満足そうに最後まで飲み干すと、陶器のカップを俺に渡してくる。俺が処分しろという事だろう。

 仕方なく買った店の店員に持っていくと、にこやかな顔で大きな籠の中に放り込んだ。どうやら使い捨ての物だったようだ。


「ウォルター、あれはなんですの? 美味しそうですわね」


 今度メルが指さしたのは、通りを行く人が食べている薄いパイに似た生地の中に肉や野菜が詰まっている五角形の揚げ物。

 インド料理屋で似たような物を食べた事があるような……


 俺は今度はその料理を探すべく、血眼になって様々な店を探す事になるのだった。

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