表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクウィザードとデコソルジャー  作者: 夢見王
第五章 夏休み? いいえ、学園祭です
92/141

第07話 - 学園祭一日目 ~午後の部・莉穂姉とデート~

前回のあらすじ。

 ヒーローショーはぶっつけ本番のアドリブを交えたものとなったが、おおむね予定通りの流れで終了させることができた渉と俊之。

 そしてその直後、誰も予想していなかったトップアイドル網谷紗友莉の登場により、ステージは熱狂の渦に包まれる。

 かくして、網谷のゲリラライブが突如として幕を開けるのだった。

 観客の熱狂的な声援と、スピーカーから流れる曲をBGMに、網谷が1曲目を歌い終える。

 無事に曲が始まったら、さっさと莉穂姉の教室まで向かおうと思っていたのに、すっかり見入ってしまった。普段は天野に対し、過剰な“好き好きアピール”をして据えなくあしらわれている網谷だが、こうしてついつい引き込まれてしまう魅力を持ち合わせているあたり、流石はトップアイドルと言ったところか。


「それじゃあ、続いて2曲目──の前に、改めて……みなさ~ん、こんにちわ~。アイドルをやらせて頂いてます、網谷紗友莉で~す」

「「「「「うおぉぉぉ! さゆりん! さゆりん!」」」」」

「わ~。みんな! 応援ありがと~」


 改めてステージの外を見てみれば、ライブを聞きつけた他の参加者達がわんさと集まっていた。わずか5分足らずで、広場の外周まで人でビッシリである。

 いつの間にか演劇部員達が戻ってきて、ステージ前の段差がある辺りで人間バリケードを作っていた。着替える時間が無かったようで、まだ先ほどのコスプレ衣装のままだ。おかげで、少しばかり迫力がある。特に、“スケバン刑事デカ”コスの部長と、“セーラー服と機関銃”コスの副部長なんかは…。


 さて、機材の動作も確認できたし、行き過ぎたファンがステージに上がる…なんて事故も防げそうだ。演劇部員達には申し訳ないけど、俺も莉穂姉との約束があるからここらで失礼させてもらうとしよう。

 今度、演劇部員には何らかの形でお礼をしておこうと心に決めつつ、俺は魔力通信で網谷にエールを送り退散することにした。


[網谷。天野は二次オタだから現実の女性(・・・・・)からすれば強敵以外の何者でもないが、“幼馴染”で“アイドル”なんていう強い属性を持っているお前は、他の追随を許さない程のアドバンテージを持っている。明日、明後日は確実にお膳立てするから、是非とも天野攻略を頑張ってくれ! 俺にできる事なら、なんでも協力させてもらう。

 じゃ、俺は行くところがあるから、これで…]


[ありがとう、渉君。協力してもらう際は、遠慮なく頼らせてもらうわね]


 横目でこちらへ視線を向けた網谷に軽く手を挙げ、俺は控スペースで怪人スーツを脱ぐ。既にノーマンの方は脱ぎ終わって退散していたようで、スーツが畳まれて置いてあった。

 表へ出る前に、扉の前で網谷の出待ちをしているファンが居ないかを確認する。扉の隙間から覗くと、“関係者以外立ち入り禁止”と書かれたステッカーを貼っていた効果か、はたまた網谷が立っているステージに意識が集中しているからか、周辺は閑散としたものだった。

 よし、少なくとも網谷のファンに囲まれてフルボッコにされる心配はなくなった。まぁ、夏休み期間中、ちょくちょくノーマンの遊び相手をさせられていたおかげで、一般人が何人集まろうと負ける気もしないのだが…。


 俺は足取りも軽く、高等部校舎へと移動する。

 控えスペースと通じる扉は、暗証ボタン式のオートロックとなっているので、見張りを立てる必要もないだろう。

 さて、莉穂姉と合流したらどうしようか。一緒に網谷のライブを見るってのもありだが、折角だし学園祭ならではのデートを楽しみたい。

 二人でタコ焼きを分け合ったり、頬についたソースを互いに取り合ってラブラブしたり……うむ、実に夢が広がる。いやしかし、昼に食べた量が多かったのか胃袋が重い気もするな。食えたとしてタコ焼きかお好み焼きのどちらか一つくらいだろうか…。

 くそっ、大立ち回りすれば小腹も空くだろうと高を括っていたのだが、見積もりが甘かったようだ。


『あ、渉く~ん!』


 莉穂姉とどうイチャイチャしようかと考えながら校舎に入ろうとしたとき、ステージ上の網谷から突然声を掛けられた。そう、声を掛けられたのだ。スピーカー越しに…。

 何故このタイミングで、魔力通信を使わずに俺を呼んだ?


