第12話 - 学園祭二日目 ~昼の部・誘惑のランチタイムとヒーローショー開始~
前回のあらすじ。
捕えたテロリストに暗示をかけ、本日潜入した全テロリストを捕まえていた事が分かった渉とノーマンは、怪人スーツをステージ裏の控えスペースへと仕舞い込んだ。
しかし、その帰りがけに網谷紗友莉のファン達に見つかり、追い回される事となる。
ノーマンとはバラバラになったものの、何とかファン達を巻く事が出来た渉は、その足で理事長室へと向かい早めのランチタイムと洒落込んだのだが……。
「人間の三大欲求は何だと思う?」と聞かれた場合、“食欲”、“睡眠欲”、“性欲”の三つを挙げる人は割と多いのではないだろうか。調べた限り、他にもバリエーションがあるとの事だったが、少なくとも俺やノーマンはこの三つが真っ先に挙がるタイプだ。
さて、なぜ唐突にこんな話題を振ったのか? それは現在の俺の状況が深く関わっている。
“自分は今、思春期真っ盛りの童貞男子である”という前提のもと、想像力を駆使して思い描いて欲しい。意中の女性が、自分好みのコスプレ衣装に身を包み“あ~ん”してくれながら昼食を食べさせてくれるという状況を…。
お分かり頂けただろうか? その状況がいかに性欲を刺激し、迸る情熱を押さえるのがどれほど大変かという事が…。
十代半ばの男子の頭の中なんて、“たらふく美味しいご飯を食べたい”だの、“眠くなったら思うさま寝たい”だの、“飽きるほどゲームをして過ごしたい”だの、“エロい美女と「いや~ん♪」な事したい”だの様々な欲望に塗れているわけですよ。それこそ、仮面ライダーOOOのヤミーが思春期男子を襲いでもしたら、「腹ン中がセルメダルでパンパンだぜ」などと言い出しかねないレベルでな。
エロ方面に限って言えば、もはや河原に捨てられている十八禁本程度では満足できないくらいに欲望が育っているのではないだろうか。
まだ体毛が生えそろってないようなお子様には理解し辛い話だろう。しかし、既に青春時代を過ごした方々や、今が青春真っ盛りな人達なら、この“欲求を我慢しなければならない”という苦しみを分かってくれると信じている。そう、俺達のような思春期世代は苦難の連続なのだ。
たとえ目の前に“汗でブラ透けしてしまった女子”が居たとしても、そっと目を逸らしたり、タオルを渡してあげたりする“紳士な心”で対応しなければならない。「なぁに、揉んで気持ちよくさせれば合意の上でヤれるってもんよ」などとエロゲ展開を語ってくる“性欲に正直な心”も同時に存在する中で、紳士な方の選択肢を強いられる男子の心情は筆舌に尽くしがたいのではないだろうか。
故に、童貞とは紳士を意味する言葉であると同時に、ゆるぎない理性を持った勇者の証でもあるのだ。童貞カッコ良い、いじめカッコ悪い。
ふぅ…。アホな事をぐだぐだと考えていたおかげで、性的興奮が収まってきた。素数を数えたり、円周率を思い出したりするよりも効果的であるとして、いつか学会で発表したいものだ。
「んもぅ。渉、ちゃんとご飯を食べなきゃダメよ? このあと、ステージで大立ち回りするんでしょう? ほら、“あ~ん”」
「アッ、ハイ」
思考を明後日の方向に飛ばしながら咀嚼していたのがバレたようで、莉穂姉からお叱りを受けてしまった。返事をする際、うっかり莉穂姉の姿を視界に入れてしまい、危うく下半身が stand up to the victory しかける。
尚、莉穂姉のコスプレ内容は網タイツバニーガールだ。莉穂姉の形の良い巨乳が見事な渓谷となり、俺の前に雄大な景色を提供してくれております。
