第09話 - 学園祭一日目アフター ~晩御飯時の一幕~
前回のあらすじ。
「参加者が全員帰り終わるまでに、テロリストが行動を起こすかもしれない」そう思っていた渉達の気合は見事に空回りし、何事も無く参加者は全員帰宅した。
肩透かしを食らった状態となったが、捕まえたテロリストを軍に引き渡すこともでき、渉達は無事に一日目を乗り切ったのだった。
今日は学園生活始まって以来、初めて“渉と二人きりのデート”をしたと思う。久しぶりに、満足のいくデートと言えた。
中学生時代であれば毎日が同居生活だったし、二人だけでデートするなんて普通の事だった。けれど、私が進学してからは離れ離れの生活となり、デートする機会は格段に減ってしまった。それでも、年に何度かまとまった休みを持てるよう学園側がスケジュール調整してくれていたので、移動費に目を瞑れば地元に帰る事も不可能ではなかったのだ。ただ、限られた期間の中で二人きりのデートを楽しむというのが存外難しかっただけで…。
デートをしている際、たまたま友人に見つかってしまう。小学校時代の同級生に久々に装具する…などなど、そういった事がデートの度にちょくちょく起こったりしたのだ。
でも、そんな生活も私が高等部2年になれば改善されると信じ、一年間耐え続けた。なぜなら、私が入学した翌年から男女共学になる事が決定していたから。
渉が試験に落ちるなんて事は微塵も心配なんてしていなかった。あの子は、私の義弟になった時からそれはもう勉強も出来たし、可愛かったし、大人びていたし、ノーマン以外で太刀打ちできるような男の子は居なかったくらい。入試なんて、どうせ首席に決まっていると半ば確信していた。
この学園が、魔導具を用いて“魔力保有量”や“性格”を推し量った上で合否を出す事を知った時はかなり心配したけど…。
ちなみに、性格については一切心配してなかったわ。私が無防備な恰好で歩いたりして誘惑したにも関わらず、決して襲って来ることのなかったの紳士ですもの。それはもう、私の事を“女性として意識している”のか疑いたくなるくらいの紳士っぷりだったわ…。
だから、心配していたのは魔力の方。一般的に男性は魔力保有量が低く、神力精製量が高いという話を授業で聞いた時、「渉が入学できなかった際は転校も辞さない!」と心に決めた事は今でも鮮明に覚えている。結局、桁外れな魔力保有量を持って渉は入学したから、その決心はただの杞憂に終わったっけ。
……いいえ。いいえ! 今考えるべきは、そんな事じゃなかったわ!
「紗友莉ちゃん、ちょっとお話ししてもいいかしら?」
私は、食堂の一角で美希姉達と談笑していた紗友莉ちゃんに対し、圧を込めた笑みを張り付けて話しかけた。
その圧に驚いたのか、皆の妹ポジションと言える久恵ちゃんが少し涙目になってしまっている。悪い事をしたとは思うけど、紗友莉ちゃんと真剣に話しをしたかったからこその脅しである。あとで謝るけど、許してもらえるかしら…。
「えぇ、構いませんよ。どうぞ私の正面へ。“ライブ中の渉君との会話の件”ですよね? 絶対に来ると思っていたので、席を空けておきました」
紗友莉ちゃんはそう言うと、不自然に空いていた真正面の席を手の平で示した。その席の左右にはそれぞれ奈津美ちゃんと理事長が座っており、理事長の隣には科学的人造人間のマチュア先生が座っている。いずれも渉を狙う女性陣ばかりだ。
それにしても、少しくらいは怯むかと思ったのにケロっとしてるわね。さすがはトップアイドル。こういったやり取りには慣れているのかしら。
出鼻を挫かれたという思いを表情に出さないよう席に着くと、紗友莉ちゃんが突然頭を下げた。
「まずは、先に謝ります。すみませんでした。
今回は、完全に渉君の善意に甘える形になりましたし、何より、莉穂姉や奈津美ちゃん、理事長さん達の心に『新たなライバルが出現したかもしれない』といった不安を与えたと思います」
「……あれ? いま私、しれっと端折られなかったかしら?」
マチュア先生が何やら物申した気にしていたが、紗友莉ちゃんの話しを先に進めたいので聞かなかった事にする。
「いいえ、紗友莉ちゃん。そこに関しては全く心配していないわ。あなたが引っ越してからの6年間、薫君に自分を見てもらいたくて──忘れて欲しくなくてアイドル活動していた事は、私も奈津美も痛いほど知っている。簡単に渉に乗り換えるような女の子じゃない事くらい分かっているつもりよ?
