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⑤無茶を言わないで!


「ゲームを作れって……」


 予想だにしない発言。何を言うんだこのコスプレ少女。

 知識も技術もなにもない俺が? 何の為に?


「ユーザーからの視点も大事だけど、開発者の視点も大事だからね! そのほうが改善点も見つけやすいだろうし」

『ふふんっご主人は好き勝手言ってくれましたが、ゲーム開発はとても難しいものなのです! 慌てふためく様が目に浮かびますとも! ですがご安心下さい、この美少女AIハヤナが誠心誠意――』

「ハヤナ」

『さぽー…………はい、黙ってますので』


 ドスのきいた声でハヤナを一蹴。

 黙らせた張本人である新菜は何事もなかったように続ける。怖い。


「もちろんお兄ちゃん一人でだよ? このPCでも開発は可能だし。あ、ストアへの公開はまだ考えなくていいから! デベロッパー登録もいらないよ」

「いやいやいや待ってくれ」


 承諾してないにも関わらず矢継ぎ早に説明される。

 事態の理解が追い付かない……静止の声は無常に響いた。


「お兄ちゃんが使ってるスマホのOSはノードロイドだよね? ハヤナ、対応したフリーの開発ソフトを一式ダウンロードしておいて」

『は、はい! 今すぐに!』

「だから待ってくれって!」


 とんとん拍子に話が進む。

 俺はゲーム、ましてアプリすらつくったことないんだぞ!?


「うふふっ大丈夫だよお兄ちゃん。ゲームとして破綻してないものを作ってくれればそれでいいから! スマートフォンで動作するならどんなジャンルでも構わないよ?」

「そういう話じゃなくて!」


 抗議の声は届かない。

 このメイド、わざと無視してないか?


「う~ん、でも読み物系は除外しておこっかな~? シンプルなタップゲームでよろしくね!」


 はにかんだ笑顔を見せても俺は認めないぞ。


「待てって! 全くの素人がゲームを作れるワケないだろ、いい加減にしろ!」

「そんなことないよお兄ちゃん。他の分野から移ってきて大成功した人はごろごろいるし……お兄ちゃんもセンスはあるんだから大丈夫!」


 全く根拠のない応援をされても困る。


「そもそも、新菜はコイツを引き取りに来たんだろ!? さっさと持って行ってくれ、目障りなんだよ!」

『ひっ……やはりご主人はサイテーです! そうやって、目の前の事柄から逃げ続ける哀れな人生を送るのですね!?』

「なんだとこの──」


 この人工知能、的確に急所を狙い撃ちしてくれる。

 暴言で返そうとしたがそれは無へと消えた。背筋に走る寒気……それが全身を硬直させたからだ。


「ハヤナ、お兄ちゃん」


 その声は、闇より深き深淵より響く。


「ちょっと静かにして?」


 俺は知る。

 このコスプレ少女には絶対に勝てないと。

 敵に回してはいけない……本能が危険信号を発信する。

 新菜は絶対強者であると。


「…………ハイ」

『…………ハイ』

「うふふふっ素直なお兄ちゃんも可愛いなあ。うふっ……うふふふふふ……」


 萎縮した俺とハヤナを見て、新菜は不気味に笑い続ける。

 その言葉はサイコというかなんというか……身の危険を感じる。性的な意味ではなく。


「うふっ……はあ。仕方ない、それに免じてあげちゃおっか」


 平静を取り戻した新菜は、一息ついて事情を話す。

 このメイドも切り替え早いな……。


「えっと、この子がソーシャルゲームを製作したがってるのは知ってるでしょ? 私の会社でも開発は可能だけど、またMMOと同じ失敗をするかもしれない。だから他の環境でノウハウを学んだ方がいいんじゃないかなって」

『ううむ……なるほど、一理あります』


 一理もない。

 素人がゲーム開発する様子を見て何を学べるというのか。


「というかそれだ! つい話に流されてたが、なんで人工知能が主導でゲームを作るんだ!? 普通にプログラマーが作って、普通に新菜が運営すればいいじゃないか!」


 こんなポンコツを採用して開発に臨むなんて狂気の沙汰だ。

 優秀なAIならば時間の効率化が期待できるだろうが、ハヤナはただ足を引っ張るばかりだし。


「うふふふふっそれじゃ意味が無いからだよ。人工知能だからこそ意味がある。ハヤナから聞いたはずだよ?」

「は……? 人類を支配するって世迷言のことか?」

『世迷言とはなんですか!』


 ハヤナが茶々を入れるが無視。俺は新菜に聞いてるんだ。


「ううん、支配なんかじゃない。この子の目的は、人類の救済」

「…………は?」


 開いた口が塞がらない。

 新菜はなんと言った? 

