第08話 - 学園祭一日目終了 ~午後から夜の部~
前回のあらすじ。
トップアイドルである網谷紗友莉と、仲良さ気に会話するという状況をファン達に見られた渉。
莉穂との学園祭デートを楽しむつもりが、網谷ファンから目を着けられたせいで、人気のない場所で二人きりの時間を過ごさざるを得なくなってしまう。
しかし、良い感じの空気になっていた二人の時間は、渉を執拗に探し回っていた網谷ファンのせいで邪魔される事となる。
網谷との関係を疑われた渉は、誤解を解くべく莉穂の説得に励むのだった。
莉穂姉の説得に時間を費やしたために学園祭デートっぽいことはほとんどできなかったが、これだけ濃密な二人きりの時間は久々だったかもしれない。まだ莉穂姉が実家に居た頃ぶりだろうか…。
何にせよ、網谷の件について誤解が解けたのだから良しとしておこう。学園祭は、明日も明後日もあるのだ。まだ慌てるような時間じゃない。
つい先ほど17時を回ったので、そろそろ一日目はお開きモードに入る頃だ。
学園祭は、17:30からは参加者にすべての模擬店・出し物の終了を告げる決まりとなっている。18:00には参加者は全員帰宅して頂くようお願いしているので、トイレや身の回りのチェックなどを行うための猶予を儲けるためだ。
まぁ、毎年参加してくれている方々も多いので、この時間になると「最後にどこに寄っていくか?」という相談を行うグループの姿をそこかしこで見かけるようになる。
俺と莉穂姉はそんな人々の中を透明化ベルトで姿を隠しつつ、人にぶつからないよう壁沿いを歩いて移動していた。透明化ベルトを使っているのは、先ほどの網谷ファンの男性陣達と鉢合わせないようにするためである。
ちなみに、マチュアには、俺が莉穂姉の誤解を解いた旨を伝えている。もう下手な小細工をしないとは思うが、俺の目撃情報を耳にした網谷ファンが押し寄せてくる可能性が高い事を考慮し、このように秘密裏に移動しているわけだ。
透明化膜の範囲を突き破らないよう、やや中腰になりながら莉穂姉と身を寄せ合って移動するのは、“人目を気にしながら愛の逃避行をする二人”といった感じがして少しドキドキする。
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とくにアクシデントに見舞われることも無く大学棟を脱した俺達は、透明化したままテロリストを収容している倉庫へと移動した。
気絶させてからだいぶ時間が経っていたからか、捕えたテロリスト達は全員目を覚まし、口々に好き勝手叫んでいる。
「ここから出せ!」「俺達をどうするつもりだ!」「我々の教祖様が必ず貴様らに報復をしてくださることだろう!」
…などなど、前回までに来た連中に比べ日本語が堪能な方々ばかりだ。
たぶん、学園祭に潜入させるにあたり、認識阻害の魔法だけではカバーしきれなかった日本語を覚え込ませたんだろうな。教祖アリサは日本語ペラペラだったし…。
ちなみに、彼らが叫んでいる相手はノーマンである。両サイドにマージちゃんと篠山ねーちんという美少女を携え、テロリスト達が暴れている檻を見て暇つぶししていたようだ。…嫌がらせにもほどがあると思う。
まぁ、俺も他に行き場所がなかったからココに来たので、人の事は言えないのだが…。
俺は透明化ベルトを解除してノーマン達に話しかけた。
「三人もココに来てたんだな」
「……ん? おぉ、BBか。いや、こんな殺風景な所に来る気はなかったんだが、『一部の男性参加者が“この学園の制服を着た男子生徒”を血眼になって探してる』って話を警備員のお姉さん方から聞いてな。ご覧の通り俺は制服姿ではないワケだが、変に絡まれたくはなかったんでな。ココでテロリストの反応をみて暇つぶししてたんだ。…それでBB、一体何をしでかしたってんだ?」
「俺が“しでかした”風に言うのやめろや」
