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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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メルの勝利

「市長! 貴方ぁ、この女の事を知ってぇらっしゃるんでのぉ!?」

「え、ええ。ヴァリナ様。この方は……」

「市長、もういいですわ」


 怒りを市長にまで向けるヴァリナ。

 彼を庇うようにメルは一歩前に立つと、スカートをつまみ上げながらヴァリナに対して一礼する。


「申し遅れました。私、メルキュール・フランソワーズ・スヴォエと申します」


 トドメとばかりに堂々とした名乗りだった。

 スヴォエの名が発せられた時の驚愕に満ちたヴァリナの表情は、忘れようと思っても中々忘れがたいものだろう。

 なんせ、令嬢としての最低限の体裁すら整えることが出来ていなかったのだから。


 終わった。完全にメルの圧勝だ。

 この状況下で先手を取って挨拶。更には自信に満ちた表情でのこの態度。

 これに答える事は、自制を失っているヴァリナにはどう考えても不可能。 


「もういい、もういい! 覚えてぇ、居なさい! その名前、覚えましたわ、メルキュール!」

「あらあら、私の事を覚えてくださるなんて嬉しいわ。私は忘れますけれど」


 更に追撃を食らい、真っ赤を通り越して熟れた果実の様に赤黒くなった顔をしながら逃げ去っていくヴァリナ。

 市長はそれを情けなく追いかけていくだけだった。


「じゃ、行きましょう、ウォルター」

「あ、ああ……」


 逃げさるヴァリナを見ながら、スッキリした表情で俺ににこやかに笑いかけるメル。

 一瞬、俺でも胸が高鳴る程に純粋でいたずらっ子っぽい笑い顔を見せた。

 

「あの娘、この領地の……」

「言いっこ無しですわ、ウォルター。私達の目的はあんな娘を相手にしにきたのでは無いでしょ? だからこれで終い。また何か言ってくる様でしたら、また私が追い払ってあげますから」

「ありがとう、メル」


 俺がそう答えると、メルははにかみながら笑う。

 その手を取って、俺は馬車に彼女を導いた。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 本日の宿は、これまた市内の中心地に近いホテル。その最上階に位置するスイートルームの一つだ。

 こんな場所でもスヴォエ家の名前を出すだけでほぼ顔パスなのだから、彼らの影響力と知名度の高さは見て取れる。

 このホテルの経営母体が遠縁に当たるとかなんとか自慢していたような気もするし。


 部屋の中は無駄にキンキラに飾り立てられた巨大な天蓋付きベッド、テーブルの上に置かれた種々のフルーツが山盛りにされたバスケットが目立つ。ウェルカムフルーツという奴だろう。


 光太郎としてなら、驚愕に目を見張ったのだろうが、今の俺としては別段驚くほどの規模の部屋ではない。俺の部屋より小さいし。

 ……調度品のセンスと価格は、少しばかり負けてそうだが。


 そんなスイートルームの一室で、俺は偵察から戻ったアザリアともう一人の話を聞いていた。


「やー、結構広い街っすねえ、ここ。それ以上にこの部屋の広さはすげーっすけど」


 呑気そうに語るのは、情報屋のおやっさんの姪っ子、シオ。

 しかしその姿は以前に見た物とは全くと言って良いほど変わり果てていた。


 薄汚れたオーバーオールは動きやすそうな糊の効いたシャツと短めのズボンに変わり、ボサボサの頭を無理やり三つ編みにしていた髪は腰元まで伸びた流れるようなロングヘアーになって、更にはソバカスが目立っていた顔にはその痕すら見つける事も出来ない色白な肌と変化している。


 その声と口調を聞かなければ、誰なのか分からなかっただろう。

 しかし、紛うこと無くシオである事はそののんびりとした口調で理解する事が出来る。


「坊ちゃんがおいしーいご飯を食べている間に、ウチらはサバサンド片手に街を見て回ったッスよー」

「……はい。裏通りを中心に、見回りと聞き込みを行いました」


 彼らをこの街に連れて来た目的は一つ。ベルンハルト領に間者を送り込み続けているメイヤーという男を探し出し、『少し言いづらい様な手段を使ってでも』繋がりと目的を聞き出す事だ。


 しかし、両者の表情は芳しくない。それは言わずとも初日の調査が空振りに終わった事を示している。


「それよりも、街のあちこちではちょいと妙な動きがあったんで、その事について報告をと」

「ああ、こっちも妙な事が色々あった……」


 俺は、先程の出来事を思い返してほくそ笑む。それを変な顔で見ている両者。

 ついつい最後のヴァリナの顔を思い出してしまった。


「裏の人間の姿が、妙に少ないんすよね。今回。馴染みの情報屋も見つからないし、密売人も早めに店じまいしたのか姿を消してるし」

「? どういう事だ?」

「おそらく、手入れがあったのでしょう」


 眼下の町並みを眺めながら、アザリアは言う。


「大物が街にやって来たり、何かの催事がある場合などに行われる“街の大掃除”です。裏社会の者や、浮浪者などを排除する手合の事ですね。今現在はル=バル族が町の外にキャンプを張っており、何らかの危険があると判断したのかもしれません」


 俺はそれが行われる理由に、思い当たる節があった。


「それだ。この街には大物が来ている」

「んー、誰かは来てるっぽいのは分かるけど、それが誰なのかまでは……」

「いや、その人物に俺は先程会ってきた。今この街に居るのは、アカーシュ家当主、カノプス・アカーシュの一人娘のヴァリナ・アカーシュだ」

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