第15話 - 南国のフルーツに全部持って行かれた感
前回のあらすじ。
変身ベルトを使用する機会は当分なさそう…そんな事を聞いた二日後、動画サイトへバトルスーツを着用した天野らしき人物の動画がアップロードされた。
担任の仁科先生に、バトルスーツを創った犯人が渉であるという事が一発でバレ、先生から軽いお説教と共に説明会をさせられる羽目になった渉。
そんなあれやこれやが起きた週末、トータルエクリプス島にいつものメンバーを集めた渉は、かねてより予定していた“空間拡張バッグ”の接続先を見せるため、島の研究施設へ皆を案内するのだった。←今ココ
トータルエクリプス島の研究所は天井の大多数がガラス張りになっており、日中であれば電気をつける必要が無いほどに明るい。これは1Fの廊下や、研究用スペースとして作られた部屋すべてに共通した作りであり、南国の陽気を室内でも感じたいという師匠のこだわりだという。
まぁ、今現在は日が昇ったばかりの時間帯なのでそんなに明るくはない。それに、雨期になるとバシャバシャと雨音がうるさいという欠点もある。
…とまぁ、そんなことはともかくとしてここの研究所について、皆にもざっと説明しておこう。
俺はゆっくりと前進したまま体をやや横向きにし、後ろを振り返る。
すぐに目に入るのはノーマンを中心に置いたマージちゃん、篠山ねーちんのトリオ。そして、その斜め後ろに居る天野、網谷ペアの二組だ。…網谷はトップアイドルのはずなのだが、番組の収録とかは大丈夫なのだろうか。
続いて莉穂姉、滝川、由子お姉ちゃん、マチュア本体の四人組。先週、天野が提示した重婚提案についての審議がどうなったのかは詳細不明だが、以前までのような牽制し合う雰囲気はなくなっている。…ただ、「がっつかなくなった」などと失言をしてしまった俺に対して、由子お姉ちゃん達からあとで説教が待ってるんだよな。…学園に戻るのが憂鬱だ。
最後尾は関口、妹尾、美希姉、マジカルゆかりんといった理性的な行動・言動に定評のある面々である。
「さて、この研究所についてざっと説明するね。…まぁ、見ての通り“研究所”と言っても群馬にある研究所みたいに本格的な施設じゃなくて、大き目の一軒屋に毛が生えた程度の広さだけど…」
「「群馬の研究所?」」
俺の言葉に、天野と網谷が首を傾げる。
そういえば、この二人はGW期間中の修行に居なかったから、あそこの存在を知らないんだった。
「そう、群馬にある研究所。うちの義父さんと義母さんの職場だ。ちなみに、義父さんはそこの所長だったりする。…まぁ、気になるようだったら、来週、師匠の妹さんを連れて行く予定だから一緒に来る?」
「「気になるから、是非」」
「了解。…って、さっきから気になってはいたんだが、網谷の方は大丈夫なのか? 番組の収録とか色々と予定が詰まってたりするんじゃないの?」
「えぇ、大丈夫よ! 昔の家に戻ってきてからは、薫と一緒に遊べるようマネージャーに駄々を捏ねて土日はスケジュール調整してるもの!」
「「ヒュ~! 天野、愛されてるぅ~」」
得意げに胸を反らす網谷を見て、小学生めいた言葉で天野をからかう俺とノーマン。
よし、これで早速さっきの仕返しができた。
「あぁ、本当にな…。ついこの間までは“二次元じゃない”って理由で、軽くあしらっていたんだが…。渉にも言った通り“網谷の想いをちゃんと受け止めた上で考える”ようにしている今となっては、6年もの間ブレずに俺を想っていた網谷の根性に一種の尊敬すら抱き始めているよ…」
「「………」」
なんだろう、からかった対象からまともな反応が返ってきたせいで、自分の幼稚さが恥ずかしくなってくるな。…仕返しできたと思ったら、恥をかいて自滅したでござる。
そんなアホなやり取りをしていると、少し広めの空間となっているエレベーターホールに到着してしまった。
ゆっくり目に歩いていたが、大して広くもない施設なのであっという間である。
「……コホン。えっと、本当なら移動しながら説明する予定だったけど、今しがた通り過ぎた“廊下に沿うように作られた長いガラス張りの部屋”が研究室ね。
で。ノーマンの持っている空間拡張バッグに直結している部屋や、授業の邪魔にならないようマージちゃんの尻尾を転移してる小部屋は、このエレベーターで下った所にある倉庫区画にある。
ちなみに、このホールの真上は居住スペースになっていて、そこらのワンルームマンションよりも広く、快適な生活空間になっているね。
あと、この島の施設はどこも毎日自動人形が掃除していて、すぐに使えるようメンテされているから、疲れたら気軽に使ってくれてかまわないよ」
尚、こういった島の情報は、俺なんかよりもマチュアの方が詳しいはずなのだが、俺の役割を取らないための配慮なのか黙して聞きに徹している。特に補足や注意などが飛んでこない事から、今の俺の説明内容にこれといった不備は無かったようだ。