上の空気味に色々と考えていたのは、こうした刺激の強い莉穂姉の姿を視界に入れないためである。だというのに、話しかけられたらその人の方を見るという習慣が染み付いているせいで、先ほどから興奮が冷めかけては再燃するという状況が続いている。
“冷静と情熱の間”とはまさにこの事か、竹ノ内豊が演じた人物はさぞ大変な思いをしていたに違いない。…俺、あの作品見たことないから、サッパリ分からんけど。
まぁ、この場で“お子様には見せられないよ”的な事をヤっても良いというのなら、俺は間髪入れずに「ふ~じこちゃ~ん」なルパンダイブをしちゃう自信があるんだ。しかし、それが生徒に知れ渡った日には学園の風紀を乱す事になるし、莉穂姉が学生の身分でありながら妊娠してしまうという事態にもなりかねない。
ノーマンにも、「性欲を持て余しても、セクロスはダメ。絶対!」と常日頃から言っている俺が、そんな不祥事を起こすわけにはいかないのだ。暇さえあれば“純白に輝くおパンツの良さ”やら、“男女問わず性的に楽しめれば無敵じゃね?”やら考えているようなおバカなアイツだが、意外と女子の人気があるらしく、マージちゃん、篠山ねーちんに次ぐ第三、第四夫人の位置を狙っている生徒も多いとの事だ。なので、俺が前例を作ってしまうと、ノーマンの周りに既成事実を持った女子が群がり、皆してトータルエクリプス島に移住するという流れになりかねん。
あの島、世界で唯一法律が定まっていない“俺が所有する国”だから、重婚も問題なくできるってわけだ。まぁ、法的な婚姻も定まってないから、結婚と言う概念すら適用されないわけだが…。
とにかく、将来的に俺と莉穂姉だけのラブラブ空間として使いたいのに、ノーマンとそれを囲む女性達との爛れたハーレムライフを提供する場になってしまうのは釈然としない。そういう事もあって、俺は鋼の精神で下半身を封印しているのだ。
それに──
「もぅ! さっきから莉穂姉ばっかりズルい!」
「滝川さんの言う通りです。そろそろ私達と交代しても良いじゃないかしら?」
「渉の独占禁止! 莉穂は速やかに、渉の身柄を引き渡すべきです!」
──昨日に引き続き、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの二人と一体も居り、性欲を刺激してくる人材は莉穂姉だけではない。ここで莉穂姉に対し性的な意味で手を出してしまったら、間違いなく乱交パーティ待った無しの展開になってしまうだろう。そんな事になったら、14時から開始となる大立ち回りの時に足腰が立たなくなってしまいかねない。
風紀的な理由だけでなく、今日のイベント的な理由からも、俺は持て余す性欲を必死に押さえなければならないのだ。…俺の孤独な戦いは、まだまだ長引きそうである。
なんにせよ、一度部屋に戻ってシャワーを浴びてからステージに向かおう…。なんとなく、トランクスの中が大変な事になってそうな気がするから。
そういや、明日もこの“天国と地獄が内包されたランチタイム”やるんだよな。くそっ、嬉しいやら苦しいやら…。
▲▽△▼△▽▲
「ちぃ~っす。BB~、昼飯は楽しめ──真っ白になってるじゃねぇか?! どうした?! 石灰の入れ物にダイブでもしたのか?! それとも、ついにBBが昼飯として喰われたのか?!」
集合時間よりも10分ほど早く控えスペースに現れたノーマンが、俺を見るなり慌てふためいた。ハハッ! 俺が喰われるとか、性的に考えれば言い得て妙で非常にワロス。
「フッ…。いくら戦闘力ではお前に敵わないとはいえ、俺を見くびってもらっては困るな、ノーマン。俺が最終回の矢吹丈のみたいになってる理由は、俺の中から迸る熱いパトスを『静まれ! 悪魔よっ!』ってな具合に押し殺すのに、精神をすり減らしたからSA☆」