 救済? バカバカしい、俺と同じ人間なのか?


『ううむ、そう表現されるとむず痒いですね……』

「でも支配と救済は紙一重……僅かでも揺れればすぐに反転する。だから上層部は破棄しようと躍起になってるんだよ」


 その言葉の意味は分からないでもないが。


「支配支配って繰り返してるが、ゲームでそんなこと出来るワケがない。本当に出来るってんなら是非ともご教授願いたいな」

「うふっじゃあ……教えてあげよっか?」


 それを聞いた新菜が這いよって来る。

 その様はまるで、獲物を見つけた蛇のよう。メイド服の上からでも認識できる細い体をしならせて近づく動作はとても煽情的だった。

 睨まれた蛙である俺は身動きがとれず、耳元に生温い吐息がかかるのを許してしまう。

 決して十分に実った二つの果実の魅惑に負けたワケではない。


「この子が築くハズだったディストピアのこと」

「でぃ、でぃすとぴあ?」


 思わず声が裏返る。

 官能的な声音と共に伝わる熱で、俺のCPUは限界を迎えそう。


「知りたい? いいよ……イイコト教えてあげる」

「…………!」


 突如発生した風が耳の中を駆け抜ける。

 熱いソレに脳内を掻き混ぜられ、俺の意識はもう……。


『こ、こらニーナ! 童貞のご主人が“耳元ふうー”に耐えられるワケないでしょう! 狂ったらどうするのですか、性欲魔人のご主人に何されるか分かりませんよ!?』


 トぶ寸前の意識がハヤナの声で引き戻される。

 誤解するなハヤナ、俺は男一人が在宅している一軒家に上がり込もうとする婦女子を止めようとしたピュア紳士だ。

 犯罪まがいのことをしでかすとでも思ったか?


「私は構わないもん…………うふふっ呆けてるお兄ちゃんも可愛いなあ」


 メイドで妹で痴女か、なんとも末恐ろしい。


『ええい、誑かすのはお止めなさいと何度も言っているでしょう! そうやってご主人をからかうのは楽しいですか女狐!』

「女狐って……酷いこと言うねハヤナ。でもそれ、あなたにも当て嵌まるんじゃない?」

『な、何を言うのですか!』

「ふう~ん……自覚もないの?」

『え? ええっと…………あ! も、申し訳ありませんでした……』


 恐らく、MMOで新菜の会社に大損させた出来事のことだろう。

 自分が悪かったと反省してる様子。偉いじゃないか。


「うふふふふっ……あ~、そろそろ帰らなくちゃ」


 新菜はすくっと立ち上がり、メイド服の裾をポンポンはたく。

 卓上のデジタル時計が正午を回ったことを知らせていた。


「か、帰るって……?」

「うふっ名残惜しいのお兄ちゃん? 私もだよ。これって相思相愛っていうのかな?」

「ちちち違う! ……こともないけど。本当にハヤナを置いてくのか!?」


 俺の問いに、少女は悪戯っぽく笑って答える。


「もっちろん! お兄ちゃんは、ハヤナの教育係に任命された偉大なる一般人なんだから」


 どこかで聞いた台詞。

 偉大って……過去・現在の偉大な方々に失礼だ。俺は社会に適合できなかった落ちこぼれだぞ。


「最後に確認するね。一週間の製作期間で、スマートフォン用のタップゲームを作って。特別にハヤナからのアドバイスを許可するね。ハヤナが手を加えたらダメだよ?」


 玄関を開けたところで念を押される。

 口元に人差し指を当てるその姿は可愛らしいが、話の内容はあまりにも惨い。


「本当に作らせるのか……」

「うふふっ元気だしてお兄ちゃん!」


 新菜は無邪気に笑っているが俺には不安しかない。

 素人に何が出来るというのか。


「きちんとしたゲームが出来たら──」


 いや、別にペナルティなんてないし無視してもいいか。

 これまでと同じように、小うるさい人工知能との変わった日常でも。


「──もっとイイコト教えてあげる」

「…………!」

「じゃあ、また来るねお兄ちゃん!」


 そう言い残すと、纏ったメイド服を翻らせて視界から消えていく。

 暖かな感触に脳が蕩けてしまいそうだったが、それよりも暑苦しい夏の熱気に我を取り戻す。


「えぇ……マジで?」


 再びの夏休み。

 ゲーム製作がはじまる。

はい。

思ったより導入が長くなってしまいました。

次回からつまらなくなります。ここまでもつまらない?知ってました。


全く関係ないですが、(借り)がパチスロに並びましたね。

風俗に売られたみたい。分かる人には分かると思います。

はい。それだけでした。

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