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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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反抗期?

 翌朝。

 朝のトレーニングを終えた俺は、あいにくの曇り空を眺めていながら着替えを行っていた。

 すると、部屋の戸を叩く音が聞こえる。


「アザリアです」

「どうぞ」


 いつものメイド服を身に纏った彼女が姿を見せる。

 手には一通の手紙が握られている。


「先日集めた内の一人からの連絡が参りました」

「もう来たのか、早いな」


 シャツを着る手を止め、アザリアの差し出してきた手紙を手に取る。

 その封を切ろうとしていると、彼女の手が俺の胸元に伸びてくる。


 ボタンを彼女に止めて貰いながら俺は手紙を読んでいく。あまり上手とは言えない字ではあったが、用件は簡潔に記されている。何の問題もない。むしろビジネスメールかと思うくらいに複雑かつ面倒な貴族同士の手紙のやり取りの方がわかりづらい程だ。


 内容は、各所に数人ごとの集団が現れつつあるという事実だった。

 実は、既に似たような手紙を別方面の者からも数通受け取っている。


 全て数人の集団で、湯治が目的で西部の温泉地帯と目指しているという名目ではあるが、長期滞在を行えるような荷物は抱えていないという。


 この事から分かるのは、何らかの意思を持ってベルンハルト領内で工作を行っている何者かが居るという事だろう。……どこがそんな事をやるのかというのは、容易に想像出来るが。


「ウォルター様、少し顔を上げて下さい」

「ん、ああ」


 アザリアはそう言いながら手際よく俺の服装を整えていく。

 

「朝食の準備も整っています、今日のご予定は?」

「ヴァルトハイムに行く。例の物の納入を行ってからおやっさんの所に行こう」

「了解しました。では馬の準備を行っておきます」


 そう言い残して、部屋を出て行くアザリア。それを見送った俺はブーツを履いて同じように部屋を出て行く。

 食堂へと向かうためだ。


「おはよう、ウォルター」

「おはようございます、母上」


 既に母とエレオノーラが俺を待ち受けていた。ちょっと遅かったか。

 しかし、父の姿はここにはない。


「母上、父上はどうされました?」

「朝一番で王都へと立たれました。また裁定の件で異議申し立てがあったそうで……」


 またか。子供の嫌がらせのようだ。

 

「では、頂きましょうか」


 当家の朝食はいつも同じだ。パンにバターを少しと、ボルシチに似た赤いスープ。最近は母が今凝っている薬草茶も出るようになった位。


 もう少し豪華な物を食べても……と思うのだが、痩せた土地で暮らしていた母の実家での風習なのだそうな。


「ウォルター、今日の予定は?」

「ヴァルトハイムに行って、注文していた本を受け取ってこようかと思っています」

「そう。でしたらエレオノーラも連れて行ってあげなさい。今日はキルシュちゃんにじっくりと教え込む事があるので」

「は、はい」


 有無を言わさない態度だった。当然反論など出来るはずもない。


「兄様と、町?」

「そうよ、いっぱい遊んでもらいなさい」


 あまり感情を表に出さないエレオノーラだったが、このときばかりは笑顔となった。

 ……しかし、エレオノーラが付いてくる事になるとは想像もしてなかった。



◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 一時間ほど、後。

 俺とアザリア、そしてエレオノーラはヴァルトハイムへ向かっていた。


 俺は背中にしがみついているエレオノーラに時折話しかけながら馬を操る。


「大丈夫か、エレオノーラ?」

「……うん」

「休みたくなったらいつでも言うんだぞ?」

「……うん」


 この子が無口なのは前からだったが、最近は特にひどいように思える。

 似たように大人しめなキルシュは無口というよりは、あまりにも一人で居た時間が長すぎたお陰で話慣れていないという印象だ。

 しかしこの子は異なる。話その物を避けているような……


 この事についてアザリアに話した事もあるが、彼女の評はこうだ。


『お嬢様は口数が少ないだけで、多弁な方ですよ』


 イマイチ理由が分からない。喋れないのに多弁? 謎掛けみたいだ。


「ほら、ヴィーラー川が見えてきたぞ、エレオノーラ」

「……うん」


 またこれだ。どう接したらいいのだ。

 これは反抗期なのか!?


 ……メルとかの前だと、素直に会話してるように思えるんだけどなあ。

 キルシュと二人だと、ぎこちなく喋るキルシュの会話を聞いてばかりの様だが。


 やがて、ヴァルトハイムにたどり着いた俺たちは町外れの厩に馬を預け、街中への乗合馬車に乗る。

 

「エレオノーラ、まずはお菓子を食べに行こうな」

「……わかった」

「何食べたい?」

「……飴」


 飴ならどこでも食べられるだろ! そうツッコミしかけたのをぐっと堪えた俺。

 褒められて良いだろう。

 しかし、何故かアザリアは溜息を付きながら、ジトッとしたシケった顔で俺を見ている。

 

「こういう時にはリードしてあげる物ですよ。ウォルター様」

「リードって……」

「何食べたい? では無いのです。何を食べに行こうな、と言われたい物なのです」

「そういう物なのか……」


 女心は複雑だ。

 ……よく考えてみれば、メルみたいな強烈な娘に振り回されてばかりか、前世と前々世のように女性と一切関係が無いかでまともな女性経験を迎えていない気がする。

 

 そんな事を考えていると、ガコンという音と同時に馬車が止まる。

 丁度街の中心に着いたようだ。


 俺たちは馬車を降りて、一伸びするとお目当てのお菓子を食べに歩き出した。

 ……が。


「シルクキャンディ? 悪いね、売り切れだよ」

「ありゃー、悪いねお嬢ちゃん達。さっきの人が買ってったので最後なんだ」

「あ…ごめんなさい、それ来月からなんですよ」


 じゃあこの煮込み……じゃねえ。

 どこのお菓子屋も売り切れの嵐。

 エレオノーラの無表情が逆に怖い。


 収穫祭の前だ。作り貯めの出来るお菓子は収穫祭に向けて供給を減らすだろうし、そうでなくてもお菓子の原材料が手に入りづらくなっているのでこうなる事態を迎えるのは予想出来た筈だ。


 菓子屋以外も店先に商品をあまり並べていない開店休業状態の店がちらほらと現れだしている。

 この状況では俺の目的はともかく、エレオノーラのような幼い子を楽しませるような事は難しいだろう。


「仕方ありませんね、お菓子は別の機会に……」

「いーや、ダメだ」


 すっかりと意気消沈し、諦めようとしたアザリアだったが、俺は違う。

 逆に燃えてきたぞ。こういう状況でこそ美味い物を探し出してみせる。

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