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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
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彼女の事情


 そもそもスヴォエ家とは?

 この国の大貴族にして、有数の領地を所有し、更には王家にまで血縁の者を配偶者として送り込む程の実力者だ。


 その大貴族の頂点に立つのがメルキュールの父、マルキオ・フランソワーズ・スヴォエ。

 そのコロコロと太った体とダブついた顔のイメージから私服を肥やすだけのタイプの貴族と思っていたのだが、これが相当なやり手だ。

 だが、その背後には配偶者であり第二夫人であるリーベッカの影がチラつく。マルキオも侮れない人間ではあるが、今のスヴォエ家を自在に動かしているのはリーベッカであろう。


 それもその筈。彼女こそスヴォエ家本筋の人間。マルキオは遠縁の血筋から形だけの頭として据えられたに過ぎない。

 彼、そしてリーベッカが家を継ぐまでには凄まじいまでの内部闘争があったと聞く。その過程でリーベッカは姉妹を次々と手に掛けたとも。


(そんな家に生きてるんだ。まともな性格では居られないわな)


 彼ら一族の出自は金貸しと商業。広大な領内も当初は戦乱で荒れ果てた大地を充てがわれ、まともに住む屋敷すらなかったという出自から成り上がった一族だ。

 どこか歪んでいるのは、仕方がないのかもしれないが……


「今日もお父様ったら、帰ってきた途端にお兄様に付きっきりで一緒に来てくださらなかったの。珍しくお休みされている時はいつもそう! お兄様に付きっきりで! ウォルターもお兄様にお会いした事はあるでしょう?」

「ああ、グムレーさんだね。容態はどう?」

「先日、療養から帰ってきたばかりなのだけど調子は良さそう。時折咳き込む位だけれど」


 そう言った彼女は珍しく落ち込んだような表情となる。姉とはともかく、彼女は兄とは仲が良いようだ。

 彼女の兄のグムレーは、嫌味な所の無い本当の良い人だった。だからこそ余計に生きづらそうではあったが。


 病弱な兄と、彼女以上に美貌と様々な才能に恵まれた姉三人。彼らは皆、蒼い瞳に白に近い澄んだ色の金髪を持っている。莫大な魔法の才能も。それこそが本家筋の人間であるという証なのだ。

 一方、彼らと異なる容姿なのが、メルだ。茶色がかった赤色の瞳に美しいが、白色の入っていない金髪。まともにコントロールする事の出来ない魔力。あまりにも差があり過ぎる。


「……どうしたんですの? そんなに険しい表情をして」

「い、いや、何でもないよ」

「はあ、私と居る時には私以外の事を考えて貰っては困りますわ。全く、レディに対する態度がなってませんこと」

  

 呆れた様子で俺を見るメル。そして、そんな彼女を見る姿が一つ。


「兄様……? お客様……?」


 柱の影から顔を出したのは、エレオノーラだ。

 あの事故を乗り越えて無事に成長した彼女は、今や4歳。すっかりとおしゃまな女の子に成長していた。すこし無口なのが心配なくらいだ。 


「あらあらあら! エレオノーラさんじゃありませんこと!」


 彼女を見つけた途端、メルは高笑いをしながら驚いたような素振りを見せる。

 それを見て安心したのか、エレオノーラは隠れていた場所から姿を現す。


「……うん」


 メルは指を鳴らす。従者達が再び現れ、エレオノーラに色とりどりの小箱を渡していく。

 

「クーナの実のシロップ漬け、それに新作のキャンディにクッキーですのよ。当家の領内のお菓子職人達が見本として持ってきた物ですわ! 余ったので特別に差し上げましょう。感謝して食べなさいな」


 少しばかり落ち込んでいた様子のメルも、エレオノーラを見た途端にいつもの調子に乗った顔に戻っている。

 アザリアとはどこか反りが合わない様だが、エレオノーラとは問題がないようだ。


「あり……がと……」


 エレオノーラは両手いっぱいに箱を抱えながら台所の方へと向かっていく。

 幸せそうな表情だ。


「悪いな、いつもいつも」

「あら、別に感謝されるような事は何も無くてよ? 余って余って仕方ありませんから、持ってきてあげただけの事でして。ま、この領内も腕前の良い職人を集めるべきですわね。あの子の事を考えるのでしたら」


 相変わらず一言が多いが、エレオノーラが喜んでいるので何も問題はない。

 それに本当に余った物を持ってきてる訳ではないのは、毎度毎度持ってくるお菓子の種類も、作り手も違う事から明らかだ。

 つまり素直じゃないのだ、コイツは。


「失礼致します」


 当家のメイドがお菓子の乗った皿と、お茶のカップを持ってきた。

 大皿に乗っている色とりどりのお菓子たち。そして、琥珀色に輝く淹れたてのお茶のカップが2つと、既にミルクが入った甘い香りのする白濁したお茶のカップが1つ。

 これは、エレオノーラの分だ。


 すぐに彼女は姿を見せ、俺たちの正面に座る。

 いつもと同じだ。メルが来ると途中から必ずエレオノーラが参加し、一緒にお茶を楽しむ。

 つまり、わざわざその為にメルもお菓子を持ってくるようになったという訳だ。


「いただきます」


 そう言ったが早いか、エレオノーラはクッキーを数枚一気につまんで、お茶の中に沈めて柔らかくした後に一気に頬張る。


「こら! またそんな下品な食べ方をして! まずはゆっくり味わいなさいな! もう!」


 色々と思うことはある。

 だが、今はこの穏やかな時間が何時までも続いて欲しいと祈っていた。 

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