俺はエレベーターの下降用ボタンを押してドアを開くと、中に入って皆に乗り込むよう促す。
家具等を運び込めるよう大型のエレベーターが設置されているので、俺を含む14名が入ってもまだ余裕がある作りになっている。
まぁ、大人数が乗っても大丈夫だった原因の一つは、グラマラスな美希姉が魔法で幼女かしているから…って点が挙げられるだろう。……いや、本来は幼女体型だったハズのマジカルゆかりんが魔法でグラマラスボディ化してるから、結局は±0だったか。
「ねぇ、渉。一つ聞いても良いかな?」
「……え? 関口が? 俺に? 珍しいな。まぁ、どうぞ」
「何よ、その驚き方。…って、それは別にいいわ。聞きたい事と言うのは、あの可愛らしい自動人形の事よ。ここまで連れてきてくれたカートの運転もそうだけど、前にリビングで飲んだトロピカルジュースやらは、あの子達がこの島で収穫して作ってくれてるのよね? 一体、どれだけの数が居るのかしら?」
自動人形の容姿を思い出したのか、それとも島に来るたびに飲んでいるトロピカルジュースの味を思い出したのか分からないが、関口がややうっとりとした表情でそんな事を聞いてきた。
正直、俺もあの白いずんぐりむっくりプニプニボディな自動人形が、どれだけいるのかは把握できていない。なので、より詳しくデータを持っているヤツにぶん投げる事にした。
「…だそうだが、マチュア、答えてやってくれ」
「はい。全部で961体が島で稼働しています。ちなみに、ジュースの原料になるフルーツも、今から向かう倉庫の一室に時間経過を極端に遅くした状態で保存されているので、いくつか持って帰りましょうか?」
「…ッ! そんなに居たんですか!? ……だったら一体くらい……あ、何でもありません! えっと、フルーツの件は是非ともお願いします!」
マチュアの返答を聞いた関口が、目を爛々と輝かせて歓喜している。一部不穏当な発言もあったが、聞き流しておいてやろう。
それにしても、961体か…某アイドル作品のライバル事務所を思い出すなぁ。……師匠の事だから、そこを意識して配置している可能性がでかいけど。
──ピンポン♪
『地下に到着しました。扉が開きます』
話しが終わるのとほぼ同時にエレベーターからアナウンスが流れ、ドアがスライドする。
俺はドアを片手で押さえながら皆に外に出るよう促し、最後にエレベーターを降りた。
エレベーターから降りたあとの皆は、マチュア以外は“ぽかん”とした表情で周囲を見ていた。
その気持ちは分からないでもない。何しろ地下は1階層しかないのだが、地上から地下までの距離はおよそ20mあるのだ。
地上にあった研究施設の倍以上広く作られており、天井の高さも相まってとてつもない空間が広がっている……ように感じる。まぁ、3階建ての建物を吹き抜けにした感じで、縦・横・奥行もかなりの距離があるから、実際広いっちゃ広いのだが…。
そんな広い地下空間にさまざまな大きさのコンテナ擬きがいくつも設置されており、たまにその出入り口から数体の自動人形が掃除用具を持って出入りしている姿が見受けられる。
「か、可愛い…。ねぇ、渉。900体以上も居るんだから、一体くらい貰っても──」
「関口、落ち着け。流石にこの島で稼働している自動人形を渡すのは無理だが、整備用の余剰パーツが有るからそれで単純動作しかしないヤツを今度くれてやる」
「──絶対よ? 約束を破ったら、いくらあなたでもただじゃおかないからね?」
「あ、あぁ。約束だ」
…いつもは大人しい関口の目と口調がマジだ。こいつは逆らっちゃなんねぇ…という迫力を感じる。
「…さて、それはそうと本来の目的を達成しちゃおうか。まずは、ノーマンの空間拡張バッグの繋がり先からだ」
そんなこんなで、俺たちはそこそこ大き目のコンテナ擬きの前に移動してきた。
どのコンテナ擬きにも空調用のファンが備わっており、今はその音が目立つほどに近くへと来ている。
「この中はエレベーターみたいに広くはないから、数人ずつ交代で出入りしてもらおうかと思う。別に中に興味が無ければパスしてもらっても構わないから、その時はダチョウ倶楽部のノリで他の人を促してやってくれ。んじゃ、まずは俺とノーマンと…マージちゃんと篠山ねーちんはどうする? 入る?」
「「入るわ」」
二人の返事を確認し、俺達はコンテナ擬きの中に足を踏み入れた。出入り口は、閉めてしまうと閉塞感が酷いので開けっ放しだ。
足を踏み入れると動体感知センサーが作動し、内部に明かりが灯る。
すると、2mほど先に分厚いすりガラスのセパレーターが箱状に配置されている空間が眼に入った。その中には、ライフルらしき物の影や、棚に置かれた弾薬が入っているであろう箱などがうっすらと確認できる。
