第21話 - エピローグ
前回のあらすじ。
渉とノーマンの師匠である歩…の、血の繋がった妹・菖蒲を連れ、異世界の師匠の下へプチ旅行した渉達。
ブラコンを拗らせた菖蒲は、なんやかんやあった末に異世界に残る事を皆の前で言い放つのだった。
菖蒲さんの発言を聞いた皆は、驚きを禁じ得ないといった表情を……することも無く「あぁ、やっぱそうなるか」的な表情で生温かく見守っていた。
昔から彼女の事を知っている俺と由子お姉ちゃんならともかく、今日会ったばかりの皆からも納得の表情をされるとは…。菖蒲さんの「お兄様・愛」といった性癖が、ほんの数時間足らずで皆の中に深く浸透したということだろう。
まぁ、40代以上に見える上品そうな小母様が、事あるごとにインパクトのある兄好き発言をしていれば、初見の人だろうと嫌でも分かるわな…。
さて、師匠が住んでいる世界に残るとの事だが、師匠の様に転生することなく向こうへ残る事は可能だろう。何しろ、キノスラ作のゲートを使ったとは言え、向こうの世界と行き来しているのだ。そのまま向こうに居座れば任務完了である。
「菖蒲さん…。“残る”って、“その姿で”って事ですか? 確かに菖蒲さんの魔力保有量であれば、あと10年、20年くらいは寿命を維持できると思いますが、それ以上は難しいかと…」
老化抑制魔法は見た目の変化だけではなく、ある程度寿命も回復する。もともと“クローン技術ベースのホムンクルス”である俺達を長生きさせる為に作り出したような魔法ではあるので、その効果が無ければ困った話になるのだが…。
ちなみに、老化抑制魔法は理論上、“新生児までは若返り可能”である。ただし、実年齢と若返り年齢との差が大きければ大きいほど魔力の消費量が格段に上がるので、たいていの魔女だと魔力を回復させてから重ね掛けする…といった事が必要になるだろう。まぁ、そこまでして若返ったところで大してメリットは無いと思うが…。
それはともかくとして、もっと大事な問題が一つある。
「それに、そのまま残るってのは、キノスラ的にOKかどうかも分からないし…」
そう、キノスラの許可だ。彼はこの部屋に常駐しているようだし、異世界に行く際も足元の地球を浮かばせたりしてゲートを開いている。師匠から彼について詳しく聞いたわけでもないし、本人も自分について語ってはいないが、恐らくこの空間内にある異世界の管理人みたいな存在だと思われる。
寿命云々の事もそうだが、キノスラから「転生以外の異世界残留はダメ、絶対っ!」と言われる可能性すらあるのだ。
俺は、言いながらチラッとキノスラの方に視線を向け、彼の返事を促す。さぁ、キノスラの反応や如何にっ!
「ん? ボクとしては別に構わないよ?」
「「「「「軽っ!?」」」」」
実にあっけらかんとOKを出してくれたでござる。皆もその反応に驚いたのか、俺の声と莉穂姉達の声が綺麗にシンクロした。
「よろしいんですのねっ!? でしたら早速──」
「まぁまぁ、落ち着きなさいな。キミ自身は心の準備が整っているかもしれないが、キミの親族は事後処理に追われることになるんじゃないかな? その辺も含め、少し話し合った方がいい」
今にもゲートの向こうに飛んで行きそうだった菖蒲さんを、キノスラが杖で制する。
籠月家の実権は既に由子お姉ちゃんの父親に引き継がれているとは言え、旦那さん亡きあと色々と指揮を執っていたのが菖蒲さんだ。不意に消えたとなったら、周りが黙っていないだろう。
今日、菖蒲さんが研究所に来る予定だったという事は、多くの人間が知っている事だろう。そして、研究所に行ったあと突然行方不明になったとなれば、公的な場に説明する義務が生じるのは火を見るより明らかだ。何よりもまず、警察が事情聴取に来るに決まっている。
うん、ナイス提案だキノスラ。
「キノスラさんのいう通りです、お婆様。歩さんの時と同様、親族のみで葬儀を行ったという体で公的に発表する必要があるでしょう。そのためにも一度戻り、準備を致しませんと…」
「お孫さんの言う通りにした方がいい。その方が穏便に済むだろう。まぁ、その準備とやらに多少時間が掛かる事は否めないがね…。その代わりと言っては何だが、異世界に行くときはボクから特別な餞別をキミにプレゼントするよ。それで一つ、納得してもらえないかな?」
由子お姉ちゃんの説得を後押しするようにキノスラが提案をしてくる。
異世界管理者のような少年からの“特別な餞別”か…。やはり、ここは定番の“とてつもないチート能力を付与する”とかだろうか。
「わかりました。二人の言う通りに致しますわ。ただ、キノスラ様。その餞別と言うのは、一体どういった物ですの?」
どうやら、菖蒲さんも餞別の内容が気になったようだ。
