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ねえ、天国ってあると思う?

今日、隕石が堕ち


世界が滅亡する


なんてありきたりでばかばかしい駄作ファンタジーを朝のニュースが真剣に伝えていた。

ああ実にばかばかしい。さっさと朝食を済ませてしまおう。


そうして家の台所に向かい、いつものように食パンをトースターにセットし、フライパンに油をひいて卵を落とす。いつものように卵を観察しながらスマホでスケジュールを開き確認する。


そうこうしているうちに朝食が出来上がり、一人暮らしには大きすぎるテーブルに並べる。

なぜこうもテーブルが大きいのか、とかなぜ椅子が4つもあるのだという疑問はもう考えないことにしていたのだが、改めて思う。なぜこんなのを送ってきたんだ、我が両親よ。


今日の目玉焼きは完熟になったか畜生。


いつもどおりの食事を終えて、味には特に感想がなくただのいつもの味だったとしか形容できないものだった。


出掛ける準備をしようと寝室に行こうとするとリビングでテレビが付けっ放しになっていた。そこにはでかでかと隕石かと思われる写真と文字が書いてあったが、視力がまあまあ悪いので見えない。特に気にもならないのでリモコンを取りテレビの電源を切る。


寝室で外出の準備をして、外にでる。


〜〜〜〜〜〜


駅前まで出てくると大型商業施設に設置された大型テレビにみんなが見入っていた。ここでも世界滅亡のニュースだった。昨日までどこのニュースを見てもとある殺人事件のニュースしか放送してなかったのに、もはやその事件そのものが存在していなかったかのように、隕石がどうとかいつがタイムリミットだとか、人の関心はそこにしかないように見えた。


政府の発表によると隕石は今日午後5時半過ぎ日本近海に衝突。まもなく本土に到達するそうだ。

現在時刻は10月23日8時32分。タイムリミットまであと9時間。


「悔いのない最期を」という言葉が添えられて、話が終わる。


話が終わったとたんに、テレビに食いついていた人々が一斉に懐から携帯を取り出す。

恋人らしき人と会話する者、家族と会話する者、ひたすらメールを打ってる者。中にはこの騒動のなかでも出勤を強いられるブラック企業に勤めているだろう者。さまざまな事情を持った人がいるが、そのすべての顔に絶望が映っていた。駅前の、出勤前のいつもの光景のはずだった。通りには人が大勢いて、片手に携帯を持ち、慌しくあっちにいったりこっちにいったり。だが無機質ではない。都会特有の無感情さがない。すべてに感情があった。

ヒーローものの悪役たちはみなここに来ればいいと思う。人口密度の大きい東京のど真ん中でみな一様に絶望の顔を浮かべている。あいつらにとってここまで嬉々としていられる場所はないと思う。


周りにつられて俺もスマホを取り出す。どうやら上司からメールが来ていたようだ。


―今日、会社は休みです。さようなら―


感情あふれる街にふさわしくないやたら無機質な文章だった。いかにも事務的で簡素な。しかし添えられた「さようなら」の文字にはどうも哀愁が漂っているように見えた気がする。


