②誤解は早く解いて!
「ち、違うんです今のは!」
イヤホンを乱暴に取り外し、店員さんに弁明する。
だがなんて説明すれば良い? ありのままを言っても信じるとは思えん。
「と……友達と話しをしていて……決して……あなたに言ったワケでは……」
嘘ではない。
「へ? そ、そうだったんですか……てっきり、私がしつこすぎたのかなって思っちゃった」
ハヤナが耳元でキャンキャン騒いでたから気付かなかったようだ。
悪いのはお前だぞ、ハヤナ。
「? し、しつこいって?」
「あ、いえ……よろしければ、お客様のお力になれればな、と思いまして!」
なるほど、この店員さんは大金を投入してもゲットできない俺を哀れんだようで、わざわざ声を掛けに来たのか。
だが俺のプライドはそれを拒む。
情けなど不要。
「そ、そうですか……? 別に……」
「はい! 熱心にプレイされていましたので!」
「ぶふぉっ!?」
違う。
違うんです。
決してこの筐体の中にある美少女フィギュアが欲しいワケじゃないんです。
これは……そう、プレイする楽しさを享受していただけなんです。
それだけなんです。
「お取りしやすいよう、調整しますか?」
「……オネガイシマス」
営業スマイルにしか見えない。
店員さんが筐体の鍵を開けて位置を調整する間、俺の首筋では冷や汗が流れ続けていた。
異性との会話なんて数えるほどしか経験してないからだ。
ハヤナは除外。
「では、お楽しみくださいね!」
「……アリガトウゴザイマス」
しかも目の前の店員さんはえらい美人。
俺と同年代くらいだろうか、腰まで伸ばした茶髪をポニテに結んでいた。
それが揺れる度にふわりと甘い香り。
恥と焦りで俺の精神はいっぱいいっぱい。
だが調整も終わった、これで一人になれる。
店員さんには悪いが、さっさとこの台から離れて
「…………」
「…………(ニッコニッコ)」
めっちゃ見てる。満面の笑顔でめっちゃ見てる。
これはプレイしなきゃならない空気。
やめて下さい恥ずかしくて死んでしまいます。
「……あ、落ちた」
「おめでとうございま~す!」
待ってましたとばかりに駆け寄ってくる。その手には景品を包む袋。
ホントに勘弁してください……オタクだと思わないで下さい……。
「ではお包みしますね!」
「……ハイ」
困るのは、その……スタイルも完璧なこと。
寄ってくる時にはすげえ揺れてたし、袋に景品を入れている今なんて谷間が……。
童貞には刺激が強すぎる。
「……良かったぁ」
俺が言ったセリフではない。
「はひっ!? な、なにが!?」
「あ、大したことではないんですが……このポップを描いたの、私なんです」
これは驚いた。デフォルメキャラを描いたのはこの店員さんだったのか。
まあポップなんて店側で用意すること多いし。専門の部署がある会社もあったっけ。
「そ、そうなんですか……」
いいなあ、顔もスタイルも良くて可愛い絵も描けるなんて。
さぞかしイケメンな彼氏さんをお持ちなんだろうなあ。
「でも、どのお客さんも声掛けする前に諦めちゃってまして……お客さんが初ゲット者ですよ!」
ズイっと寄ってそんなことを言う。
お止め下さい近い近い近い!
「あ、ありがとうございます……?」
「お客さんは【ボルグレッドファンタジー】はプレイされているんですか?」
それはこの美少女キャラが出演している原作スマホゲーム。
「い、一応は……」
「あっホント? 良かった、じゃあちゃんと飾ってあげて下さいね!」
そう言って袋を手渡された。
もしかしたら共通の話題でお近づきになれるかも? なんて浅はかなことは考えてない。
絶対。期待なんてしてない。
「は、はい……じゃ」
逃げるようにその場を去る。
後ろから「またのお越しお待ちしてまーす!」なんて聞こえたが無視だ無視。
「はぁ……」
店から出たところで一呼吸。落ち着け。
しかし美人な店員さんだったな……。
クソっ……対人スキルの無さが悔やまれる!
「帰るか……」
もう疲れた。そもそもなんでゲーセン来たんだっけ。
そうだハヤナだ忘れてた。イヤホンを耳にかける。
『びええええええええええ!!』
「うぉっ!?」
すっぽ抜けるほどの音圧。
ハヤナはまた叫び声を上げていた。
『ご主人があああああ! ご主人があああああ!』
止む様子がねえな。
周りに人がいないことを確認してスマホを取り出す。
ハヤナはまた泣いていた。しばらく放ってたから寂しくなったのか?
「うるせえ! 俺がどうしたってんだ!」
『人間の女に発情したあああああ!
何!?
「ばっ……馬鹿なこと言うな! 発……発じょ……変な言葉使うんじゃありません!」
『うえええええん! ご主人が犯罪者になっちゃううううう!』
何をどう考えたらそんな結末に!?
「誤解だ! いいから泣き止め! うるさいんだよ!」
『びえええええん! 友達だって言ったのにいいいいい!』
泣き止む頃には太陽が頭上に輝いていた。
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