「あのすりガラスの内側が、ノーマンに渡した空間拡張バッグに繋がっている空間だ。天井部分に魔方陣を刻んでいて、魔法陣が起動すると今の様に部屋全体に明かりが灯るようになってる」
「なるほどな…。ずっと白い壁だと思っていたが、このコンテナっぽい室内全体が白く光っていてそう感じていたのか…。なぁ、BB。今ここでバッグを起動したらどうなる?」
「いや別にどうもならんよ。単にお前の手が、天井から生えているように見えるだけだ。まぁ、すりガラス越しに見るから、ちょっとホラーちっくにはなるだろうが…」
などと説明している途中でノーマンはバッグを起動させ、俺が言い終わる頃には天井からノーマンの手が生えてうにょうにょと動いていた。
…やっぱ、間近で見るとキモイな。
「ウッホ、俺が使うたびにこんな感じだったんだな。なんか面白い」
「…そうかい。ちなみに、見ての通り天井部分とすりガラスの間には少し隙間が開いているから、湿度や気温はこの室内同様一定に保たれている。…まぁ、多少セパレーターの内側で淀みはしているだろうが、そこまで深刻にはなっていないだろう。
自動人形もガラスの内側までは掃除できていないが、この出入り口横にある室内空調管理システムで異常などを定期的に確認しているから、火薬が急に湿気るだの、埃が積もるだの…そういったことはまず起こらないはずだ」
「なるほど、理解した。要するに、快適に利用できる空間に保存していたって事だな!」
「まぁ、そういうこった。…質問等が無ければ、次の人達にバトンタッチしたいんだが、いいかね?」
「おうよ。とりあえず、天野に声掛けしてくるぜ」
ノーマンが出て行き、二、三言やりとりした声が聞こえてくると、入れ替わりで天野と網谷が入ってきた。
二人とも中に入るなり、「へぇ~」といった具合に感心している。
「なぁ、渉。もしかして、俺が変身するときに身に着けるバトルスーツも、このコンテナ群の中のどれかにあったりするのか?」
室内を見渡していた天野だったが、急に期待した目でそんな事を問いかけてきた。
「いいや。あれはさっきチラッと話に出た群馬の研究所の方にある」
「なんだ、そうなのか。…でも、あとで整備するとか言ってなかったか? どうやってやるつもりなんだ?」
「あからさまに落胆したな。ベルトさえあればどこでも呼び出すことは可能だから、1階の研究室で整備する事もなんだよ。まぁ、研究所の人か俺くらいじゃないと整備はできないだろうから、滅多に使う事のない機能だけどな」
「そうかい…。ちなみに、その整備している所とか見ててもいいのか?」
「ん? 勿論だが?」
「よっし! み・な・ぎ・って・キター! そんじゃさっさと、倉庫見学終わらせてくれよ!」
「あ…あぁ、分かった。どうせ見学する場所なんてもう一ヵ所くらいだから、そんなに長くは掛からないと思う」
先ほどとは打って変わってワクワクした表情の天野を見送ると、入れ替わるようにして莉穂姉達が入ってくる。
ざっくりと中を見回り、感心したように一言、二言コンテナ擬きの仕組みを聞くと、すんなりと最後のグループである関口達と入れ替わっていった。
関口達も、これと言った反応を見せることなく、ぬるぅりといった感じで室内を見て帰っていく。
ノーマン以外は特に関係なかったせいか、割かしあっさりと紹介が終わってしまった。
コンテナ擬きの戸締りをし、次の目的地に向かう。
「えっと…。ここが俺が空中に魔方陣を展開して、中から制約魔法の魔導具やら、お弁当やらを取り出すときに使っているコンテナ擬きだ。
まぁ、中を覗いてもらうと分かる通り、駅とかにあるコインロッカーみたいなもんが置いてあるくらいだな。魔法陣を構築する時に小部屋の番号を織り交ぜないと発動しないが、一抱え程度の荷物だったら大概入るし、簡単に出し入れができるから便利なんだ。
あと、使おうとした小部屋の中に何か物が入っている場合は、魔法陣発動と同時に使用者側にリアクションが返ってくるという機能もある」
「「「「「へぇ~…」」」」」
予想していたけれど、皆の反応が淡白だった。
「……ちなみに、何か質問とかは──」
「「「「「無い」」」」」
「──ですよね。知ってた」
こんな感じで、満を持して行われた倉庫見学&説明はあっさりと終了したのだった。
尚、地下に来る際にマチュアが言っていたフルーツを保存しているコンテナ擬きへ案内した所、先ほどとは打って変わり女性陣が大盛り上がりしていた。…気持ちは分かるんだけど、なんか切なかった。
毎度読んでいただきありがとうございます。
相変わらず展開が遅くてすんません。今回も、説明回ちっくな内容になりました。
来週も金曜日更新予定です。お暇でしたら宜しくお願いします。




