表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第一章 幼少期編
19/127

そして時は来た

 帰り道の馬車に揺られながら、俺は自らの手に握られた袋に包まれたままの新しい剣をじっと見つめていた。

 まるで新しいゲームやおもちゃを買ってもらった子供のようだ。……実際、子供なのだが。

 まあその……男の子だ。仕方ないね!


 母とエレオノーラはすっかり寝入ってしまっている。この狭い車内で起きているのは、俺とアザリアだけだ。護衛の二人は、今度は御者席へと移ってしまっていた。


「アザリア」

「なんでしょうか」


 少し眠そうな目をしながら、アザリアは顔を上げた。

 彼女もまた、俺の剣と同じような包みを手にしている。彼女もあの店で剣を買ってもらっていたのだ。護身用の短剣だが。

 

 アザリアがどうしても、と言って聞かなかった。

 あれだけ強い意志を持って何かを主張する彼女を見たのは初めてだった。

 俺の身を守る為に必要と母を諭していたが、俺は呆れるしかない。


「自分の身くらい、自分で守れるっての。嫌なら身に着けなくてもいいぞ、それ」

「……ありがとうございます。ですが、これもまた私の仕事です。奥様の言う通りにしようと思います」

「って事は、アザリアも母上からみっちりしごかれる事になるんだぞ? いいのか?」

「はい。覚悟の上です。それで少しでもウォルター様や旦那様のお役に立てるのでしたら、それ以上に嬉しいことはありませんから」


 そう言った彼女の目には、強い意思の光が灯っている。

 俺がどれだけキツい訓練をしているか、彼女が知らない訳がない。メイドとしての業務の上に更にトレーニングまで加わるとなると、この年頃の少女がこなせるような作業量ではあるまい。

 

 それでも、彼女はやると言った。強い娘だ。


 そして馬車は屋敷に辿り着く。母を揺さぶって起こし、背伸びをしながら外を見る。

 すると、閉ざされた門の前で馬とそれに引かれた荷台が立ち尽くしているのが見えた。


 あの荷台には見覚えがある。栗毛の白い斑点が背中にポツポツと現れている老馬、あれはレオの馬だ。

 だが、その馬を操っているのはレオではない。見たことが無い人物だ。

 少し小柄で、背中を曲げて卑屈そうな顔をしている。年はレオより少し若いくらいだろうか。


「母上、誰かが当家の門の前で待っています」

「あら? 誰でしょう。出入りの業者かしら?」


 馬車は一旦門の前で止まる。門番が億劫そうに門を開くが、馬車は止まったままだ。

 母は眠りこけているエレオノーラを抱き抱えながら、馬車を降りていく。


「ああ、奥様! 良かった良かった! ここで夜まで立ち往生する事になるかと思いましたよ!」


 小柄な男は馴れ馴れしそうに母へと近づいていく。妙だった。

 この屋敷に出入りしている業者はそう多くない、業者で母の顔を知っている人物なら、こちらが知らない筈がない。


 嫌な予感のした俺は剣を置き、馬車を降りていく。


「私はレオの弟で、ライオネルと言います、彼が病気になってしまったので代わりに注文の品を届けに来たのですが、門番に止められてしまっていて!」


 母は立ち止まったまま、動かない。俺と同じように違和感を抱いているようだ。

 しかし、男は揉み手をしながら、ジリジリと母へと近づいていく。張り付いたような奇妙な笑顔と共に。


「……でしたら、レオから当家の印章入りの発注書を預かっている筈ですが」

「ええ、ええ! ですが、あの門番ときたら受け取らないんですよ! これがその……」


 男は、懐に手を入れた。

 何かがおかしい。それを直感した俺は駆け出す。

 母の元まで、十メートルも無いだろう。だが、今はその数十倍以上の距離に思える。

 

「母上、危ない!」


 俺の叫び声を聞いた男の表情は一変する。

 それと同時に、男が懐から何を取り出したのかが鮮明に見えた。

 短剣だ。しかも毒かなにかが塗られているのだろうか、刀身が黄色く見える。


「死ねえ!」


 男は叫びながら、短剣を投げつけようと振りかぶる。

 この時点で、俺は母の真横を駆け抜けた。

 そして、真っ直ぐに男の膝下へと体当たりを繰り出す。


「ギャッ!」


 男は体当たりによって体勢を崩し、膝を付く。

 俺は渾身の力を込めて、男の顔を殴った。


 それと同時に、叫び声が聞こえる。

 母の声、アザリアの声、門番の声。

 そして何より聞きたくなかった、エレオノーラの泣き声が。


 俺は振り向く。そこで見たのは、頬に小さな傷跡の付いたエレオノーラの姿と、それを抱きかかえる母の姿。

 短剣は地面に転がっている。


「エレオノーラ、エレオノーラ!」

「奥様!」


 泣き叫ぶ妹の顔は、次第に赤みを増していく。

 毒だ。そう判断した俺は馬車から飲水を取りに戻り、直ぐ様傷口を洗い流す。

 その上で、母に告げた。 


「母上、エレオノーラを屋敷へ!」


 駆け寄ってくる護衛と門番と、アザリアにその場を任せて俺は母と屋敷の中へと駆け込む。

 応接室のソファの上に寝かしつけられたエレオノーラは、痛みからか猛烈な泣き声を上げながらじたばたと暴れ続けている。

 それを聞いているだけで、まるで自分の事のように胸が痛む。


「大丈夫だ、大丈夫。この日の為に準備していたんだ」


 俺は自分に言い聞かせる様に呟くと、深呼吸を一つ行う。

 そして標本室に駆け込むと目当ての薬草を一掴み手にし、部屋の壁に掛けられた採集キットを手にする。

 次に向かうのは薬草園だ。そこに生えている目当ての薬草を手当たり次第に引っ掴んでエレオノーラの元へと戻る。


 そして、大急ぎで取れたての薬草達をすり潰し、混ぜ合わせて水でふやかした物をエレオノーラの口に含ませる。

 

「苦いだろうが、我慢だぞ」


 時折拒絶の意を示すように吐き出しながらも、作り上げた物を飲み終える頃にはすっかりと大人しくなった彼女は、やがて眠りに落ちていった。


 これでしばらくは、大丈夫だ。

ここで切りますが、次回で解決編です。

更新は明日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