第19話 - 学園祭ヒーローショウの追加提案と、菖蒲(あやめ)さん登場
前回のあらすじ。
トータルエクリプス島から帰還し、さっさと休もうとする渉。
しかし、有言実行と言わんばかりに滝川奈津美、籠月由子の二人に捕まり夜明けまで説教を食らう事となってしまった。
ようやく解放された渉は、這う這うの体で私室にたどり着き、すぐさま爆睡。
気付いたら、日曜日がほぼ寝ているだけで終了してしまっているのだった。
─ 2012年6月25日(月) ─
昨日は、ひと眠りのつもりがガッツリ夕方まで熟睡することになってしまった。
起きたあとは朝・昼と何も食べてなかったこともあってバイキング形式の夕飯をおかわりしまくり、海風や汗でベトついてた体を大浴場で綺麗に洗い流し、一日ほぼ寝まくっていたというのに床に就いて早々に爆睡してしまっていた。
まぁ要するに、気付いたら月曜の早朝で、いつも通り清掃活動に参加していた…という有様だったというわけだ。なんと言うか、「せっかくの日曜日だったのに勿体ない」という気持ちでいっぱいである。
特に何かしたい事があったわけでもないのに、休日が無為に過ぎていった時というのは、どうしてこうも「勿体ない」精神が疼くのだろうか。日本人のDNAに呪いめいた何かが刻まれているのかもしれない。
しかし、何にせよ過ぎてしまった昨日を悔やんでも仕方ないか。
まだ俺達は若いんだ。若さってのは振り向かない事だとギャバンも言ってた。
だから俺は、“あばよ昨日、よろしく未来”して……目の前の問題に取り組むとしよう。
さて、その“目の前の問題”とは即ち、約4ヵ月後に迫ったテロリスト襲来への下準備などではなく──
「BB、サバゲ部作ろうぜ! 部活を行うフィールドはトータルエクリプス島なっ!」
──ノーマンの説得だ。
…っていうか、アイランドってなんだよ。勝手に英語発音してんじゃねぇ、トータルエクリプス島だっつの。
「はっはっは…。いやいや、いくらサングラスを掛けてるからって、眠りながら立ち歩いて寝言を言っちゃいかんよ、ノーマン。ホラ、HRが始まるまでまだ時間がある。ちゃんと机に突っ伏して寝とけって」
「はっはっは、ヤダBBったら冗談キツ~イ♪ …安心しろ。ちゃんと起きてるし、意識もハッキリしてる上で発言してるぜっ!」
「なお悪いわっ! …いいか、ノーマン良く考えろ? 今、俺達がどういう状況に置かれているか分かっているのか?」
「あぁ、学園祭にテロリストが来るって状況だろ? その対策としても、このサバゲは優秀な解決策だと思うぜ? 基礎体力の向上、個人個人の戦闘感覚の訓練、状況判断能力を鍛えるのにも打ってつけ…ホラ、素晴らしいじゃないか、ワトソン君!」
「ホームズファンに怒られてしまえ、このデコ助野郎が! はぁ…。残念だがノーマン、俺が言いたかった“状況”ってのはそっちじゃない。“期末考査まで残り三週間”って事を言ってたんだ」
そう、一昨日の夜も皆して南国気分を満喫していた感じではあるが、それは生徒達へのリラックスという目的で解放しているのである。…まぁ、そういう思惑でいるのは俺や教師陣だけで、生徒達は普通に楽しんでいるだけかもしれんが…。
普通の学校であれば、あんな好条件の遊び場があると入り浸りになりそうという不安は出るだろう。しかし、そこは入試時の面接にて師匠特製の魔導具を使って人間性を見ているだけあり、基本的にどの生徒もちゃんとやる事はやり、遊ぶときは遊ぶというメリハリをつけて生活している。
そういう性格じゃないと、“一般的な高校の授業を受けつつ、魔法の訓練も行う”などというカリキュラムをこなすのは大変だろうからな。
さらに言えば、朝一の清掃活動だって月曜から土曜まで毎週行われているわけだし、この学園は色々とやることが多いのだ。
「なんだ、テストの方かよ。でも、俺もマージもBBが教えてくれる範囲をほぼ丸暗記するだけでこの前だって成績上位だったんだぜ? BBに至っては言わずもがなの首位だし、残り三週間もあって何が問題だというんだ?」
