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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
35/127

情報屋の元へ


「てめ、何を……」

「うっせえ」


 ガスン、という鈍い音と共に、もう一度おやっさんは男を殴りつける。

 KOだ。仰向けに倒れた男はそのまま動かなくなってしまった。


「お前らがこの辺りでさんざん彷徨きまわってくれたお陰で、こっちの商売が上がったりなんだよなあ」

「ひっ、ヒエッ」


 骨を鳴らしながら近づいてくるおやっさん。元軍人という話の通り、現在も立派な体格をしている。

 膝を庇う男は逃げようにも逃げられない。必死に危害を加えないで下さいという健気な瞳を彼に投げかけていた。

 が、取り敢えず挨拶代わりに一発をもう一人の男にも御見舞していた。


「な、なんで……」


 そう言い残して失神する男。

 バイオレンスな場面だ。後ろを見れば、アザリアはしっかりとエレオノーラの目を覆ってこの場面を見せずに居た。相変わらず素晴らしい働きだ。


「おい、付いてこい」

「はい」


 おやっさんは二人の襟首を掴み、引きずっていく。

 その後を追って俺たちは付いていく。


 彼が入り込んだのは小さな倉庫。その中のランプを灯すと、どういう仕掛けか天井に吊るされている全てのランプが連動して輝き、暗い室内がパッと明るくなった。

 

「ほんじゃ、始めましょうかい」


 倉庫の隅から埃を被った椅子を取り出してきたおやっさんは、二人を軽くつまみ上げるとその上に彼らを座らせる。

 そして、倉庫の奥に灯る僅かな明かりの灯る方へと呼びかける。


「シオ! 居るのは分かってる! 出てこい!」

「ええっ……」


 渋々姿を見せたのは、汚れたツナギ姿の三つ編み少女。

 彼女の名前はシオ・カティンスキー。おやっさんことベオライト・カティンスキーの姪っ子だ。


「ベルンハルトさん所のお嬢様がお見えだ」

「ええッ、こんな薄汚くて酒臭い場所にぃ?」

「酒臭いは余計だ、阿呆。お前が相手してやれ。扉は閉めとけよ」

「へーい」


 シオは不器用な笑いを浮かべながら、アザリアにくっついているエレオノーラの元へと向かっていく。


「アザリアさん。シオっす、ども」

「お久しぶりです、シオさん」

「てな訳なので、ちょっとあっち行ってましょう。あんま良い場所じゃないっすけど、ここは今からちょっと込み入った話をするみたいなので。えっと、お嬢ちゃん、お名前は?」

「……」


 完全に警戒モードに入ったエレオノーラはアザリアのスカートに顔を埋めて顔を隠し、シオの方を向こうともしない。

 頬を掻きながら、どうしたものかと悩んでいるシオを横目に、無理やりエレオノーラを抱きかかえ、倉庫の奥へと運んでいくアザリア。


 彼女達が分厚い扉の向こう側に消えた途端に、おやっさんの尋問は始まった。

 あちこちがささくれ立った荒縄で彼らの両腕を縛り、木桶に溜まった茶色い水を彼らの顔にぶっかけ、目を覚まさせる。


「ゲッホッ、ゲッホッ」

「おはようさん、糞野郎共」


 おやっさんは上着を脱いで赤銅色に染まった両腕を晒し、テーブルの上に無造作に置かれた酒瓶を一気に飲み干すと、無表情で酒瓶を叩き割った。

 その音に反応する二人組。彼らの表情は既に凍りつき、おやっさんの一挙一動を無言で見つめるばかりだ。


「さあてと。お前らはどこからやって来たのか聞かせてもらおうかい」

「ハーレンバークです。そこに居るブローカーのメイヤーって奴から仕事を依頼されました」

「その内容は?」

「この街の調査、そしてベルンハルトの人間が現れた場合にはその動向の調査です」

「他に頼まれた連中は?」

「詳しくは知らないですけど、この街の担当の者でもあと4人は居る筈です」


 一瞬でカタが付いた。

 流石は名うての情報屋だ。


「はい、ご苦労さん。坊っちゃんの目の前だ。命だけは勘弁しといてやる。今度この街で見つけたら命は無いと思っとけ」


 おやっさんはそう言うと、彼らの座る椅子を持ち上げて倉庫の外に放り出す。


「せ、せめて解いてくれ!」 


 椅子に縛り付けられたままの彼ら二人はガタンガタンと暴れながら助けを求める。

 だが、おやっさんはそれをガン無視して扉を閉めた。


「という訳さ。案の定だったな」

「……」


 俺は言葉を失う。あの男が言ったハーレンバークというのは、ここより東に位置するアカーシュ家の領地だ。

 誰が糸を引いているのか、というのは元より火を見るより明らかだったが、ここに来て確定した。

 

「そして奴の言っていたメイヤーってのは聞き覚えがあるな。流れてきた傭兵崩れの仲介屋だ。人望も金回りもそんな大した奴では無かった記憶があるが……」

「裏にはアカーシュ家が絡んでいる、のでしょうね」

「ま、そうだあな。そこを疑わない理由がない」


 彼らは収穫祭に合わせて、妨害活動を行おうとしている。

 最近の人の流れと情報を元に考えれば、そういう結論に行き着くのが自然だ。


 だが、対抗する手立ては今はない。

 まだ若君という立場だ。資金も、人も、自分で動かせる物は少ない。

 この身を守るだけならば、なんとかなるであろうが……

 

「お前さん、確かスヴォエ家の嬢ちゃんと知り合いだったろう」

「……ええ。どうしてそれを?」

「バッカ、あんな大物の娘がこの辺りに来るんだ。俺様の耳に届かない訳がないだろうよ。……あの嬢ちゃんを利用するってのはどうだい? 丁度、ハーレンバークにはル=バル族のキャラバンが訪れている。彼らの所に行きたいといえば、あの娘も悪い顔はしないんじゃないか?」


 ル=バル族。東方の荒涼とした地帯に住む一族で、広大な砂漠を越えた向こう側に存在してる東方国家群との交易を行い、貴重な品々をこの辺りに持ち込む交易民族の一つとして知られている。

 その中でも彼らル=バル族は織物や服、装飾品に強い。


「メルキュールを巻き込むんですか……?」


 俺がそう言うと、驚いた様におやっさんは笑う。


「なんだ、あの娘の事を悪く思ってないのか、坊っちゃんよ」

「そういう訳では……。関係ない人間を巻き込むのは気が引けるというだけですよ」

「よく考えてみろ。幾ら闇社会の人間でも、スヴォエ家の連中に手を出すわけが無かろう。そんな事をすればどんな報復が待ち受けてることやら」


 そう言ってしゃがれ声で笑いながら、おやっさんは笑う。

 新しい酒瓶の栓を抜き、勢い良く数口飲んでから酒臭い息を吐いて、彼は言う。


「それとこれは爺の耄碌と思って聞いてもらいたいがな、あの娘がお前さんを悪く思ってないのなら、今の内に味方に付けておけ。あの一族の力は世間一般で思われているより、遥かに強大だ。それに付随する裏の面も、な」


 

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