第11話 - その考えは無かった…
前回のあらすじ
海中に沈んでいくしかなかった渉の運命は、スーツに備えてあった飛翔魔法の機能によって無事に回避された。
浮上する際に襲い掛かってきた二匹のホホジロサメをスーツのパワーで返り討ちにし、トータルエクリプス島に常駐している自動人形に、サメ料理を作るように指示を出す渉。
しかし、無駄に心配を掛けさせたという理由で、莉穂姉達から長々と説教を受ける事になってしまった。
渉が食べる、サメ料理の味はしょっぱい。←今ココ
初めてのサメ料理は、南国の風と心の汗の味がしました。
…いやまぁ、単に汁物以外の料理が少し干からびた状態だったのと、莉穂姉達から説教された切なさと正座の痺れから来る涙が口に入っただけなわけだが…。
ちなみに、料理のレパートリーとしてはフカヒレスープの他には、刺身、煮る、焼く、揚げる…などのよくある調理法が使われていた。
そしてサメ肉だが、意外にも普通に食べることができた。ちょっと色が濃い赤み魚といった感じではあったが…。
確かにサメは“魚”ではあるから何も不思議ではないのだが、どうしても肉食の“獣”というイメージが強いため、知識で知っていても違和感がぬぐえなかったのだ。
なお、後々調べてみて分かった事だが、フカヒレは“皮を剥ぐ(面倒)、干からびさせる(かなりの日数がかかる)、ふやかす”などの工程を経て作るものらしい。
どうやら自動人形がその辺も頑張ってくれたようで、師匠が用意した色々な魔導具を使って数十分程度で全工程を終わらせたようだ。「…今度、改めてあの島の設備を調べておかないといかんな」と、心に決めた瞬間である。
まぁ、そんななんやかんやは置いといて天野に渡した変身ベルトだが、俺が説教を受けている間に妹尾から魔力を通すコツを教えてもらったらしく、俺がサメ料理を食べ始めた頃にはスーツを着用できるようになっていた。
天野の魔力保有量は、滝川達よりもやや少ないものの、籠月学園2年生の平均的数値よりはだいぶ多いので、ベルトに通す魔力量の確保は問題なかったとは思う。
だが、大抵は初めて魔力を通すのに1時間以上は掛かるところなのに、すんなりこなし過ぎだろう…というのが俺の素直な感想だ。マジで解せぬ。
妹尾の教え方が上手だったのか、はたまた天野の魔力を操る素質がやたら高かったのかは不明だが、何にせよこれだけは言える。
「……俺の幼馴染達が優秀すぎる件」
もうアレだ。幼馴染全員に変身ベルト作って、世界の主だった軍事施設の転移部屋への承認が済んだ転移魔法陣を刻んだ腕輪型の魔導具でも渡しておけば、大抵の犯罪は瞬時に解決できるような気がしてきた。
…いや、やっぱ止めとこう。莉穂姉とキャッキャウフフする時間が今以上に減る。
「…って、そうだよ! こいつは由々しき問題だ!」
「いきなり叫びだしてどうした、BB?」
一人で海に向かって叫んでいた俺の後ろに、いつの間にかノーマンが立っていた。
「ノーマンか! 聞いてくれ、俺はとんでもない事に気付いたんだ!」
「…何?」
ノーマンが、若干面倒臭そうに眉毛を寄せて俺に続きを促す。
「ここ最近、立て続けに色々あっただろ? そのせいで、“面倒な問題を丸投げしても、ちっとも心が痛まないノーマン”とばかり会話する時間が増えたよな?」
「BB…。いくら俺でも、その扱いは切ないぜ?」
少しばかり申し訳ない気もするが、今の俺はそれどころじゃないのでノーマンの呟きを無視して続ける。
「前まで10分に1回は莉穂姉の事を考えていたのに、ここ最近は1時間に1回くらいしか莉穂姉の事を考えてないんだ! それでも平気になってきているなんて、俺、どうかしちまったのかもしれない!?」
「あぁ、確かにその頻度は『どうかしてる』な。減ってる割には異常に多いから。…つか、2週間くらい前の試験明けの時は、元々が『1日10回』とか言ってなかったか? 明らかにしれっと頻度を増やしてるだろ、BB。だいたいなぁ、俺も女子のおパンツの事を考えるのは好きだが、1時間に1回どころか、1日に3回程度しか考えたことないぞ。BBのそれはおかしいんだよ。普通に考えて」
