第14話 - 早速ベルトが大活躍?
前回のあらすじ
学園祭の対応策として、天野発案の“部外者参加型のゲリラ演劇”について演劇部と打ち合わせをする渉と俊之。大まかな流れも決まり、シナリオなどは演劇部に丸投げするという形で話し合いはまとまった。
その日の夜、発案者の天野にこれらの報告をしていると、ノーマンが渉の私室を訪ねてこう言った。
「BB、俺達をトータルエクリプス島に案内した本来の理由、忘れてね?」
その言葉を聞き、ノーマン達に“空間拡張バッグ”に繋がっている倉庫を紹介する…という目的があった事を思い出し、己の忘れっぽさに愕然とする渉。
しかし、それもこれも教祖アリサの手伝いを押し付けられ、テロ対策で生活が忙しなくなったせい。ひいては、異世界でまったりした生活を満喫している師匠のせいに違いない…と、半ば八つ当たり気味な暴論に行きついた渉は、何とかして師匠への嫌がらせをしようと画策する。
その翌日。渉の師匠である伊藤歩の実の妹、籠月菖蒲を師匠に会わせてあげて欲しいと籠月由子から懇願された渉は、次の嫌がらせを思いつく。
「そうだ、重度の兄好きである菖蒲さんを師匠と会わせてやろう。姉好きの師匠は微妙な反応をするだろうし、菖蒲さんは喜ぶ。俺は師匠への嫌がらせができるしWin-Winじゃないか!」
そして渉は、爽やかな笑顔で由子の頼みを聞き入れるのであった。←今ココ
─ 2012年6月21日(木) ─
「師匠に意趣返し(ただの八つ当たり)が出来るぞ!」と、ニヤニヤしながら床に就いた翌日。今日も清掃活動の時間がやってきた。
学園に入学したばかりの生徒達は、まず初めに清掃活動の時間帯に驚く事になる。ここ籠月学園の寮において「伝統的な洗礼」と言われている光景である。
最初の方こそ眠い目を擦りながら行う清掃活動だが、日曜日を除く六日間の清掃を繰り返すうち、みんな一月ほどで早起きに慣れてくる。
清掃区域は各部屋ごとに決まっており、一週間ごとにローテーションで区域が変わるようになっている。
しかしながら、俺とノーマンが使っている部屋は少々特別で、毎日担当区域が変わっているのだ。
今の所、男性が俺達二人だけしかいないので、実験的にさまざまな生徒達と会話できるように組んでいるのだろう。
まぁ、おかげで学園に来てから二ヵ月しか経っていないノーマンも、今では大学部を含む上級生、同級生、下級生とも顔見知りになっている。更には、学園寮の全フロア、寮周辺、通学路周辺の“ゴミや汚れが溜まりやすい場所”を素早く見極められるようになったというオマケ付きだ。
紛争地帯ではテロ活動を行う集団を一掃し、普通の清掃でも大きなゴミから小さなゴミまで一掃できるなんて、まさに掃除屋。そのうち、幽霊まで掃除できるようになって、ゴーストスイーパー・ノーマンとか言われるようになったりして…。
……いや、やっぱダメだな。ゴーストスイーパーの名は、ナイスバディでボディコン衣装の似合う美女じゃないと俺が許したくない。
そんなアホな事を頭の片隅で考えながら清掃用のジャージに着替えていると、PCに常駐しているマチュア・コピーから予想外のニュースがもたらされた。
「渉。先ほど“謎の変身ヒーロー現る!?”というタイトルの動画が動画サイトにアップロードされました。どうやら、薫に渡した例の変身ベルトが早速使われたようですね」
「……マジで? どこかの特撮マニアが撮ったPVってオチだったりしない?」
だって天野のヤツ、つい一昨日「平和なもんだよ」とか言ってたばかりなのに…。
「動画を確認したところ、渉が渡した変身ベルトによるバトルスーツと同一デザインでした。偶然の一致としてはあり得ないレベルで酷似しています。
それに、変身した人物が“どの様な容姿をしているのか”が、モザイク処理がされているわけでもないのに判別できませんでした。男性であることは判別できるのですが…。この様な症状は、ほぼ間違いなく認識阻害の腕輪による反応でしょう。ここまで情報が揃っている以上、この動画に映っている人物はほぼ間違いなく薫です」
モザイク処理無しで映像に影響を及ぼしている…か。確かにそれは腕輪の効果によるものだろう。
認識阻害の腕輪に組み込まれている魔法陣は、“魔力を流すだけで発動する”ので割とお手軽に発動させられる。しかし、その効果は直に見ている人の認識だけでなく、記録媒体にまで効果をもたらす。まさに“魔法”と呼ぶに相応しい不思議現象を起こせるのだ。
まぁ、カメラに撮られただけで魔女の素顔がバレてしまっては、あっという間にニュースで取り沙汰されちまうからな。正体が分からないようにするための腕輪なんだから、その辺も含めてサポートしてくれないと意味がない。
尚、“どうしてそんな事ができるのか?”については、魔法を作成した本人である師匠ですら原理は不明らしい。ただ、師匠曰く──
「『直接見ている人間だけでなく、カメラやビデオに撮られたとしても認識されないようにする』という事を強くイメージして作り上げた魔法だからね。火炎魔法や氷結魔法みたいに“人類が科学的に再現可能な現象を、魔力で発動”させているわけでもなく。催眠魔法みたいな“超強力な催眠術”を実行するわけでもない。まさに原理不明の“魔法”ってやつだ。
