第01話 - 黒き薔薇達は集ひて、世界に耽美を撒き散らんとす
前回のあらすじ。
師匠の妹・菖蒲を異世界に送り出した渉は、ノーマン達の力を借りてトータルエクリプス島に新たな施設を建てようと画策するのであった。
そして、夏休みが過ぎ、今回は学園祭直前からスタート。
─ 2012年10月26日(金) ─
茜色に染まった薄暗い一室。そこに人影が集い、密談を繰り広げていた。
「よもや、我々が表立った動きができなかった時期に、ここまで事態がハッテンしていたとは…」
「えぇ…。手を抜くわけにはいかない状況だったとは言え、口惜しいの一言に尽きます」
「しかしその代り、我々はこうして貴重な同士を集められました。夏の聖戦に於いて、支出を上回る収入を得られたのも、今後この様な事態を招かぬよう『文明の利器を最大限利用せよ』という腐女神の思し召しと言えましょう」
密談の中心人物は、渉に“黒薔薇三連星”と呼ばれている三名。
彼女らは、夏のコミックマーケットにて販売する同人誌作成のため、そして期末考査の勉強のために、どの国にも属さない無人島“トータルエクリプス島”が解禁された事を知りつつも、一度も足を踏み入れる余裕が無かったグループの片割れである。
もう一つの片割れと言うのは、“白百合三姉妹”と呼ばれている三名である。
彼女らも黒薔薇三連星と同様の理由にて、トータルエクリプス島に足を踏み入れていない。見目麗しいピチピチの女生徒の様々な水着姿や、色香を纏った美熟女の水着姿…そういった“美味しいシチュエーション”を直に見る事が叶わず、彼女らは自前の白いハンカチを噛み、悔しさを堪える日々を送っていた。
しかし、現在集まっている女生徒の中に白百合三姉妹の姿は含まれていない。集まっているのは、黒薔薇三連星と同じ性癖──即ち、“BL”に、心をときめかせた女生徒のみである。
この学園は元々は女学園であったので、百合──“GL”の気質に染まる生徒は少なからず存在していた。しかしながら、BLに染まる生徒は極めて少なかったという歴史がある。
そのような中にあって、黒薔薇三連星と呼ばれるグループができ、渉と俊之という二人の男子が彼女らとクラスメイトになったという奇跡に近い偶然は、BLを知らなかった他の女生徒にも僅かではあるが火をつける要因となった。
黒薔薇三連星は素質がありそうな生徒に対し、さりげなく自身が手掛けた原稿を見せるという機会を幾度か作り、徐々に興味を持たせるという作戦を決行した。その甲斐もあり、現在こうして彼女ら以外の女生徒が放課後の空き教室に複数人集まるに至ったのである。
一度、ワザと廊下にしかけたBL本の原稿を、ネタの元となっている渉に拾われるというアクシデントにも見舞われたが、こうして仲間を増やせたことを彼女らは素直に喜んでいた。今日は、それを分かち合う記念すべき第一回目の集会であったハズなのだが、一言目に発せられた言葉が、先の反省と後悔の混じった言葉であった。
「そうですよ! まだまだチャンスはあります! それに、来週は学園祭もありますし、もしかしたら貴重なシーンを拝めるかもしれないじゃないですか! ……またテロリスト達が潜入してくるらしいですが、野間先輩と伊藤先輩、そして最近ちょくちょく見かける天野さんという新たなBL要素も居ますから、テロ対策も、BLネタも安泰です!」
黒薔薇三連星に元気よく進言したのは、彼女らの仕掛けに食いつき、一番初めにBLを尊ぶ仲間となった一年生女子である。
彼女はトータルエクリプス島解禁と同時に島に行った生徒の一人であり、その頃から渉、俊之、薫の三人の関係性に淡いときめきを感じていた。黒薔薇三連星のBL原稿見せを何度も受ける内に、耽美の世界に目を開いてしまったという流れである。
「えぇ、貴女の言う通りだわ。
では皆さん、学園祭で配布するR-18要素を抜いた“ソフト薔薇”の冊子を、いかに自然に女性客に渡すかアイディアを出しあいましょう。このような地道な努力こそ、学園内外に耽美な世界を広げる一歩に──」
