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②部屋に侵入しないで!


「お……お兄ちゃん?」


 初対面で何を言ってるんだこの少女は。

 この世に俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶ異性は存在しない。

 従妹とも親交がない。

 一体誰だ?

 何故メイド服なんだ?

 混乱している俺を見て少女はニヤリと笑った気がした。


「お兄ちゃーん!」

「うごっ!?」


 突如襲う衝撃。

 目にもとまらぬスピードで放たれたタックルが胸部を襲う。


「良かったよお……お兄ちゃんにあえて良かった!」

「な……やめ……っ!」


 カルシウム不足の骨がきしむ。

 押し付けられる弾力と甘い香りはそれはそれは甘美なものだったが、背中に回され体をホールドした腕の締め付けにより喜ぶ間もなく情けない悲鳴をあげた。


「くんくん……お兄ちゃんの臭いだあ……」

「…………」


 いろんな意味で昇天しそう。

 なんか「めきっ」って音が聞こえたけど気のせいだよな。


『えぇ……なんですかこの状況は……』


 廊下で漂っているであろうハヤナが訝しむ。

 それは俺が聞きたい。

 というか助けてくれ。


『……はて? ご主人と血の繋がった妹さんは……』


 いや、目の前の少女は顔も知らない他人なんだが。

 余計な事考えないで助け……そういえば人工知能だったな。何も期待できない。


「…………!」


 不意に少女の拘束が緩む。少し残念。苦痛と快楽は紙一重。

 未だ夢見心地の俺だったが、少女が何かを凝視しているのを見逃さなかった。

 目線の先には……ハヤナ?


『あれ……? なんで目が合ってるんですかね?』


 今のハヤナはMRデバイスでしか認識できない。

 だというのに、この少女には見えている?


『……あ! あなたもしか──』


 ハヤナの姿と声が突然消失。システムの不調だろうか。

 玄関には俺と謎の少女が取り残される。


「本当に……どちら様?」


 ようやく息を整えた俺が言えたのはこのセリフ。


「ねえお兄ちゃん。アタシ、お願いがあるんだけど」


 だが少女は意に介さないご様子。


「いや、俺の妹は……」

「あのね、お兄ちゃんの部屋に入れてほしいの!」


 何を無邪気な顔で言ってるんだ。

 素性も分からない他人を家に、ましてや部屋にあげるワケないだろ!

 可愛ければ許されると思っていたか?


「いい加減にしろ! 不法侵入だぞ不法侵入! 警察呼ぶぞコスプレ少女!」

「……ダメなの?」


 上目遣いでお願いされても揺るぐことはない。

 残念だったな、俺はピュアなんだ。


「ダメです。はぁ……君、名前は? 別の誰かと間違ってない?」


 地図アプリケーションが発達した現代、そうそう家を間違えることはないと思うが。

 この少女の“お兄ちゃん”宅と間違えたか、あるいは迷子か。

 そのあたりだと睨んで問いかけたが予想だにしない行動を取る。


「強行。おっ邪魔っしまーす!」

「……待て待て待て待て!」


 脱いだ靴を綺麗に揃え、流れる動作で廊下を突き進む。

 くそっ自宅警備員の名が泣いてしまう!

 静止を求めて肩にかけた手もそのままに直進を続ける。両手をかけて足を踏ん張っても少女の侵入を妨げることは出来なかった。

 ハヤナに「かっこわるー」とまた言われそうなほど滑稽な絵面だった。


「ここがお兄ちゃんの部屋か~!」

「だから……待ってって……」


 結局メイドの進行を阻止できず部屋に到着。

 必死にしがみ付いていた俺は息も絶え絶え。


「ふ~ん……これが……」


 メイドが見つめるのはノートPC。

 画面の中にはハヤナがいた。


『やはり……あなたで間違いないようですね』

「…………」


 スピーカーを通してハヤナが問う。

 なんだ、お前は正体を知ってるのか?


『名を呼ぶことは許可されますか?』

「…………新菜にいな


 いや、ハヤナが今の姿を手に入れてから顔を合わせたのは俺だけ。

 ということはこの少女……。


「ハヤナの知り合い? このコスプレメイドが?」



 ☆ ☆ ☆



『どこから説明すべきでしょうか……まあ、ご主人に出会う前に遭遇したのがこのニーナなのです』


 狭い部屋の中、テーブルに置かれたPCの中でハヤナは説明する。


『そして私の人類支配計画に賛同し、協力を申し出てくれたのです!』


 そういえばそんな事言ってたな。バカバカしくて忘れてた。


『彼女にとって私は……それはもう聖女ジャンヌのように映ったでしょう! いや、救世主メシアかもしれません! 財を投げ打ち、ただ一心に崇め奉り……って、ちゃんと聞いているのですか!?』

「は……っ!?」

「お兄ちゃん、もっと撫でて撫でて~!」


 あまりの幸福感に我を忘れていたようだ。

 小動物のようにじゃれる、新菜と名乗った少女。

 なんだろう、新たな扉を開いてしまう所だった。


『えぇいニーナ! それ以上ご主人を誑かすのはお止めなさい! 年齢=いない歴の童貞なのですよ!? その気にさせてしまったらどう責任をとるのですか!』


 やめてくれ、真実は残酷すぎる。


「お兄ちゃんはやく~!」

「え、えっと……」


 なおも催促される。メイド服で妹属性だと?