パイプ椅子でぐったりしている状態から体を起こし、昼に起きた事をノーマンに説明した。
ノーマンは、ときおり相槌を交えながら話を聞くと、最後に怪人スーツを俺に手渡しながらこう言った。
「なるほど、お疲れさん。じゃあ、気も済んだろうし、爆発しようか」
「ちったぁ労ってくれてもいいじゃんよ」
「ちゃんと『お疲れさん』って言ってやったろ? もうヒーローショーまで時間もないんだから、さっさと大立ち回りして、リア充なだけに爆発しちまおうぜ?」
ノーマンの言葉に、「そんなバカな」と時計を確認してみると、ショー開始まで5分を切っていた。
「ギャース! マジで時間ねぇじゃん!?」
「だから言ったろ? じゃ、俺は昨日と同じ位置で待機しとくから、BBも急げよ~」
そう言い残すと、怪人スーツを装着したノーマンは、自分が待機する舞台袖へと移動して行ってしまった。
俺も怪人スーツを40秒で装着し、自分が待機する舞台袖へと向かう。いやぁ、着やすい構造のスーツで助かった。それに、ここに怪人スーツを置きに来た時、背面パックに爆弾を仕掛けたり、ステージ中央の祭壇にマネキンを準備していたのも正解だったな。
「さてと。今日はどれほどの観客が集まっているのやら──ゲッ!?」
観客からバレないようにそっとステージ前の状況を確認してみると、昨日とは比べ物にならない量の人で溢れかえっていた。
ヒーロー役の演劇部員が通れるよう、ステージを中心として放射状に10本ほどの道が形成されているが、それ以外の観覧スペースは完全に鮨詰め状態である。座っている観客は一切おらず、最前列の人垣に至っては、まだかまだかと血眼になってステージ上を凝視しているありさまだ。
[こちら渉。網谷、その他大立ち回りをする関係者の皆に告ぐ。ステージ前の観客が凄まじい満員御礼状態なので、2~3分ほど早いけどショーを開始したいと思う。各員、問題はないでしょうか?]
[[[[[準備OK! いつでもどうぞ!]]]]]
[サンキュー! それじゃあ…渉、行きま~す!]
魔力通信で皆の了承を得られた俺は、すぐさまステージへと躍り出た。観客の視線が一気に集中し、凄まじいプレッシャーとなって俺を襲う。
「はーっはっはっはっ! 昨日は生意気なJK共に討ち倒され、魔王様召喚の儀は失敗したが、地獄の底より戻ってきてやったぞ、人間どもよ! 昨日よりも些かギャラリーが多いようだが、まぁ良い! さっさと儀式を始めるとするか、相棒!」
「おうよ、兄弟! くわっはっはっはっ! お前達も農林業にしてやろうかぁ! ……あれ? ろうりんぎょう…いや、のうりん……違う。えっと、ろう…にん……ロウニン……蝋人形……そう、農林業にして……あ~、もぅくっそ!」
ノーマンが、アドリブで決め台詞を言いながら登場しようとしてグダグダだった。
「なぁ、相棒……。ひょっとして、聖飢魔IIの真似しようとして噛んだの?」
「いやぁ、ホラ。俺もちったぁ怪人っぽい台詞を言ってみたくて…な?」
「彼らは“悪魔”であって、俺達は“怪人”だぜ? 真似をする相手が間違ってるだろ?」
「ハッ!? 確かに!?」
プシュー──
俺達がグダグダなやり取りをしていると、突然マネキンを転送するギミックが発動し、祭壇周辺が水蒸気で覆われる。考えてみれば巻きでやるために開始を早めたのに、アホな事で時間食ってた。多分、演劇部の誰かが遠隔操作してくれたんだろうけど、GJと言わざるを得ない。
「くっ……また昨日のスケバン刑事共か!? 姿を現せぃ」
『はーっはっはっはっ! 悪のからくりを粉砕する男──』
俺の台詞に呼応するように、ステージ上のスピーカーから演劇部部長の声が響き渡る。
