第18話 - 日曜日はキングクリムゾン
前回のあらすじ。
関口に渡すための自動人形を作りながら、天野へ世間話ついでにノーマンのルーツを語った渉。
その後、無事に自動人形を関口に渡し終え、時間もいい頃合いになったので皆でセーフハウスに戻る事にしたのだった。
セーフハウス周辺まで戻ると、女生徒達の大半が帰宅したのかあまり人気が無くなっていた。残っている人も、大体は木陰で居眠りしているといった具合である。
セーフハウスの方も、「リビングも冷蔵庫も、好き勝手使って良いんで楽しんでください」と張り紙しておいたから、もしかしたら室内で寝転がっている人も多いかもしれない。
この島では現在昼前といった時間だが、日本では深夜2時を過ぎている。瞼が重くなるのも無理はない。その証拠に、先ほどまで研究施設の居住スペースでキャッキャと女子トークに花を咲かせていた莉穂姉達も、カートに乗ってすぐ瞼が下りてしまったくらいである。単に喋り疲れただけ…という可能性もあるが。
通常なら寝る必要のないアンドロイドのマチュアすら、目を閉じて座席に背を預けきっている。やはり女子トークというのは思考ルーチンへの負荷がかかるものなのかもしれない。
ちなみに、今日の参加者は前回よりも更に多い五百人規模であったが、出入り口となる転移魔法陣を常時五十個用意することによって転移待ち渋滞は起こっていない。
ただ、転送先が野ざらしのビーチ直通となっているので、早めに専用の建物を増設するか、先ほどまでいた研究施設のどこかに常設するか悩みどころである。今の時期はまだ平気だが学園祭の頃には雨期に入るので、学園から転移した瞬間に雨風の洗礼を受けるという罰ゲームめいた状況に晒されかねないのだ。
「…魔法で建物を“ポンッ!”と造れたら楽だったんだがなぁ」
「えっ?! フルメタルなアルケミストみたいに両手を打ち鳴らしたあと、地面に手を置いて『ささやき、えいしょう、いのり、ねんじろ!』すればできたりしないのか?」
「セツコ、それ錬金術ちゃう。死人が灰になっちゃったりする儀式や。つか、それ以前に俺達、呪文なんて使わねぇし」
俺の呟きを聞いた天野が心底意外そうにネタをぶち込んできたので、儀礼として一通りツッコミを返し、「コホン」と咳払いをしてから魔法で建物が造れない理由を説明した。
「“永続する物体を魔法で作り出す”ってのは、魔力の消耗がデカい割に作り出した物体は大した大きさにならないんだよ。俺よりも魔法を自在に操れた師匠でさえ、『“オリハルコン”や“ヒヒイロノカネ”といったファンタジーな金属を作り出すとかじゃないなら、現存する建材を目的地に転移させて組み立てた方が現実的』と言っていたくらいだからな」
「“魔法で転移させた方が現実的”とか、パワーワードだなぁ。さすがはお師匠様です。
…ところで、唐突に建物がどうのって言いだしたのはなんでだ?」
「また急に話しを本筋に戻したな…。いやホラ、学園の女性陣が転移する際の魔法陣って野ざらしだからさ、雨期が来る前にちゃんとした建物の中に設置しなおさないとなぁ…って思ったんだよ。で、今の所は転移専用施設に使えそうな建物が無いから、新たに建てる必要があるんだけど、魔法で造れたら楽なのにと思ってね」
「なるほど。それで、さっきのセリフってわけか」
俺の言葉を聞いてビーチサイドで輝く魔法陣を思い出したのか、天野が納得した顔で頷いた。
ちなみに、天野と網谷は俺の実家に設置されている魔法陣を使いセーフハウスの転移部屋に移動しているので、雨期になろうと雨風にさらされる心配はない。
学園側の転移魔法陣については、学園寮2Fの食堂前エレベーターホールに設置しているので、こちらも天候を気にする事は無い。よって、この島に仮設置している魔法陣だけがネックになっているわけだ。
「そういうこと。プレハブ小屋って選択肢もあるけど、学園の皆にバラしたのは俺だし、今後入学してくる後輩たちも永続して使うだろうから、ちゃんとした建物にした方が良いと思ったんだよね」