 けしからん、あぁけしからん。この俺が直々に修正して……。


『あーもう! お止めなさいと言っているのです! このガイノ──』


 バンッと衝撃音。

 PCのキーボードには叩きつけられた掌。


「ハヤナ」

『はひっ……』


 それは今までの猫撫で声ではなく。


「忘れてないよね? ハヤナが残した負債の山。返済するの大変だったんだよ?」

『は……はいっ』


 感情を押し殺した機械的なモノ。

 ハヤナは既に涙目。


「お兄ちゃん聞いてよ! このAIはね、散々都合の良い嘘ばっかり吐いて私の会社をめちゃくちゃにしてくれたのよ!?」


 知り合いというのは間違いないらしい。


「協力して制作したMMORPGは人が集まらなくてすぐに過疎! 開発費用なんて回収すらできなかったんだから!」


 MMO? ネットゲームを先に作っていたのか。


「ソシャゲ一本じゃなかったのか?」

『えっと……当時はソシャゲの規制が強化されていたので、比較的緩いネトゲを選択したんです。一応、スマホとの連動アプリも開発しました』


 一時期施行されてたな、ソシャゲのガチャ規制。

 依存・中毒に近いユーザーが増加していく実態を受け、ガチャシステムがある全てのゲームに天井が設けられた。

 ガチャはギャンブルと同じ、射幸心を煽ってユーザーから金を毟り取るもの。小学生でもプレイが可能なのだ、規制をかけるのは間違いじゃない。


 だが規制はすぐに撤廃された。

 理由は「消費者被害を防止するため、消費者に対し、各社が十分な情報を適切に提供している現状を鑑みた結果」だとか言ってるが、まあ圧力がかかったんだろう。

 売上ランキング上位なんて月に何十億も稼いでるんだ、蜜を吸いとるのを止められるワケがない。


「てか会社って……新菜は何歳?」

「女性の年齢を聞くなんて失礼だよお兄ちゃん? でも~どうしてもって言うんなら~」


 すすすっと新菜の顔が接近。


「イイコト教えてあげよっか?」

「…………ッ!」


 吐息がかかりそうな至近距離で呟く。

 昨日もAIに同じことをされたが、それよりもやばい……表皮が全て弾け飛んでしまいそうなほどに心臓が脈打つ。


『ぐぬぬぬ……お止めなさいと言ったでしょう! それに嘘をついてるのはそちらでしょう!? ニーナの会社はあの程度では傾きませんとも!』

「はぁ、うるさいなぁ……致命的な欠陥バグを見落とした戦犯が」


 冷酷な声音に豹変。

 それは背筋に寒気が走るほどに非情なものだった。


『し、しかし! 欠陥はすぐに修正しました! 運営していたそちらが──!』

「ハヤナ」

『わる……はい、申し訳ありません……』


 どうやら深い確執がある様子。

 小うるさいハヤナを叱ってくれるのは「いいぞもっとやれ」なんだが、そろそろ大声で泣き喚きそうだ、助け船を出してやるか。


「ま、まあ二人ともそのくらいで……本当は二人とも仲良いんだろ? 拡張機器を送ってくるくらいだし」


 部屋の一角に積み上げられた段ボール。

 話を聞く限り、それはハヤナの知り合い……このメイドか、務める会社が送ってきたもので間違いない。

 退社したのかクビになったのかは置いておこう。


「もう少し穏便に話を──」

「そうだお兄ちゃん。今日はお話が合って会いに来たの!」


 いきなり話の腰を折るのか。


「話って……?」

「えっとね、新しいパソコンは欲しくない? 高性能なヤツ!」


 脈絡もなく話をふる。


「なんだよ急に……そりゃ欲しいけど」

「そっかあ良かった。じゃあコレはもういらないよね!」


 ……ん?


『ちょ……何してるんですか』


 新菜はノートPCに手を掛ける。


「もうハヤナはいらないよね、お兄ちゃん!」


はい。

これもうジャンルが分からないですね。

でもようやくハーレム?のようなものを書くことが出来ました。


全く関係ないですが某Gシミュは粘ってますね。過疎過疎なアレも浮上したしこの業界分かんねえな。

あとガチャ規制はこの物語中で一度だけ施行された、という架空のものです。あの事件もあったし本当怖いですよね。

はい。それだけです。

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