仲直り2
「あの、探してる本があるのですがーーーー」
「小山内君……?」
「えっ? あ!? 美羽?」
そこに現れたのは、まぎれもない。
半年前に、私の些細な言葉で口論になっちゃって、引くに引けなくなって、一方的に別れを告げた、大好きな人。
驚いた表情を浮かべる小山内君だったけれど、すぐに困ったように、悲しそうに、表情をほころばせた。
それは昔と変わらない、自分の意見を閉じ込めて、私の話だけを聞こうとしてくれる態度。
それが私には、イライラしてしまった原因のひとつだったんだ。
「どうしてこんな所に」
「……探しモノをしてて」
小山内君の指が私の手の中にある本へ、まっすぐと向けられた。
すると抱いていた本がぶるぶる震えだして、突然手の中から飛び上がった。
「ほらほら。その本が二人に読んでもらいたがってる! この店の先ずーっと行ったところに、読書をするには丁度いい公園があるから、連れていってあげてよ」
ぱたぱたと飛び回る二人の思い出の本。
私と小山内君の周りを飛び回ったかと思うと、またふわりと私の手の中に落ち着いた。
「さぁさぁ、ぼーっと突っ立ってないで。積もる話もあるんでしょ」
そんな私の背中を押す男。
実に楽しそうにグイグイと私達の距離を近づける。
「あの……でも本の代金」
「いーのいーの、その子を拾ってくれるだけで価値がある」
「どう言うこと?」
「ーーーー僕の作品を好きになってくれて、ありがとう」
「え?」
「ぷくくくく」
すると突然、店内だというのに突風が吹いた。
大きな轟音を上げて、私たちを包み込みーーーー
いつの間にやら私は小山内君と共に、店の外にいた。
彼の隣に立って、腕の中には思い出の本が一冊。
「ずっとね、探してたんだ。その本と美羽のこと」
「だって、私のわがままで飛び出したのに」
「うん。俺には美羽が必要なんだ、寂しくて死ぬかと思った」
「半年間も探してたの?」
「うん。ストーカーかな」
「かもね」
「じゃあ、半年ぶりに話し合おう」
「そうだね」
この本には結末がない。
読者自身に結末を委ねられている、不思議な本。
勇気を出せば次へ進むかもしれない。
勇気を出せば笑い合えるかもしれない。
勇気を出せば、未来が変わるかもしれない。
そんな本。
当時私達は、お互いの未来についてよく語り合っていた。
そんな語り合いで生じた小さなすれ違いが、私たちに溝を作り、はっきり言わない彼の態度に私が切れたんだ。
「それで? 答えは出たの?」
「ずっと出てたよ」
「じゃあすぐに言えばいいのに」
「だって、美羽がどんどん話すから」
「もー。また私のせい?」
「ううん、俺のせい。だけど決めてるよ」
「なぁに?」
「美羽と、結婚する」
「さてさて、今度は何になろうかな~」
手にしていた分厚い本を閉じた男は、ふわりふわりと宙を漂う。
満足そうに二人の結末を見送りながら、くるくると指を回す。
「僕の本で喧嘩させてしまったなぁ、もっとちゃんと書くべきだったかなぁ」
指に合わせて舞い踊る本たちが、順番に本棚に戻っていく。
どの本にも絵柄も背表紙もない、ただただ真っ白な本たち。
けれどその中の二冊だけ、色の付いた本があった。
一つはさっきの二人が持っていった本と同じもの。
もう一つは沢山の星空の中に、満面の笑顔を浮かべた男が、家族と仲間と楽しそうに食事をする表紙の本。
「まだ二冊かぁ、これじゃあ先が思いやられるなぁ」
男が、大きな独り言を呟いた時、しまわれ続けていた本たちの中の一つが、きらりと光を発した。
「今度はどんな願い事かな?」
ふわりふわりと飛び出してきた本が、男の前で表紙を広げた。