上司からのメールにあれこれ考えていると1本の電話がかかってきた。番号は実家の家電のようだ。


「もしもし、母さん?」

「あ、雄二。やっとつながった」

「お前はハルなのか?」

「そうよ」

「どうしてお前がうちの実家の電話を?」

「どうしても何もあんたが私のスマホを着信拒否にするからでしょうが!」


あ、そうだった。俺は元カノで幼馴染のハルこと雨月春香と喧嘩別れしたあとあまりのしつこさにうんざりして着信拒否したんだった。


「そんで用件はなんだ」

「今すぐ鎌倉に戻ってきて」

「仕事だ」


ああ、俺はなんて馬鹿な嘘をついているのか。こんなのすぐばれるに決まっている。ただなんとなく避けたかった。


「どうせ仕事なんてないでしょこんなときに」

「そうだな」

「さっさと戻りなさい」

「......」


どうしようか。たしかに会社がなくて暇ではあるのだが、なんとなくハルに会おうという気が起きない。仕事一筋の男に娯楽という娯楽もなく本当に暇でもあるのだが。


「最期くらいお母さんといてもいいんじゃないの」


しょうがない暇だし行ってやるか。けしてマザコンなんかではない。


「わかった昼までには着くはずだ」

「あと、お姉さんには連絡は...してないね」

「姉貴にも連絡しとく。たぶん俺より先に着いてるはずだ」


なんだかんだ流されて行くことになってしまった。


すでに駅前まで来ていたおかげですんなり乗ることができた。


~~~~~~タイムリミットまで8時間半


次は~鎌倉~鎌倉~

え~この電車は~本日12時をもちまして~運転を終了いたします。いままでご乗車いただき~誠にありがとうございました~


電車は混乱のせいか何なのかいつにも増して満員だった。みな帰省するのだろうか。


改札を出ると母さん、姉貴、ハルが立っていた。


「久しぶり~」

「ああ、何年会ってなかったっけ」

「母さんとは今年の夏に会ってるけど、姉貴は2年くらい会ってなかったっけか」

「あらあら二人ともちゃんと仲良くしなきゃだめよー」

「「仲は悪くないよな(ね)」」


そんな感じに家族で話しているとハルが横でもじもじしていた。


「ひ、ひさしぶり」

「おう......」

「あれ~ふたりともどうしちゃったの~?」

「「それはそのー......」」


俺らふたりがなんて言おうか困っているとハルから説明を受けていたらしい姉貴が代わりに説明を始めた。


半年くらい前に大喧嘩したこと、それから連絡がまったく取れなかったこと。あと俺は別れたもんだと思っていたが、どうやらハルはまだ付き合ってるつもりらしい。


俺は小声でハルに聞いてみることにした。


(おい、俺たちってまだ付き合ってることになってるのか?)

(まだどっちからも明確に別れ話は切り出してないまま連絡が途絶えたから)

(それにしてもお前から連絡してくるとは思わなかったよ)

(それは朝のニュースを見てさ、もう最期らしいから......最期くらい好きな人と一緒にいたいから」

「,,,,,,」

「私は雄二と一緒にいたい。雄二は違うの?」

「......」


俺はなんとも言えなかった。正直いって別にハルのことは嫌いではない。むしろ好きだ。だが


「ねえ雄二答えてよ。私のこと嫌いになった?」

「いやそうではない。そうじゃないんだが」

「あの喧嘩のことならごめんなさい私が悪かった言い過ぎた」

「その件は俺も悪かった」


そんなこんなで仲直りをしていたところに


「二人とも仲がいいのはいいことだけどここ駅の改札前よ」

「「あ!」」

「やっと気づいたか」


母さんはニヤニヤしながらこっち見てるし姉貴は呆れ顔で突っ込んだ。


「そろそろ家に帰りましょ」


母さんに促されるままに移動し始める。さっきの一件で俺もハルもトマトのごとく顔を赤くしている。いやー実にお恥ずかしい。


「それじゃあお姉ちゃん運転よろしくねー」

「あいよー」


姉貴は気の抜けた返事をすると、車のキーを取りだしかぎを開けた。


「さっさと乗った乗った」


ちなみに運転は姉貴、助手席に母さん。てなわけで後部座席にはさっきのやりとりで再び気まずくなってしまった俺とハルがいることになる。ちょっとの間車内に沈黙が流れたが、やはりそれを破ったのは母さんだった。


「そういえばお姉ちゃんは彼氏とかいないの~?」

「いないね」

「うそ」


まさか姉貴に彼氏がいないとは...。

弟がいうのもあれだが顔立ちはいいしスタイルもいい。それに男のツボをおさえた綺麗な黒髪ロング。家族補正がなくとも美人と形容されるような人だ。どっかのだれかと違い胸も...

(雄二、今失礼なこと考えてない?)


ちょいちょいハルさんよ耳元でそんな口調でしゃべられたら怖いでしょう。


「それに彼氏いたら多分こんな状況で家に帰ってないって」

「それもそうか~」

「それにしても姉貴は昔から浮いた話がないよな」

「お姉さん美人なのに」

「告白は何回か受けたがどの男もあまり好みでなくてな」

「お姉さんの好みの男の人ってどんな人なんですか?」


お、ナイスだハル。俺もちょっと気になってたんだ。


「そうだなー思わず弄くりたくなっちゃうような人かなー。例えば~ゆうちゃんとか~」

「雄二は渡しませんよ」


oh姉貴はそうゆう趣味の人だったか。いつものクールそうな姉貴はどこへいっちゃったのか。

そしてハルよ張り合わんでいいから冗談(だと思う)から

「ゆうちゃんてば思春期になってから私のこと姉貴って呼ぶんだもん悲しくなるよねー」


ああそうだった俺が小さい頃の姉貴はこんなんだった。いつも何かにつけておれをいじくってくたもんだ。そんで大人っぽくなりたくて姉貴呼びに変えたんだったか。


「昔みたいにお姉ちゃんて呼んでくれないかなー」

「お断りします」

「ゆうちゃんのけちー」


この姉貴の豹変ぶりに一同顔を硬直させていたが、数秒後、誰が最初かはわからないが車内が笑い声に包まれた。


この会話を機に車内の空気はいい感じにほぐれ、家に到着するまで思い出話にふけっていた。


