①訪問者は通して!
【安全にお使い頂くために必ずお読み下さい】
本書では以下のような表示を使用して注意事項を説明しています。内容を理解してから本文をお読みください。
【■■■】 この表示を無視して取り扱いを誤った場合、使用者が死亡または重傷を負う危険性があります。
「こんなもんか?」
『はい! いい感じですよお……あ、もうちょい左ですかね』
翌日。
本日も晴天。
今日はハヤナの指示で家に機器を取り付けていた。
クーラーは止められているので暑苦しい。オンボロ扇風機が弱々しく羽音を立てる。
「言われるがままにやってるけど……これ何に使うんだっけ?」
『えぇ……しっかり説明した筈ですが』
MRデバイスに表示された人工知能はわざとらしく溜め息を吐く。
早朝からお前にたたき起こされて、頭が回らないうちに言われたんだ覚えてないわ!
『仕方ありませんねえ。これは私の目となるセンサーです! 世間では未だ開発中のものですが、送られた部品の中に紛れ込んでいたので使わせて頂きます!』
「ふーん……」
昨日大量に届いた段ボール。
このMRデバイスの他にも多くの機械が送られてきた。
「こんな小さいのがセンサーねえ……」
たった今、廊下の天井に取り付けたモノを見上げる。
極小の黒点は、遠目にはシミにしか見えない。
これがハヤナの目……カメラ機能を付随しているとはとても思えん。これを廊下に合計6個、隠すように取り付けた。
「監視カメラくらいには使えるかもな」
『な!? 私は番犬ですか!? こんな可愛らしいのですよ、チワワ扱いして下さい!』
犬はあまり好きじゃない。
つーか畜生扱いでいいのか。
『ま、まあ大目に見てあげますとも。では早速リンクといきますか』
そう言うと、ハヤナは一度姿を消す。
再び姿を現すと俺を真正面から見つめ、しばし硬直。
『ほう……ほほう……』
「なんだよ気色悪い」
特に何も変化はないようだが、頭には変化が訪れたご様子。
『いえ違いますとも。なるほど……これがご主人の全体像でしたか……思ったよりも小さいですね』
「いきなり何だよ!? 170あれば十分だろ!?」
『もう少しガタイはいいと思っていましたが……やはりモヤシっ子ですねご主人。ちゃんとご飯食べてますか?』
いきなり身体を酷評だと?
ちんちくりんの寸胴に言われたくはない。
『とまあこんな風に、様々な角度から外界の情報を得ることが出来るのです! スマホやPCのカメラだけでは情報量が少ないので!』
廊下をふよふよと漂いながら言う。
その様はまるで……。
「幽霊みたいだな」
『んな!? そこは“妖精みたいに可愛いよ”って褒めるべき所ですよ!』
羽すら持ってないじゃないか。あるいは溶け落ちたのかもぎ取られたのか。
「親が帰ってきたら外すからな」
『えぇ!? 何故ですか!?』
「見つからないだろうけど……なんか嫌じゃん。監視してるみたいで」
『そのようなつもりはございません! これは……そう! 人間観察です!』
社会見学の次は人間観察か。ひどく貪欲な事で。
『それに、設置したのはご主人の部屋、リビング、この廊下だけではありませんか! 本当はトイレにも付けたいのですよ!?』
「それじゃただの覗き魔だ!」
『減るもんじゃないでしょう!? バレなきゃ犯罪じゃないということも知っています!』
「人を知る前に常識を学べ!」
本当に余計なことばかり学びやがって。
そんな頬を“ぷくー”させても俺は流されないからな。触れるんなら引っ叩きたい。
『はいはい分かりましたとも……欲を言うと、ホログラフィック装置が欲しかったんですがね』
提案を却下されたハヤナはぶーたれる。
ホログラフィック……確か透明ディスプレイに映像を投射する装置だったか。
『欲しかったのは映像を現実空間に直接投射する最新型なのですが……』
「え、それまじ? スゲーじゃん。俺も見てみたいんだけど」
『その……未だ開発段階で、レーザーの出力が安定しないようでして……』
「レーザー?」
『えと……運が悪いと失明します』
「…………」
いやいやいや。
ホログラフィック映像をスクリーンに投射するレーザーは低出力の低電力。そんな大惨事になるような出力が必要になるわけがない。
『知り合いの……会社というべきでしょうか。そこが開発しているのですが、最近はどうも物騒なものを作っていまして。その波を受けたのだと思います』
「どんな会社だよ……」
まあ物騒なモノは目の前にもいるんだが。
人類支配を企むバカな人工知能が。
『ま、まあ良いでしょう! では部屋に戻って【新コレ】の続きを視聴しましょう! 織田信長が蘇った場面の続きですよお!? 人間の目線で見るのが楽しみです!』
「はいはい……」
なんで朝からそんな元気なんだ。
しばらくニート生活を続けている俺だが、やはり朝は辛い。もっと寝ていたい。
視聴するフリしてベッドでもうひと眠り……そう考えているとチャイムが鳴る。
「……誰だ?」
こんな朝早く……といっても両親はすでに出勤。
近所付き合いは無いも同然。俺を尋ねに来る友人もいない。
勧誘?
「ハヤナ、ほら、お仕事」
『いえいえいえ、私は防犯カメラではありませんので! それに玄関にはセンサーを取り付けていないではないですか!』
そういえばそうだったか。
居留守使おう。
「【新コレ】見ようぜ」
『それは嬉しいんですが……無視はどうかと思いますよ?』
「こんな時だけマトモなのかお前は……」
『日々成長を続ける美少女AIなので!』
くだらない会話を続ける最中にもチャイムは鳴る。
等間隔で響くその音は、何故だか恐怖を呼び起こす。
『……出ないとまずくありませんか?』
「……出たほうがまずいと思うんだが?」
繰り返される電子音。
それは病的なまでの執念。
いや、“この家に誰かいる”ことを知っていて鳴らし続けている。
「……顔だけでも見るか」
『お気をつけて……骨は拾えませんが』
そんな大ごとにはならないだろ!?
ハヤナのボケは置いて、インターホンを覗き見る。
映ってるのは……女の子?
しかも……何故、メイド服なんだ……?
「……怪しすぎるだろ」
『ご主人、心当たりはないのですか? 小中高大……そこで起こした過ちに』
過ちなんて起こしたことは無い!
「お前の“知り合い”じゃねーの?」
『へ? うーん…………さぁ?』
役に立たないなコイツ。
しかし、ずっと鳴らされるのも近所迷惑になる……意を決して玄関を開いた。
「え、えっと……どちら様?」
そこにいたのはショートカットの髪を風になびかせる少女。
白と黒のメイド服を身に纏ったその子は、しばし俺を凝視した。
「あ、あの……?」
「…………」
なんだ、なんで無言なんだ。ファーストコンタクトは失敗か?
ゲーセンの店員さんの時も思ったが、対人スキルなんてどうやって磨けばいいんだ。
俺は何を間違えた? 何故このメイドさんは固まってる?
「……あー」
「……?」
メイドさんはその大きな目をキョロキョロと動かした後、ゆっくりと口を開いた。
「……お兄ちゃん!」
「……は?」
はい。
ここからは好き勝手に書いていきます。
全く関係ないですが、某同人上がりが復刻イベですね。
わかってます。
はい。それだけです。