どうやらノーマンは、網谷がステージに上がったのを確認した時点でさっさとステージ袖から退散し、マージちゃん達と合流。そのまま学園祭を満喫していたらしい。そのため、二曲目の直前に、網谷がスピーカーを通して俺に話しかけたという事件を知らなかったようだ。
俺は、先ほど莉穂姉に話した内容をノーマン達に伝えた。
「BB、『なんでも協力する』なんて言っちゃダメだろう。相手が薫にご執心の紗友莉だったから良かったものの、マチュアや学園長相手にそんなこと言った日にゃ、貞操の危機だったぞ」
「失敬な。俺だって、誰彼かまわずそんな危なっかしい発言せんわ! 莉穂姉を含め、俺に気があると分かっている女性陣に対しては『俺が出来る範囲で』くらいの言い回しにするってんだ」
「ならよし」
「よくないわよ! 渉、なんで私にまでそんな警戒してるかのような対応するの?!」
ノーマンと俺とのやり取りに、莉穂姉が突如として異議を申し立ててくる。
「莉穂姉。俺は、学生のうちは学生として、ちゃんと教育課程を終わらせたいと思っているんだ。それは俺だけじゃなく、俺の恋人である莉穂姉にもそうして欲しいと思ってる。仮に妊娠しちまったら、日常生活が大変になるからね。勉学どころじゃなくなっちゃうでしょ?
いや、俺だってそりゃもう性的な事に興味深々だよ? でも、それに身を委ねてエロ本みたいな展開になっちゃったら、俺は絶対に歯止めが効かなくなる自信があるね! 今だって、“莉穂姉のおっぱいに埋もれながら過ごしたい”と思ってるくらいなんだから!
……コホン。とにかく、そういうR-18な展開になりそうな危険を孕む発言は、有言実行をモットーとしている俺としては、安全マージンが取れる相手でもないと迂闊に言わないようにしてるんだ」
「渉…。私の身体の事まで考えて…。ステキッ! 抱いて!」
「「「「「俺達の前でイチャついてんじゃねぇっ!」」」」」
莉穂姉の言葉とは裏腹に、むしろ莉穂姉の方から俺に抱き着いてきていると、一部始終を見せられていたテロリスト達が綺麗にハモって吼えた。そりゃもう、心の底から怨嗟の乗ったような叫び声で吼えていた。
まぁ、気持ちは十分に分かる。目の前でバカップル共がイチャついてたら、地団駄踏んで叫びたくなるよね。誰だってそうする。俺だってそうする。
だが俺は、莉穂姉の好感度が上がる限り、イチャつくのを止めない!
それに、彼らの恨みつらみといった感情は、この学園地下に刻まれている巨大魔法陣に溜められ、教祖アリサと俺達の師匠が目標としていた“儀式”とやらに使われる予定なのだ。煽るだけ煽って、エネルギー蓄積に協力してもらおうじゃないか。
「俺だって、いつか功績が認められて教祖アリサ様の寵愛を受けたいと…」
「はぁ?! ゆとり乙! 教祖様はお前みたいなガキを相手にしねぇよ!」
「左様。あのムッチリど助平ボディは、拙者のごとき大人が楽しむべきものよ」
「「黙れアラフォー風情が!」」
「何をっ!? ようやく一皮剝けたばかりの小童の分際で!」
「「ほ…ほほ、包茎ちゃうわっ!」」
何か、テロリスト同士で勝手にもめだした件。一体どんな日本語練習したら、こんなオタクな会話が出来るようになるのだろうか。どうでもいいことではあるが、地味に気になる。
それにしても、教祖アリサか…。通信機越しでしか会話した事はないが、声からして“若い”とは思っていた。彼らの発言を聞く限り、実際に若々しい見た目をしているようだ。ただ、師匠との昔からの知り合いという話ではあるし、実年齢は少なく見積もっても80歳前後の老婆だと思うのだが…。
やはり老化抑制魔法をフル構築魔法式で発動させて、定期的に若さを保っているんだろうか。だとしたら、かなりの魔力保有量を有しているということになるな。
老化抑制魔法は、一度発動させれば一ヵ月程度は効果が持続する。しかし、“実年齢と、若返らせたい見た目との年齢差”が大きければ大きいほど、一度に使用する魔力量がバカみたいに増えるのだ。故に、ある程度年齢が増えると、若返らせる事のできる限界がくる。