「渉はそういうところ真面目だよな。まぁ、そういう奴だからこそ、『社会人になるまでは、莉穂姉に手を出さない!』という初志貫徹が出来ているのかもしれないけど…」
「クックック…恐れ入ったかね? ……っと、そんなこんなしてたらもうセーフハウスが見え──もうノーマンが居る…」
セーフハウスが見えてきたので皆を起こそうと思ったら、既に到着していたらしいノーマンがイイ笑顔で俺達に手を振っているのが見えた。
「え? あ、ホントだ。渉が精神感応魔法で連絡した時点で近くに居たのかね?」
「いや、それだったら『セーフハウス近くだから先に待ってる』くらい伝えると思うぞ? いくらノーマンでも。
たぶん、俺が連絡入れた時点で全速力でダッシュして戻ったんだろうな。アイツ、本気で走れば時速200kmくらいは出せるし…」
ノーマンは急発進・急停止を確実に行える速度としては秒速20m(時速72km)が限界というだけで、速度重視で走れば神力補正で秒速55m前後を叩き出すことができるのだ。しかも、チーターとは違い、尿意等を催さなければ数時間ぶっ通しで走れるというチート性能である。
尚、これはノーマンがバカみたいな神力精製量も持っているから可能なのであって、一般人よりズバ抜けて高い神力を持っている幼馴染メンバーですら、同じだけの速度を出す前にガス欠で動けなくなるだろう。
「ファッ?! なにアイツ、人間辞めちゃってるの?! ……あ、そもそも人造人間だったか」
「言っとくけど、そんな無茶ができるのはアイツだけだからな? 同じホムンクルスとは言っても、俺じゃあアイツほど早く走れないし、持続力も無いぞ? マージちゃんだったら戦場で鍛えていただろうし、持続力は足らなくてもノーマンと同じくらいの速さで走れるかもしれない…ってくらいだ」
「……なるほど。先週、渉が『どんな敵だろうと、ノーマン一人居れば十分』みたいな事を言ってた理由がよく分かったわ。確かにアイツなら、物理で殴るだけで大体解決できそうだ」
俺の説明を聞いて数秒ほど口をパクパクさせて驚いていた天野だったが、すぐに落ち着くとしみじみとそう零した。
「お帰り、BB。思ったより遅かったな」
「お前が早過ぎんだよ…」
「フッ…また世界を縮めてしまった」
「クーガー兄貴のファンに怒られてしまえ! サングラス掛けてるからって生意気な…」
サングラスのデザインだって違うくせに…などと心の中でツッコミを入れていると、俺とノーマンのやり取りに気付いたのか女性陣が目を覚まし、身体を解し始めていた。
セーフハウスに入ると、女生徒達が死屍累々の体で寝転んでいた……という事は全くなく、木陰でうたた寝していた人以外は寮へ帰ったようだった。
彼女候補筆頭の網谷が一緒とはいえ、天野と言う外部の男が居たからか、無様な姿は晒したくなかったとみえる。
「さて、そんじゃそれぞれの家に帰りますか…。天野と網谷は、転移魔法陣の使い方には慣れた? 眠くて集中できそうにないってんなら、魔法陣に乗ってくれれば俺が起動するけど?」
「大丈夫だ、問題ない」
「私も問題ないと思うわ。練習にもなるから、自力でやってみる」
胸を寄せるようにガッツポーズを取る網谷はいいとして、天野の返事には一抹の不安を感じる。イーノックみたいにならなきゃいいが…。慢心、ダメ絶対。
「そうか。んじゃあ、まずは天野から先に行ってみようか。もし万が一、俺ん家に泥棒が入ってたら、真っ先にやっつけてもらわんといかんしな。そのあと、網谷が転移するってことで…。
あぁそうそう、天野。ちゃんと網谷を家までエスコートするんだぞ? こっちは真昼間な時間だけど、日本は深夜だからな」
「了解。帰る時も、お前の家から出るところを見られないように注意して……あ。家を出たあと鍵を掛けられないんだが…」
言われてから俺も気付いた。今日呼び出した時も含め、毎回俺が鍵を開けて招き入れ、二人が帰宅したあとは俺が内側から閉めていたのだ。
「確かにそうだな。じゃあ……はい、コレ」
