①周りには注意して!
【毎週土曜日はクレーンゲームサービスデー!
色々と挑戦出来ますね!(一部対象外あり)この機会をお見逃しなく!】
「で、何でゲーセンに来てるんだっけ?」
『そりゃあもう、視察ですよ視察! 人間観察の意味もありますが』
ハヤナがどうしても行きたいというのでゲーセンに来た。
「お前が造るのはソシャゲだろ?」
『そうですとも! 何を言ってるのですかご主人?』
スマートフォンの中の少女は答える。
お前が何を言ってるんだ。
『昨日思い知りました……私の中の認識は誤ったものなのだと!』
うるさい。通話マイク付きのイヤホンに甲高い声を響かせるな。
『というワケで、本日は社会見学なのです! ご主人も家に籠ってばかりでは不健康ですものね!』
お前が来たかっただけじゃねえか。
『しかし……お客がまったく見当たりません』
「当たり前だ」
今日は平日。しかも午前中。店舗内はガラガラ。
それでも何人かは発見。メダルゲームをプレイしているご老人たち。
『うぅむ……私が提供する予定の【アイ☆ドルver.2】の対象世代ではありませんねぇ』
「いやいや、対象に含めろよ」
『というと?』
「老人ってのは孫のことを可愛がるからな、一緒に遊ぶ口実が出来るのは嬉しいハズだ。今じゃ小学生だってスマホを持ってる社会だぞ? そこを狙う」
『うわぁ……ご主人ってゲスいですね』
そんな馬鹿な。
「てか、ちゃんと見えてんの?」
『もちろんですとも! この胸ポケットの閉塞感はホントに嫌ですが、フロントカメラが丁度いい感じに外界を映し出しておりますので!』
胸ポケットにスマホを入れるのは俺も閉塞感があって嫌なんだけどな。
うーんしかし、このゲーセンに来るのも久しぶり。
「ハヤナは何か見たいものあるのか?」
『おやぁ? やけに優しいですねご主人? とうとうこのハヤナ様の純朴な下僕に……』
「ちげーよ、特にやりたいものがないだけだ」
ゲームは好きだが体を動かすのは得意じゃない。ゲーセンに置いてある音ゲーなんて尚更。
『はぁ……ご主人はクズでゲスなモヤシっ子なのですね。そんな人間の元へ辿り着くとは、なんと可哀想な私……!』
「…………!」
怒鳴る直前で堪える。
落ち着け……傍目から見た俺は、音楽を聴いているか、通話しているかの状況。怒鳴ったりすれば注目を浴びる。
ましてや俺は社会の目が怖い。今日だって外出したく無かった。
ま、まあ若いし講義を抜けて遊びに来た大学生あたりに見えるだろう。大丈夫。
『ではあれをやりましょう! UFOキャッチャーです!』
それくらいならいいか。良さげな景品が設置された筐体を探す。
『ご主人ご主人! あれ! あれ取りましょう!』
あれってどれだ。
ハヤナの案内に従うと、美少女キャラクターのプライズフィギュアが置かれた筐体に辿り着いた。
「……お前、これ欲しいの?」
人工知能って俺の理解を超えてる。
『まさか! 私の興味を引いたのはこのポップです!』
筐体に張り付けられたアクリル製の販促案内。
なるほど、そこには可愛らしくデフォルメされたプライズキャラが描かれていた。
「これ手描きだよな……お前にもこれくらいの絵心があればなあ」
『失敬な! ご主人の生み出したクリーチャーよりは大分マシですので!』
俺のセリフだ、失敬な。
『ふむふむ……二頭身キャラというものは幼く、より可愛らしく見えますねぇ。採用しましょう!』
「その前に、根本的に変えなきゃならんものがあるだろ。お前の時代遅れのセンスだ」
『それ以上の侮辱は許しませんよ!?』
無視してコインを投入。なんだかんだで久々のプレイ。
『あっ……そこ! もうちょい右! いいですよいいですよ…………あ!?』
アームは何も成果を上げずに元の場所へ。
まあこんなもんだろ。
『ご主人! もう一回! もう一回やれば取れますって!』
「全然動かなかっただろうが。やるだけ無駄だって」
『いえいえ! 出発前にネットで調べておいたのですが、クレーンゲームの景品価格は800円までと法で定められているのでしょう? それに達するまでにゲットできればお得じゃないですか!』
コイツ、余計な知恵をつけてやがった。
「そこまでして欲しいワケじゃねえよ」
『私が欲しいんですー! ほーしーいーのー!』
結局欲しいのか。
耳障りな。イヤホンを外してしまおうか。
「……あと一回だけな」
『やったー!』
が、アームは少し箱をずらしただけで帰還。
『うぬぬぬぬぬ……』
「わかっただろ、ただ金が飲まれていくだけだ。上手いやつはすぐ取るだろうが、イヤらしく高難易度に設定する店もある。俺は二回やってまともに動かなかったら撤退するって前から決めてんだ」
『もう一回……! 泣きの一回です……!』
泣いてなんかいないくせに。
「他の景品でもいいじゃねーか」
『これが欲しいのー!!うえええええん!』
マジで泣きやがった。親に物をねだる小学生か。
「はぁ……ま、たまには散在してもいいか」
財布から硬貨を取り出す。
いいだろう、コイツに俺がやれば出来るヤツだと認めさせる。
『うぅ……はっ!? そ、それは……!』
「本気の俺を……そのカメラに刻め!」
大見得を切った結果。
得たもの……無し。
失ったもの……500円硬貨一枚。
『……かっこわるー』
「ちくしょおおおおおお!」
ヤケになってもう一枚。
大丈夫……箱は確実に動いている。あと一押し……あと一押し……!
「…………」
『み、見て下さいご主人! あと一押しです! クレジット無くなりましたけど! あと一押しです!』
燃え尽きた。
『ここで諦めるのですか!? あと100円投入すれば、必ず手に入るのですよ! 多分!』
だめだ……これよりは地獄。
いつか手に入るかも。その期待を胸に金を投入していくのはガチャと同じ。
『大丈夫ですって、私がサポートしますので! ご主人は大船に乗ったつもりでさっさと金を……』
「……うるせえ!」
「ひっ!? も、申し訳ありません!」
ん? やけに近くからハヤナとは別の声。
視線を動かすと、俺の隣でこの店舗のスタッフさんが頭を下げていた。
「た、大変失礼致しました! どうぞ、引き続きご遊戯をお楽しみくださいませ!」
女性スタッフが首を垂れる。
やばい……おれ、やっちゃった?
『あー……私は悪くないですよね、ご主人!?』
いいや、全面的にお前が悪い。
お読みいただきありがとうございます。