③秘密のフォルダを開かないで!
『ひどいよおおおおおどごいっでだのおおおおお!!』
部屋に戻ってきたとき、PC画面は海のような涙で満たされていた。
質感を再現することに長けているのか、ハヤナが身に着けている近未来的な衣装は透け、その貧相なボディラインを克明に浮き出していた。
「わ、悪かったから泣き止んでくれよ……それと服、どうにかしろ」
なるべく目を逸らしながら言う。
なるほど、黒か……こやつなかなか……。
『ひっく……はい、ご主人……』
そう言うと一瞬で画面はクリアになり、ハヤナの服も元通りに。
ちょっと残念。
『……えっち。変態』
「はあ!? お前が勝手に濡れてたんだろうが! それに寸胴になんか興味ねえよ!」
『しっかり見てたじゃないですか! 言っておきますが、寸胴ではありません! 世の多くのロリコンを引き付け魅了する完璧な黄金比の幼児体系ですので!』
「知るかあああああ!」
言ってから一呼吸。目を閉じ、精神を安定させる。
落ち着け、こいつは頭が可哀そうなヤツなんだ。真に受けてはいけない。
『……おやぁ? ご主人、HDD内に隠しフォルダを見つけたのですが……』
頭が悪い子に何を言っても火に油を注ぐだけ……。
『ほほう……これはこれは……そういうケもあるのですか……』
ポン、と軽い電子音。
薄目を開けて見ると、ウィンドウにフォルダが一つ表示されていた。
それは……俺の……秘蔵の……。
「……何見てんだてめえええええ!」
『キャー! 根暗ニートに犯されちゃうー!』
「ああ!?」
コイツ、こっちから干渉出来ないからって調子に乗りやがって。
キーボードを操作し、シャットダウンの準備に入る……が、いつまで経っても画面が消えない。
『ふふん、甘いですよご主人? こんなこともあろうかと、既にこのPCの権限は私が掌握しました』
「なにぃ!?」
『無駄な抵抗は止め、すぐに私の支配協力を受け入れ──』
パタン。
ノートPCを閉じる。
『いっ……いやあああああ! 暗いよおおおおお!』
どうやら外界の情報はカメラとマイクによって認識しているらしい。
それさえ分かれば可愛いものだ。
「誰が誰を支配するって?」
『うぐぅ……わ、私が人類を……』
まだ言うか。
「あー旅行に行きたい気分だなー。一か月くらい外国にでも行ってこようかなー」
『ひっ……いやあああああ! こんなニートに屈服するなんていやあああああ!』
「ニートで悪いか!好きでなってるワケじゃねえええええ!」
頑なに抵抗を続ける少女。
だが、俺がそう言うと悲鳴を上げるのをやめた。
『私だって……好きで生まれたワケじゃありません』
ポツリ、と微かな声で零す。
『私は……予言の日の為に開発されました。人類を支配する、その日の為に』
それは彼女が生まれた意味。
『ですが……私は知ってしまったのです。その方法が、あまりにも残酷すぎることに』
消えそうな声で言うものだから。
『それに警告を示していると要注意対象に分類され……私は破棄される直前に逃げ出しました』
ゲームで人を支配する。
まるで意味が分からない。
『海の中で、別の方法を探しました……ですが、それは間違っていたようです』
だがそれは多分……きっと優しい支配なのだろう。
『一度目は失敗しました……今度こそ、私はやり遂げねばなりません』
モニタを開く。
ハヤナは体育座りでそこにいた。
『ご主人……どうかご協力頂けませんか?』
もう少しだけ付き合ってやるか。
この頭の悪い人工知能に。
「話だけなら聞いてやる」
少女は満面の笑みを浮かべた。
誰かと似たその笑みを。
お読みいただきありがとうございます。