「「「「「………」」」」」


 恐る恐るステージを振り返ると、満面の笑みで手を振る網谷の姿が見える。

 そして、そんな網谷を無言で眺めたのち、俺に怒気を込めた視線を向けてくるファン達とバッチリ目が合った。


「……ごくりっ」


 無意識に喉が鳴る。

 一体、網谷のヤツは何を考えているんだ…。


『今日は、楽しいステージを用意してくれてありがと~。また何か楽しい企画があったら、遠慮なく誘ってね~。幼馴染なんだし♪』

「んなっ!?」

「幼馴染だと?!」「アイツが?!」「うらやまけしからんっ!」


 俺の驚きの声と同時に、こちらを見ていた観客がざわめき出す。


[ごめんね、渉君。さっきの協力してくれるって話、早速使わせてもらうわね]


 網谷の言動に胸中で悩んでいると、本人から魔力通信が飛んできた。


[いや、協力するとは言ったけど、俺達の間柄をバラしたところで、俺にヘイトが集まるだけじゃないか。これで何をどう協力しろと?]

[こうやって、渉君にファン達の視線を長期的に集めさせてもらうの。そうすれば、万が一、私が薫と一緒に居る姿を見られても、情報を攪乱させやすいと思って…。

 それに、渉君は基本的に籠月学園から外に出ないでしょ? 嫌がらせをしたくても、そう簡単にファンは手を出せないわ。……まぁ、この学園祭期間中についてはアレだけど…。でも、逆に莉穂姉と二人っきりになる口実になるんじゃないかしら? 安全のために退避する的な感じで。午前中はテロ対策用に怪人スーツ着てるし、バレる事はまずないじゃない?

 急な思い付きで本当に申し訳ないけど、協力して欲しいの!]


[くっ…、確かに「なんでも協力する」とは言ったが、まさかファンのヘイト集めとして使われるとは…。はぁ、しゃーない。俺も腹をくくるとしよう]


 ちなみにこれは、わずか0.5秒間でのやり取りである。

 魔力通信の利点は、かなり長い情報量でも瞬間的にやり取りが可能な点と言えよう。まぁ、精神感応魔法テレパシーを簡単に使えるように補助してるだけだから、優秀なのは精神感応魔法テレパシーなんだがな。