付き合いが短いとはいえ、夏休み前から顔合わせしている理事長やマチュア先生も、そこについては心配していなかったんじゃないかしら?」
私がそう言うと、奈津美ちゃんと理事長、マチュア先生が首を縦に振る。それを感じ取ったのか、紗友莉ちゃんが顔を上げて少し安堵した表情を浮かべた。
「私が聞きたかった事はただ一つ。紗友莉ちゃんがどういう考えで渉を“薫君の囮役に選んだのか”という事よ」
「………」
私の言葉を聞き、紗友莉ちゃんが表情を引き締める。
「……莉穂姉は──いえ、皆さんの中で、最近の薫の行動をご存知の方はいますか?」
「「「「「…いいえ」」」」」
やや俯きながら、苦しそうに紗友莉ちゃんが問いかけてくる。私達はそんな様子に一瞬困惑しながらそれぞれの表情を確認し、全員心当たりがない事を読み取った上で一斉に首を横振った。
そもそも薫君や紗友莉ちゃんは、本来ならば秋葉原の高校に通う生徒である。伊豆の最南端に位置する籠月学園で、学園祭の打ち合わせ作業を行っている事が異常なのだ。私の実家に転移魔法陣があるからこうして一緒に居られるものの、帰宅したあとの行動などについては知る由もない。
「ここ2ヵ月ほど、薫はヒーローショーの打ち合わせのあと、私を家まで送ってから伊藤家に戻る…といった行動を繰り返していました。たまたまそれに気づいた私は、薫が何をしているのか調べたんです。そうしたら、伊藤家の転移魔法陣を使って群馬の研究所に入り浸っていた…という事が分かりました。
どうやら薫は、異世界ゲートに刻まれた魔法陣を魔法陣解析魔法で毎日コツコツと解析していたようなんです」
そこまで聞いた時点で、紗友莉ちゃんがなぜ今回のような行動を取ったのか、何となくではあるが察しがついた。それは奈津美ちゃんや理事長、マチュア先生も同様だったらしく、一様にやるせないといった感情が表情に現れている。恐らく、私もいま同じような表情をしている事だろう。
「薫は……ッ。薫は、渉君から『二次元に行くための魔法は無い』とハッキリ言われていたにも関わらず、諦めていなかったんですっ! 私が、『なぜ研究所に入り浸っているのか』と問いただしたところ、『異世界ゲートの仕組みをアレンジして、新たな魔法陣を作るんだ!』と、目を輝かせながら答えてくれました…」
「「「「「………」」」」」
私達の予想を裏付けるように、紗友莉ちゃんが悲痛な声で続ける。周りに居た美希姉達や、遠巻きに聞いていた生徒達もその胸中を聞いて居た堪れない雰囲気を纏い始めていた。
つまるところ、紗友莉ちゃんは焦っていたのだ。協力してくれると言うのであれば、幼馴染みすら囮役に選んでしまうくらいに…。
「分かる…。分かるよ! 紗友莉ちゃん! そんな状況になっちゃったら、もう、なりふり構っていられなくなるよね!」
「そうですね。謂わば、“私達にとっての伊藤さん”といった存在が、網谷さんにとっての異世界ゲートというわけですものね」
「私も、今日はなりふり構わない感じで積極的に渉を誘惑しましたし。貴女が渉を性的に狙わないと言う気が無かった事が分かっただけ、良しとしましょう」
共感するものがあったようで、奈津美ちゃん、理事長、マチュア先生の三人が、それぞれの言葉で紗友莉ちゃんを応援しだした。私は渉と相思相愛なので彼女たちとは共感できないものの、紗友莉ちゃんを応援したい気持ちは分かる。だから、私も今回の事に関しては、これ以上問い質さないでおこう。まぁ、始めから紗友莉ちゃんの真意を聞きたかっただけで、何か言いたいわけではなかったし…。
ただ、マチュア先生が「誘惑した」だのと不穏当な発言をしていたから、あとで問い質しておきましょうか。
紗友莉ちゃんの真意も確認できたので、渉達が戻ってくるまでアイドル直伝の魅力の上げ方など、情報交換や雑談などに費やした。まだ少し幼さの残る久恵ちゃんと、渉に精神系魔法の使い方を教授したという菜月さんの二人が、紗友莉ちゃんのテクニックを真剣に聞いている姿が可愛らしくて癒される。