そう、例えば……使い慣れていくうちに、どんな人の思考にもアクセス可能になっていく“精神感応魔法”。周囲に人が居るか居ないか、発言する本人ですら正確に認識していない状態でも、魔法の事を一般人に漏らすことができなくなる“制約魔法”。これらの魔法同様、“創った本人すら原理を分かってないのに効果がある”ってタイプの魔法だ。おかげで魔法式も簡略化できないから、フル構築しないと使えないし…。
ホラ、“プログラムはサッパリ分かってないけど、言われた通りに書き込んだらちゃんと実行できた”的な──いや、この場合は僕が一から創り出しているから意味が違うか。すまん、やっぱ今の発言は無しだ。
まぁ、何と言うかアレだ。とりあえず、“フワッ”とした感じで受け入れてくれ。僕にも“詳しい原理はよく分からない”って事しか分からなかったんで…」
──との事である。
正直言って、「その回答はぶん投げ過ぎじゃね?」と思わなくもないのだが、そもそも魔法とは不思議な現象を、不思議な力を使って引き起こすものだ。故に、この回答はある意味“魔法”を“魔法足らしめる”哲学的な……何の話題からこんな話になったんだっけか…。
……そうだ、“天野と思しき人物が、変身ベルトを使った現場の動画”がアップロードされたって話をしてたんだった。
「え~っと…。とりあえず、認識阻害の効果が動画にも出ていて、バトルスーツの形まで酷似しているってんなら、天野で間違いないだろうなぁ。それにしても、一体どんな事件の助っ人に行ったのやら…」
「どうも痴話喧嘩の末に、女性が男性に対してボディブローをかまし、マウントポジションを取って殴りかかろうとしたところを薫が止めに入った模様。人の往来が少ない夜道が背景なのですが、住宅街の中の喧嘩だったようで、投稿主は面白半分で録画していただけのようです。その結果、予期せぬスクープまで撮れてしまった…といったところでしょうか」
「へぇ~、普段の天野だったら『なんだ。リア充共の痴話喧嘩か、くだらねぇ』と一蹴して関わらないような場面だというに珍しい。でもまぁ、暴力沙汰に発展してたようだし、認識阻害の腕輪や変身ベルトを実際に使ってみたかっ──待て、女が男をぶん殴ったって言ったか?!」
「え? 反応するのはそっちですか? 薫が“リア充のイザコザに介入した”という珍事の方ではなく?」
人工知能にすら驚かれるのか、天野が現実に介入するって事象は…。
「いや、そっちも驚いてはいるけどさ…。なんというか、天野が助けたのが女性の方だったら、今頃はその女性のフラグが立って『フハハハ…。お前も俺と同じく“ハーレム系ラノベ主人公”になるんだよぉお!』と言ってからかえただろうになぁ…って、ちょっと残念に思っちゃってな」
「……想像していた以上にしょうもない反応でビックリです」
…お。これは、さすがのマチュアも俺に対して愛想が尽きて──
「でも、そういうところも可愛くて好きですけどね」
「──チッ! まるで、どんな選択肢を選んでも好感度が上がってしまうバグゲーをプレイしているかのようだっ!」
「もう“莉穂だけと添い遂げる”という選択を諦めてしまってはどうです? 幼馴染である滝川奈津美も。理事長である籠月由子も。もちろん、この私の本体も。先日の薫の提案に心を動かされ、“渉に選ばれなかった以上、諦めるしかない”という選択肢を受け入れる覚悟を放棄していますから」
「…そこは日本人として放棄しちゃいけないところじゃないかなぁ?」
「奈津美と由子はそうですが、私はホラ、超高性能な人工知能ですから。日本産まれですけど、人じゃありませんし」
「ったく、こういう時ばっかり都合よく人外発言を受け入れやがって」
「フフン♪」と、表情は見えないが得意げなニュアンスの声音で言い切るマチュア・コピー。あとで人工ボディに入っているマチュア本体にデコピンしてやる。
コンコン──
マチュア・コピーが常駐しているPCにジト目を向けていると、私室のドアがノックされた。
「お~い、BB。いつまでもマチュアとコントやってないで、そろそろ清掃区域に向かおうぜ~? じゃないと、ベランダからジャンプして地上にショートカットする羽目になるぞ~」
「あいよ~、今行く~。ってことで、ハーレムルートの件は相変わらず保留だ! んじゃ、行ってくる」
「は~い、行ってらっしゃい。ア・ナ・タ♪」
「…よし! 本体へのデコピンはキツ目のヤツをぶっ放そう!」そう頭の中で誓いながら、俺は部屋をあとにするのだった。
ちなみに、その後の朝のホームルームでは、バトルスーツに変身した謎の男性のニュースを見た仁科先生に話しかけられ──
「どうせ渉君が開発した新しい魔導具を、軍の関係者が使ったんでしょ? 正直に白状してくれていいのよ?」
──と、肩に手を置かれながら優しく諭されてしまった。
俺らの秘密をカミングアウトしてからというもの、色々と自重しなくなったのは確かだが、何の疑いも無く“俺が主犯”と決めつけられたのはイマイチ納得できなかった。
いや、魔導具の設計自体は俺だけど、実際に作ったのは義父さん達だし…。
それに、使ったのは軍関係者じゃなくて、俺の幼馴染(男)だし…。
そんな風にツッコミを入れたところ、「何で、学園関係者以外にそんな魔導具を渡しちゃったのっ!」と怒られ、放課後、土曜日に起きた事を色々と仁科先生に説明する羽目になってしまった。
尚、先生と二人きりで生徒指導室に入る事になり、エロマンガの様な展開に……とはなっていない。なぜなら、教職員室に居た教諭の皆様方に話すという講義形式の説明会だったからだ。
…ちっとも残念だなんて思ってないぜ?
