第11話 - 学園祭二日目 ~午前の部・本日のテロリストは打ち止めです~
前回のあらすじ。
網谷紗友莉のゲリラライブを行ったおかげで、“ぼっちの参加者=テロリストである可能性大”という図式が出来上がった。
テロ候補を絞り込む算段もつき、渉達は「本日の学園祭も無事に乗り切ろう!」と気合を入れるのだった。
[こちら、大学棟南非常階段付近! 参加者が想定以上に密集し休憩しているため、逃走経路の確保が困難となっています]
[こちら渉。逃走経路の件、了解。そちらにはノーマンを派遣します。最低限のルートを確保できれば、ヤツなら力技で逃走できるんで、演劇部の皆さんは無茶をしないように]「……ってわけで、魔力通信は聞いてたよな、ノーマン? すまんが出撃頼むわ」
「あいよ、BB。アメフト選手も真っ青なタックルで、テロリストを拉致ってくるぜ! ヒャッハー!」
参加者がゲートを潜り始めて早40分。数人の“ぼっち参加者”を発見したと思ったら、その中の一人がすぐに行動を開始した。
テロリストを拉致した後の逃走経路としては、連絡のあった非常階段の出入り口を使うのが良かったのだが、思ったよりも混雑が激しいようで十分な経路を確保するための誘導が難しいようだ。網谷のゲリラライブ情報が拡散した事による人数増加が、想定以上に弊害をもたらしている。
しかし、網谷というインパクトを用意しておかないと、謎のヒーローとして注目度の上がってきている天野の登場に、参加者の目が行ってしまうだろうしなぁ。
もちろん、「あのスーツは投稿動画を研究し、似せて作っただけの偽物です」という言い訳も用意してはいるから、本物だとは思われまい。それに、常識的に考えれば、都心で活躍中のヒーローが南伊豆の私立学園に居るわけがないと分かるハズ…。
それでも一応、用心に用心を重ねてのトップアイドルライブで有耶無耶にするという計画だったのだが、無駄に効き過ぎたと言わざるを得ない。
俺は、自身のガバガバな計画を反省しつつ、世紀末のモヒカン族みたいな雄叫びを上げて去っていくノーマンを見送るのだった。
「あ、そうだった。ノーマン! テロリストにはタックルしてもいいけど、参加者にはNGだからな~!」
「分かってるよ! 任せなっ!」
▲▽△▼△▽▲
最初の拉致から小一時間、収容用の檻の中には6人のテロリストが放り込まれていた。
彼らは、怪人スーツのまま眺めている俺とノーマンをずっと睨みつけながら、「ここから出せ」だの「俺は無実だ」だのと叫んでいる。
「ほぅ、無実と言ったか? ならば、お前達が物陰に仕掛けようとしていた、この“C-4”の様な物は何だ?」
テロリストの叫びを聞いたノーマンが、彼らを拉致するついでに回収してきたC-4っぽく加工された粘土をちらつかせる。怪人姿なためか、演劇部に鍛えられた悪役風の言い方が様になっていた。
「ワカラナイ。シラナイ。コ・ムーギコカナニカダ」
「ちょ、ノ──じゃなかった、相棒! コイツ、ラーメンズのネタで返してきやがったぞ?!」
「あぁ、面白いヤツだ。殺すのは最後にしてやる」
「いや相棒、ダメだっての。イエス、洗脳。ノー、殺戮」
ノーマンがコマンドーじみた物騒な発言をするので、とりあえず注意しておく。いまだかつて不殺で通してきたヤツなので、実際に殺しはしないだろうとは思っているが、一応念のため…。何しろ、捕えたテロリストの半数くらいは、それを聞いてビビっちゃってるし。いや、もしかしたら“洗脳”という単語にビビったという可能性もなくはないが…。
ちなみに、現在捕えられているテロリストは全員ノーマンが捕まえて来た連中だったりする。いやホント、逃走経路上の人口密度がシャレになってなくて、ノーマンのような動きができないと立ち往生しそうな勢いだったのだ。
俺も怪力だけならなんとかなるのだが、ノーマンほどスムーズに人波をかき分けて移動する能力が無いため、丸投げした次第である。さすがは、最前線で敵の隙間を縫って殴りまわっていただけあって、人波の切れ目を掻い潜る能力が高い。
「…ペッ! 命拾いしたな。じゃあ、B──じゃなくて、兄弟。さっさと処理しちまってくれ。潜入してきた人数を教えてもらおうじゃねぇか」
「おう、任せろ。昨日の様なアホな失態は、俺も御免だからな」
本日はぼっち参加者が6名発見され、テロリストも同数とっ捕まえたわけだが、もしかしたら他に五人一組で潜入した連中が居るかもしれない。現在、マチュアからの連絡は落ち着いているが、潜入してきた正確な人数が分からない限り油断はできないのだ。…普通ならば。