俺はいつものように魔法陣を展開して実家の鍵を取り出すと、天野の手を取り有無を言わせず握らせる。
「なんてあっさりと鍵を…。いやまぁ、むやみやたらに入りはしないけど、いいのかよ?」
天野は一瞬驚きはしたものの、苦笑と共に手の中を確認しそんな事を聞いてきた。
「どうせ普通の手段で実家に帰る事は稀だし、お前の方がむしろ使う頻度多くなるだろうからな。莉穂姉が持ってる鍵もあるから俺は問題ないし、最悪、転移魔法陣が刻まれたマットを使えば家の中に転移できるってもんよ」
「そうじゃなくて、単に『俺が勝手に家探ししないか心配にならないのか?』って言いたかっただけなんだが…。いやまぁ、それだけ信頼されているって事で納得しとこう。どうせそんなことする気もないし…」
「あぁ…。なんだ、そっちの方の心配だったか。そもそも、天野の性格上そんなことをするとは思えないからな。何の心配もしてなかったわ。
……さて、じゃあ他に帰宅する際の問題は無いかな?」
「あ~………うん、たぶん大丈夫だ」
天野の返事を聞き、皆して転移部屋に移動する。
まずは予定通り天野が先に転移。特に問題なく転移できたようで、すぐに魔法陣が再使用可能となった。
続いて網谷が魔法陣に乗り、意識を集中させる。こちらも問題なく転移先の魔法陣を指定できたようで、網谷が転移され魔法陣が再使用可能となった。
実家周辺には、ココを承認している魔法陣が他に存在しないので、脳内インターフェイスに浮かぶ地図を見間違えない限り無事に到着している事だろう。
万が一、見覚えの無い部屋に出たとしたら、そこにある魔法陣からまたこちらに戻ってくれば良いだけのことだしな。
「さて、二人とも無事に帰れたみたいだし、莉穂姉達も先に帰って休んでくれ。俺とノーマンは、木陰でうたた寝してる人達を起こしてから戻るわ」
「ちょっ…、BB?!」
“ガシッと相手の肩を掴み、「いいから手伝え」という意思表示のポーズ”をノーマンに実行。
ノーマンが本気で驚いた反応をしていたが、俺は気付かないフリをしてマチュアに語りかけた。
「マチュア。学園経由で来た人って、この周辺──そうだな、せいぜい500m圏内くらいにしか行ってないよな?」
「えぇ。渉の予想通り、残っている人はその範囲内に居ます」
「OK、あんがと。…マージちゃん、篠山ねーちん、すまないがノーマンは暫く借りとくね。あとでちゃんと返すからご心配なく」
いつもだったら二人から小言の一つ、二つ、九つくらいは言われそうなものだが、今回は睡魔が勝ったのか「しょうがないわね」の一言で了承を得られた。
おかげで、俺は天下御免でノーマンをこき使えるようになった。…本人の意思はともかくとして。
そのあとの作業はとても単純なものである。
まず、俺が睡眠導入魔法を半径500m圏内に発動。去年の苦い記憶があったので使う事に少し抵抗はあったが、ちゃんと構築する事ができた。
目覚める時間を5秒後に設定したので、効果範囲に居た人が徐々に覚醒し出す。
次に、精神感応魔法をラジオの要領で拡散発動させ、寮への帰宅を促す。
何人かはちゃんと魔法陣で転移してくれたが、寝起き直後の行動が遅い人も何人か見受けられた。
そこでノーマンの出番である。
セーフハウスのすぐ近くに居た人達に関しては俺がサポートとして起き上がらせ、遠方に居た人達の方はノーマンにおんぶなり、お姫様抱っこなりで連れて来てもらう。要するに、実力行使というやつだ。
まぁ、殆どの人は朝の清掃活動に慣れていたからか、起きてすぐに移動を開始してくれたので実力行使の対象となった人が多くなかったのは救いだった。
おかげで、20分もしないうちに全員転移完了できた。
「よし。それじゃあ、俺達も帰るか」
「あぁ、さすがに俺も走り回って疲れたしな──って、あれ? BB、どこいくの?」
帰ると言っておきながら目の前にある浜辺に設置した魔法陣ではなく、セーフハウスに向かう俺を見て、ノーマンが不思議そうに声を掛けてくる。