バンッ!──
「させるものかっ!」
「──っ!? その声はっ!?」
黒薔薇三連星のリーダー格が集会の流れを促そうとしたその時、重い扉を勢いよく開けて一人の男子生徒が乱入してきたのだった。
▲▽△▼△▽▲
黒薔薇三連星が集会を開始する少し前に遡る──。
「──では、以上の流れで最終決定という事で……皆さん、異論はありませんか? 他に確認したい事は?」
学園祭まで残り一週間となった本日、本番前の打ち合わせという事で、俺、ノーマン、天野、網谷は演劇部部室に集まっていた。
基本的には、マチュア・コピーによる透明化ベルト使用の確認や、“何かを設置しているかのような怪しい動き”をしている人物を監視してもらい、該当者の報告があれば俺とノーマンが寸劇を行って掻っ攫うという流れは変わっていない。ただ、各日の解決篇として演劇部のヒーロー役達と、ここ最近で世間に知れ渡り始めた謎の変身ヒーローに登場してもらい、俺達はノーマンの持っている爆弾で夕日と共に散り「めでたしめでたし」というのを土日の二日間演じるという形となる。
金曜日は流石に天野と網谷を参加させるわけにはいかなかった。だって、別の学校だから平日の授業があるし…。
今回は、学園全体に「テロリストが仕掛けてくる」という情報を共有しているので、警備員お姉さんズも例年より増員され、学生の一部からも「見回りを手伝いたい」という有志が居たりする。まぁ、その中に莉穂姉や滝川が居るわけだが、それは余談だな。
とりあえず、そういった見回り担当全員に素早く情報が伝わるよう、俺が使っている魔力通信機と同型のものを人数分用意し、既に配り終えている状態である。予備も十分に用意してあるので、当日になって飛び入り参加したいという生徒が居てもバッチリ対応可能だ。通信機は耳の裏やうなじなど、髪の毛に隠れやすい場所でも吸着するような魔法陣を刻んでいるし、サイズもボタン程度の大きさなので怪しまれる事は無いだろう。
「渉、一つ確認してもいいか?」
「はい天野くん、どうぞ」
「学園祭初日──つまり金曜日だが、本当に俺が居なくてもいいのか? 初日だけ居ないとなると、あとで変な輩が文句言って来たりするんじゃないかと思ってな」
どうやら天野は、クレーマー対応の事を言っているようだ。
確かに、夏休みの間にお子様に大人気になってきた“謎の変身ヒーロー”が、土日の学園祭に出現したとなると、金曜日にしか来なかった人にブーイングされる可能性があるっちゃある。
「まぁ、クレーマーなんて今までも多かれ少なかれ居たからねぇ…。『参加できる人数を今の倍にしろ!』だの『もっとJKとイチャイチャさせろ!』だの無茶な事ばっかり。後者は論外だが、前者はやりたくても学園の許容量を超えるっての…。ま、それに比べりゃ、天野の想定しているクレームなんて可愛いもんだと思うよ。
それに、学生の本分は“ヒーロー活動”じゃなくて“勉強”なわけだしね」
「そうか、この学園も大変なんだな。いやマジで」
天野が心底疲れたような声を出して納得する。
「納得してくれたようで何よりだ。それに今回のショーは、“金曜日の出来事を聞いた謎のヒーローが、面白そうだから駆け付けた”という体で飛び入り参加しに来たというサプライズの予定で進めるわけだし。大抵は三日間来る人がほとんどだから、クレーマーなんてごく少数だよ。余りにもしつこいようなら、逆探知して警察沙汰にでもしてやりゃいい。
まぁ、そういう奴を黙らせる策として、もう一つのサプライズである網谷のライブがあるわけだ。金曜日から三日間仕事として来てもらう事になってるし、変身ヒーローが見れなくても『網谷のライブを見たから文句は無い』的な客も多いだろうよ」
「まかせて! 有象無象なんかに、薫への文句なんか言わせやしないんだから!」
それにしてもこの網谷、ノリノリである。
さて、籠月学園の学園祭に参加するには専用の入場券が必要となる。
