④外面だけで決めないで!
『つまりですね、私はソーシャルゲームの頂点に立ちたいのです!』
すっかり泣き止んだハヤナは高らかに宣言する。
ほんと切り替えが早い。
「つったってなあ……」
その業界は今や戦国時代。
各社は生き残りをかけてユーザーにサービスを提供し続けている。生半可なものでは太刀打ち出来ない。
とりあえずハヤナ自作のアプリを評価してみる。
「お前が作ったっていうあのアプリ……配信してるの全く知らない会社だったじゃん」
『ああ、それは知り合いのダミー会社を偽装して名義しました。ですが会社名などユーザーは気にしないでしょう?』
コイツなんも分かってないな。
不穏なワードが聞こえたが無視しよう。
「いやいや、配信元が有名だったら長続きするっていう安心感があるからな。こんな得体の知れない会社じゃ、製作費回収したら夜逃げすると思っちまうぞ」
『はははっ何を馬鹿なことを言ってるんですかご主人は』
そう言ってケラケラ笑う。
お前が何言ってんだ。
「いいか、この業界じゃ名前はすげえ大切なんだ、ポッと出が楽に天下取れるワケねえだろ。実際、お前のゲームもサービス終了してんじゃん」
『うぐっ……それはたまたまです! 時の運です! 間違いありません!』
認めないかそうかそうか。
「お前、純正のPCパーツとパチモンのPCパーツだったらどっちを買う?」
『そりゃあ純正品に決まってます! 不具合が起きたらたまったものではありませんので!』
そこは理解できるのか。
「それに、その会社が持つ資金力も大切だ。認知度を広める為に広告うったり、ユーザーを飽きさせないようにイベントを開催するにも金がかかる。お前、そういうの全然してないだろ」
『ぎくっ……』
商売のなんたるかも分からないとは。
「てかサーバー費とかどうしてたんだ? まさか……」
『い、いえいえ! ご主人には何も迷惑を掛けておりませんので! これまた知り合いと交渉しましてですね!?』
「はあ……」
知り合い知り合い……人工知能の知り合いってなんだ?
いや、この人工知能に絡むのはあくまで暇つぶし。真剣に考えてどうする。
ん?
そもそもコイツ、いつから俺のスマートフォンとPCに潜んでたんだ?
『ええい、そんな見栄などに頼る必要などないのです! 大切なのは中身ですよ中身!』
そう言ってハヤナはウィンドウに【アイ☆ドル】のプレイ動画を映し出す。
『アクション部分に力を入れました! 世はストレスのはけ口を求めていることを知っていましたからね! 爽快感MAXの本作は隙間時間のプレイに最適ですので!』
彼女が作ったというそのゲーム。
確かに、ド派手な演出で敵を倒していくのは心地良かった。
「まあ、アクション自体はいいんだけどさ……」
『そうでしょうそうでしょう! ご主人も熱心にプレイされていましたからね! 自信はあります!』
「それ以外がお粗末すぎるんだよ」
『なんですとっ!?』
まるで汚点に気付いていない様子。
「まずイラストが古臭い。どの年齢層を狙ったか知らないけど、今時の若者には受けない」
『私のイラストを侮辱するんですかあ!?』
「あれお前が描いてたのかよ!?」
このゲームに登場するキャラクターたち。
確かに美男美少女ではある。
が、どれもこれも線が太い20年くらい前の絵柄だった。ついでに塗りも濃い。
『そんなに蔑むことないじゃないですかあ……ぐすっ』
「ま、まあ絵が全て悪いってワケじゃないけどさ。独特な味を好きっていう人もいるし」
『だというなら……!』
「いや、万人ウケを狙うならもっと線を細くしろ。それが無理なら有名なイラストレーターに頼め」
『そんな資金ないですぅ……』
だから自分で描いたのか。
まあいい、他の部分にダメ出ししてやる。
「あと声優がいないってのは大問題だろ。客寄せパンダくらい用意しろよ」
『声なんて飾りでしょう!』
お前は本当に分かっちゃいない。
まあイラストを自分で用意するくらい切り詰めてるんなら仕方ないか。
「この声優が出てるって理由だけでプレイする人間だっているんだぞ? それをみすみす……」
『な、ならばこの私が電脳声優としてデビューして……!』
そんな上手く行くわけないだろ。
「あとガチャだな。なんで武器しか出ないんだ、イケメンや美少女出せよ」
『私を過労死させるつもりですかあ!?』
いやいや一番大事な部分だから。
俺から問題点を指摘されると、ハヤナは画面の隅っこに座り込んでしまった。
『そこまで言わなくてもいいじゃないですかあ……私なりに試行錯誤して生み出したんですよお……』
辛口評価はしてないんだが、彼女には相当堪えたようだ。
落ち込む彼女に声を掛けてやる。
「てか、これからどうするつもりなんだ? もう終わってるし、俺のとこ来てもどうにもならないだろ」
そう、ハヤナが世に放ったアプリは既にサービス終了している。それは絶対に覆ることがない事実。
『……諦めません』
「何?」
『すぐにでも第二の【アイ☆ドル】を制作します! そして、今度こそ頂点の頂に立つのです!』
穢れの無い純真無垢な瞳って恐ろしい。
『もちろん協力してくれますよね、ご主人!』
そんな瞳を向けないでくれ。
「……嫌だよ」
『はあ!? か弱き美少女の無垢な願いを聞いてくれないのですか!?』
「か弱くも無垢でもないだろーが!……はあ、メシ行ってくる」
そう言って席を立ち、ヘッドセットに手を掛ける。
『お、お待ちくださいご主人! 私を一人にするんですか!?』
「ずっと相手できるワケじゃねーんだよ。すぐ戻るって」
『いやあああああ一人はいやだあああああ!』
また叫びはじめやがった。どうしろってんだ。
『せ、せめてスマートフォンの電源を入れて下さいよお……』
「はあ? まあいいけど……」
言われた通りに電源を入れる。
するとハヤナが姿を現す。同時にPCからは消えていた。
どうやら権限も元通りになったようで、今度はすんなりとPCをシャットダウンできた。
『えへへ……』
俺の食事中、テーブルに置かれたスマホの中でハヤナは微笑みを浮かべていた。
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