「いやだって…。そこから帰還したら、たぶん滝川と由子お姉ちゃんがエレベーターホールで待ち構えてるだろ? 俺だって説教は受けたくないから、敢えて警備員棟の方からこっそり帰ろうと思ってな」
「あぁ、なるほど。でも、俺が捕まってすんなりゲロする…って事は考えてないのか?」
「はっはっは! 何にせよ、警備員棟に転移したら、すぐにスニーキングミッションしつつ帰還すればよかろうなのだ!」
「…そうか。じゃあ、頑張ってくれ。俺はこの魔方陣で先にイッてるぜ」
ノーマンの「行く」の発音が怪しかったが、ツッコミを入れる前に転移されてしまった。
俺も急いで転移しなくては…。ノーマンが光の速さでゲロって、警備員棟の出入り口に回り込まれたら厄介だ。
俺は自分が操れる限界の速度でセーフハウスまで移動し、即座に警備員棟の転移魔法陣を選択して魔法陣を起動した。
「お帰りなさい、渉君。さ、それじゃあ理事長室に行きましょうか♪」
黒髪ロングの美女が、満面の笑みで転移部屋の中に居た。
…はい、どう見ても由子お姉ちゃんです。本当にありがとうございました。
「なんで──」
「なんで私がココに居るか? もちろん、エレベーターホールでも警備員棟でも、どちらに渉君が転移してもいいように、私と滝川さんで手分けして張ってたのよ♪ さ、行きましょうか♪」
まるでデートにでも行くかのように俺の腕に、ガッチリと絡みついてくる由子お姉ちゃん。
たぶん、笑顔の裏で滝川に精神感応魔法を送って理事長室に呼び出しているのだろう。
俺達の戦いは、まだこれからだ…。
──このあと滅茶苦茶説教された。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年6月24日(日) ─
──東の空。生い茂る木々と紺色が混ざる空の狭間に、朝陽の輝きが白く映える。
清々しい陽の光だ。つい数時間前もトータルエクリプス島で拝んだっけな。
…えぇ、徹夜です。夜通しで、懇々と女性の扱いや言葉のチョイスについて正座で聞かされましたよ。
ひたすら「はい」、「すんませんでした」、「以後、気を付けます」といった反応しかできなかったから、物凄く眠い。
そんな中、たま~に「反省してるなら、島で私達と重婚しなさい」というトラップをしれっと混ぜられ、危うく流れで「はい」と言いそうになるのを全て回避した自分を褒めてやりたい。
正座のしすぎでふらつく俺の身体を、寮に戻る滝川がそっと支えてくれている。
もしも、これで俺の萌えポイントを狙って押さえに来ているのなら、滝川はとんだ策士だと思う。こ、こんなことで俺は堕ちたりしないんだからね!
さて、そんなアホなやりとりを脳内でやりながらエレベーターに乗ると、やがて滝川が降りる階に到着した。その間、これといったアプローチは無く、純粋に俺を支えてくれていただけである。
「…じゃあ、私はここで…。おやすみなさい」
「あぁ…うん。おやすみ」
長時間俺を拘束した事に対する後ろめたさからなのか、滝川の表情がどことなく憂いを帯びて見える。ちょっとドキッとしちゃったけど、日和ったりなんかしないんだからね!
…なんか、疲れてて脳内が変なテンションになっているな。さっさと自室に戻って寝よう。
やっとの思いで、俺達の部屋の前までたどり着いた。
鍵を開け玄関に入り、キッチン兼リビングを通り過ぎて真正面の扉──俺の私室へと入る。
そして念願のベッドへとダイブし──
「おかえりなさい、マスター。次は私のターンです」
──マチュア本体が大人しかったと思ったら、自室PCからマチュア・コピーが小言を始めやがった。
嗚呼、でもそれすら子守唄程度に感じる。
睡眠中の暗示効果とかが出るかもしれないが、知った事か。俺のNo.1は莉穂姉でゆるぎないんだ。だから今は、おやすみなさい…。
──結局その日、俺は夕飯時までぶっ通しで寝続けたのだった。
毎度読んでいただきありがとうございます。
次回も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しく。




