第09話 - 決戦前の打ち合わせ
今更ですが、“事件”“事態”“仕事”といった単語に置き換えられる場合は“事”と漢字表記。
その他の場合は“こと”と平仮名表記にしています。
「不慣れなりに頑張って文章を作ってます」アピール兼、「間違っていた場合はIMEが誤変換したんです」と言い張るスタイル。
─ 2012年4月20日(金) 09:33 ─
さて、まずはリーダーが配置されているであろう教職員棟を解放し、その次に警備員棟の解放といった流れを予定している。
しかし、今回は教室解放の時とは違い、10人以上の敵を同時に相手にしなければならない。しかも、教員や警備員といった人質付きだ。
では一体どうするか?
答えは簡単、“可能な限り室内の状況を調べてから攻め入る”だ。所謂ごり押しである。
俺は“反逆のル○ー○ュ”様と違い、例え催眠魔法を駆使して“ギ○ス”めいたことができようとも、策を弄せるほど頭が良いわけではないのだ。敵の配置、教員との位置関係それらを考慮して行動手順を考え、攻め込んだ際の確度を高めるくらいしか考えが及ばないのである。
それでも、元々はノーマン抜きでやらねばならなかった行動だったところを、今ではノーマンを戦力に入れることができる。いわゆる「レベルを上げて物理で殴ればいい」を地で再現できる戦力なのだ。これほど心強いものはない。“冬○先生”ではないが「勝ったな」といった心境である。
「じゃあ、作戦を実行するにあたって、教職員室と警備員室の現在状況を整理しよう。 マチュア、籠月学園の3Dモデルを俺のタブレットに転送してくれ。 教職員棟と警備員棟に居る人間の位置情報も追加した状態で頼む」
俺は耳の後ろに装着していた魔力通信機を教卓に置き、精神感応魔法ではなく肉声でマチュアに伝える。マチュアからも「了解」とスピーカーモードで返答がきたので、教室内が少しざわつく。先ほどのやり取りで存在を知ったとはいえ、実際に反応があった瞬間驚いてしまうのは人の性なのだろう。或いは、Yシャツのボタン程度の黒い物体から声が聞こえたことに、技術的な意味で驚いたという線も考えられるか。
そんなことを考えながら自分の席に移動し、鞄からタブレットと特殊操作用の指サックを取り出す。
ふと滝川が視界の端に入ったので目をやると、まだ見ぬライバルの声を聞いて眉間にしわを寄せていた。よく見れば、少し下唇を噛んで悔しそうにもしている。恐らく、こういった状況で自分が何の力にもなれない事を感じ、忸怩たる思いに駆られているのだろう。
[滝川。何を悔しがっているのかは何となく想像がつくが、滝川たちは滝川たちで、俺やノーマンのメンタルケア要員としてすごく頼りにしているんだぞ]
精神感応魔法で滝川に話しかけてやると、小さく「えっ?」と声を漏らして俺の方を見てくる。この魔法を体験したのは初めてのはずだったので、もっと驚かせてしまうかと心配していたが杞憂だったようだ。そんな滝川に軽く頷き、教卓に戻りながら続ける。
[滝川たちは、俺の日常生活に於いて、友人として話しかけてくれる。これは何気ないことのようで、人間らしく生きる上ではとても大切なことなんだ。 そのおかげで、俺は年相応の学生らしく振る舞うことができるし、俺がそれを維持できるからこそ、戦い続きのノーマンにも年相応の対応ってもんを感じさせることができる。つまり、滝川たちが俺の近くに居てくれたおかげで、ノーマンのメンタルケアにも繋がっていたんだ。 だから、そんな顔しなさんな。これからも頼りにしてるからさ]
まだ俺たちが世界連合防衛軍に所属していることや、今までどういった事をしてきたのかは説明していないが、少なくともノーマンが戦闘を間近にしていた雰囲気は感じていたのだろう。俺が伝え終わった時には、滝川も納得がいったのか表情には安堵が戻っていた。
そもそも、俺が愛して止まない莉穂姉だって、こういった状況で何かできているわけではないのだ。なんせ、今日みたいな事が起こらなかったら、防衛軍に所属していることなんて墓場まで持って行くつもりだったくらいだしな。
まぁ、起きてしまった事は仕方ない。ひとまずは滝川の胸の閊えも取れただろうし……あ、今までの感謝を伝えるの忘れてた。あとで幼馴染を全員集合させて、まとめて謝罪と感謝を伝える時間を設けよう。
さて、そうと決まれば、さっさと学園を解放して日常に戻しますか。
俺はタブレットの四隅に刻んだ魔法陣へ魔力を流し、マチュアから転送されてきた学園の3Dモデルを空中に投影した。クラスメイトから感嘆と驚きの混じった声が聞こえる。
「さすがだな、BB」と感心しながら、ノーマンが投影されたモデルを弄ろうとするが、指が空を切るだけで回転も拡大も何も起こりはしない。