尚、本日の菜月さんは、中学生くらいの見た目をキープしている。普段は部外者の視線が無いため、“年相応かそれ以上”といった外見になるよう老化魔法を調整しているので、子供っぽさを感じられる姿を見るのは久しぶりだ。渉に対してぶっきらぼうな口調で話しかける彼女だが、なんだかんだで気の置けない間柄といった雰囲気は感じるので、「実は変則的なアプローチを掛けているのでは?」と、気が抜けない女の子である。
「莉穂姉、皆、お待たせ。それと、戻ってくる途中で天野と合流したから一緒に連れてきたよ」
ややライバル視するように菜月さんを眺めていると、テロリストの引き渡しを済ませた愛しの義弟・渉(と、ついでにノーマン)が、なぜか薫君を連れて戻ってきた。
▲▽△▼△▽▲
テロリストの引き渡しが終わり、網谷に軽く文句を言ってやろうと心に誓いながら学園のゲートに着く。ゲート横の警備員棟から担当のお姉さんが出てきて、ゲートを開けてくれた。
俺とノーマンなら開けてもらわずとも飛び越えることができるのだが、俺達も一応軍属なので、こういった事は正規の手続きで入らないと行けない気がしてくる。あと、行儀が悪いし。
「そうそう、つい先ほど天野君も来たばかりなのよ。二人が戻るまで待ってるって言ってたから、呼んでくるわね」
そんな謎の一言を残し、お姉さんは奥に消えてしまった。警備員の中でも、ちょくちょく雑談する間柄の美沙都さんだったら気軽に呼び止めて詳細を聞き出せたんだが、今のお姉さんは会話頻度の低い人だったので聞くタイミングを逃した。
「なぁ、ノーマン。天野が来るって事、知ってたか?」
「いんや? むしろ、『BBが呼んだんだな』って、思ってたくらいだぞ? 明日の打ち合わせしつつ、晩飯を食うつもりなんだな…と」
「いや、打ち合わせはもう十分したから、わざわざ呼んでないよ。
しかし、これじゃあ網谷に小言が言えなくなっちまったな…。網谷を応援してる俺が、天野の前で好感度を落とすような発言をするわけにもいかんし…。もしや、それを狙って天野を呼んだとか?」
後半はほぼ独り言レベルで口に出しただけだが、横に居たノーマンにはバッチリ聞こえていたようだ。
「あるいは、単に薫と一緒に晩御飯を食べたかっただけだったりしてな」
「……あり得るな。前に網谷のヤツ、『昼間は一緒に食べる機会があるけど、朝晩はそれぞれの実家なのよね』ってぼやいてたし」
二人して「その線で間違いないな」というニュアンスで頷き合いながら暫く待っていると、先ほどのお姉さんと一緒に天野が姿を現した。ただ、心なしか天野の表情がゲンナリしている感じがする。
「よ、天野。なんかゲンナリしてる感じだけど、何か疲れる事でもあったか?」
「あぁ、家を出る時に『網谷に呼ばれたから、晩飯は外で食べてくる』つって出てきたせいで、母さん達が妙にテンション上がっちまってな。『今日はそのままお泊り? 明日の朝ご飯はお赤飯にしておく?』だの『避妊はちゃんとしろよ』だのと要らん事を言われながら見送られちまって…。
しかも、こっちに着いたら着いたで、警備員のお姉さん方から網谷との関係を聞かれたりして大賑わいだったもんだからさ…。いやホント、二人が早く戻って来てくれてマジ助かったよ。一人で寮に向かおうとしたんだけど、大隈さんっていったっけ? その人に『まぁまぁ、渉君達もそろそろ戻ってくるはずだし、二人が戻ってくるまでゆっくりしてって~』なんて足止め食らっちまうし…」
やはり天野は、網谷に呼び出されてきたようだ。いきさつを思い出したせいか、何となく天野の身体が煤けてるように見える。この学校、男が俺とノーマンしか居ないから、恋バナとなると俺らしかネタがないもんな。
天野は基本、網谷とセットで来ることが多かったし、すぐに演劇部まで移動してたから今日はタイミング的に餌食になってしまったんだろう。しかも、休憩中だった美沙都さんに捕まってたようだ。ご愁傷様としか言えん。あの人、弟が居るからか、何となく話しやすい雰囲気を持ってるんだよね。断ろうとしても、やんわりと引きとめるのが上手いし。
「ま、まぁなんだ。ここに居ても仕方ないし、ささっと食堂に行って一緒に晩飯にしようか」
「…あぁ」
こうして俺達は、若干煤けてしまった天野を元気づけながら寮へと移動した。バイキング形式のディナーなので好き勝手に取って良い事と、家庭部の料理の腕に関して色々と話している内に、天野も少し気が晴れてきたのか、食堂に着くころにはいつもの調子に戻っていた。