~~~~~~タイムリミットまで7時間


「おー待ちくたびれたぞ」


そういって親父が家の門の前で出迎えてきた。立っている位置といい、そのたたずまいといいどんだけ待っていたんだろうか。


「おう、夏ぶりだな」


ただそれだけ返事をした。別に煩わしいわけではなかったが外で長話をするのもあれだから。


「ささ、家に入った入った」


母さんの促しでみんな家に入る。今年の夏に来たばっかりの我が実家はどこも変わった様子などなく、決して汚くはないが生活感のあふれる家だった。


「おじゃましまーす」

「やっぱ変わらないな」

「そりゃつい2ヶ月ちょっと前に来てんだから」

「あ、ハルちゃん緑茶にする?紅茶にする?」

「じゃあ紅茶で」

「かしこまり~」


俺たちはリビングのソファーに座り、母さんが台所で紅茶とお菓子を用意する。


「あ、俺緑茶で」

「お父さん、お客さんが優先よ」

「ハイ」


さすが母さん。だれも勝てない。


「はい、みんな紅茶とシュークリームよー」


俺は紅茶を口に含む。やっぱり母さんのいれた紅茶はひと味違うねー。前にやり方を教わったがいまいち再現できなかったんだよなー


そういえば、訊きたいことがあったんだった。


「親父よ」

「なんだ?」

「なんで俺んちに4人がけのテーブルを送ってきたんだ?いらんだろ」

「なぜってそりゃあもちろん」

「あれしかないわよねー」

「あれだね」


つか母さんも姉貴も知ってるのかよ......。教えてくれよ。


「ん?なんでなんですか?」


ナイスだハルよくぞ訊いてくれた


「えーハルちゃんそんなに聞きたいのー?」

「ならちょっとこっちこっち」


姉貴が廊下にハルを呼ぶ。


「あ、男子禁制だから」


あ、だめなんですかそうですか。こっそり聞こうとしてたんだが。


「......と...が.....はじめ.................子ども.......」

「ふぇ!?」


なんだよ気になる。それに体を少しずつ廊下に近づけてはいるがまだ聞こえない。


「そしたら...........」


会話が終わって戻ってきたと思ったら、ハルは顔を赤くしてるし、姉貴はちょっと機嫌がよさそうにみえる。

結局ほとんど聞こえなかった。


「なにがあったんだよ」

「内緒よ内緒」

「雄二、あまり女の子の秘密を探っちゃだめよ」


いやいや母さんよ、親父も知ってるでしょうに......。


「そういやお前らこれからどうすんだ、家族の最期の団欒もいいが各々自分のやりのこしたこともあるだろう」


親父が珍しくまともなことを言ってる。やっぱり母さんに尻に敷かれてても一家の大黒柱ってとこか、やるときはやってくれる。


「ハルは実家に戻らなくてもいいのか?」

「私はもう最期の挨拶を済ませてあるわよ。それに言ったでしょ最期は雄二と一緒にいたいって」

「そんなもんでいいのかな」

「まあまあハルにゃんもこう言ってることだし」

「お姉さん、ハルにゃんはやめてっていつも言ってたでしょ」


姉貴、めっちゃ機嫌いいな。


「そんでどうすんだ?」


おっとそうだった。


「そう言われても急にはなにも決めらんないなー」

「俺はせっかく帰ってきたし思い出の場所を見て回ってくるよ」

「私もついてくわ」

「母さんは家にいようかしらね」

「父さんも家にいるかな」

「え、もうみんな予定たってるの」

「京子は独り身だけど、みんなパートナーいるからね」


親父よ、娘にその台詞は言っちゃあかんって。


「こうなったらゆうちゃんと一緒にいくからいいもん!ゆうちゃんいいよね?」


姉貴、顔近いし怖いから......


