表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第二章 幼年期、組織作り編
22/127

また令嬢と

 俺は馬を駆けさせながら、道を行く。

 その後ろには同じように馬を操るアザリアがぴったりとくっついてきている。


 本来であれば、ゆっくりととりとめのない話でもしながら帰る所なのだが、なにせ今日は日が悪い。

 メルがやってくる日だからだ。

 

 彼女との付き合いももう二年以上になる。その間、ほぼ欠かさず毎月通ってくるのだから大した物だ。

 聞けば、彼女は自分と同じ年頃の友人は俺が初めてだったらしく、その所為もあってか、行事ごとに俺は呼びつけられて彼女の相手をせねばならない。


 例えば、自身の屋敷で行われる誕生会から新年祭には当然の如く呼びつけられ、盛夏に行われる避暑もベルンハルト領で行うようになったり。避暑の際には殆ど彼女に付きっきりで無ければならず、彼女のワガママに振り回されることとなる訳だ。


 俺は拒絶しても良かった。というよりはそうしようと思っていたのだが……


「アザリア、またメルはあの話を始めるのかな」

「どうでしょうか。私としては、ウォルター様も一度行ってみてはどうかと思うのですが」

「組織作りでは今が一番大切な時だ。あの娘に付き合ったら結構な間こっちを空ける事になるしなあ」


 そう。これが最近の悩みの種である。

 メルは(同い年である俺もだが)じきに王都で開かれ晩餐会や舞踏会に参加できる歳となるが、その際には俺を同行させると言って聞かないのだ。


 今日もまたその話を聞かされる事になるのだろう。

 確かに、王都に行く事は俺の経験上、それに知識に良い影響を与える事になるだろう。だが、どうしても踏ん切りが付かない。


 悶々としながら屋敷に帰ると、既に見覚えのある馬車が止まっている。

 あの娘だ。


「やっべえ」

「ふう、だから3人目を倒した時点で一度言いましたのに」

「分かった分かった、言うな!」


 馬を降りるが早いか、俺は屋敷の中に駆け込んでいく。

 マズいマズいマズい。


「あら、ウォルターさん。随分と遅いお帰りですのね」


 非常に機嫌の悪そうな声が、俺を出迎えた。

 メルキュールは腰に手を当てつつ、苛立たしそうに瞼をピクピクとさせている。非常にマズい。マックスレベルで不機嫌な様子となっている。


「本当にごめん。忘れていた訳じゃないんだ」

「忘れていた訳じゃないというのなら、遅れる訳が無いでしょうに!」

「面目ない」


 俺がそう言うと、深い深い溜息を付いて、腰の辺りで切り揃えられた長い金髪を揺らしながら俺に近づいてくる。

 彼女は目の前で立ち止まると、俺の胸元を直していく。シャツが出ていた様だ。

 呆気に取られている俺の手を取ると、応接室の方へと無言で導いていく。


 なんだなんだ、いつもならば怒鳴るか泣くかするだろうに。


「メルさん?」

「座りなさい」


 渋々ソファに座ると、当たり前の様に隣に座った彼女は俺の顔を覗き込みながら、パチンと指を鳴らす。

 それを合図に姿を見せたのはいつもの彼女の従者たち。揃いの制服を身に付けた彼女達とも随分長い付き合いになる。


「色々と言いたい事はありますわ。ですが、まずは一言だけ言わせていただきますと」

「はい」

「何時になったら貴方は貴族の一員としての自覚を持つのです!? まるで庶民の様な服を身に纏って! まずは着替えなさいな!」


 メルはもう一度指を鳴らす。それだけで彼女の従者たちが俺を抱えて連れ去っていく。そのまま手際良く服を脱がされ、顔を現れ、髪の毛を整えられ、彼女が用意した一張羅に着替えさせられた。

 その状態で元の様にソファに座らせられた俺は、満足げなメルの顔を見る事となった。


「ご苦労。下がってよろしい」

 

 音も無く下がっていく従者たち。いつ見ても非常に統制が取れている。


「ふう、この分では先月私がお話した件も忘れてらっしゃいますね」

「覚えてるよ。来年に首都で行われる舞踏会の件だろう?」

「あら、珍しい。しっかりと覚えてらっしゃったのね、ふふっ」


 口ではツンケンとそう言うが、嬉しそうに口元が緩んでいる。

 だが。


「その件なのですけど、お父様に話したのですがやはり一緒には行けないと言われましたわ。フラーリカ姉様の嫁入りの準備もあるので、仕方ないですわね」


 彼女はまるで気にしていないかのように言ったが、目は泳いでいる。

 そう、これが俺がメルキュールを見捨てる事の出来なかった理由だった。

 彼女は半ば父親から見放されていた。それに気が付かない様にしているが、じきに理解してしまうだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