だって、初めては莉穂姉に捧げるって誓ってるからなっ。
▲▽△▼△▽▲
─ 2012年6月23日(土) ─
「──とまぁ、一昨日はそんな事もあって、天野のせいで大変だったさ。ただ、例の一夫多妻制の提案のおかげか、滝川達ががっつかなくなったのは助かった。そこに関しては素直に礼を言う」
「……てっきり、『動画に撮られるようなヘマをすんなよ』とか言われるかと思ったが、あっさりしてるんだな」
場所は変わって、ここはトータルエクリプス島。セーフハウスより移動用カートに乗って約10分といった場所にある、師匠の個人研究施設の入り口である。
今週の出来事を天野に報告……と言う名の愚痴をこぼしながらカートで移動し、今に至る。
「過去に何度も、魔女の姿を捕えた映像やら写真やらが出回ったことがあったからね。完全にバレることなく変身するなんて、不可能だと考えるさ。仮に姿を捉えられたとしても大丈夫なように腕輪を渡したんだから、その点についてはヘマとも何とも思ってないよ」
「そうかい、ならよかった。……で、この施設は一体なんぞや?」
そう、本日ここに移動してきた理由だが、「空中に展開した魔法陣から弁当や魔導具を取り出す際に利用している倉庫を見せる」と言っておきながら、先週は皆に紹介し忘れてしまったためである。今回は真っ先に、目的地であるこの場所へ移動したわけだ。
ついでに言えば、ここでなら先週気が付いたバトルスーツの改善点を手直ししやすいという点も挙げられる。
「──そんなわけで、いつものメンバーを引き連れてここまで移動してきたのさ」
「OK、把握」
「ならよし。…そんじゃ、まずは前回紹介できなかった場所に案内しようか。皆、ついて来てくれ~」
俺は皆の方を振り返りながら入り口を解放し、観光ガイド宜しく先陣を切って進もうと足を踏み入れ──
「あ、渉君。これが終わって学園に帰ったら、ちょっとお話ししましょうか? 滝川さんやマチュアさんを含め“がっついていた”だなんて聞き捨てならないので♪」
──ようとした途端、由子お姉ちゃんが不意にそんな事を言い出した。
同時に、ポンと俺の肩に置かれる手。恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みを貼り付けた由子お姉ちゃんの顔。そして、ギチギチと音が立ちそうな勢いで手に力が込められていく。
「……アッ、ハイ」
彼女らに逆らってはいけない。脳裏に浮かんだその答えに従い、俺は首を縦に振らざるを得なかった。
俺の反応を見て満足したのか由子お姉ちゃんの笑顔から険が消え、肩のロックも外してもらえた。
…ただ、俺は今日、寝かしてもらえないかもしれん。もちろん性的じゃない意味で…。
「いやぁ~、先ほどのBBは明らかに一言余計でしたなぁ。一連のプレイを見てどう思われましたか、解説の天野さん?」
「そうですねぇ~、『一言余計』と言うより、今のは言い方の問題じゃないでしょうか。“積極的なアピール”といった表現にとどめておけば、今回の様な展開にはならなかったかと思います。
まぁ、ギャルゲーしかやっていない私でさえも今さっきの発言はどうかと思いましたし、これは渉選手自らが招いた失態と言えるでしょうねぇ」
こいつら、面白そうに実況しやがって…。今度なんかのタイミングでシバいてやる。
俺は心の中で強く誓い、今度こそ先導するために研究施設に足をふみ入れたのだった。
毎度読んでいただきありがとうございます。
どうやら腰痛の方は勢力を弱め、常にギシギシと自己主張する攻め方から、明け方寝起きの際に少しだけ抵抗を見せるというスタイルにならざるを得なくなったようです。
いやマジで、“腰痛で入院”という切羽詰まった状態にならなくて良かったぁ…。
そんなわけで、来週も無事なら金曜日更新予定です。