魔力は、放っておけば身体が勝手に大気中のエーテルを吸収するので回復は容易だ。だが、若返らせてから魔力回復したからといって、更に追加で若返らせるのは事実上不可能と言っていい。なぜなら、魔力消費に関わってくるのはあくまで“実年齢”が基準となるからだ。つまり、魔力保有量の限界値が多くなければ、若返らせられる年齢の限界は変わらないというわけである。
ちなみに、フル構築魔法式ではない老化抑制魔法の場合、実年齢によって下げられる上限が決まっている。これは、セーフティとして師匠が頑張って設定した対応策である。
例えば、18歳の卒業生が魔力保有量の限り若返らせようとした場合、新生児レベルにまで若返ってしまう可能性があるのだ。まぁ、記憶まで失うという事は無いのだが、体が一気に縮んでしまうので大怪我に繋がる危険がある。
そこで、本来であればブラックボックス扱いのこの魔法に関しては、師匠が大気中のエーテルに働き掛け、“老化抑制魔法に関しては、10代であれば-3歳まで、以降10代歳が上がるごとに3歳ずつ下げられる年齢幅を増やす”というイメージを練り込んで簡易魔法式を無理やり創り上げたらしい。
余談だが、火炎魔法などの魔法式は、ベースとなるフル魔法式から設定内容を省いた形になるので、簡易式にもフル魔法式の一部が残ることになる。しかし、老化抑制魔法だけは、簡易式とフル魔法式で構造が全く別物と言えるものになっていたりするのだ。
さて、話が脱線してしまったので、教祖アリサの考察に戻そう。彼女が仮に実年齢80歳だとして、『ムッチリど助平ボディ』だのと言われるくらいだから、20代から30代の見た目だと思われる。
学園の卒業生では、簡易式の老化抑制魔法で15歳程度若返らせるのが限界だったという実験結果がある。ちなみに、この実験に協力してもらったのは、当時82歳だった魔力保有量多めのご婦人だそうだ。最大で-24歳まで若返られる計算になるのだが、そこに届かなかったわけである。
俺の師匠や、師匠の妹である菖蒲さんは、フル魔法式の老化抑制魔法を使って-40歳オーバーの若返りを行っていたが、これは規格外の魔力保有量を有していたからできた芸当なのだ。
つまり、教祖アリサは、彼らのように“規格外な魔力保有量を有している”可能性が非常に高い。まぁ、俺もノーマンも、その規格外な保有量を持ってはいるのだが…。
もし万が一、教祖アリサと戦う場面があったとしたら、相手の魔力切れを狙うと言った戦法は通じないだろう。さっさとノーマンに丸投げするに限るな。
「ねぇ、渉。なんだか収集つかない感じだし、前みたいに催眠魔法で大人しくさせた方がいいんじゃないかしら?」
「ん~…。そうだね、騒がしいだけだし、一度大人しくしてもらっちゃおうか」
制限時間ギリギリまで事を起こさないテロリストが居るかもしれないから、そいつらも捕まえた上で一気に…と考えていたのだが、これを放置していても鬱陶しいだけだし、莉穂姉の提案を受けよう。
夏休み中、精神系魔法の得意なマジカルゆかりん指導のおかげで、俺の催眠魔法はかなり精度が上がっている。そんなわけで、テロリストの皆々様方には催眠魔法を食らって頂き、サクッと大人しくなってもらった。
『まもなく、閉園の時間となります。一般の参加者の皆様は、18時までに学園ゲートを通過いただきますよう、ご協力をお願いいたします。尚、学園内の模擬店につきましては、ただ今を持ちまして全ての営業を終了させて頂きます。どなた様も、お忘れ物がございませんよう、お荷物をご確認ください。
くりかえし、ご連絡いたします。まもなく──』
俺がテロリストに魔法をかけ終えた直後、倉庫内のスピーカーから退園を促す放送が流れ始めた。学園内にテロリストが残っているとしたら、ここら辺で最後の悪あがきをする頃だろう。多くの人が、最後にトイレに寄ったり、帰宅前の荷物チェックをしたりと他人への関心が薄れる状況だからな。爆弾を仕掛けるなら、ランチタイムと網谷のライブを除けば、この時間帯がベストなはず。