南伊豆周辺に住んでいる人の中で参加希望者が居れば、一家庭に付き一枚のみ配られる。その他の人達は学園に在籍している生徒から券を送付してもらう、或いは券を持っている人物の同行者として付いて行くくらいしか参加する方法は無い。
券は1枚につき1グループ(最大5名)まで入場可能で、三日間連続で使えるという代物だ。つまり、券をもらった人間を除けば4人しか同行できないことになる。尚、一人の生徒が他人に渡せる券は3枚までとなる。これ以上券をばらまいてしまうと、ただでさえ回転数が追いつかない出店がオーバーヒートし、どこぞのテーマパークレベルの待ち時間になってしまうだろう。
毎年、外部の参加希望者間では「誰が同行できるのか?!」という競争があるらしいのだが、在籍する側の俺達にはかかわりの無い話である。何しろ、下準備から本番の対応までで忙しいので、それどころじゃないのだ。
ともかく、そんな状況下でのトップアイドル網谷のサプライズライブである。
網谷ファンはさることながら、同行競争に敗れた男共からすれば、悔しがる事間違いなしの、事務所への抗議電話殺到待ったなし状態になるだろう。そういう事もあり、今回のこのライブイベントはリハーサル映像から、本番三日間分を全てTV関係者に撮影してもらい、DVD・BD化することが決定している。
もしも好評だった場合は、来年も引き続き網谷召喚を考えよう。今よりも参加者争奪戦が激しくなり、「はっはっは! 嘆くがいい愚民共~」みたいな悪の親玉ごっこができそうだ。まぁ、阿鼻叫喚になっている争奪戦を直に見る気はなんだけど…。
とまぁ冗談はともかく、俺達は網谷のライブの前座としてヒーローショー擬きをする予定である。場所は、学園寮と校舎との間に存在する広場の巨大な樹木──師匠が用意した謎の地下特大魔法陣の中心点付近で開催決定だ。
俺が調べたところ、地下の巨大魔法陣にはテロリスト達の無念がそこそこ吸収されていて、エネルギーが溜っている状態だ。アイドルのライブを行った際の熱狂とかも吸収してエネルギー化するのだろうか…。
最終的に行う“儀式”とやらで、どんな思念体が「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン」するかは師匠ですら予測不能らしいが、バトルスーツを纏った天野に、人型兵器のノーマンが居るわけだし負ける道理はほぼないだろう。
何にせよ、学園祭で俺達が行う事は今まで通りか。テロリスト達を劇に見立てて縛り上げ、軍に受け渡すだけの簡単なお仕事というやつである。
……いや、間違っても学生がやるような仕事じゃないよな、コレ。なんか、テロリストが侵入してくる事に慣れ始めている自分が嫌だ。
「さて、他に意見も無いようなら、今日はこれで──」
ガラッ──
「渉。ここに八百一さん達は………来てないみたいね。…どこに行ったのかしら」
丁度締めくくろうとしていた矢先、部室に滝川が転がり込んできた。普段ならノックくらいはしそうなところなのに、いきなりドアを開けて入ってくるとは珍しい。
ちなみに、八百一というのは黒薔薇三連星のリーダー格の女子の苗字である。
「黒薔薇三連星か? 少なくとも俺は見てないが…。ノーマン、気配とか感じた?」
「いいや? 少なくともこの部室周辺では気配を感じてないな。盗み聞きとかをしている様子はない」
「…だ、そうだ。ところで、何かあったのか? 滝川にしては珍しく急いでいるっぽいが?」
俺がそう問いかけると、滝川は少し渋い顔をしながら答えた。
「えぇ、八百一さん達の担当してくれた仕掛けをさっき確認したのだけど、想像以上にリアルで怖かったのよ…。あれじゃあ、子供だけじゃなく大人まで腰を抜かしかねなくて…。本番まで時間もないし、早めに修正依頼をしたくて探しているの。ついさっきまでは教室に居たと思ったのだけれど…」
「なるほどね。ちょいとマチュアに確認してみるわ」[マチュア。すまんが、黒薔薇三連星がどこに居るか調べてくれるか?]