お前だって、1日に3回もパンツの事を考えてるとか頭おかしいだろうが…。
「いや、ノーマンも大概だろ…。なんで、1日に1回以上女子のパンツの事を考えられるんだよ。普通は、“どうやったら人間は二次元に行けるのか?”くらいしか考えないもんだぞ?」
いつの間にか、天野まで俺達のすぐ横に立って話に加わっていたが、とりあえずこれだけは言わせてもらおうか…。
「「天野の普通を、さも一般の総意みたいに言うな」」
「「「…………ぷ! ハッハッハッハッハッ! いやぁ、久しぶりだな! このアホなやり取り!」」」
三人同時に吹き出し、小・中学校時代を思い出して笑いあう。
ノーマンが途中で紛争地帯に駆り出されてたから、男だけで三人揃ってこんなやり取りするのは本当に久しぶりだ。
「くっ…、薫があんなに楽しそうに話すなんて…。私が居なかった間もあんな感じに過ごしていたのかと思うと、相手が男子とは言え、二人に嫉妬心が芽生えそうだわ…」
「紗友莉ちゃんの気持ちは痛いほど分かるわ…。でもね、アレに混ざってしまっては、きっと私達は異性として見てもらえなくなる……私はそう思うの。だからここは、歯痒くても我慢すべきところなのよ」
少し遠くから何とも言えない表情でこちらを見ていた網谷に対し、莉穂姉が優しい眼差しで何か話しかけていたが、流石に聞きとれるような距離ではなかった。
「ところで天野。さっきまでスーツを装着してはしゃぎまわっていたみたいだが、俺達の所に来たってことは何か問題、あるいは要望でもあったのか? まぁ、音声録音機能はあとで改修する予定ではあったが…」
ちなみに、海中に沈みながら録音した独り言のデータは、ホホジロサメを捕まえて水面に上がるまでに消去済みである。
あんなバカっぽい独り言を、なんかのタイミングで天野が再生してしまったら、恥ずかしいなんてもんじゃないからな。
「いや、今のところは問題も要望もないかな。渉が使ってたあのウイングも展開して空を軽く飛んでみたが、もう少し慣れれば問題なく飛べる自信があるぜ。スーツそのものの動き自体も悪くない。むしろ、昔からあった夢の一つが叶って大満足ってもんよ!」
あんな僅かな時間で、スーツの補助があるとは言え飛翔魔法を使っているとは…。
イケメンで、トップアイドルな幼馴染からも積極的にアピールされてて、しかも魔法まで適応性が高いとか…。
「「チッ! リア充め!」」
「お前らだって世間一般の男子からすれば、羨むような環境に居るリア充じゃねぇか!」
「え~…? 確かに、マージや篠山ねーちんとキャッキャウフフで、いや~んなアレやコレをできそうな状況ではあるけど、BBが『学生のうちはダメ絶対!』って規制をかけてくるしぃ。言うほど充実しているかというと、むしろ生殺しって感じぃ?」
「そんな一昔前のギャルっぽい言い方で俺に文句を言っても、俺は“俺自身とノーマンに課したルール”を撤回する気はないからな。
だいたい、俺やお前が率先して学園で風紀を乱したら、他の女生徒達だってモヤモヤするかもしれないでしょうが。ここは、学園の風紀や、世間からの風評を守るためにも、俺達は持て余す性欲を抑え込むべきなのさ。
第一、日本の法律だと俺らは結婚できる年齢じゃないんだし。下手に責任を取らなきゃいけないような状況を作らないようにするには、俺達も手を出さないよう己を厳しく律さないといかんでしょう」
「「ついさっきまで、変態的なセリフを吐いてた人物とは思えないくらいまともな事を言ってる?!」」
ノーマンと天野が、俺に対して非常に失礼な評価をぬかしよる。
「ほっとけや! 欲望は欲望としてあるけど、あくまで妄想や空想をしてごまかしつつ、爛れた肉体関係にはならないよう注意してるんだよ、俺は!
