第03話 - 学園祭一日目 ~午前の部~
前回のあらすじ。
クラスの出し物である、お化け屋敷のギミックの微調整。テロリストを捕縛するための寸劇の直前リハーサルを済ませた渉達。
あとは、学園祭本番を迎えるだけとなっていた。
─ 2012年11月2日(金) ─
学園祭当日の朝7時20分。あと10分後、学園全体に本日の作戦内容を改めて放送する予定だったのだが、やや面倒な事態が発生したので、急遽俺が学園内の関係者に一斉魔力通信を行う事になってしまった。
[学園関係者の皆さん、おはようございます。伊藤渉です。突然の一斉魔力通信、失礼します。
……と、フォーマルな喋り方はこの辺までにして…。えー…、まだ学園祭開催2時間半前だというのに、既に学園周辺に覗き魔の反応が多数あったので、テロリスト対策を含んだ挨拶をスピーカーで伝えるわけにはいかなくなりました。なので、魔力通信で一斉発信させてもらっています。
はぁ……。学園祭当日、朝の準備に勤しむJKの姿見たさに、こんな早くから元気なことで…ったく、はた迷惑な行動力してやがる]
[えー、伊藤特佐の愚痴が長引きそうなので、ここからは自分、野間特佐が引き継ぎます。
本日のミッションは、皆さんもご存知の通り、テロ組織ラスト・ワンが送ってくる工作員の捕獲です]
俺の愚痴が長くなりそうな事を察知したノーマンが、魔力通信に割り込んで話を先に進めた。
普段はアホな言動や行動が目立つのに、こういった作戦前にはビシっとしてくれるので頼りになる。いつもこうだったら、俺もツッコミ疲れしなくて済むのに…。
[実際に捕獲にあたるのは、怪人スーツを身に着けた伊藤特佐、野間特佐の両名からなる実行部隊。加えて、演劇部部隊が捕獲劇の後方支援に当たります。
基本的に、この両部隊以外の生徒・学園関係者の皆さんは、学園祭の維持に努めて頂く事となります。…が、場合によっては、我々のサポートをお願いする事も考えられますので、その際はご協力のほど宜しくお願い致します。以上、通信終わり]
ノーマンによるテロ対策説明は過不足なく終わった。こういう点に関しては、実際に現場で経験していただけあってしっかりしていると思う。
「お前って、こういう時だけはしっかりしてて頼り甲斐あるんだよなぁ…。なんで平常時は、あんなおバカなんだよ?」
「ギャップ萌えを狙ってるのと、常日頃から気を張ってると疲れるだろ? だからだよ」
意外と強かな理由だったでござる。
▲▽△▼△▽▲
朝の一斉魔力通信から1時間ほど経ち、近隣の町から一般参加者が、自家用車や臨時の循環バスを利用してぼちぼちと学園の入口に集まり始める。
あの中にテロリストが紛れているのかどうかはまだ不明だが、今日だけでも数人は来ることだろう。
「……ねぇ、渉。私、ちょっと気になった事があるんだけど、言ってもいいかしら?」
俺と一緒に入り口付近を眺めていた莉穂姉が、何かに気付いたのかそんなことを言い出した。
「ん? 何? 莉穂姉?」
学園祭が本格的に始まるまであと20分前後。それまでの短い間ではあるが、「少しでも渉と居たい」と思った莉穂姉が、クラスの準備を早々に済ませて俺の横に来ていた。実に萌える。
ちなみに、莉穂姉のクラスの出し物はメイド喫茶。なので、横に居る莉穂姉はメイド服姿である。
もちろん、邪道なミニスカメイド服ではなく、ロングスカートのオーソドックスなメイド服だ。衣装を用意した人は、メイド服の何たるかをよく分かっていると思う。GJと言わざるを得ない。
尚、滝川は俺らのクラスの出し物、“お化け屋敷”のチェックでここには居ない。由子お姉ちゃんも、お偉いさん方がいらっしゃるというので理事長室で待機している。久々に二人きりの状態だ。
……いやまぁ、厳密に言えば、他の生徒もちらほら歩いているのだが…。
「その…。学園祭にテロリストが来るのは確実として、もしも、初日だけで残りの30人強が全員来た場合、明日以降のヒーローショーや紗友莉ちゃんのサプライズライブはどうなるのかな? って…」
「………あ~…考えてなかったなぁ、そのパターンは…」
言われてみれば初めての襲撃の際と同様、一日で大人数を送ってくるという可能性はあるのだ。
学園祭の三日間、「三回に分けて部隊を送る」といった情報を教祖アリサから聞いたわけではない。そう、もしかしたらテロリストの襲撃は初日の今日だけで、明日以降は寸劇をする必要が無くなるかもしれないという訳だ。
