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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第一章 幼少期編
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少女との出逢い

 俺は川の方へと走っていく。自分の見たものを確かめるために。

 そして、それが見間違いで無かったことを知った。

 倒れていたのは確かに人間だった。すっかりと濡れきって、ボロボロになった服を身に纏った栗色の髪の少女。それが打ち上げられていたのだ。

 少女はまるで死んでしまったのかのようにピクリともしない。俺は慎重に近寄って少女の手を取り、脈を確かめる。


「生きてる……!」


 俺は少女を助けようと、両手を取って動かそうとする。

 だが、トレーニングを始めたとは言え全然動かす事が出来ない。少しばかり引き上げた位でこれ以上動かすのを諦め、助けを呼びに行く事にした。

 先程すれ違ったレオはもう着く頃だろうか。それが駄目でも使用人の誰かを呼びに行けば良い。そう考えて屋敷へと戻る事にした。


 屋敷への坂を勢い良く駆け上る途中でレオの馬車が止まっているのが見えた。馬車に寄りかかりながらレオが煙管で一服している。

 禁煙の屋敷の中に入る前に最後の一吸いと言った所なのだろう。

 

「レオ! 大変だ!」

「どうしたんです、坊ちゃん。血相を変えて」

「川で人が倒れてる!」

「本当ですか! ちょいと待ってくだせえ!」


 レオは煙管を逆さにしまだ火種が残ったままの葉を踏み消すと、俺の後に付いて走り出す。


「坊ちゃん、その人はどんな様子なんで!?」

「一応生きてるみたいだけど、随分とボロボロだ。上流から流されてきたんじゃないかな」

「随分と急な流れになってるってのに、よく生き残ったもんだ、行きましょう」


 すぐに少女の元へと辿り着いた俺たちは、彼女をレオに背負わせて馬車の所へと戻っていく。

 このままこの子を屋敷に連れて行こう。レオはあまり良い顔をしなかったが、俺が一緒ならなんとかなるだろう。そう説得して無理やり連れて行く事にした。


 少女を馬車の荷台に寝かしつけて、レオの隣の御者台に飛び乗る。


「ちょいと急ぎますよ、しっかりと捕まってくだせえ」


 そう言ってレオは馬に鞭で合図を与えると、馬は駆け足を始めた。

 すぐに屋敷が見える。閉ざされた門の前で一旦止まると、門番の老人が俺たちの顔を確かめようと出て来る。


「ペンテ爺! いいから開けてくれ!」


 御者台の俺の姿を認めた老人は、急いで門を開けた。必死の形相から何事かが起きたのを感じ取ったのだろう。

 そのまま中へと入り込んだ馬車は、玄関前で止まる。


「レオ、あの子を中に!」

「へ、へい!」


 レオに指示を出しつつ、書斎で仕事をしていた父を少女の元へと連れて行く。

 屋敷の一階に作られた応接室のソファの上に寝かしつけられた少女の様子を見る父。その様子を俺は横で見ている。


「頭に裂傷が一つ、体のあちこちに打撲痕。この子は川岸に打ち上げられていたんだね?」

「はい」

「頭の傷が心配だが、今のところは様子を見るしか無いだろう。レオ、この子は村の子供かい?」

「いえ、見たことも無い子でさ。この辺りじゃ小さい子が居たら目立つので、近くの村の子でも無いと思いやすが」

「確かにそうだな。やはり山の方から流されてきたと見るのが正しいだろうか。レオ、世話を掛けたな」


 父はレオに対して少しばかりの心付けを渡して仕事に戻らせた。

 俺は父が戻ってくるのを待つ。この子をどうするつもりなのかが聞きたかったからだ。


「父上、この子の事なんですけど」

「どうした?」

「この子がもし、どこの村の子でもないとなったらどうなるんですか?」


 父は腕を組み、少しばかり顔を顰める。それは考えていなかった様子だ。


「……考えておこう」



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 翌朝。少女が目覚めたとの連絡を屋敷の使用人の一人から聞いた俺は少女の元へと向かった。少女のあの後、空いていた使用人室の一つに寝かしつけられていた。

 彼女は意外な人物と共に居た。


「キャッキャ」

「……?」


 聞き慣れた笑い声が部屋の中から聞こえたので、何かと思い覗き込む。

 妹のエレオノーラと積み木で遊んでいたのだ。

 このエレオノーラ、随分と手の掛かる子で、母も使用人も手を焼いているやんちゃな娘だった。

 その子がここまで懐いているというのは珍しい。

 ノックを一つして、扉を開けた。


「どうも、目が覚めたみたいだね」

「……」


 少女は俺の挨拶に合わせて頭を下げると、再び妹との遊びに戻る。随分と高く積み上げられた積み木が作っているのは、家かなにかだろうか。

 エレオノーラはそれを何度も突いている。そのままだと崩れて……

 ガラガラと音を立てて崩れ落ちる積み木。


「もっかい! もっかい!」


 壊すのが楽しいのだろう。エレオノーラはその様子を見て楽しそうに笑っている。

 俺はエレオノーラの隣に座り、少女の様子を見る事にした。


「兄ちゃだ」

「おはよう、エレオノーラ」

「おあよー」


 エレオノーラと挨拶を交わした俺は、少女に向き直る。


「そろそろ、名前の一つでも教えてくれると嬉しいんだけどな」


 喋れないのだろうか。そう考えてしまう位に無言が続く。

 その間も、少女は再び積み木の家を組み上げている。土台に四角いブロックを使い、柱として丸いブロック、そして最後に三角のブロック。

 ある程度形になった所で、途中の柱をエレオノーラが突き、そして再び崩れ落ちる。とても楽しそうに壊す。

 その様子を見て、少女は満足そうに笑うとようやく口を開いた。


「アザリア、と申します」


 そう言って、浅葱色の瞳を輝かせながら彼女は笑う。

 それがアザリアとの最初の出会いだった。

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