まぁ、「期待したのに、蓋を開けたら大したことなかった」みたいな落胆を避けたいのだろうな。「期待に胸膨らませて袋綴じを切ったのに、全くの期待外れだった!」という切ない声は、思春期の男性界隈ではよく聞く話である。そういった事の無いようあらかじめ中身を確認し、交渉によってグレードアップを計るという魂胆もあると見た。
「餞別というのはね、キミの身体を“完全に若返らせる”というものだよ。
渉がさっき言った通り、キミの身体はどんなに老化抑制魔法で延命したところで、近いうちに限界を迎えるだろう。いかに寿命を延ばす魔法とは言え、いずれ死を迎えるのは避けられない。
だが、ボクの能力であれば、寿命から何から全て外見年齢通りに若返らせる事が可能だ。例えばキミの外見を、キミのお兄様の好みである“自分より2~3歳年上の女性”──今の彼の身体年齢が5歳とちょっとだから、7歳か8歳という身体年齢にすることもできるんだけど…この餞別では不満かな?」
「……キノスラ様。一つ、確認させて下さいまし。今しがた『全て外見年齢通り』と仰いましたわね?」
「うん。言ったね」
「それはつまり、私の処女膜も当時のままに──つまり、お兄様に“初めて”を捧げる事ができると言う事ですの?」
菖蒲さんが嬉々とした表情でキノスラに詰め寄る。この人、本当に自分の実兄を性的な目で見てたんだな。……予想通りだったから驚きはしないが。
いやまぁ、向こうの世界には実姉にゾッコンの師匠が居るし、「あの兄にしてこの妹あり」と言ったところか。
その点、俺は義理の姉に性的興奮を覚えているだけだから、倫理的に辛うじてセーフだな。うん。
[なぁ、BB。『俺は義姉に興奮してるだけだから、この変態達とは違ってセーフ』とか思ってそうな顔してるけど、世間一般で言えばBBも十分変態の部類だからな?]
ついこの間まで、紛争地帯で敵対勢力を叩きのめしまくってた兵士に、世間一般を語られた。精神感応魔法でツッコミを入れてきたのは、ノーマンなりの優しさだろうか。
「はっはっは。いやぁ、実にストレートに聞いてくるね。流石は彼の妹だ。
うん、キミの想像通り、処女膜も含めて当時の身体に戻るから期待してくれたまえ」
「ええ! 期待させて頂きますわ!」
菖蒲さんがキノスラの手を取り、両手でしっかりと握手する。その表情は、今日みた中で一番輝いていた。
かくして、唐突に決行された異世界プチ旅行は、特に観光することもせずしめやかに終了した。
師匠が酷い目にあってた姿しか記憶に残ってない気がするが、俺は悪くねぇ…。全ては、俺の予想を遥かに超えた度し難いブラコンの菖蒲さんが悪いんだ。
尚、菖蒲さんが帰ってくるまでキノスラと会話していた際、天野が「二次元の世界はないものか?」と質問していたようだが、生憎と彼が知っている異世界にそのようなものはなかったようである。
「これはもう、渉に“ゲームやアニメの世界に入り込める魔導具”を作ってもらうしか…」などと不穏当な発言が聞こえた気がするが、俺は難聴系主人公に徹することにした。
軍事系の魔導具は一杯作ってきた俺だが、さすがに異世界への移動となると師匠の作ったゲートの魔法陣を改良した程度にしか経験がない。つまり、一から作り上げるなんて慣れていないので非常に面倒なのだ。
ここは一つ、網谷に何としても頑張ってもらい、天野が二次元世界に行くことを諦めるように仕向けるしかない。
俺は網谷に精神感応魔法でエールを送りながら、全力で彼女をサポートしようと心に決めるのだった。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年7月23日(月) ─
菖蒲さんインパクトから一ヵ月。籠月学園の夏休み初日にして仏滅の本日。俺は研究所から学園寮の私室に戻り、ぐったりしていた。その原因は何か。
期末考査の結果が悪かったから? 否。例年通り学年首位はキープしている。
莉穂姉の水着を堪能する機会が少なかったから? それは多少ある。だが、主だった要因ではない。なぜなら、少しでも莉穂姉の水着を拝めれば、元気百倍になったアンパンマンも目じゃない勢いで気力充実できるのが俺である。逆に、いつぞやのように数週間まともに莉穂姉と“キャッキャウフフ…”できなかった場合、発作を起こすというデメリットもあるが、それは“ぐったり”とは違う。
では、一体何が原因か? それはズバリ、トータルエクリプス島に増設予定の“転移部屋専用の建物の建築について”である。
先ほど、菖蒲さんを向こうの世界に送ったついでに、師匠に「島の建物はどうやって建築したのか?」と質問したところ、その答えを聞いてゲンナリしてしまったのだ。