「あのな? 問題って言ったのは“俺達が”じゃねぇんだよ。部活にするなら学園の規定上、最低限5人の部員と顧問の先生が必要なんだ。その上で、生徒会からの承認をもらわにゃいかん。
俺達三人だけなら、勉強に時間を割かなくても試験は乗り切れるだろう。でも、他の生徒はみんな真面目に試験対策をしているんだぞ? 仮に部として設立できたとしても、あと1ヵ月は経たないと活動すらできねぇっての。そうじゃなくても、生徒会がこの時期に部の設立を認めてくれるとは思えん。故に、お前の提案は、少なくとも現段階では却下だ」
「チェッ! ツマンネ~」
俺の説明で問題点を理解してもらえたようで、ノーマンは渋々ながらも部の設立を諦めてくれた。
「御理解いただけたようで何よりだ。…にしても、ノーマン。お前、島でサバゲ部の活動をするって言ってたが、あそこにはサバゲが出来そうな大きさの施設なんて研究室のあるあの設備くらいしかないぞ? しかも、内部の作りがシンプルだから建物内での戦闘練習にも向いてないし…」
「いやぁ、一昨日島を走り回ってたら森林戦に良さげなフィールドがあったからさ~。ちょっと、やりたくなっちゃって…」
「やっぱ、試験が終わってもサバゲ部は却下ね」
俺達がテロリストを相手にするのはこの籠月学園内でのみだから、森林戦を練習しても意味がないっての。
だいたい、学園祭の時にサバゲ経験を活かそうなんてしたら、父兄を含めた友人知人のお客さんまで巻き込んじまうだろ。観客巻き込み型の寸劇なんて、遊園地やデパートの屋上でやってるヒーローショーでもあるまいし──
「──あ。そうか、最悪、バトルスーツを着せた天野に来てもらって、ガチのヒーローショーみたいにするのもアリだな」
「お? じゃあ、やられたあとにC4使って自爆して、木端微塵になるところまで再現しちゃう? 特撮みたいに…。あぁ、もちろん、木端微塵になるフリだからな? 発破したあとに立ち込める煙に隠れて移動すれば、例の透明化ベルトを使わなくてもバレずに撤退できると思うぜ?」
「うん。それ実行したら『木端微塵になるフリ』っていうか、普通に木端微塵になるよね? …お前以外は」
「頑張れ頑張れ! できるできる! 絶対できる! 頑張れもっとやれるって! やれる気持ちの問題だって! 積極的にポジティブに頑張れ頑張れ! 俺にだってできたんだから!」
「えぇい、炎の精霊・松岡大明神を降臨させるでないわ、暑苦しい! …つか、“俺にだって”じゃなくて、“お前じゃなきゃ”できねぇっての!
いいか? 俺の神力は一般人と比べれば桁外れに多いけど、ざっくりと数値化しちまえばお前より1000くらいは低いし、神力製リダクションアーマーなんて展開したことないから学園祭までに使えるようになるかどうか──」
「頑張れ頑張れ! できるできる! 絶対できる! 頑張れもっとやれる──」
「──っだぁぁああ! もぅ無限ループかよ、鬱陶しい! 分かったよ! 一応、練習はする! けど、念のため怪物用コスチュームの裏地に防御壁魔法の魔法陣を刻んで万全を期すからな!」
「さすがはBBだ。乗ってくれると信じてたぜ!」
ま、ガチのヒーローショーが出来るかどうかは天野の返事次第だけどな。別段急ぐないようでもないし、週末に研究所へ連れて行くときに返事を聞けばいいや。
なんにせよ、ノーマンのアホな部活創設の話は流せたから良しとしておこう。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年7月1日(日) ─
そんなこんなで週末になり、天野と網谷を転移魔法陣で群馬の研究所へと連れてきた。
今回は修行目的でもないので、俺とノーマン、天野と網谷の4名という少人数での見学……に、するつもりだったのだが、俺に引っ付いて莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュアが参加。更に、ノーマンに引っ付いてマージちゃん、篠山ねーちんまで参加していた。