しかしながら、俺達には魔法と言うステキ洗脳術がある。今回は、昨日の失敗を糧に、奴らの知っている情報を搾り取ってしまおうという作戦を企てたのだ。尚、発案者は俺でもノーマンでもなく、天野である。
ノーマンは物理戦闘力に優れ、俺は魔導具や魔法を操る能力に優れているのだが、ブレーンとしてはガバガバと言わざるを得ないな。軍属のくせに、民間人に助け舟を出されるとは…。世間一般でいう学力が高くても、それを使うための頭が決定的に欠けている好例と言わざるを得ない。
まぁ、師匠曰く、「敢えてそういう風にした」らしい。下手に悪知恵が働いて、人の手に余る力を私利私欲のためだけに使われるより、非効率でもいいから愚直に育ってほしかったとのことだ。果たして、姉好きである俺は“愚直”と言えるのかどうか、甚だ疑問な所ではあるが…。
「さてと…。ほんじゃ、催眠魔法開始だ! ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる! 貴様らは今日、明日のテロリスト潜入人数を洗いざらい吐けっ!」
「「「「「はっ! 本日は、ここに捕らわれている6名で全員となります! 本日中に学園に被害が出なかった場合は、明日7人が潜入し、爆弾を仕掛ける予定となっております!」」」」」
「情報提供に感謝する! では、以降は引き渡しを行うまでここで過ごすがよい!」
凄くあっさりと人数が判明した。どうして俺達は、この方法を昨日思いつかなかったのか…。実に悔やまれる。
[現在、警戒態勢に入ってもらっている全警備員、演劇部員に告ぐ。テロリストを暗示に掛け、情報を探ったところ、本日潜入したテロリストは全部で6名。我々が捕えた数で打ち止めという事が分かった。警備員の皆さんは速やかに通常業務に移行してくださって結構です。演劇部員の皆さんは警戒態勢を解き、学園祭を楽しんで下さい。以上、大立ち回りの時間まで解散とします!]「よっし、ノーマン。今日の分は全員とっ捕まえ終わってるみたいだし、怪人スーツはステージ裏の控室に置いて、俺達は学園祭を楽しもうぜ!」
「了解、BB!」
「「俺達の学園祭はこれからだっ!」」
こうして、テロ警戒態勢に入っていた俺達は、学園祭二日目にしてようやく学生らしく楽しめる時間を作ることができた。
「──ハズだったのに、どうしてこうなった?!」
「BBが想定していたよりも、顔が割れてたってことだろ!」
「人を“あしゅら男爵”みたいに言うなっての!」
「あいつは顔どころか身体ごと割れてんじゃねぇか! っていうか、そもそも意味が違ぇっ!」
「「「「「待ってぇぇぇ! さゆりんとの関係を詳しく聞かせろ~!」」」」」
遡ること数分前。
俺達は怪人スーツに自爆用の仕掛けを施し、ステージ裏の控えスペースをあとにした。控えスペースに通じるオートロックの扉に鍵がかかった事を確認し、「さぁ、遊びに行こう!」と振り返った矢先、ヤツと目が合ってしまった。
『特徴的な眼鏡フレームとその顔立ち…。あ…、さゆりんの幼馴染の男子生徒じゃないか!』
昨日、俺と莉穂姉の甘い一時を邪魔した網谷ファンの男に見つかってしまったのだ。
ちなみに、そのあと起きたことをダイジェストで表すと以下の通りである。
“『おぉい! 例の男子生徒が見つかったぞ~!』 網谷ファンAは大声を上げた”
“網谷ファンBがあらわれた”
“網谷ファンCがあらわれた”
“網谷ファンDがあらわれた”
“網谷ファンEがあらわれた”
“網谷ファンFがあらわれた”
“渉達は逃げ出した”
俺達はすぐさま学園の西側──ヒリゾ浜方面へ走ったのち南へと進路を変え、プライベートビーチへと逃げ込んだ。何しろ、東側に網谷ファンの防衛網が張られてしまったので、人口密度薄めの北側──学園寮のある方向か、西側くらいしか選択肢が無かったのだ。南側はステージがあるため、控スペースに繋がる扉が邪魔して逃げ場がなかったし…。
ビーチに逃げ込んだ理由は、粒子の細かい砂の上を走る事で、追手の体力を消耗させ引きはがそうと考えたからである。残念ながら、ファン達にも意地があるようで、俺達の背後にギリギリ貼り付いている状態をキープしているが…。
ちなみに、ヒリゾ浜に逃げようとすると、高低差がガンダム一機分はある急斜面を下る必要がある。俺達だけならなんとかなるが、網谷ファンの連中が真似でもしたら、怪我どころか死人が出かねないという理由から却下せざるを得なかった。
「くっそ! あからさまに人間離れした速度を出すわけにはいかないとはいえ、あいつらなかなかしぶとい!」
「くっ! コレが男色用AVの撮影だったら面白かっただろうに…」
「いや、それは純粋に恐怖心しか湧かないんだが?!」
