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魔法のお風呂のお話。

 ママにウソをついた。




 そんなつもりはなかったけど、ママが喜んでくれるから、ウソをつかなきゃいけなかった。



 一番大好きだったママが、若しかすると泣いてしまうかもしれないと思った。



 いつもいつも、ぼくの為に一生懸命になってくれるママ。



 世界で一番大好きだった。



 今でもね? だーい好きなんだよ!








 ぼくはいつもママとお風呂に入る。ママがいないと1人で頭も体もまだ洗えない。




 そしていつも湯船につかって、大好きな船で遊んでいる。お湯を海のように波立たせてみたら、浮かべた船がまるで本物みたいに揺れる。それがかっこよくて大好き。



「まーくんは将来船長さんになるのかな?」



「うん! この船みたいなのをそうじゅうして、大好きなひとをのせて、はこんであげるんだー」



「素敵ね、ママも乗せてくれるかしら?」



「……いいよ!」



 ざぶんざぶんとお風呂のお湯をゆらす。


 びちゃんびちゃんと壁に当たって、まるで大きな波しぶきみたい。


 でも……。




 ぼくはまたウソをついた。




 ピカピカになったママがざぶんと湯船につかると、本物の海みたいに波うって、ゆらりゆらりと船がゆれてぼくもゆれた。



「まーくんの船、きっとカッコよくて大きい船なんだろうなぁ」



 ママは嬉しそうに話してくれる。1番に乗せてもらえるなんて、なおさら幸せだろうなぁって。



 「うん」と返事して、ぼくはギューッと目を閉じて、ママの気持ちを考えた。



 ぼくがウソをついてると知ったら、悲しんでしまうだろうなぁ……。



 いっぱい考えごとをしてしまったから、急に黙ってしまったぼくの頭を、ママはゆっくりと撫でてくれて、とってもフシギな話を聞かせてくれた。




「お風呂って不思議だよね、普段言えないことが素直に言えちゃう。まーくんのこと大好きーって気持ちも増えるから、もっともっと本当のまーくんのこと知りたくなっちゃう」



 そう言って、ばちゃりとはみ出た肩にお湯をかけて、お風呂って魔法みたいだねって、笑ってくれた。



 そんな魔法のお風呂につかっているせいなのか、急に涙が出てきて、まるで雨みたいにぽわんってお湯がわっかに波うった。



「あのね、あのね……」



「うんうん」



「あのね、ボクね」



「うんうん」




 温かいお湯の中で、ママは僕を膝に乗せてくれて、ぎゅーって抱きしめてくれた。




 柔らかいママの体がぼくにくっついてずっと我慢していた言葉が、勝手にポロリポロリとこぼれた。




「あのね、ぼくの船にね……あのね」



「うんうん」



「本当はね、1番に乗せてあげたいのはね……ミキちゃんなの」



「まーくんの大好きな女の子だったかな?」



 ぼくと同じ幼稚園に通っていて、同じひまわり組のミキちゃん。




 とっても優しくて笑顔がかわいいミキちゃんは、ぼくの一番好きな女の子。






『ぼくが船長さんになったら、ミキちゃんを1番のお客さんにしてあげる!』



『まーくんのフネ、1番に乗る! 楽しみにしてるね!』





 そう約束したことをママに言えなくて、1番に乗るのを楽しみにしてるとママが話してて、だからもっと話せなくなって、とってもとっても悩んでた。




 魔法がかかったみたいに、どんどん口から出てくる言葉に、ママは嬉しそうにまたぎゅーって抱きしめてくれた。



「お風呂って不思議でしょ? ちゃんと自分の気持ち言えるもんね」



「ママ、ごめんなさい」




 ママの胸に顔をくっつけて謝ると、ふふふと笑った。




「とうとうママにもライバル出現だ、こりゃどっちが1番に乗れるか競走だなぁ」



「ミキちゃん子供だから負けちゃうよー」




 怒られるかと思ったら、どうしてだかママはとても嬉しそう。



 またぎゅーってしてくれると、上がる前にいつもする、お湯の中にせーのって頭まで潜るそれをして、またざぶんとお風呂から出た。




「まーくんの恋人にいじわるなんてママしないよー。絶対ミキちゃん乗せてあげられるようにならなきゃね! まーくんの気持ち聞けて、ママ幸せだよ?」



「怒ってないの?」



「怒ることなんて何もないよ、まーくんの初恋人、ママは嬉しい」




 お風呂から出たとたんに恥ずかしくなってきて、僕はそれ以上何も話せなかった。



 それでもママは、今度は魔法のお風呂でミキちゃんのこと聞きまくっちゃおうと、とても幸せそうだった。



「あのね、あのね」



「なぁに?」




 わしゃわしゃと頭を拭かれている最中、僕は思い切ってママの手に触れた。



 大きくて柔らかくて、なのに優しくて温かい手が動くのが止まり、高い位置にあったママの目がぼくと同じ高さになった。




「あのね」



「うん?」




 ドキドキする胸が恥ずかしくて、少しだけぎゅっと口を閉じてから、しっかりと声を出した。




「でもね! ママも1番好きだよ!」



 ぼくの言葉にママはいつもよりもっと素敵な笑顔を向けてくれた。




「ママも、まーくんのこと好きだよ」



 人生初めての告白は、きっとこれだったのかな。




 今になって思えば、お母さんとはいえとてつもなく恥ずかしいことを言ってしまったなぁと、ほんと今更ながらに恥ずかしくなってきた。

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