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三度目の正直は悪役ルートで!  作者: 有等
第四章 学外活動編
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メル、アザリアへと問いかける

 ダヴリンとの交渉を終えるとすぐに私は席を立った。

 彼女は食事を楽しんでいたが、とても何かを食べる気にはなれなかったからだ。

 水を飲むのが精一杯。それも、こみ上げてくる酸いものを押し戻すためだけに。

  

「……」


 レストランを出て、外の空気を吸った途端に緊張の糸が切れた。

 ほんの一瞬、意識が途切れた。

 次の瞬間には、私の体はカリン、そしてアザリアによって抱き止められていた。


「大丈夫ですか?」

「ありがと」


 倒れかかった私を支えてくれたアザリアは何も言うことなく、私の顔をじっと眺めている。

 彼女のその目から逃れるように、私はカリンの手を借りながら立ち上がった。


「少し頭が痛くて。……もう大丈夫ですわ」

「とても大丈夫そうには見えませんが」

「私が大丈夫と言ってるのです!」


 思わず声を荒げてしまう。そんな必要が無いのは分かっているというのに。

 まるで駄々っ子だ。自分が嫌になる。 


「……ごめんなさい。カリン、馬車を呼んできて下さる?」 


 カリンには少しこの場から離れて貰いたくて、わざとそう言った。

 少しアザリアと二人で話がしたかったのだ。 

 カリンはそれを理解したようで、ゆっくりとレストランの裏手の方へと足を向ける。


 少しの間を置いて、私はアザリアの方へと語りかける。


「私に気を使う事は無くてよ、アザリアさん。貴女の事はウォルターとその両親から聞き知っていますから」


 少しばかり語調が荒かった。それを繕うように私は彼女へと微笑みかける。

 しかし、今度は逆効果であったようで彼女はすっかりと困惑した様子で私を見る。

 どこかどんよりとしたその目は、私を敵とは認識してはいないが、味方とも思っていないのがよく分かる。


「……別に、私は貴女に何かプレッシャーを掛けたくてこういう事を言っているのでは無くてよ」

「申し訳ありません。意図が分かりませんでしたので」

「ですから、謝る必要は……。ああ、もう! どうしてこう!」


 上手く伝わらない。全然言いたい事が伝わってくれない。何か言えば言うほど、彼女に対しては逆効果のようだ。

 もどかしい、とにかくもどかしい。


「もういいですわ。単刀直入にお聞きします。どうして貴女はウォルターの側に居るのです?」

「彼に命を救われたからです。その時から、私はこの身を彼に捧げると誓いました」


 彼女の言葉に迷いはない。心の底からそう信じているのだろう。

 いや、違う。そう信じていると思い込んでいるのだ。


 本来であれば、この少女もキルシュのように養女として迎え入れられてもおかしくはないであろう。

 しかし、彼女はウォルターに仕えることを選んだ。

 その理由は何か? 


 今の私には、その理由が分かる。

 そしてそれを聞かなくてはならない。


「という事は、私とウォルターが結ばれたのなら、貴女は彼に対するのと同じ忠誠を私に向けてくれるのかしら?」


 私がそう問いかけると、アザリアは驚き、そして一瞬考え込んだ。

 そして、私から目を背けつつ、恐る恐る答えた。


「“もし”ウォルター様とアザリア様がご成婚なされるのであれば、私の主人となられます。その時にウォルター様からそう命じられたのなら……」


 彼女のしどろもどろな口ぶりに、思わず吹き出しそうになってしまう。 


「どうして笑うのです?」

「いえ、随分と可愛い所があるなと思いましたの」

「??」


 疑問が確信に変わりつつあった。

 彼女は……、いや、彼女も“私と同じ”なのだろう。

 しかし、彼女と私の大きな違いがある。その感情を自覚しているか、していないか。


「アザリア。私はウォルターが好きです。彼と一緒になるつもりでいます」

「それは言われずとも……」

「そして貴女もまた、彼が好きです。違います?」


 私の言葉を受けたアザリアは小さく口を開けたまま、何も答えない。

 今までそんな事を考えた事も無かったのか、それともその事実を押し殺していたのか。

 ……私にそれはわからないし、どちらでも良い。


 ただ、この反応を見れば図星だったのは明らかだ。

 すっかりと赤面した彼女は、普段の氷のような表情からは想像もできないほどの顔になっている。


「も、も、もし。そうであるとするなら、私をどうするおつもりで?」

「別に? 私はどうするつもりもありませんわ。まさか私が貴女を消すとでも?」

「そんな事を言った訳では…… ただ、わざわざ私にそんな事を言う理由が分からないのです」 

「私が勝つつもりだからです。シルヴィアにも、貴女にも。……いえ、それ以外の誰であっても」


 私はそうはっきりと答えた。本心から来る言葉を。


「それでも、最終的に選ぶのはウォルター自身です。私が一番嫌なのは、本当は彼が貴女の事を愛していたのに立場から私を選ぶということ。次に嫌なのは、貴女が勝手に気持ちを押し殺してそれを禍根として残すという事ですの」


 そんな事態を想像したくもないが、私はそう答える。


「そうなることは目に見えていますけれど、彼が私を選んだとしても少し位なら分け与えてもよくてよ。彼の爪先程度を」

「ウォルター様は、物ではありません!」


 赤面しながらも拳を震わせて答えるアザリア。

 もう取り繕う気も無い様子。


「冗談よ。そうやってムキになる辺り、私の言ったことは当たっていたようですわね」

「うっ……」

「私は後悔したくありません。貴女もそうしなさいな」


 そう言い放った後に、二頭立ての馬車が通りの向こう側からゆっくりと現れ、私達の前に止まる。

 御者台に腰掛けていたカリンが身を翻し、ステップを用意して扉を開く。


 そこへと向かおうとした私だったが、赤面したまま動かないアザリアに気がついた。

 

「私は、ウォルター様の事を? 私は、私は……」


 私は呆然としているアザリアの手を取り、声を掛ける。


「行きますわよ」

「! 申し訳ありません、メルキュール様」


 すぐに気を取り直して普段どおりの表情へと戻ったアザリアは私を馬車へと先導していく。

 何事も無かったかのように。


 馬車に揺られながら、私は自分の手を見る。

 細くて小さい手。ウォルターの節くれ立ったよく鍛えられた手とも、そしてアザリアのしなやかでありながらもマメの残る手とも違う。

 この手では、剣を握る事など叶わない。アザリアのように、彼と並び立って戦うことなど出来はしない。

 

 ……それでも、私は後悔する事無く彼の手を取りたい。

 この我儘だけは、誰に何を言われようとも譲ることは出来ない。

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