「残念だがノーマン、この魔方陣とタブレットは試作品でな。まだ人の指の動きを認識させるまでには至ってないのさ。 だから、これを使う」
タブレットと一緒に取り出した指サックをはめてノーマンに見せる。指先には小さめの魔法陣が刻まれており、この指先の陣の動きをタブレットの四隅にある陣がそれぞれ検出し、空中投影されたモデルの回転や拡大、特定箇所の選択といった作業が可能になるのだ。
「うわっ、何それダサッ!」
「仕方ねぇだろ!毎回指先に魔方陣を刻んでは消し、刻んでは消しなんて面倒だからやりたくないし、裁縫用の指ぬきだと、使ってるうちにすっぽ抜けたり指先で回転しちゃったりで安定しないんだもんよ!」
正直、俺もダサイとは思っているのだが、他に良さそうな物が浮かばなかったのだ。そういう思いもあり、半ギレ気味の言い訳をしながら、教職員棟が中心に来るようモデルを動かして拡大する。
教職員棟の外観は、ドーム状の屋根をした太い円柱の建物といった感じであるが、教職員室の形状は正方形である。これは、建物の1F部分が全体的に開放廊下状態になっており、建物の中心付近に教職員室を配置しているため建物の外観とは異なった形状となっているのだ。その他、2Fが理事長室、3F以降が大講堂となっており、約900人を収容できるだけの座席が設けられている。
早速、教職員室をタッチし、その他の建物及びフロアは透過処理をする。
教職員室の南側の壁面はほぼ一面ガラス張りとなっており、廊下からでも教員が居るかが一目でわかるようになっている。教員側から見ればオーシャンビューなので、景色が良いと好評だそうだ。出入り口は、高等部校舎のある西側の北と南にそれぞれ一ヵ所ずつドアがあり、反対の大学校舎の来たと南にもそれぞれ一ヵ所ずつドアが存在する。北側の壁面は、教材用の倉庫に繋がるドアが東西に一ヵ所ずつ存在するだけである。
「…まぁとりあえず、これが現時点での教職員室内の状況だ。青い人型が教員、赤い人型がテロリスト…であってるよな?」
「その通りです」
配置としては、各教室を制圧した時と同じように、教員をガラス張りである南壁面に集めて牽制している状態だ。牽制役が6人、西側二ヵ所のドアの外に各1人、東側二ヵ所のドアの外に各1人、残り1人が部屋の中心付近に配置されている。
この中心付近に居る人物が恐らくリーダーだろう。いまだに教祖から連絡が来ないことに焦りを感じているのか、まるで動物園の熊のようにうろうろしている。
「なんか、このリーダーっぽい配置のヤツ、落ち着きがねぇな。 逆に教師陣の方は、落ち着き払って寛いでる雰囲気だな…椅子に座って何か飲んでるようなポーズの人もいるぞ、オイ。 っていうか、教員多くね?ざっと40人くらい居るが…」
「あぁ、実際43人居るな。今日は金曜日だったから、朝の定例会議もあったし…。 ちなみに、“何かを飲んでる”ってのは、たぶんコーヒーを飲んでるんだと思う。南側からの景色が良いからってんで、メーカー一式置いてあったしな。 落ち着いてる理由だが、教員レベルになれば単独で武器を持ったテロリスト1~2人くらいは相手にできるからだろう。 反撃の機会を狙ってはいるが、連中がアラビア語でやり取りしているだろうから、学園の現状がわからなくて動くに動けない状態なんだろうな」
「なるほど、その時が来るまでは可能な限りリラックスしている…ってことか。 あれ?でもBBみたいに精神感応魔法で相手の思考を読んだり、催眠魔法で逆に仲間に引き込めば待つまでもないんじゃないか?」
「実力はあるんだろ?」と不思議そうに尋ねてくるノーマン。そう、可能であればその対応が一番早い。あくまで、可能であればな。
「そのことなんだが、断っておくとその二つの魔法を普通レベルで使えるのって、現在の籠月学園ではたぶん俺とマジカルゆかりんの二人しか居ないはずなんだ。むしろ俺たちが異常なの」
「マジかよ……え?じゃあ、BBにその魔法を教えたマジカルゆかりんってガチの天才ってことか?!」
「ふふん、そういうことになるわね。 もっと敬ってくれてもいいのよ?」
無い胸を張って得意げな顔をする菜月先生が可愛い。すごく頭をなでなでしてあげたくなってしまう。滅茶苦茶怒られる上に、ロリコン疑惑をまた持たれるのも嫌なので絶対にやらないけど。
「なるほど…だから“飛び級”で入学できたのか。 でも本当すげぇな。BB、この子、何歳なの?」
ピシッ──
教室内が、凍りついた。いや、何かの魔法が発動したわけではない。単に場の雰囲気が凍りついたのだ。ノーマンのヤツが言ってはならない発言をしたがために…。コイツはあとで、説教と共にデリカシーを叩き込んでやる必要があるな。いくらなんでも、本人の前で言うか、普通。
