第14話 - 学園祭二日目終了 ~午後から夜の部~
前回のあらすじ。
巷で活躍中の謎のライダーこと天野薫をゲスト出演させたヒーローショーは、演劇部員達のコスプレ内容も相まって大成功で幕を閉じ、網谷紗友莉のライブへと繫ぎを果たした。
一仕事終え、莉穂との学園祭デートを満喫していた渉だったが、大成功をおさめたヒーローショーの余波が思いもよらない形で渉の前に立ちはだかった。
「俺のバトルスーツ姿を含めた集合写真を撮りたい……ね。網谷のライブで謎ライダーのインパクトなんざ薄れると思ってたが、想定外に熱心な特撮マニアが居たのか…。いや、あのオッサン達の反応を思い返せば納得できなくはないが…」
俺は演劇部部長に情報を集めてもらい、駄々を捏ねている連中の目的を調べてもらっていた。しかし、蓋を開けてみれば大した事はない。単に「特撮ヒーローコスの皆を写真に収めたい」という話だったらしい。
そんなわけで、天野を教職員棟2Fの理事長室前へと呼び出し、事情を説明した次第である。
理事長室前で話しをした理由は、ここが関係者以外立ち入り禁止区域で、天野が変身する姿を見られる心配が無かったからである。あと、演劇部の部室がある高等部校舎にも近いし…。
「ま、そういうわけだ。幸い、部室に押し掛けた人数も40人は居ないみたいだし……って言っても結構な人数だとは思うが…。2~3分程度で交代してもらえば、2時間くらいで捌ける計算なんだ。だからスマン、撮影会に協力してやってくれねぇか?」
「いやまぁ、それは構わねぇんだが…紗友莉のやつが後で文句言うんじゃないか? ライブ後のデートも計画してたみたいだし。というか、現に今、キレ気味で俺に魔力通信がビシバシ来てる件」
「そこは、あとで俺が謝り倒すから──ん? いま天野、網谷の事を名前で呼んだか?」
「う…ま、まぁそういう約束をしたからな…」
どうやら網谷のヤツ、ヒーローショーが始まるまでに間に天野との関係を一歩進めるのに成功したみたいだな。
「ほっほぅ~? これはこれは…午前中の間に何があったのか、詳しくお聞かせ願いたいところですなぁ、天野さんや? ニヤニヤ…」
「くっ…! わざわざ『ニヤニヤ』とか口に出すのが鬱陶しいっ! もういいじゃねぇか、それは! ほら、とっとと部室に行って撮影会を終わらせるぞ! 渉も人員整理要員として一緒に来い!」
「もとよりそのつもりだったさ。じゃなきゃ、せっかくの莉穂姉とのデートを中断してまでここに来ないって…。うん、そう…。二日連続でデートが中断されたんだよな……ハァ…。ったく、昨日と言い、今日と言い、面倒事が次々と…! テロリストを取っ捕まえる方が楽に感じてきたよ、まったく!」
「いや、それは高校生としてどうなんだ?」
後半は愚痴をこぼす展開になったが、何にせよ天野の協力を得る事ができたので早速変身してもらい、俺達は部室へと急いだ。
尚、天野は謎のライダー姿、俺は“顔割れしたくない”と言う理由から怪人スーツに身を包んで移動したため、えらい注目を集める羽目になった。恥ずかしくはないのだが、走ってる順番的に怪人が謎ライダーに追われているっぽく見られていたのがちょっと悲しかったでござる。
ガララッ──
「というわけで、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン! ヘイ部長! ご注文の“謎ライダーコス、中身入り”一丁お待ち!」
「……キミは怪人なのか、ハクション大魔王なのか、出前のオヤジなのか選択肢が多くてどうツッコミを入れたものか迷うな…」
無駄に元気よく挨拶しながら部室のドアを開けると、ギャバン姿の部長がため息交じりに反応してくれた。
ちなみに、変なテンションで入室した理由は、一般参加者に“怪人の中身が俺”である事を覚られないようにするためである。普段の俺とはだいぶ異なるキャラだし、変声の魔法陣を通しているから声も別物だし特定は困難だろう。部長はそのあたりも汲んでくれたようで、呆れつつも俺の本名を避けて応対してくれたみたいだ。
室内を見渡せば、副部長や他の部員達もそれぞれのコスチュームを着込んでおり、撮影会準備は万端といった雰囲気だ。