ひとしきり談笑し紅茶も飲み終わったところで今後について少し考える。


どんな終末を迎えようか。


~~~~~~タイムリミットまであと6時間


俺は元自室のベッドに横たわった。


大学卒業と就職を機に家を出て4年が経つが、きれい好きの母さんが掃除をしているのか、ほとんど当時のままだった。


そんな部屋で変わりゆく環境について物思いにふけっていた。家族のこと、自分の死のこと、そしてハルとの再会のこと。


思えばハルと付き合いだしたのは俺が家を出ていくあたりだった。男女の幼馴染ということで小中高ではさんざんいじられてきたが、そのようなことはまったくなく、ただただ一緒にいるだけだと思っていた。


そんな状況が変わったのは大学4年の夏ごろだった。就活の時期に入りお互い忙しくて会えなくなっていたなかハルから1本のメールが届いた。


ー夜7時に思い出の場所に来てー


俺らのなかで思い出の場所といったら、昔初めて2人で出掛けて星を見たあの小高い場所にある公園のことしかない。


夜になって指定された場所に行ってみるとハルが赤い顔をして待っていた。そして俺がなにか言おうとする前に


「雄二、ずっと前から好き、付き合って...ください」


俺はしばらく固まっていた。別に嫌いではないしむしろ好きであったが、今まで仲のいい友達だとしか思ってなかったやつに告白されたのだ。誰だってこうなって当然だ。


「なんか返事して...」

「あ、ああ、いいよ」

「ほんとに?」

「ああ」


なんだかわからないが口から意図せず承諾の言葉が出てきた。それを悪いとは思わなかったけど...


かくして流されるままに付き合いだしたわけだが、ハルといるのは楽しかった。ただの友達だった時とは違う楽しさもあった。喧嘩もしたりしたが、どれも些細なことで次の日には笑い合えるほどだった。


しかし半年まえ、俺らの間に大きな亀裂がはいった。どのカップルにも倦怠期というものはあって俺らもちょうどその時期だった。喧嘩の原因もそれだった。ハルが私に対する愛が足りないとか言い出したのをきっかけに収拾の効かない大喧嘩となった。それからいままでまったく会わなかったわけだ。


こんな状況になってやっと再会して、ハルは俺のことをまだ好きだと言ってくれる。俺の気持ちはいったいどうなんだろう。わからない。わからないまま最期を迎えたくない。結論を出すまでは絶対に時間を無駄にできないな。


~~~~~~タイムリミットまであと5時間半


「みんなーご飯よー」


昼ご飯ができたみたいだ。俺は急いでリビングに向かった。さっき、少しも時間を無駄にしないと誓ったばかりだ、いそがなくては。


「「いただきまーす」」

「めしあがれ」


久しぶりに目にする実家のご飯はどれも美味しそうで自分の作った味気ないものとは全く違った。一口食べると頬が落ちそうなほどおいしくて、落ち着く味だった。おふくろの味ってこういうことだったんだと改めて感心する。そこに見慣れない料理が1品あった。


「ああ、父さんも一品作ってみたんだ」

「みんな知らないだろうけど、父さん実は料理人だったのよ」

「まじで?!」


知らなかった。ずっと親父はサラリーマンだと思っていた。


おふくろの味と親父の味をひとしきり堪能して、本当に最後となる食事を終えた。みんなでしゃべりながらの食事は本当に楽しかった。今日の朝食とはまるで違う。


「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」


~~~~~~


俺は自室で出掛ける準備をはじめた。朝は本気で会社にいくつもりで出てきたから、いまだにスーツのままだった。俺は部屋に何着か残されていたシャツとズボンに着替えた。


「俺は別に捨てといてくれていいっていったんだけどな、母さんはやっぱり思い出とか大事にする人なんだな。」


「雄二ー、準備できたー?」


ハルの呼ぶ声がする。


「できたよ」


俺は部屋を出てまず母さんと親父に別れを告げようと思った。やっぱり最期はハルと二人で過ごすべきだと思った。恋人にしろ友達にしろ今までの人生で一番大事に思っていたのはほかでもないハルだったから。


「母さん、親父いままでありがとう。幸せな人生だった」

「やっぱり最後はハルちゃんと過ごすの?」

「ああ」

「また天国で会おうじゃないか」

「親父は天国を信じてるのか」

「まあな。さ、もう時間は迫ってんだからとっとと楽しい思い出作ってこいよ」

「ああ、ありがと」


俺は一言そういって玄関に向かった。


