君の取扱説明書〜ある昼頃の話〜
スマホの画面に、『GAME OVER』と表示されていた。
「はぁ……、だりぃ」
その言葉が無性にムカつくし、腹が減ったせいで気だるくなったから、手に持っていたスマホを床に置いて、その手で頭を掻く。
彼女と同棲を始めて早何ヶ月経っているので、部屋の中には彼女の私物が何個か置いてある筈なのだが、俺の私物に埋まっていて見当らない。
彼女が4日前から実家に帰っているせいか、整理されていて綺麗だった俺の部屋は、トイレに行こうと立ち上がっても真っ直ぐトイレに行けないくらい、足場は散らかっていた。おかしいな。自分でも、後片付けくらいは出来ていた筈なのだが。
(飯食いてぇ……。)
ゲームをしている快楽よりも空腹のストレスの方が勝ったので、仕方ないからご飯を食べようと立ち上がる。
彼女が料理をしている時に手伝いをする事はあったが、その技術を活かすことなく、沸かしたお湯をカップラーメンに注いだ。
(……そういえば、なんで彼女は実家に帰ったのかなんて、覚えてない。)
4日前は俺と彼女は普段通りだった筈だ。ゲームしている俺の隣で、彼女は何かしていたと思う。もちろん俺はケンカなんてしてない。くだらない事で喧嘩するような心の狭い男じゃないんだよ俺は。
彼女と話した最後の記憶は、生中継されていた野球の試合を観ながら酒を飲んていい気分になっている時に、「じゃあ、実家に帰るね〜」という呑気な声だったと思う。もちろんテレビに夢中だった俺は、その時の彼女の顔なんて見てすらないので、覚えてない。
さすがに、付き合い始めの時は下らない話を沢山して盛り上がっていたが、今は話す内容なんて無いし、正直俺はめんどくさいと思ってる。
彼女も同じこと考えているのか、今になっては彼女からも『帰り遅くなる〜ごめんね。先に寝てて』や『気を付けて帰ってきてね』のような事連絡しか来なくなっていた。
スマホの電源をつけて連絡来てるか確認してみる。すると一昨日彼女から『ちゃんとご飯食べてね。』と言う連絡が届いていた。昨日まで仕事で忙しかった俺は、連絡を見ることすら忘れていた。とりあえず『今食べる所』と送ろうと思ったのだが、既に3分を過ぎていた事に気が付き、返信することを忘れて、伸びきったカップラーメンを食べはじめた。
ひとまず腹が膨れたから昼寝でもしようと思い付いた。しかし、ゴミを捨てずに寝る訳にもいかない。しかも、その場から動くのも面倒臭いので、カップラーメンの容器を投げ入れようと考え実行する。
……結果はあっぱれ。ゴミが溢れかえったゴミ袋の上に一瞬着地した。しかし勢い余ってか、容器はバランスを崩して、少量残っていた汁を、床に撒き散らせながら転がり落ちるという悲惨な出来事が起こってしまった。
それを、俺は見なかった事にしてその場に寝転る。ゴミなんか、いつか片付ければ良いのだ。別に今じゃなくていい。……そう思っていたのだが、絨毯のようにしかれた漫画や私服がゴツゴツしてて痛い。
どうも寝れそうにないので目を開けると、一冊のノートが視界に入った。表紙は何も書かれて無い明らかに安物のノート。そんなノートは俺の私物ではない。
(たしか、彼女が普段何かを書いていたノートだった気がする。)
1度気になって、何を書いているのかと尋ねたが『ナイショ』と可愛らしく断わられた記憶のあるものだった。
それが彼女がいない今、目の前に無防備に置いてあるのだ。
(いないし……いいよな?)
床痛くて眠れそうにないし、このノートには前から少し興味があったので、体を起こしてノートを手に取った。