どこから引っ張り出したのか、書き割りやらレフ板やらといった道具もバッチリ準備されていて、思っていた以上に本気っぷりが伺える。それにしても、書き割りの絵柄が特撮でありがちな砂利山なんだが……こんな背景を使うような劇の内容が想像できん。
「いやぁ、元気よく登場してやろうと思ったら、こんな感じになっちゃいましたテヘペロ♪ そんなわけなんで、俺のウザいキャラ付けに関してはお気になさらず。……にしても、思った以上にガチなセットで撮影するんスね。もしかして、あとは謎ライダーを含めた集合写真を撮るだけ…って状態だったりします?」
「キミに連絡してから到着するまで、30分も経っていないのだぞ? 書き割りを用意して、撮影スペース作って、私達がスーツ着て…といった準備を終えて、丁度キミ達が到着したところだよ」
「そりゃあ丁度よかった。そんじゃ、あまり時間もなさそうですし、さっさと撮影タイムに移ってもらいましょうか。天……え~っと、お前さんの方は準備OK?」
「あぁ、いつでもOKだ」
部長から撮影準備が終わっていると聞いた俺は、斜め後ろで大人しくしていた天野に声を掛ける。天野の方も問題が無いとのことなので、カメラを構える準備が整っていたオッサン達に、早速撮影するよう促した。
オッサン達の方は撮影方法や撮る人の順番、誰と誰がグループとなってまとめて撮影タイムを設けるか等を交渉し終えていたようで、もたつく事もなく粛々と撮影タイムは終了した。
いやもう、本当に感動すら覚える手際であった。誰がどういうポーズを取ればいいか、立ち位置はどうするかなども阿吽の呼吸と言った感じでオッサン達が分担して指示し、無駄なく撮影が行われたのだ。
そして、撮影開始から一時間後──
「いやぁ、ヒーロースーツの再現度も高いし、皆さんスタイルも良いから実に良い画が撮れました! 『謎ライダーコスの人も呼んで欲しい』と言うこちらの我が儘にも応えて頂き、ありがとうございます」
「いえ。私達も、まさかこんなに早く撮影が終わるとは思っていなかったので助かりました」
──そこには、満面の笑みでお礼を言うオッサンと、銀色のギャバン姿が眩しい部長とが爽やかに握手をする姿があった。それこそ、夕日に輝く海を背景に、校舎の裏にある学園のプライベートビーチにでも立ってくれれば、とてもいい画になる気がする。
「ちなみに、明日は一体何の衣装……いや、スーツを着る予定ですか?」
「もうしわけありません。それに関しては、そこに居る怪人スーツの中の人にも秘密にしているサプライズですので、お答えしかねます」
握手をしていたオッサンの質問に対し、俺の方にチラリと視線を向けた部長が申し訳なさそうに返す。
実際、俺もノーマンも昨日・今日・明日に「どういったコスプレをしてヒーローショーをする」という情報は一切知らされていない。…というか、まさか昨日の今日でコスプレ内容を変更してくるとすら思っていなかったのだ。
俺の予想では、ここまでは順当に東映シリーズできていたので、明日は奇をてらって円谷プロのウルトラマンシリーズでくるのではないかと睨んでいる。
「そうでしたか。それでしたら、我々も明日のヒーローショーを楽しみにするとしましょう。……また明日も、撮影時間を頂けますか?」
「よろしく勇気」
…果たしてそれは了承の返事なのだろうか。
「ありがとうございます。ではまた明日、ライブが終わりましたら窺わせて頂きます」
なんか、オッサンの方には通じてたっぽいし…いつの間にか謎の一体感が生まれている。
そんな風に二人のやり取りをぼけっと眺めていたら、オッサンが俺に向かって満面の笑みを向けてきた。
「そちらの怪人さんも、謎ライダーのコスの人を連れてきていただき、ありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
「アッ、ハイ…」
「よし。それじゃあ皆さん、今日の所は撤収としましょう。あとで私のサーバーURLを送りますので、連絡先交換お願いしますね」
妙にリーダーっぽい動きをするオッサンだとは思っていたが、どうやら自前のサーバーを持っている方らしい。個々人で撮影する量が少ないと思ってはいたが、複数人が同時に色々な角度で撮影した写真を、オッサンのサーバーで纏め、それぞれが気に入った物をダウンロードしていく…といった提案をしていたようだ。