「でもまぁ、もし今日で終わったのなら、それはそれで安心して学園祭を運営できるからいいんじゃないかな。ヒーローショーにしても、今日捕えた何人かに催眠魔法を使って、明日以降の捕らわれ役として使い回すって事も可能なわけだし…。
うん。どうなるにせよ、明日以降もヒーローショーと網谷のライブは続行確定でいいでしょう」
「なるほど…。流石は私の愛しい義弟ね、頼りになるわ」
莉穂姉が言うほど、俺は頼りにはならないと思うんだが…。
何にせよ、莉穂姉の中で好感度アップしたみたいだし、いらんツッコミは慎んでおこう。せっかく上がった株なんだ、わざわざ落とす理由はない。
まぁ、そのせいで後々ハードルが高くなるって可能性もあるが、その時はその時である。
「さて…。それじゃあ、俺の評価が莉穂姉の中で上がったついでに…。莉穂姉の本日のシフトはどんなかんじかな?」
「お昼時以外は、誰かとバトンタッチして休憩できる…って感じかしら? で。私の予定を確認するということは、もしかして?」
莉穂姉が、何か期待するかのような表情で俺を見る。
「もちろん、デートのお誘い。ここ最近、ご飯時以外は莉穂姉と“キャッキャウフフ…”できてなかったからね。今日だって、今しか一緒に学園祭の雰囲気を感じられない…なんて言うんじゃ、寂し過ぎるじゃない。だから、俺達のヒーローショーが済んだら、速攻で着替えて莉穂姉と学園祭を回りたいと思ってね」
今回の学園祭襲撃対策として、ここ2ヵ月ほどは学園内関係者全員に配れる量の魔力通信機を作ったり。怪人スーツを着たまま大立ち回りをする練習をしたり。天野からダメ出しされたバトルスーツの性能調整をしたり。お化け屋敷に使う幻惑を見せる魔導具を作成したり…で、なんやかんやと多忙な日々を過ごしていた。
いつぞやの様に、莉穂姉と触れ合う機会が激減したわけだが、その辺りはノーマン、マージちゃん、篠山ねーちんの三人が俺のメンタルを鑑みて適宜莉穂姉と触れ合う機会を調整をしてくれたようで、以前の様な姉分不足による酷い発作は起こらなかった。
我ながらキモイ体質だとは思うが、それだけ俺の中で莉穂姉が重要な存在という事なのだろう。これぞ姉好きとしての我が誉よ。…キモイとは思うけど。
尚、学園祭に向けて色々準備する間、俺と一緒に居る機会が多かった滝川は、自分が莉穂姉の代わりをできなかったことに本気で悔しがっていた模様。
決して滝川が悪いのではない。友人としても、幼馴染としても好ましいとも思っているし、女性として魅力的だとも思っている。ただ、俺のフェチズムが悪いのだよ。
「やっぱり! 嬉しいわっ! じゃあ、渉がOKになったら、いつでも私のクラスに来てね♪ 皆には話しを通しておくからっ!」
喜んだ莉穂姉が、俺を抱きしめながらぴょんぴょんと飛び跳ねる。
温かい、柔らかい、良い匂い…嗚呼、暴力的に大きな二つのクッションが、俺の身体にベストマッチしてふにふに気持ちいい。心がぴょんぴょんするんじゃぁ…。
ただ、一つだけ不満があるとしたら、莉穂姉と密接し過ぎて“莉穂姉が嬉しそうに飛び跳ねている可愛らしい姿”を、俺の目で確認できない事だな。くっ…二律背反はつらいよ。
[[[[[くっ…見せつけてくれちゃって! 私達だって、学園祭中に男を釣ってリア充の仲間入りしてやるんだから!]]]]]
どうやら、近くに居た女生徒達のやる気に火をつけてしまったようだ。…まぁ、やる気になるのは良い事なので、俺達は良い事をした……と、思う事にしてすっとぼけておこう。
▲▽△▼△▽▲
さて、学園祭開始前に莉穂姉に抱きしめられ、危うく俺の下半身が STAND UP TO THE VICTORY しそうになるのを堪えてから100分ほど経った現在。学園祭は──
「実に平和なもんだな、ノーマンさんや」
「あぁ、そうだなBBさんや」
──実に恙なく開催されていた。いやもうホント、「テロリストが紛れ込んでる? ハハッ! 厨二病乙!」と、オタク達から鼻で笑われそうなくらい平和である。
そこかしこに参加者の楽しげな表情があり、出店からは生徒の元気な声が聞こえてくる。普通に活気のある学園祭の光景がそこには広がっていた。
もしかしたら、さっき莉穂姉が言っていたパターンの逆──つまり、“初日は一人もテロリストが来ないで、二日目か三日目にまとまって来る”という可能性も考えられる。
…うん、有り得なくはない。というか、なぜその考えに至らなかった、俺!?