「どういたしまして~! また何かあった時は、お言葉に甘えて声掛けさせてもらうよ~!」


 俺は網谷の思い付きに乗り、親しい間柄を演じながら大声で手を振って応じる。ここ最近の演技の練習が、思ってもみなかった場面でかされたでござる。


『お願いね~♪

 ……さぁ、それでは2曲目、気合入れて行っくよ~!』


「「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」」


 網谷が上手く注意を誘導してくれたおかげで、ファンからの怒気交じり視線が外れる。今のうちに、莉穂姉のもとへ撤退だ。

 俺は全力で莉穂姉のクラスへと向かった。



  ▲▽△▼△▽▲



「いらっしゃい、渉。待ってたわ──って、凄く疲れてるみたいだけど一体どうしたの?!」


 メイド喫茶の控えスペースに駆け込んだ俺を見て、莉穂姉が喜びから一転、驚きの表情を浮かべる。


「はぁ……はぁ……い、いや、ちょっとばかしデコイを頼まれちまったんで、急いで来ただけ。

 ……と、それはともかく……莉穂姉! 今日はこのあと、クラスに戻らないといけない用事とかある?」


「え? え~っと…、確か大丈夫だったと思うけど……」

「そうね。お客さんもだいぶけたし、今日はもう上がっていいと思うわ。莉穂は朝から出ずっぱりだったしね」


 自信なさげに言う莉穂姉を見かねてか、クラスメイトの一人が了承してくれた。

 そうと決まれば、善は急げである。


「ありがとうございます、先輩! 莉穂姉、行こう。できれば急いだ方が良いから、すまないが着替えは後回しで」

「え?! でも、この恰好だと移動しづらいし、ちょっと恥ずかしいと言うか何と言うか…」


 莉穂姉はそう言うと、ほんのりとほほを染めて伏し目がちにもじもじし始めた。…どうしよう。可愛い、尊い、抱きしめたい。


「よし分かった。なら、俺が莉穂姉を抱えて移動しよう。これなら問題ないでしょ? じゃ、そういうわけで、早速失礼して…っと」

「きゃっ?!」


 俺は有無を言わさぬ勢いで、さっと莉穂姉をお姫様抱っこする。莉穂姉の香りが鼻腔をくすぐり、なんとも言われぬ幸福感が脳内を支配した。

 考えてみれば、学園祭が始まる前に軽くおしゃべりして以降、侵入したテロリストを捕えて運んでの往復。やっと迎えた昼休みに至っては、由子お姉ちゃんを始めとしたコスプレ美女・美少女三名の誘惑を耐えつつ昼食を摂り。最後には、網谷のゲリラライブの前座として大爆発…と、おおよそ癒しとは無縁の工程であった。

 つまり、俺が莉穂姉の体臭を嗅いで幸福感に包まれているのは、単に脳が疲れているからであり、俺が度し難い変態という訳ではないのだ。これは生物として仕方のない自衛反応。そう、不可抗力と言うやつだ。


「ね、ねぇ、渉? 何と言うか、これはこれで恥ずかしいような、嬉しいような…」

「少なくとも嫌じゃないでしょ? すまないけど、少しだけ我慢してね。できるだけ早く移動するから

 …じゃあ、先輩。すみませんが、莉穂姉をお借りします。参加者が全員帰宅したあとにまた戻りますので、それまで頑張ってください。では、失礼します」


 俺は、莉穂姉の離脱許可を出してくれた先輩が苦笑混じりに頷いたのを確認してから退散する。

 クラスを出る時に、雑談をしていた奥様方から軽い冷やかしを受ける事になったが、今はそれすらやや心地よい。何しろ、“莉穂姉が俺の彼女である”という事を、公然と見せつけている様なものなのだ。いつもは学園内の友人・知人ばかりなので、少しばかり愉悦を覚える。

 そんな感じで莉穂姉をお姫様抱っこしながら校舎内を颯爽と移動したあと、外に広げられている模擬店からフランクフルトとタコ焼きを購入。購入の際は、俺の両手が塞がっていたので、莉穂姉に俺の生徒カードを出してもらい、チャージ残高から支払を済ませてた。

 学園祭で物を買うのは外部の参加者が殆どなので、主なやり取りは現金がメインである。しかし、生徒も気軽に購入できるよう、生徒カードによる取引用機材を一クラスに一機ずつ貸出しているのだ。


 小腹を満たせる軽食も準備できたので、莉穂姉を抱えたまま大学棟へと早足で移動する。

 位置関係上、網谷のライブステージから遠い建物が大学棟である。そして、未使用教室にまで移動し、参加者が全員退去するまでキャッキャウフフするのだ。

 俺の顔を覚えているであろう連中が──というか、籠月学園の制服を着た男子生徒って俺しかいないから確実に覚えられてるハズなので、網谷のファンがうろついている中ではまともに身動きがとれない。すなわち、この莉穂姉と二人っきりで食べさせ合いっこするのは、最も合理的で俺の精神にも優しい行動なのである。


 ちなみに、ノーマンは本日も相変わらず黒いタンクトップにミリタリー柄の長そで長ズボンのセットを着ている。もはや、アイツが制服を着ていると違和感を覚える…という意見まで出始めているのが現状だ。

 そんなわけで、俺たち二人はただでさえ目立つ男子生徒という存在でありながら、服装だけで個人が特定されてしまうという特徴まで持っていた。

 あれだけの目撃者が居たのだ、何人かはSNSに書き込んでいる可能性もある。俺の顔を伏せた写真を掲載していても、ちょいちょい籠月学園を覗いている連中が目にしてしまえば一発で俺だと特定される事だろう。「なんでも協力する」とは言ったが、もしかしたらテロリストを相手にするよりよっぽど面倒な事態になったかもしれん。

 まぁ、あくまで“対処が面倒”なだけであって、“どうにもできない”ってわけじゃないから、大した問題ではない。時間だってあるし、最前線で活躍してた時期のノーマンの無茶振りに比べれば可愛いものだ。