そんな人だったから、あっという間に司令塔としての役割が決まり、皆も協力して写真撮影を行っていた…というのが先ほどまでの流れらしかった。とは言え、特撮キャラ愛やら写真の構図やらの知識が個々人に無ければ、いかに司令塔が居たとしてもこうはならなかっただろう。
なんにせよ、同じ構図の写真を撮らせる必要がなかったので時間の削減になったし、こちらとしてもありがたい存在だった事に変わりはない。
面倒な事になりはしたが、想定よりも早めに終わった事にホッとしていると、とある人物から魔力通信が届いた。
[渉君。私の薫を勝手に連れ回した件について、あとでお話しがあります]
[網谷、言い訳させてくれ。俺だって莉穂姉とのデートが中断されてるんだ]
[分かりました。でも文句は言いたいので、許しはしません。薫との二人きりの時間をサポートしてくれるって言ってたのに、約束が違うし…]
[……ごもっともで…]
▲▽△▼△▽▲
網谷から文句を受けた俺は、撮影も終わったということで即座に天野を開放し、網谷と学園祭を楽しんでくるよう走らせた。あの時点で完全帰宅時間まで残り30分ちょっとしかなかったのだが、何もしないよりマシだろうという判断によるものだ。
俺の方は莉穂姉とデートの続きをしようと思ったのだが、帰宅前にメイド喫茶に寄ろうと考えた連中が多かったらしく、莉穂姉のクラスは満員御礼状態。とてもじゃないが、莉穂姉という戦力を引き抜けるような雰囲気ではなかった。
下手に一人でぶらついている所を網谷ファンに見つかりたくも無かった俺は、軍に一報を入れ、昨日よりも30分早くテロリストを引き取りに来てもらえるよう指示し、自室でゴロゴロするのだった。
そして、無事にテロリストの受け渡しも終わり、晩御飯時で賑わう食堂の中、俺と網谷は対面に座り話し合いを開始した。
「渉君。今回の件は、そちらの契約不履行に当たるわけだから──はい“あ~ん”──協力の延長を所望するわ。──はい“あ~ん”」
「でも、網谷さんや。一部はちゃんと履行できたわけだし──もぐもぐ……ごくん──延長する期間は相応に短くして頂いても罰は当たらないと思い候。──もぐもぐ……ごくん」
「はい“あ~ん”──えぇ、時間として考えれば短いわ。合わせても…せいぜい2~3時間くらいってとこかしら?」
「もぐもぐ……ごくん──OK。なら、交渉成立だ。引き続き、網谷に協力させてもらおう」
「ありがとう。じゃあ、来週ある私達の文化祭の時に、是非とも協力してもらうわ──はい“あ~ん”」
「もぐもぐ……ごくん──承知した」
「……なぁ、紗友莉にBB。その話し、メシ食い終わってからじゃダメだったのか? なんか、音だけ聞いていると、紗友莉がBBに文句言いながら餌付けしてるように感じてしまうんだが…」
網谷からの延長申請を受諾しながら晩御飯を食べていると、その様子を見ていたノーマンが微妙な表情でツッコミを入れてきた。
「奇遇だな、ノーマン。俺も似たような感覚を味わっていたところだ。でも大丈夫。もう交渉は終わったし、何より俺に“あ~ん”をしてくれてるのは莉穂姉だから、不正はまったくない」
「『不正』って、何に対してだよ…」
そう。俺がさっきまで話しながら食べていたのは、横に陣取っている莉穂姉から“あ~ん”された晩御飯であり、網谷が“あ~ん”していた先は天野である。二人してタイミングよく食べたり食べさせたりしていたので、音で聴いている限り紛らわしいとは思うが…。
まぁ何にせよ、本日のテロ対策も無事に成功できた。
誤魔化すためだけに用意したヒーローショーが、思った以上に人気を博してしまって撮影会にまで発展してしまったのは想定外だったが、まぁ中の人に言及するような事態にはならなかったので良しとしておこう。
デートがキャンセルされ、網谷から文句を言われてしまいはしたが、協力の延長くらいだったら大した労力ではないハズだ…たぶん。
残るは明日、学園祭の最終日だけだ。侵入してくるテロリストは7人…ノーマンが居るから楽勝な数だな。
……なんて思ってしまったのがいけなかったのか、最終日だけは手古摺るハメになってしまうのだった。
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日の更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