「私は…これでも…歴とした16歳じゃ!ボケーッ!!」
「あ、マジカルゆかりん!待っ──」
ガッ──
ノーマンの脛が蹴り上げられ、電柱に何かがぶち当たったような音が響く。ノーマンのすぐ横で、菜月先生が蹲って悶絶していた。あれは見事に入ってしまった感じの音だったからな。大丈夫だろうか、菜月先生の足。
蹴られた方のノーマンはというと痛がっているそぶりもなく、菜月先生に手を差し伸べようとしているものの、「どうしたらいいんだ?コレ」といった感じに中途半端な位置で止め、眉を“ハの字”にした状態で俺を見ていた。
「──遅かったか…。マジカルゆかりん、ノーマンは見た目は人間だけど身体能力とか人外スペックだから、生身で攻撃しちゃいけないんだよ。なんせ、戦車の榴弾を膝に受けてもピンピンしてるやつなんだから。 最初に俺がツッコミ入れた時、グロッグ26をぶっ放したのはそういう理由からだし」
「~~~っ!それを早く言いなさいよ!」
「いや、言う前に行動に出られちゃ伝えようもないでしょう。 ほら、治癒魔法かけとくから泣き止んで」
「泣いてないわよ!」
目尻に涙を溜めながら強がってる菜月先生、マジ幼女好きキラー。まぁでも、足は痛めても精神は無事だったようで良かった。これでしおらしくなられたら、俺も幼女好きの概念を感じてしまうところだったかもしれない。
「そりゃ失礼。 さて、説教は後回しにするとして…ノーマン、何か良さげな作戦とかある?」
「作戦つってもな…俺の場合はいつも大人数が搖動して、その間に俺がしれっと相手の建物に侵入し、素早さに物を言わせて殴り倒していく…ってパターンしかなかったからな」
「よくこの2年間、そのワンパターン作戦だけで死人も出さずに成功してきたな。 俺、メンタルケア目的の世間話と、とんでも魔導具開発依頼しか聞いたことがなかったから知らんかった」
「ほら、半年くらいしたらマージっていう頼もしい相棒ができたじゃん? 俺が表の鎮圧作戦で大暴れして裏に潜んでる連中の油断を誘いってる間に、マージが気付かれないように侵入して殴り倒すって戦法が取れるようになったんだよね。 おかげで俺に妙な二つ名が浸透しちゃったみたいだけど」
それにしたって、ワンパターン過ぎるだろ。よくもまぁそんな手口に引っかかり続けてくれたもんだ。これが“事実は小説より奇なり”というやつなのか。…いや、単に情報連携を取る前に全員捕えられちまってただけかもしれないな。
「はぁ、そうか…なら仕方ない。教職員室も、教室と似たような手筈で行くか…。 そうと決まれば、搖動というか囮役は俺。リーダーへの連絡役は俺が気絶させてたコイツ。 そして、主戦力のノーマンには……コレを使ってもらおうと思う」
そう言いながら、他のテロリストからベルトを抜き取りノーマンに手渡す。
「別に構わないが…俺に扱えるのか?」
「大丈夫、取扱いは簡単だから。 この金具側面にスライドスイッチがあるだろ? 最初はただのストッパーか何かのon/offだと思ってたんだが、どうやらこれを右にスライドさせると、魔法陣が完全に“輪”になって認識阻害というか光学迷彩の球体膜っていうのかな…それの効果が発動するみたいなんだよね。 仕掛けは原始的だけど、発想としては上手いと思ったよ。正直、これに関しては感嘆せざるを得ない」
尚、教祖様からの魔力通信用魔法陣に関しては、このスライドスイッチとは連動されないように別枠で刻まれており、むしろスイッチを入れることで魔力通信が使えないという仕組みになっていた。正直、陣の作り方にしても仕掛けにしても興味が惹かれるので、できれば仲間にしたいと思ってしまうほどだ。
「魔法陣の仕組みについては、俺にはよく分からないが…とにかくスイッチ一つで扱えるってことだけはわかった。 じゃあ、試運転も兼ねて一通りリハーサルしたら出発。で、いつも通り俺が物理で説得…という流れでいいのかな?」
「…ったく、相変わらず説明し甲斐のないヤツだ。 流れとしてはそれで問題ない。そのベルトの魔法陣の効果はこちらも実体験を持って分かっているが、球体膜に覆われた場合のメリット、デメリット等は分からないからな。 兎にも角にも、まずは試運転とリハーサルで十分に性能を検証した方が良いだろう」
かくして、テロリストを含めた俺、ノーマン初の共同作業…の練習が始まるのだった。
─ 2012年4月20日(金) 09:54 ─
練習開始から10分後、俺たちは教職員棟の開放廊下からギリギリ見えない位置の壁面に並んでいた。
「じゃあノーマン。俺が魔方陣を展開したら、殺さない程度にやっちまってくれ」
「おうよ」
「よし。“トロイア作戦”開始する」
書き溜めが切れました。次回更新は2017/4/8昼になる可能性が大きいです。