滝川の言っていた仕掛けというのは、俺達の出し物である“お化け屋敷”の仕掛けの事だ。表向きは「籠月財閥の最新鋭技術を用いたリアルな3D映像が、あなたを恐怖に陥れる!」というキャッチコピーでポスターを作成したが、実際は俺が造った魔導具による無駄にリアルな立体映像を投影している。
仕掛け担当の人にホラーな展開や映像を脳内でイメージしてもらえば、俺の魔導具がそのイメージを再現するように調整しているので、絵を描くだとかマネキンを用意するだとかの苦労はあまりない。エネルギーも皆の魔力を補充すれば済むので、大変エコでお手軽なお化け屋敷ができあがっております。
[確認しました。4F西側の空き教室に、数名の生徒と一緒に何やら集会を開いているようです]
[サンキュー、マチュア]「よし、早速見つかったから行ってくる。滝川は教室に戻っててくれ、三連星は俺が責任を持って連れて行くから」
「ありがとう。あ……すみません皆さま、大変お騒がせいたしました。それでは、失礼します」
黒薔薇三連星が見つかったと聞いてホッとしたのか、落ち着きを取り戻した滝川はそう言って恥ずかしそうに退出して行った。
俺も打ち合わせを終了する旨を伝えて、件の教室へと移動する。
ちなみにノーマンとは別行動だ。無駄に男を連れて行って、奴らの妄想力を刺激したくない。
そんなこんなで空き教室にたどり着くと、中から話し声が聞こえてきた。
やたら元気の良い女の子が、黒薔薇三連星を鼓舞しているようだが…。
「えぇ、貴女の言う通りだわ。
では皆さん、学園祭で配布するR-18要素を抜いた“ソフト薔薇”の冊子を、いかに自然に女性客に渡すかアイディアを出しあいましょう。このような地道な努力こそ、学園内外に耽美な世界を広げる一歩に──」
バンッ!──
八百一がとんでもない事を言い出したのを聞いた時、俺は反射的にドアを開けて叫んでいた。
「させるものかっ!」
「──っ!? その声はっ!?」
教室内に居た女生徒が一斉に振り返る。その数、一、二、三……十人だと?!
三連星を除いて七名もの新規BL好きが集まったというのか…恐ろしい。
「…やはり伊藤君だったのね。いくらネタの提供元として貴重な貴方であっても、我々の崇高な目的は止められないわ!」
俺の乱入に驚愕していた八百一が、覚悟を決めた戦乙女めいた表情を作りながら啖呵を切る。なにちょっとカッコイイ感じのセリフを言ってるんだ、この腐女子は。
「いいや、止めてみせるね! 俺には、理事長との太いパイプがあるからな! 理事長権限を発動させてもらう!」
「なんて酷い事をっ!? 横暴だわ!」
「「「「「そうよ! そうよ!」」」」」
俺の発言に対し、八百一がオーバーリアクション気味に叫ぶ。周りの腐女子ズも、それに便乗して俺に批難を浴びせてくる。
えぇい、俺が言ってる事がマジで横暴以外の何物でもないから、正論過ぎて耳が痛い。
「えぇい! だとしても、学園祭を利用しての外部への拡散は止めさせてもらう! お前達が創ったであろう同人誌は、学園内だけで楽しむ分には構わん! だが、残った分については今度の冬コミにでも販売するんだな!
横暴云々については事実だから、補償として印刷代くらいは色を付けて渡す! だから、頼むから学園祭での配布は勘弁してくれ!」
どうせまた俺とノーマンを題材にしてるんだろうし、外部の女性からそういう目で見られるかもしれないなんて風評被害にもほどがある…。
「くっ…、そこまでの覚悟を持って言われたら仕方ないわ。学園祭での配布は諦めます。でも油断しない事ね、伊藤君っ! 私達が諦めたとしても、いずれ第二、第三の学園産腐女子が、目くるめく耽美な世界を世に広めてくれると信じてるわ!」
やめてよね、フラグっぽい事言うの。実際起こりそうで怖いから。
真に倒さなきゃならない相手ってのは、テロリストでも、儀式で出てくる悪意の集合体でもなく、「実は腐女子達なんじゃないか?」と思い始める俺であった。
「……ところで、伊藤君はどうしてココに来たのかしら?」
「……あ。そうだ、お前さん達に頼みがあるんだった」
毎度読んでいただきありがとうございます。
第五章は水着回とか全部ぶっとばして学園祭編になります。
次回の更新は、個人的な都合で再来週の金曜日になるかもしれません。
ないとは思いますが、楽しみにして下さっていた方が居たらごめんなさい。
なんでも…は、できませんがお許し下さい。