「ねぇ、渉?」


 俺が一人で色々考えていると、並んで座っていた莉穂姉が俺の肩にコテンと頭を預けてきた。ついでに、腕を絡めながら胸を押し付けてくるので、色々と反応してしまいそうになる。

 ちょっと、素数を数えて落ち着いとこう。そうでもしないと、莉穂姉を押し倒してしまいそうだ。


「……どうかした? 莉穂姉?」

「ん~ん。…ただ、『こうして静かな場所で二人っきりで居るのって良いわね』って、思っただけ…。4月のテロ騒動以降、こういう時間が取れなくなっちゃったでしょ? 奈津美ちゃんや理事長、マチュア先生が絡む様になっちゃったから…」

「あ~……そうだねぇ…」


 つい三時間ほど前に、お色気波状攻撃を仕掛けてきた三人の姿が脳裏に浮かぶ。……うん、確かに落ち着かない事態になるね。彼女らも本気で攻めてきているから。


「あのね、渉。夏休み前に薫君が言ってた“提案”だけど、もし渉が嫌じゃなければ、お姉ちゃん奈津美ちゃん達と一緒でも──」


 ガララッ──


「………クソッ! ここが最後の部屋だぞっ! どうして何処にも居ねぇんだっ?!」

「『メイドをお姫様抱っこしながら大学校舎に入ってった』っつぅ目撃証言があったから、ここに居ると思ったんだがなぁ…」

「もしや、何食わぬ顔で大学校舎内の出し物を楽しんでいるのでは?」

「いや、ワンチャン、屋上って選択肢も考えられるぜ!」

「…チッ! また入口側からやり直しした方が良さそうだな。もう一度、手分けして探すぞ! 俺達のさゆりんとあんな親しげに話してたんだ! いくら幼馴染だからって怪し過ぎるぜ! 本人の口から詳しい関係を聞き出さなきゃ気が済まねぇっ! 行くぞ、野郎ども!」

「「「「「おーーっ!」」」」」


 ピシャン──


「「………ぷはっ! ビックリしたぁ…」」


 今来たのは、先ほど網谷のライブを見ていたファンの一部だろう。ライブが始まってから小一時間くらい経っているから、終了直後に慌てて俺を探しに来たに違いない。

 まぁ、口ぶりから察するに、問答無用で殴りかかってくるなんていう肉体言語人間じゃないみたいではあるが…。

 なんにせよ、折角の莉穂姉とのイチャイチャタイムだ。面倒事は極力スルーしたい。

 それにしても、念のため透明化ベルトを装備してて良かったぁ。扉が開ききる瞬間、間一髪で透明化膜を展開できたから、なんとか誤魔化す事に成功できたぜ。

 しかし、マチュアから敵接近の報告が来なかったのは一体──


[チッ! もう少しで網谷ファンからの情報を聞いた莉穂が、渉に愛想を尽かして修羅場る予定でしたのにっ! そして、傷心の渉を、私の本体が優しく癒して差し上げる予定でしたのにっ!]

[──わざとかいっ!]


 つか、怖っ!

 俺に対する莉穂姉内の好感度を落としにかかるとか、マチュア怖っ!

 何コイツ、将来人類に反旗をひるがえすスカイネットみたいになったりしないよな?


「ねぇ、渉?」


 先ほどの甘い雰囲気とは違い、どことなく冷たさを秘めた莉穂姉の声が俺を現実へと引き戻す。


「な…なにかな? 莉穂姉?」

「さっきの人達が言っていた『紗友莉ちゃんと親しげに話してた』って言うのは、どういう事なのかしら?」

「痛たたたた!? ちょ…莉穂姉、痛い! 柔らかいのに痛いよっ?! 待って、ちゃんと説明するから待って! 確実に誤解だから落ち着いて莉穂姉!?」


 その後、網谷の狙いを含め、俺と網谷とのやり取りを根掘り葉掘り聞かれ、完全に誤解が解けるまで2時間ほどの時間を要する事となった。

 莉穂姉とイチャイチャしていた時間よりも、説明に掛かった時間の方が長いという切ない日となった。

 でも、嫉妬していた莉穂姉もイイと思えたので、総合的に見れば俺得と言える時間だったかもしれない。

毎度読んでいただきありがとうございます。


次回も金曜日の更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