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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第一章 幼少期編
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神童と呼ばれたい

「せ、正解です」


 家庭教師が驚愕に満ちた表情で俺を見る。当たり前だろう。今解いた数学の問題は恐らく数年先に解くであろう問題だ。

 それをスラスラと解いたのだから、驚きもしよう。

 記憶では子供の頃は勉強が苦手で、よく抜け出して遊んでいた。その度に母にこっぴどく叱られたっけ。

 でも今は、そんな事をする必要もない。


「これ以上難しい問題は無いのですか?」

「は、はい。今日の所は用意が……」

「では、父にこれを見せてきても良いですか?」

「わかりました。今日はこれで終わりという事で」


 今日は随分と早く終わった。今日解いたばかりの答案用紙を纏め、父の元へと向かう。

 家庭教師を増やしてもらう様に直談判しに行くのだ。

 これだけの成果があり、熱意を見せれば首を横には振らないだろう。

 父の書斎の扉を叩き、中から返事が帰ってくるのを待つ。


「どうぞ」

 

 その言葉を聞いて中に入る。父はいつもの様に領地のあちこちから上がってくる書類の整理を行っていた。

 ベルンハルト領は山間に挟まれた小さな平原が主な領土となっており、そこまで大きくはないが王都までの内陸水運の拠点である街を一つ持っている為にそこそこに実入りは良い。

 その為にその利益を狙う者も少なくは無かったようだ。父の死後、好き勝手に食い荒らしてくれた叔父の様に。


「父上」

「どうした、また先生の所を抜け出してきたのか?」 

「お願いがあって来ました」

「どうしたんだ、そんなに改まって」

「習い事を増やしたいんです、できれば専門的な事を」


 父は俺の言葉に顔を顰める。無理もないだろう。今までのウォルターだったら、まずは目の前の勉強に集中するのが第一であり、新しい事をやる前の問題だ。 


「勉強熱心なのは良いことだ。だが、この間も勉強の時間に脱走して怒られたばかりじゃないか。」

「今日解いたばかりの答案です。これを見て下さい」


 俺はそう言って、先程採点してもらったばかりの答案を父へと差し出す。

 父は俺の手からそれを受け取ると、興味深そうに眺めている。

 そして、しばらくした後に立ち上がり、窓際へと歩いていく。

 しばらく外を眺めていた後に、父は俺を手招きして呼ぶ。


「何がやりたい?」

「えっと……。魔法と、薬学か医学、それと剣を習いたいです」

「薬学なら、私が教えられる。魔法に付いてはまず素質の検査からだろうな。父さんの知り合いに頼んでみよう。剣は……」

 

 父はそこまで言いかけて、笑う。

 どうしたのだろうか。俺も首を傾げていると、父は俺の頭に手を乗せて髭を弄りながら話す。


「“そちら”の方面なら適任な人がいる。後で話しておこう」



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 

 俺は、革の水筒を腰から下げて走っていた。体づくりの為だ。

 父が認めてくれ、来週から新しいジャンルの勉強を行えることになった。しかし、剣の教師は誰になるのだろう。

 あの口ぶりからすると、父の知り合いである事は間違いなさそうだが、あの髭を弄る癖は何か変なことを考えている時の物だ。何かをしようとしているのは間違いないだろう。


 舗装されていない坂道を勢い良く下っていく。この道は途中二又に分かれており、左をずっと下っていくとライネルという小さな村にたどり着く。

 ライネル近郊の果樹園や畑は全てベルンハルト家の物であるため、小さいながらも直轄地を持っているという事である。村の住人は全員が顔見知りであり、よく家を抜け出して遊びに行っていた事を思い出す。


 だが、今日の目的はライネルではない。二又路を右に行った先にある川と小さな森がその目的だ。

 川まで駆けていき、そこで軽くトレーニングを行った後にまた家まで駆け戻る。ランニングのような物である。

 今日もテンポ良く足が動き、下り坂という事もあり、勢い良く下る事が出来る。

 途中、屋敷に向かっている馬車とすれ違う。御者はレオという顔馴染みの商人だ。おそらく食材を持っていくのだろう。


「こんにちは、坊ちゃま」

「こんにちは、レオ!」


 手を掲げて挨拶をする。それだけで済むだろうと横を駆け抜けようとした時、鞭を叩く音と同時に呼び止められた。


「ちょっといいですか、坊ちゃま」

「どうしたんです?」

「また、川の方に行かれるので?」


 もうこのランニングを日課にし始めてから、何度もすれ違っているので何をしているのかはすっかりバレている。彼の口から両親にも話されているのだろう。別に構わないのだが。


「はい、そのつもりですが」

「今日は川に近づくのは止めといた方が良いよ、随分と川の流れが早い」

「ありがとうございます、近づきません!」


 俺はレオに一礼して、再び走り出す。

 天候の問題だろうか。まあ、元より川遊びなんてするつもりは無いので問題は無いのだが。

 そう思いながら二又路を右に曲がって更に勢い良く駆けていく。もう少しでゴールだ。

 森が姿を見せ、その横を通り過ぎると川が見えてくる。


「ゴール!」


 道が途切れ、砂利に切り替わる辺りで駆ける速度を落としていく。

 確かに川は茶色く濁り、随分と勢いが急だ。こんな状況では幾らなんでも川遊びをしようなんて奴は……


「ん……?」


 川沿いに何かが見えた。少し遠いここからだと、よく見えないが。

 近寄ってその姿を確かめに行く。

 そこで俺が見たのは、信じられない物だった。

 あれ、人じゃないのか……?

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