ったく、これだからジェンダーフリー(超誤用)は困る。ノンケの身にもなって欲しいものだ。
「仕方ない…こうなったら、BB! 最後の手段だ!」
「『最後の手段』って、何をする気だよノーマン。……ハッ、まさか?!」
決意に満ちた表情をしたノーマンが言う“最後の手段”。これは恐らく、映画やアニメとかで聞く機会の多いあの手段の事ではないだろうか。
そう、「ここは俺に任せて先に行け! なぁに、心配するな。すぐに追いつく!」と言うアレである。
ノーマンのヤツ、狙われているのが俺だけだと悟って、自分が時間稼ぎをしようと…。すまない、ノーマン。そして、ありがとう。姿を晦ませられる場所に避難できたら、すぐに魔力通信で知らせる。それまでどうか、うっかり死人を出さないよう持ちこたえてくれ。
「ここはBBに任せて先に行く! なぁに、狙われてるのはBBだ。俺は逃げ切れる!」
「………お前、俺の感動と感謝を返せよ」
「大丈夫。BBなら、無事に逃げ切れると俺は信じてるぜ。それじゃあ、お先に! バイバイキ~ン!」
「ちょっ……ノーマン!? マジかよ。本当に行っちまいやがった…」
ノーマンは漫画の様な砂煙を上げながら猛ダッシュした挙句、2m強の高さがある芝生状の斜面を駆け上がり校舎側へと消えて行った。上から俺達の様子を見物していた数名の野次馬たちが、ポカンとした表情でノーマンの走り去った方向を見ている。
人間離れした加速だったが、録画していた人物が居なかったのは幸いだった。まぁ、ネット上にアップされても、合成か何かだと思われるような非現実な光景だったろうが…。
背後にいる追手の様子を見てみたが、彼らも呆然とした状態で立ちすくんでいた。
「……よし、今がチャンスだな!」
俺は超高校級の加速でビーチを駆け抜け、校舎とビーチの間にある斜面に設置された階段を駆け上がり、“関係者以外立ち入り禁止”と札のかかった教職員棟の2階へと滑り込んだ。
一息ついてマチュアに状況確認してもらったところ、俺達を追っていた網谷ファン達は、俺が猛ダッシュしたあたりで正気を取り戻したそうだ。しかし、あまりの距離の差から追う事を断念。今は三々五々に散り、それぞれ学園祭を楽しむ方向にシフトしてくれたようである。
とりあえず、明日からは潜入してくる7名のテロリストと、そこら辺から湧いて出てくる網谷ファン達に警戒しながら過ごさないといけなくなってしまった。あとで認識阻害の腕輪を貸してもらえるよう手続きしておこう。
しかし、テロ対策は終わったというのに、学園祭を気軽に見て回ることもままならなくなってしまった。昼には少しばかり早い時間ではあるが、理事長室も目の前にあることだし昼食がてら中で休ませてもらおう。久々に本気で走り回ったから疲れてしまった。
コンコン──
『渉君でしょ? 開いてるからどうぞ~』
理事長室のドアをノックすると、由子お姉ちゃんの声で入室許可の返事がきた。
「失礼します」
ガチャ──
……って、あれ?
そういえば、なんで由子お姉ちゃんは俺が来たんだと分かったのだろうか?
この時、俺はもう少しその辺を考慮した上でドアを開けるべきだった。おかげで──
「「「「いらっしゃい。さぁ、楽しいランチタイムの時間よ」」」」
「なっ!?」
──心の準備も無いままに、コスプレ衣装に身を包んだ莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアといった美女・美少女4人の姿を拝む事になってしまった。
恐らく、俺とノーマンが怪人スーツを置きに行った時点で、お昼の準備をしていたのだろう。そして、網谷ファンに追い掛け回されて逃げてくるのを見計らって、もろもろのセッティングを終わらせたに違いない。何しろ、監視カメラを管理しているマチュア・コピーと連携を密にしているマチュア本体がいるのだ。もう、情報が筒抜けってレベルじゃねぇぞ。
「……はぁ…。そうだった、コスプレランチタイムが確定してたの、すっかり忘れてた…」
俺は瞼を閉じて視覚情報を一時遮断し、大きく一息吐いて興奮しかかった心を落ち着かせる。そして、誘惑に負けないよう、戦地に赴く気構えで理事長室に足を踏み入れるのだった。
毎度読んでいただきありがとうございます。
今更ですが、いつの間にかブクマして頂いている方が4名に増えていた事に気付きました。ありがとうございます。
“週一ペースでコンスタントに更新する”という点以外に、主だった取り得の無い作品ではありますが、完結に向けてこれからも頑張ります。
次回も金曜日の更新予定なので、お暇でしたら宜しくお願いします。




