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君の取扱説明書〜あるノートの内容〜(上)

もしかしたら、彼女が出ていった理由がわかるかもしれない。しかし、原因が分かった所で状況は変わらないかもしれない。このまま帰って来ないかもしれないと言う不安を、このノートを読むことによって気を少しでも紛らわそうと考えた。


いったい何が書かれているのだろう?と胸を高鳴らせ、唯一物が置いてなくて座れるスペースで胡座をかき、手汗で濡れた手でノートのページをめくってみた。


このように、前から気になっていたノートが読めるという好奇心の他に、微かな焦燥感を潜ませながら文字に目を通した。


池上いけがみ とおる(23歳)

・身長 174cm

・体重 70㎏

・誕生日 8月19日

・初めて出会った日 2017年2月26日の日曜日

 元カレに振られて落ち込んでいた私を、親友が慰めようと考えてくれて一緒に出掛けたショッピングモールを歩いていた時、落ち込んで眠れない日々が続いていたため注意力が拡散していた私は、俊にぶつかった。それを支えてもらった時、彼に運命を感じた。

・付き合い始めた日 2017年3月1日の水曜日

 26日から何度もアプローチをしていたら、彼から告白してくれた。「女性に告白させるのはカッコ悪いだろ?」とのこと。クサかっこいい。


俺のプロフィールから付き合い始めた時のことまで、箇条書きで一言一言完結的に書かれていた。彼女らしい丸い文字の集まりを読んで「何を書いてんだアイツは……。」そう呟きつつも、かっこいいと書かれている事に口角を上げる。


そうだ。そう言えば俺から彼女に告ったんだった。


前の彼女は、仕事中の俺に惚れたと言ってきたので、数ヶ月付き合ってみた。が、俺が気を許した途端、貴方には失望した。と一方的に切り捨てる様な言葉を吐き捨て、オレを振ったのだ。


彼女の片想いから始まり、俺が彼女のことを本気で好きになった途端そう言われたのだ。正直遊ばれたと思ったね。罰ゲームだったんじゃねぇの?


完全に自身を失っていた俺に今の彼女は、毎朝道をすれ違う事に挨拶をしてくる様になった事から始まり、何度も俺の事が好きになったと伝えてきた。


始め鬱陶しいと適当にあしらっていたが、諦めず毎日愛想を振りまいてくる健気さに、俺は少しずつ心惹かれた。コイツなら、こんな俺でも罰ゲームじゃなく、ずっと愛してくれるのではないかと淡い期待を抱き、付き合い始めたのだ。そんな期待をしながらも付き合ってから


(どうせいつか、君も俺を捨てるんだろ?)


と何度も、可愛らしい笑顔を浮かべる彼女に、心の奥でつぶやき嘲笑っていた時もある。その言葉を吐くと同時に、心の奥で虚しさが増していた事を、今になってやっと気が付いてしまった。


彼女が家を出て行ってしまった今になると、その言葉さえ言うことが出来なくなっていた。言う相手がいなくなってしまってたんだ。その人はもう目の前にはいない。……だって本当に捨てられたんだから。


どっと体がだるくなる。嫌な汗が身体中まとわりついていた。


頭を振り、何とか思考の世界から抜け出す。先程まで嫌な妄想を見ていたが、あくまでもさっきの考えは妄想だ。まだ現実のものになってない。


現に数分前に、彼女から心配のメールが来ていたじゃないか。じっとりとまとわりつく嫌な汗をシャツで拭き、ページをめくろうと右手を伸ばす。


楽しいという気持ちは汗と共にシャツに拭われ、顔には焦燥感があらわになっていた。


嫌な妄想通りな状況にはなりたくない。彼女が本当に居なくなるのは嫌だ。という焦りが頭を支配している中、ページは手の動きに合わせて小刻みに震えながら開かれた。


そして俺は、次のページから書かれていた、まるでストーカーが書き残したメモの様な、一つ一つ細かく書かれた内容を見て、思わず絶句してしまうことになるとは、想像もしていなかった。


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