~~~~~~タイムリミットまであと4時間


家をでて俺たちは近所の公園に来ていた。もちろん俺とハルと姉貴とで。


「あ、ゆうちゃん見てみて、あそこ昔ゆうちゃんがこけて大泣きしてた場所だー」

「ちょ、姉貴その話はやめてって」

「へー私のいないとこでそんなことがあったんだー」


はい、恥ずかしながら事実です。もう忘れたい。


「そういえば雄二って」

「今度はなにがあるってんだよ」

「たしかあの辺でおもらししてたような」

「わーわーやめろー」


もうやだ黒歴史しか出てこない。


「あの頃のゆうちゃんはかわいかったなー。いつもお姉ちゃんお姉ちゃんって言ってくっついてきたんだから。いまではくそ生意気になったけど」

「でもやっぱりかわいい弟なんですよね?」

「それはそうなんだけどね」

「もうやめ。思い出が黒歴史で染まってく」


~~~~~~


自転車は残ってはいたが錆び付いて使えなかったので徒歩での移動なり時間はかかるのだが、その間も話は一度も途切れず、どんどん俺の黒歴史が掘り出される。でもやっぱり楽しくてしょうがない。こうして誰かと思い出を共有するくとがこんなにも楽しかったなんて......


「さーて次はここだね」


俺らは海に来た。そこには最後の最後まで趣味を捨てられなかったサーファーたちがちらほらいた。サーフィンに命でもかけているのだろうか。


「ここはなんといってもあれがあったよねー」

「あれですねー」


二人してなにかすごい悪い顔をしていた。まさかあの事か?!


「ゆうちゃん、まさかって顔してるねー。そのまさかだよー」

「雄二が中二病こじらせて」

「それ以上いうでない」


「「私は深海の王、この私を海に連れてきたことがお前らを破滅の道に自ら導いた。あの世で後悔するがよい」」


「やめろー」


俺の今日1番の叫びが放たれた。それだけはまじでやめてくれ。


~~~~~~


「そういえば今何時?」


姉貴が聞いてきたので時計を確認した。4時47分。残り1時間もない。


「そっか、楽しい時間は過ぎるのが早いね。邪魔物のお姉ちゃんはもう家に戻るよ。最後はもちろんあの場所なんでしょ?」

「ちょっと待って。姉貴にはまだなんもお礼を言ってない」


「ありがとう、お姉ちゃん」

「ゆうちゃん......」


瞬間、姉貴の目から涙がこぼれた。


「ゆうちゃん、最後の最後でそれはずるいよ。お姉ちゃん帰れなくなっちゃう」

「やっぱり、姉ちゃんにも言わないといけないからね」


「こちらこそありがとう、ゆうちゃん。またね」


俺の目からも涙が落ちそうになった。けど、なんか姉ちゃんにもハルにも涙は見せたくなかった。


隣で黙って事の次第を見ていたハルは泣いていた。ハルと姉ちゃん、仲良かったからなあ,,,,,,,


~~~~~~


俺たちは最期の場所に来ていた。


「そろそろ、時間だね」

「そうだな」


もう日が落ちそうになっていた。空には雲ひとつなく、1周見渡すとグラデーションがかかっていることに気づく。きれいだ。しかし、これは嵐の前の静けさってやつなのだろう。そう想うと恐ろしくもあった。


「私ね」


ハルが語りだした。


「..............幸せだったよ」


ハルはちょっと考えて、そして過去のすべてを一言に詰め込んで、そういった。


「もっと一緒にいたいし、一緒になんかしたい...それから...」


「ねえ、天国ってあると想う?」


さっきの一言が過去だとするなら、これは今のすべてなのだろう。果たしてそれが何を意味するのか、俺はわかった。わかった上でこう答えた。


「天国はここにあるよ」


遠くに隕石らしきものを見た。それは、まだ隠される前の太陽によってオレンジ色にまぶしいほどにかがやいている。


俺はハルの唇を奪った。何度目のキスかはわからないけどこのキスは特別だった。


口づけを交わして目を閉じた数秒後、耳に轟音が響き、世界が崩れていくのを感じた。

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