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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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白と黒の少女


「ご苦労さん、アザリア」


 俺は大量の人々に料理を配り終えたアザリアに労いの言葉を掛ける。

 しかし、彼女は涼しい顔をしながら積み上げられた食器を片付け、こっそりと用意していた二人分の食事を持ち出してきた。


 しんと静まり返った教会の中は、まるで先程までの喧騒が嘘の様。

 俺達は適当なベンチに座り、並んで食事を取る。

 魔法による保温効果が切れ、すっかりと冷めてしまったスープを口に含みながら、パンを放り込む。


 アザリアは女性という事もあり、山盛りの野菜を食べている。草食動物でもここまでの量は食わないだろうという位に。

 というより、殆どのサラダを自分の為に取っておいたんじゃないか、そう思うくらいの量だ。


「ウォルター様、あんな事を言って本当に良かったのですか?」

「あの事かい?」


 サラダを食べながら、アザリアは俺に問いかける。

 彼女の疑念は全く持って正しい。手の付けようがない悪童共と関わる事自体、貴族として見れば全くプラスな事は無いのだから。


「ああ。来月の収穫祭を邪魔させる訳にはいかないからな。何かが起きないように見張る別の目が必要だと思う」

「……それにしても、彼らは不適当だと思うのですが」

「脱落する連中は出てくるだろうな、それでも僕は信じてるよ」


 俺は、彼らに仕事を与えた。

 その内容はいたって簡単。自分の住む場所に訪れた怪しい人間を覚えておき俺へ報告する。定期的にパトロールを行い不審な物を探す。

 住民に手出ししたら俺が殴りに行く。身内で争ったらクビという最低限のルールも与えたが、これも守れるかどうかは怪しい所だ。


 これらはいずれやりたいと思っている事に向けての前準備と言った所だ。そして、来月の収穫祭に何かが起きないための保険でもある。


「いずれにせよ、ウォルター様の行う事でしたら私は従うだけです」

「悪いな、アザリア」

「どこまでも付いていくと決めたのは、私自身です。礼を言われるような事では……」


 アザリアは口ではそう言っているが、どこか嬉しそうだった。


 片付けと食事を終え、教会から出た所だった。


「ウォルター様、お下がり下さい」

「ああ」


 俺を庇うようにアザリアが前に立つ。目前の森に潜む人々の気配を感じ取ったという事だろう。


「ようやくお出ましか、お坊ちゃんよ」


 森の中から現れたのは、十数人以上は居るであろうガラの悪い男達。

 それを率いているのは……

 見覚えがない。無駄に尖らせた頭に、目元に赤い塗料を塗りたくるという印象的な姿をしているのだ。やり合っているのならすぐに分かる筈なのだが。


「誰だっけ、あれ」

「モルトカ町のシヴァンです」

「あー、あのやられる前に尻尾巻いて逃げ出した」

「うるせえ!」


 怒鳴りながら、禍々しい意匠の手斧を持ち出したシヴァン。

 彼に付き従う男達の中には、見知った顔の者も何人か混じっていた。

 今日来なかった者は勿論、来た者すら混じっている。


「へへへ、聞いたぜ、坊っちゃんよう。馬鹿共を集めて御山の大将気取り始めたみたいじゃねえか」

「なるほど、お前のスパイが混じってた訳か」

「この辺りで一番の不良は俺だった。それがお前にノサれてから酷い有様だ。仲間は逃げ出し、町の奴らからも笑われる始末! テメエだけは絶対に許さねえ! 貴族だろうが知ったこっちゃねえ! だろう!?」


 彼は、一緒にやってきた仲間たちに呼び掛ける。同じような境遇の者達が集い、俺に復讐を行おうとしているという事か。

 

「おう!」

「そうだそうだ!」

「ぶっ殺してやる!」


 彼らは一様に騒ぎ立てながら、手にしている思い思いの得物を振りかざしながら俺に近づいてくる。

 凄まじい光景ではあるが、俺は特に動揺はしていなかった。


「アザリア、手筈通りに」

「はい」


 アザリアは俺から数歩離れた位置に立ちながら、いつものように短剣を構える。

 しかし、俺は憮然とした態度でその後ろに立ち続ける。剣を抜くことはない。


「召使いに戦わせて自分だけ逃げようってのか」

「俺たちのあまりの恐ろしさに漏らしたんじゃねえだろうな」


 他にも俺ではとても思いつかないような下品な内容の言葉を俺に投げかけながら、連中はジリジリと俺に迫ってくる。

 そして、3メートル程の位置にたどり着いた時だった。


「へへ、まずはその姉ちゃんから血祭りに……」


 何かを言いかけたシヴァンの姿は突然消えた。

 というよりは、集団全員が突如として現れた、巨大な落とし穴に落ち込んでしまったのだ。

 

「ギャッ」

「なん……」

「やめ……!」


 轟音と同時に、木々に留まっていた鳥たちが飛び立っていく。


「やあ、諸君」


 俺は彼らを落とし穴の上から見下しつつ、言う。 


「てめっ、何を!」

「魔法だ。特に珍しい事でも無い」


 俺がそう言った途端に連中の顔色は一変する。先程までの調子に乗った表情をしている者は誰一人として居ない。


「何をする気なんだ」

「止めてくれ!」


 俺はそれに魔法の発動で答えた。大量の水が彼らに降り注ぎ、彼らを洗い流していく。

 穴の中は彼らが溺れない程度に水浸しになり、泥濘と化した。

 落とし穴自体が中々の深さである事から、泥水のプールのようだ。


「もし、これから僕の事を邪魔するような事があれば、これじゃ済まない。覚えておけ」


 そう言い残して穴を後にした。

 中からは様々な怨嗟と悲鳴が聞こえるが、知ったこっちゃない。


「さ、帰ろうか」

「ええ」


 踵を返して、家路に向かおうとした所だった。

 背後から、感じた異様な気配。そして殺気。


「死ねっ!」

「ウォルター様!」


 何かが空気を切り裂きながら飛んでくる音が聞こえる。

 それに真っ先に反応したアザリアが俺の盾となろうと動き出す。

 彼女を、そして俺自身を守るために障壁の魔法を発動しようと呪文を呟きかけた時だった。


 別の何かが横から飛び出し、俺目掛けて飛来していた飛翔物を打ち砕いた。


「な!?」

「だいじょう、ぶ?」


 唖然とする俺、そしてアザリアに掛けられるのんびりとした声。

 現れたのは少女だった。雪の様な純白の髪は地面に付くほどの長さ。血の気という物が全く感じられない程に白い肌。

 その容姿と黒一色の衣装、それに背丈程もある長さの捻くれた杖。まるで何かの演劇から飛び出してきたかのような姿だった。

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