[いや、十中八九、BBの必死さに気を使っただけの空元気だと思うぞ]
黙って付いてくるだけだった外野は黙っとれ。
……というか、俺って考えてる事がそんなに表情に出やすいのかな。
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「──ってな感じで連れてきたんだけど、その反応からすると莉穂姉達も天野が来ることは聞いてなかったっぽいな」
「…えぇ。悔しい事に、私も『渉が明日の打ち合わせのために連れてきた』と思ってしまったくらいよ。まさか、ノーマンなんかと同じ発想だったなんて…」
「姉弟揃ってなんなの? 俺と同じ発想はそんなに屈辱なのか?」
「「うん、割と」」
「クソッ!」
俺と莉穂姉の反応に少し傷ついたのか、ノーマンが項垂れながら悪態を吐いた。そんな彼を、両隣に居るマージちゃんと篠山ねーちんがなでなでして慰めている。
俺達に文句の一つくらい言うかなと思っていたが、どうやらノーマンを慰められる状況になったことがお気に召したようで、二人してこちらにサムズアップしてきた。彼女らの喜ぶポイントがイマイチわからん。
「さて、ノーマンは二人に任せるとして…。今日の昼の件で、網谷に小言の一つでも言ってやりたかったがなぁ…」
俺はそうぼやきながら、天野と網谷が並んで夕飯を食べている姿を眺める。すると、莉穂姉が口元を隠しながら俺の耳元に顔を近づけ、待ったをかけてきた。
「その事については、許してあげて。私達も、さっき話を聞いたんだけど──」
莉穂姉は、俺達が来るまでに話していた内容を教えてくれた。
なるほど、確かにそういった事があったのなら、網谷が焦るのもわかるというものだ。認識阻害の腕輪を渡しているとは言え、この学園で修行したわけでもない付け焼刃の魔力操作技術だ。天野とのデートに夢中になりすぎて、腕輪への魔力操作が不十分になり周囲にバレる可能性だってある。そうなった時、簡単に天野にたどり着かせないためのマスコミ用囮として、俺に白羽の矢が立ったわけだ。
囮に選ばれた理由は予想通りだったが、天野が異世界ゲートに着目するとはな…。さすがに二次元ゲートへの改変は凄まじく難しいと思うが、師匠曰く「強い思念と、それに見合う魔力保有量があれば、実現不可能な魔法はそうそうない」って言ってたし、前例がないだけで不可能とも言い切れない。
「こりゃあ。明日、明後日と網谷には頑張ってもらえるようにしないといかんな。
……あ、そうだ。網谷と言えば……網谷ファンの乱入で中断されたけど、莉穂姉あの時“天野がトータルエクリプス島で言った提案の件”がどうのこうのって言いかけてたよね?」
あの時は莉穂姉の誤解を解いたり、その後の対応とかで聞きそびれたままだった。テロリストの件以外で、「何かやり残したものがある気がするんだよな」とは思っていたのだ。
「え? あ~……、ううん。何でもないわ、気にしないで。(あの時は、渉と二人きりになれて浮かれてたから、『この幸せを奈津美ちゃん達にも分けてあげたい』とか思っちゃったけど…。ごめんね、奈津美ちゃん、理事長、マチュア先生。私、もう少し渉を独占していたいの)」
「……? まぁ、莉穂姉がそう言うなら俺は構わないけど…」
こうして、俺の中に少し気になる点は残ったものの、特に問題も無く晩御飯時は過ぎお開きとなった。俺は部屋に戻る前に、明日の準備として1Fの物販コーナーで色々と購入。それらを俺達の部屋に設置されている冷蔵庫にぶち込んで床に就いた。
余談だが、夕飯後すぐに帰宅した天野は、母親から「デートなのに帰宅時間が早過ぎる!」と理不尽な文句を言われたらしく、メールにて「解せぬ」と愚痴を溢していた。俺はそれを翌朝になって気付き、「今日はもっと解せぬ事になるかもしれないから覚悟しておくといいぜ」とニヤニヤしながら返信することになる。
毎度読んでいただきありがとうございます。
先日、またもやぎっくり腰状態になってしまい、思った以上に執筆作業が辛い状態でした。本当は、学園祭二日目も投稿しようと思っていたのですが…。
次回も金曜日の更新できればいいのですが、ちょっと自信がありません。更新できなかったらごめんなさい。