「この前口上は……貴様! さては、東映版スパイダーマ──」
『──宇宙刑事ギャバン!』
「「「「「なんでやねん!」」」」」
俺とオッサン世代の観客のツッコミが綺麗に被った。やはり、「○○する男」とか前口上で言われたら、“スパイダーマッ”の方を思い浮かべるよね。よかった、仲間が居て。……オッサンしか居なかったけど。
部長が登場するであろう方向へ目を凝らすと、銀色に輝くメタリックボディが蒸着のポーズを取っていた。胸元には、赤やら黄やら青やらのボタンっぽいアレが並んでおり、確かにギャバンのスーツそっくりである。
家庭部の連中は、いつの間にあんな物まで拵えていたのだろうか。再現度が高すぎて、空恐ろしさしか感じない。
「ま、まぁいいだろう。しかし、初手でギャバンということは、他はシャリバンやシャイダーが出て来ると──」
『ダイアナレディ、参上!』
「「「そっちかよ!」」」
どうやら時空戦士スピルバンを知っている人があまり居なかったようで、俺とツッコミを共にするオッサン達の声が先ほどより少なくなっていた。まぁ、なんだかんだでギャバンは今年頭と、先々週あたりから公開した映画で活躍してたから、知名度は高いんだよな。この反応の差はそれだろう。
今の声は副部長だったので、そちらの方へと視線を向ける。銀色をベースにしたメタリックな姿に、ところどころ朱色っぽいカラーリング。胸部は丸みを帯びており、中心部には黄色いラインがある。どことなく女性的なシルエットのそれは、まさしくダイアナレディそっくりであった。
「ねぇ、キミ達本当にJKなの? 中身オッサンだったりしない?」
「それ、B──兄弟が言えた義理か?」
俺の心の底からの疑問に対し、ノーマンが横からツッコミを入れてきた件。
「ちょっと相棒、茶化さないで! 今俺は、真面目な話をしているんだ」
「いや、魔王様召喚の方に真面目になろうぜ?! さっさとアイツら倒して、生け贄を取り戻さねぇと!」
「ハッ!? そうだった、グダってる場合じゃなかった! コホン…。そういう訳だ、さっさと俺達に倒されてしまうがいい、JK共!」
『『『『『倒されるのはお前達だ! ……とぅ!』』』』』
ギャバン、ダイアナレディをはじめとして、その他の演劇部員も数々のメタルヒーローコスに身を包み、ステージへと駆け上がってくる。凄く動き辛そうな見た目だが可動域は広いようで、全員動きが機敏な事に驚いた。
演劇部員も全員勢揃いし、いざ大立ち回り…と身構えたその時、スピーカーから男性の声が響く。
『その戦い。この私も混ぜてもらおうか! …とぅっ!』
天井から、ワイヤーアクションでステージ中央へと回転しながら降り立つ黒い影。ところどころ鎧の様な質感を持つその姿は、とても見覚えがあり……ってか、これ俺が研究所に発注かけたバトルスーツだ。
「最近ネットで騒がれている謎のライダー。ここに見参!」
腰元に付けられていたワイヤーを手早く外すと、黒いバトルスーツに身を包んだ天野がポーズを決めながら叫んだ。
…そういえば、ギャバンとかのインパクトが強くてすっかり忘れていたが、今日からは天野も大立ち回りに参加するんだった。なるほど、だから演劇部員達はメタルヒーロー系のコスプレで登場したんだな。昨日のような“衣装”的な格好だと天野の姿とのバランスが悪いから…。この用意周到さ、脱帽せざるを得ない。
さて、何はともあれ、役者は全員揃った。網谷ライブの前座ではあるが、一つ派手な大立ち回りを始めるとしようか!
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日の更新予定なので、お暇でしたら宜しくお願いします。




