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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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令嬢との旅行へ


「そこで私は言ったのですわ。それをお持ちなさい! と」

「なるほどね」


 家を出てから数時間。俺はずっと喋り続けるメルの話を相槌を打ちながら聞き続けていた。

 尻も痛くなるが、こっちの方が余程しんどい。エンドレスなのだ。水を時折飲む以外は目を輝かせてずっと喋り続けている。


 アザリアは起きているように見えて少しうつむいているという事は間違いなく寝てるし、起きていたとしても元々そこまで折り合いの良い二人ではないので殆ど話すこともない。

 エレオノーラに対しては甘々なのとは大違いだ。


 俺は逃げ場も無く彼女の自慢話とファッションの話と家族の話をずっと聞かされているという訳だ。


「今日のコーディネートは新入りの子に整えてもらったんですけれど、あの子は少し色使いが厳しいわ。私の様な者であれば、もっと華やかな色とデザインが似合うというのに。全く……」

「そうか? 似合ってるじゃないか。髪の色と合ってて素敵だと思うけど」


 今日の彼女のドレスは、肩の辺りを黒のレースで覆った黒と白のツートンカラーだ。

 ファッションのことは良くは分からないが、暗い色の服の方が彼女の金髪はよく映えるだろう。


「そ、そう言うなら仕方ないわね。暫くはあの子の様子を見てあげるわ」


 そう言うと、彼女は珍しく押し黙り、窓の外を眺め始めた。

 これでしばらくはマシンガントークから開放されたという訳だ。

 というより、この娘はよくもまあこれだけ喋る内容があるなと感心する。


 家の自慢話だけならともかく、服のブランドとか生産地とかの話をされてもさっぱりだ。

 

 ま、おかげで面白い話も聞けたが。

 その一つが今の彼女の家、つまりスヴォエ家では何やら大規模な計画が進んでいるようだ。

 普段はあまり話したがらない母親の話もポツポツと出てきた辺り、一族総出の計画なのだろう。


 それと、彼女の姉が嫁いだ先の話。

 タウライン家という将軍を多く輩出している軍人家系のようで、粗野な家風に耐えられず愚痴だらけの手紙を度々寄越しているのだそうな。

 父はそれにあまり乗り気で無かったという話も聞けたので、やはり彼女の母親、スヴォエ家の『女帝』の意向なのだろう。


「ウォルターさん、街が見えてきましてよ」

「ん、ようやくか」


 朝早くに出発し、一旦軽食休憩を取ってから更に数時間。

 ようやくハーレンバークへと到着したのだ。


 俺が窓の外に目をやると、長大な森に囲まれた細長い形の街が目に入ってくる。

 北と南、そして東の三方向を深く、暗い森に囲まれているハーレンバーク。昔にはここに別の王国の首都が置かれていたらしいが、その面影を残すのは少しばかりガタついた舗装路と古びた城壁だけだ。


「随分と風変わりなキャンプが町の外にまで広がっておりますのね。あんなに大きいテントは初めて……きゃっ、何ですの、あの大きい犬は!?」

「ああ、あれか。ルプスって言うらしいよ。東の山岳地帯だと馬の代わりに使われてるんだとか」

「馬代わりに? 力があるんですのね」


 彼女が驚くのもさもありなん。馬程に大きい体をした犬に似た獣が、寄り集まって丸くなりながら、退屈そうに寝ている。

 その周りには道沿いにどこまでも続くように見えるテントの数々。これがル=バル族の住まう移動住居だろう。

 

「外で生活するなんて、とても信じられませんわ。私には無理ですわね。特に冬なんて耐えられませんわ」

「意外と快適らしいよ。移動が出来るから、夏になったら涼しい所に移って冬になったら暑い場所に行くって生活をしてるんだってさ」

「ふうん」


 ル=バル族は少しばかり分厚い生地の衣装を着込んでいる事から、彼らにとってはこの辺りは寒いのだろう。


 行き交う人や馬車の数が多くなった事から、俺たちの乗る馬車の速度も歩く程度にまで落ち込む。

 それによって異民族の格好や生活を、じっくりと見ることが出来る。


 中型のサラマンダーが口を縛られたまま、檻の中へと入れられている。閉じた口からも時折火を吹き出している事からご機嫌斜めなのだろう。

 全身に入れ墨の入った老人が曲がりくねったパイプから吹き出る煙を自在に操り、様々な形を作り出している。彼も魔導師なのだろうか。


 どこを見ても風変わりで、飽きることが無い。


 俺は楽しいが……

 どうやらメルはもう飽きてしまったようで、窓から目を離してしまった。勿体無い。


「ウォルターさん、予定は分かっておりますわね?」

「ああ、服を買って……」

「違いますわ! 全然! 全くもう!」


 やれやれという顔をしているメル。

 何か間違っただろうか。そういう話だったはずだが……


「まずは食事、そして宿に向かいますの。そしてゆっくりと市内散策を楽しんだ後に、ディナーへ。買い物は明日に致しましょう」

「うへー……」

「ゆったりと過ごしませんと。貴族としての楽しみ方を教えて差し上げますわ」


 そう言うと、口元に笑みを湛えながら満足そうに髪をかき上げるメル。

 偉そうな事は言っているが、2泊3日でこの街を遊び尽くすつもりだろう。


 自由時間が出来上がるまでには、まだまだ彼女に付き合う必要があるという事だ。

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