「ノーマン、透明化ベルトの準備は?」
「もち、装着済みだぜ!」
「よしっ! じゃあ、マチュアからの報告があったら即座に動けるよう、心の準備だけだな」
「おうよ! どっからでも掛かってこいって状態だぜ!」
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「──はい。沖中将経由で窺っていた通り、テロリスト7名の引き渡し、確かに承りました。伊藤特佐、野間特佐、どちらでも構いませんので、確認のサインを………お二人とも、どうかしましたか? 若干疲れているように見受けられますが?」
「いえ、大したことじゃありません…」
「ちょいと、肩透かしを食らっちまって…」
「……肩透かし?」
現在時刻は19:20過ぎ。結局あの後、二人で最後の残党狩りのためにアップしていたというのに、何事も無く18:00となり、捕まったテロリスト以外の参加者は全員退園して送迎バスで帰って行った。
結局、昼までに捕まえた7名以外、潜伏していたテロリストは居なかったのだ。
ステージでヒーローショーをやっている最中や、網谷のゲリラライブ中に事を起こす連中が居てもいいように、ヒーローショーに参加していなかった演劇部員、警備員、マチュアによる監視をしてもらうという二重、三重の監視体制を取っていたが、その時間中も何も起きなかった。いや、無事泰平なのはとても良い事なんだけどね。
そんなわけで、帰り際のテロリスト対策に気を張っていたのだが、怪しい行動を取る人物も出ることなく、今俺達はテロリストの引き渡し作業を行っている。
ちなみに、引き渡し場所は学園のプライベートビーチである。一応、マチュアに軍事衛星経由で周囲の覗き魔確認を行ってもらい、特に人目も無いという事は確認済みだ。
今回は、4月の騒動の時とは違い、わざわざ大佐や中佐が受け取りに来てくれるという事は無く、目の前の軍人さんも年若い軍曹だった。
「えぇ、ちょっとした肩透かしです。まぁ、それはいいとして…。サインの方ですが、私、伊藤が行います。任務、ご苦労様でした」
「……はい、確かに。お二人とも、本日は任務、ご苦労様でした。明日、明後日とも私が受け取りを担いますので、宜しくお願いします」
「了解」「了解」
以前と同様、エア・クッション型揚陸艇に乗せられたテロリスト達は、無事にドナドナされていった。あばよ、洗の──いや、催眠直前までアホな言い合いをしていたバカ野郎共。先に収容されている36人と仲良く農林業に励むがいい。
「さて、引き渡しも無事終わったし──」
「あとは寮に戻って晩飯…ってとこか、BB?」
「──あぁ。晩飯を食いながら、網谷に文句の一つは言っとかんとな」
「あ、一応、文句は言うんだな」
そりゃあ、お小言の一つくらいは言いたくもなるさ。今日は、俺達と一緒に2Fの食堂で食べる予定だもの。文句を言えるうちに言うべきでしょう。
まぁ、網谷の発言のおかげで、莉穂姉と二人きりの時間を過ごせたのは大きな収穫だった気もするが、それはそれ。あの後、地味に面倒だったので愚痴の一つは言わせていただきたい。
かくして、学園祭一日目が無事に終了した。
個人的には、網谷ファンの間でどういうやり取りがされているのか、明日以降“無事に過ごす”ということが出来るかどうか怪しい状況ではある。だがまぁ、制服ではなく私服でうろついてれば誤魔化せるだろう。
それに、網谷ファンから目を着けられなかったとしても、どの道テロリストにちょっかいを出される状況であることに変わりはないのだ。俺達はただ、今までと同じようにやれることをやるだけである。
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日の更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