「島の建物? あぁ、手順としては単純で…。
1.転移魔法陣を使って木材を始めとした建材を転送。
2.分身の魔法を使って手分けして組み上げる。
3.乾燥を待つ段階になったら、時間経過促進と乾燥を促す魔法を使用し、数十分掛けて乾燥・定着させる。
あとは、2と3の流れを繰り返すだけさ。建材が足りなくなったら、1の流れから……って感じ」
確かに、自分自身を作り出す分身の魔法を使えば、監督役などを始めとした作業を全て賄えるだろう。だが残念ながら、俺はその魔法を教えてもらっていない。
なぜなら、俺やノーマンが分身を覚えてしまうと過剰戦力になってしまい、軍上層部の小父様・小母様の胃が大変な事になってしまうからだ。
ただでさえ俺とノーマンは過剰戦力で、「こいつら、離反したりしないよな? な?」といった感じに警戒する人が居るというのに、そんなのが気軽に増えたりした日には、軍内部で波乱が起きてしまうだろう。或いは、俺とノーマンがいろんな場所で同時目撃されて、“世界連合防衛軍の七不思議”ができ上がってしまう可能性も……いや、それはそれで面白そうだな。
…とにかく、そういった観点から師匠は俺達に分身の魔法を教える事は無かったし、俺達も自重するように心がけていたのだ。が…ここに来てまさかの、「建築するにあたって不便」という予期せぬ問題にぶち当たってしまった。
「どの国にも属さない無人島に、建物を建てたいから分身の魔法を覚えますね」などと言うわけにもいかないし、ここは普通に他のメンバーの手を借りる事にしよう。
監督役は、ネットからあらゆる情報を取得できるマチュアが適任だろう。作業はノーマンやマージちゃん、バトルスーツを着用した天野に頑張ってもらうとして、俺は建材の転送やその他作業のサポート…といった感じかな。
幸い、建材を手に入れるだけであれば、由子お姉ちゃんを介して籠月系列の業者から買い付ける事は可能だ。
さて、そうと決まれば部屋でグダグダしているべきじゃあない。さっさと行動に移すとしよう。何しろ、夏休みはもう始まってしまっているのだ。だらだらしていては、その分だけ莉穂姉とキャッキャウフフする時間が減ってしまう。
そう、俺達の夏休みはこれからだっ!
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渉が私室で気合を入れ始めた頃、遠い異国の地下深くにて一人の女性が溜息をついていた。
白を基調としたエジプトの女王風のドレスに身を包み、多くの男性を虜にできるであろうグラマラスなプロポーションを持つ美女──テロ組織“ラスト・ワン”の教祖アリサである。
「ふぅ…。カタコトとは言え、日本語を話せる連中が半数を超えたわね…。あとは、残り3ヶ月で総仕上げすれば、ある程度の会話くらいは出来るハズよね…。
……それにしても、一体誰よっ! ラーメンズのギャグ動画を日本語教材にしようとか考えたバカ信者はっ! 危うく『ワカラナイ。シラナイ。コ・ムーギコカ・ナニカダ』とか咄嗟に言いだす怪しい人物ができ上がってしまうところだったじゃないっ!」
アリサは自室でひとしきり叫んだあと、鬱憤が晴れた顔で椅子に腰かける。
スリットから覗く艶めかしい足を大胆に組み、ウェーブのかかったダークブラウンのロングヘアを掻き上げると、徐に胸元のネックレスを手に取った。
ネックレスにはめ込まれた紫色の宝石が、鈍く怪しい光を放つ。彼女は満足気に一つ頷くと、ペンダントを胸元に戻した。
「順調に“思念”が溜まっているわね…。もう、下手に策を練ろうとする信者も居ない。来年こそは……来年こそは必ず“儀式”を成功させて見せるわ。それが終われば──」
椅子から立ち上がり、いくつものアルバムが収められた棚に向かうアリサ。その中からお気に入りの一冊を手に取ると、慣れた手つきで目的のページを開いた。
「──終われば今度こそ、私からあなたに会いに行って良いのよね?」
アリサはそう言うと、愛おしそうにページを撫ぜる。
そこには、若かりし頃の伊藤歩──渉と俊之の師匠の写真が固定されていた。
毎度読んでいただきありがとうございます。
今回で第四章は終わりです。
章タイトルに“夏休み”と付けておきながら夏休み入りがエピローグのみになったので、しめやかに文字を削除させて頂きました。
プロット段階では、夏休みの話も書く予定だったんですが、所詮はド素人のガバガバプロットだったという事で…。
そして、21時に投稿予約したつもりが、完了を推し忘れていたようで22時投稿になってしまった…。
早めに気付いてよかったぁ…。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しく。