なお、関口を始めとした割と大人しい連中は、各自勉強なり休日を満喫なりするという理由で不参加だ。
さて、今日は師匠の妹である菖蒲さんを引き連れ、師匠が安穏と暮らす異世界へプチ旅行するためにここに来ている。異世界へ行くためのゲートが、研究所の師匠の私室にしかないからだ。
天野と網谷の二人が居る理由は、「この研究所を見たい」との事だったので、菖蒲さんと合流するついでに軽く施設案内するために連れてきただけだったりする。
そんな中、月曜日にノーマンと話した天野の出演について打診してみたところ──
「どうせ腕輪の効果で俺が誰だかバレないようにできるんだし、参加してもいいよ? ただ、あの動画の一件以来、謎のヒーローとして地味に話題になってるから、学園祭に現れたとなると籠月学園に注目が集まる事になるだろうがな」
──意外にもあっさり出演を受諾してくれた。まぁ、その際の問題点についても指摘してくれたわけだが…。
「言われてみりゃそうだったな。どうする、BB?」
「まぁ、別にヒーローを無理に登場させる必要もないからなぁ。やっぱ、さっきの話はナシで──いや待てよ、“別の目立つ催し物”を開催して、謎のヒーローだけに注目を集めさせないようにするという手もあるな。
と言うわけで網谷、ものは相談だ。11月の2日から4日までの金、土、日の3日間、学園でライブを行ってくれないだろうか? もちろん、ギャラは払うよ。俺とノーマンの二人で」
「え? 俺も払うの確定なの? 別に構わないけど」
クルリと網谷に向き直りながらライブの提案をしてみる。ノーマンのやつも何だかんだで了承しているから、天文学的なギャラにならなければ3日分の支払いは可能なはずだ。
網谷は予定を思い出すように口元に手を当てると、数秒後チラチラと天野の方を窺いながら口を開いた。
「…うん。今のところ特に予定は入ってないハズだから、正式な依頼として事務所が受諾してくれれば3日間とも大丈夫よ。……ただ、一つ個人的にお願いが──」
「天野と学園祭デートを楽しみたいんですねわかります。ライブは一日一回、一時間程度。二人だけで落ち着いてお昼が食べられるよう、寮の一室を提供することを約束しよう」
「おい渉。俺はそんな話聞いてな──」
「──素晴らしいわ! 交渉成立ねっ! 何としても受諾させるよう、駄々《だだ》を捏ねてみせるわっ!」
パンッと良い音を立てながら、俺と網谷は強く握手を交わす。天野のやつが何か文句を言いたげにしているが、面白そうなので尊い犠牲になってもらおうか。
網谷の表情には「その3日間で少しでも薫との仲を進展させてみせる!」という決意が現れており、目標に突き進む漢のような良い笑顔をしていた。釣られて俺も「頑張れよ、幸運を祈ってるぜ」的な笑顔になってしまった。
そんな少年漫画のようなやり取りを交わしていると、廊下の奥の方から小走りに駆け寄ってくる人の気配を感じた。
俺の真後ろまで近づいてきたその人物は、おもむろに俺の肩に手を置き、こう話しかけてきた。
「渉さん。なかなかいらっしゃらないから、心配になって私からお迎えにきてしまいましたわ。
さあさ、そんな暑苦しい笑顔で握手してないで、早く私をお兄様の元へ連れて行って下さいまし」
落ち着いた口調に反して、有無を言わせぬ迫力。肩に置かれた手は強く握られており、鎖骨あたりに指が食い込んで凄く痛い。とても90歳オーバーとは思えぬ握力をしていらっしゃる。
まぁ、外見だけなら50代後半から60代といった見た目をしてる人だしな。筋力がそこそこあるのは不思議ではないだろう。
俺は少し涙目になりつつ後ろを振り返る。
そこには、嫋やかな雰囲気を纏った和装の年配女性──菖蒲さんが、温和な笑顔なのに鬼気迫る圧を放ちながら立っていた。
毎度読んでいただきありがとうございます。
今回はここ数回に比べてやや短めになってしまいましたが、区切りとしてはここら辺が丁度良かったので…。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しく。