[大学棟の人気のない場所にて、直方体の何かを設置しようとしている人物を発見! 位置情報を視覚化して伝えます。渉か俊之は、至急現場へ。近くに居る演劇部は、支援の準備を。
繰り返す。大学棟の人気のない場所にて──]
「よっし! よくぞ動いた、ラスト・ワンの工作員!」
「なんで喜んでんだよ、BB…」
俺が嬉々としてテロリストを褒めるのを見て、ノーマンが嘆息する。
だって、何も起きなかったら、誰か女生徒をヒーローショーのパフォーマンスのために攫うフリしなきゃならないじゃん。ガチのテロリスト相手なら演技にもそれなりに力が入るけど、顔見知り相手に演技をするとなると、小っ恥ずかしいというかなんというか…。
故に、ちゃんとテロリストが動いてくれて、「助かった」という気持ちが大きいわけである。
「いやぁ、準備して待ち受けていた甲斐があったな…って、ちょっと嬉しくなっただけさね。んじゃま、栄えある最初の犠牲者をランニングスリーしてくるわ!」
「あいよ、いってら。…あ、でも、本当にランニングスリーみたいに壁に激突させるんじゃねぇぞ。担いで攫ってくるだけにしとけよ、BB」
「わーってるよ! んじゃ、渉、行きまーすっ!」
そう叫ぶと同時に俺は透明化ベルトを起動し、颯爽と現場に走り出した。
だって、この怪人の衣装のまま学内を移動するのは目立つし、恥ずかしいんだもの…。
大学棟の人目の少ない階段裏。そこに、テロリストと思しき男は蹲っていた。
別に俺がぶん殴ったわけではない、なんせ今しがた到着したばかりだ。どうやら、時限式の起爆装置を設定しているようで、男は“C4爆弾めいた何か”にタイマーを埋め込んでいる。
「どうせまた、それっぽく見せかけただけの粘土の塊なんだろうな」などと思いながら、透明化ベルトを解除して男の背後に近づく。手の平の裏地に刻んだ魔法陣へ魔力を流し、そっと相手の背中に触れると──
ドサッ──
──即座にぶっ倒れた。ジャンプシュートの秘訣、“左手は添えるだけ戦法”大成功である。
男の顔に耳を近づけ、ちゃんと呼吸がある事を確認する。本当は手の平を鼻先に翳して確認したかったのだが、いかんせんスーツ越しなので微弱な呼吸なんて感知できないのだ。
呼吸が確認できたので男を担ぎ、近くに待機していた演劇部員へ合図を送る。
俺の合図に軽く頷いた部員は、人通りの多そうな場所に移動すると大きく息を吸い込んだ。
「キャアアアアアァ! 怪人よ! 怪人が人を襲ってるわ!」
叫び声に驚いた参加者達の注目が、部員の方に集まる。
「え?! 何なに?」「何かの出し物かしら?」「今、“怪人”って言ったか?」「劇か何かの宣伝じゃね?」
周囲がざわつく中、怯えた演技を続ける部員が俺の方を指さす。
参加者の視線が集まる中、俺は大声で散々ぱら練習した台詞を淀みなく発した。
「フハハハッ! 愚かな人間たちよ、喜ぶがいい! 今日、この日! 我らが主、魔王様を復活させるための儀式を行う! この者は、その為の栄えある生贄となるのだ!
……ふむ、しかしまだ足りぬな…。……儀式を行うのは14時からだ。それまでにあと数人、お前たちの中から生贄を選んでやろう! 光栄に思うがいい!」
ちなみに、怪人スーツには変声機代わりの魔法陣も刻んでいるので、周りに聞こえている俺の声は、男なのか女なのか分からないようになっている。俺を知っている参加者はあまりいないはずだが、何となく恥ずかしいかったので追加した機能だ。
手の平には“触れた相手を気絶させる魔法陣”、マスク部分には“変声機代わりの魔法陣”、そしてスーツの上から装備した“透明化ベルト”。実に充実した、姿をくらます為だけのラインナップである。
「あぁ、そうそう。魔王様復活の儀式だが…。この学園の中央広場、巨大な樹の近くに設置した特設ステージにて行う! 恐れ多くも魔王様の御姿を拝見したいという者があれば、崇め奉りながら来るがよい! フハハハハッ!」
以上が演劇部が用意してくれた台詞である。
あとは、演劇部員がさり気なく確保してくれていた逃走路を爆走して逃げるだけだ。
俺は魔力で身体強化を行いながら、颯爽と逃走経路を走り抜ける。
人目の無い場所に移動できたのを確認し、透明化ベルトを起動。その後、テロリストを詰め込んでおく為に準備した倉庫へと移動を開始するのだった。
テロリスト一匹目、ゲットだぜ。
毎度読んでいただきありがとうございます。
投稿が半日ほど遅れてしまって申し訳ありません。
次回こそは、金曜日更新に間に合わせる予定です。