…で、天野。スーツの方も問題ないってんなら、一体どうしたってのさ?」
「ん? あぁ、なんか莉穂姉の事でなんやかんや言ってるのが聞こえたから、様子を見に来ただけだったんだが……丁度良いから聞いてみるか」
天野は最初、「特に用件はなかったんだが…」といったニュアンスで手を振っていたが、少し考える素振りを挟むと次のように続けた。
「さっきのノーマンの口ぶりだと、獣耳美少女のマージ氏と、スポーツ系美少女の篠山ねーちんの二人を同時攻略する気みたいだったが、渉は莉穂姉一筋な感じだったな? 滝川や、金髪褐色肌のエロいアンドロイド姉ちゃんと、黒髪ストレートの妖艶な姉ちゃんの三人に対しては、ぶっちゃけどう思っているのかな? …と、折角だからハッキリと聞いてみようじゃないか」
「はぁ…、そのことか。確かに滝川も由子お姉ちゃんも、基本的には性格も良くて中身も容姿も魅力的な女性だ。素直に好意を向けられているのは、人として嬉しいとは思うよ」
「あれ? 渉、私の名前が挙がってないのですが?」
マチュアが何か言ってるけど、アンドロイドのキミはとりあえず置いておこうか。ややこしくなるから。
「だけど、結婚できる相手は一人、つまり莉穂姉だけなわけだ。だから、是非とも二人には、俺の事を諦めて素敵な男性を見つけて欲しいと思っている…ってのが素直な心境だな」
「渉やノーマンのように、性格、学業、仕事、容姿に優れ、財産も多く所持している様な10代男性は、世界的に見ても他に類を見ないほどの超優良物件である…という事が、私があらゆる手を尽くして調べた結果分かっているのです。他の男性など、霞んでしまうでしょう」
「おい、マチュア。お前普段、何を勝手に調べてるわけ?! つか、あとでお前、世界中の人々の個人情報を盗み見した件について説教なっ!」
外野として聞いていた滝川や由子お姉ちゃんが「マチュアさん、良く断言してくれました」などと手を取って褒めていたが、褒めちゃだめでしょう、二人とも!
具体的な個人情報を漏らしてはいないものの、明らかにアウトな内容を調べているんだからさ…。
「ふむ、なるほど。少なくとも今の渉の話を聞く限り、三人を『魅力的な女性』と認識してはいるわけだな?」
天野がしたり顔でそんな事を言う。
「しれっと一人増やすな。マチュアは見た目と中身こそ女性だが、ボディは機械なんだ。現状の法律では、人間としてカウント不可だから。いやまぁ、確かに外見自体は俺の好みで整形されているけどさ…」
「「「え?! 渉、黒髪ロングストレートが好きだったんじゃなかったの?!」」」
「莉穂姉…と、滝川と由子お姉ちゃん、ちょっと落ち着いて! あくまで、“外国人の美人秘書”っていう設定で考えた時の好みだから! 俺のもっとも好みとしている女性像は、莉穂姉がNo1だから!」
「「「…ホッ!」」」
「「…って、私達は安心できる状況じゃなかった!?」」
三人とも安堵したかと思ったら、次の瞬間には滝川と由子お姉ちゃんが悔しがっていた。
もうホント、俺みたいな莉穂姉第一で考えている超弩級の姉好きなんて愛想尽かして、他の男性に目を向けて幸せを探してほしいものである。…環境的に出会いが少ないから、難しいかもしんないけど。
「さっきから聞いてると、渉は“法律”や“世間の風評”なんかを重要視してるみたいだな」
「法治国家で生きていく以上、それを無視して強行に出れば、必ず身近な人にも危害が及ぶだろうがよ。近所のおばちゃんとか、噂好きな主婦層なんかに変な噂を立てられたら、俺だけじゃなく、俺の家族やお前を含めた幼馴染達も白い目で見られるんだぞ? そんなの、俺が我慢できないね。だから、確実に潔白を示せるよう、俺は法律を順守しようと年齢が一桁の時から心に決めていたんだ」
俺の答えを聞いた天野は心底驚いた顔をすると、「流石は色々と知識を植えられていた人造人間だ。覚悟の年季が違うな…」と一言呟き、改めて俺に向き直った。
「じゃあ仮に、渉が言ったような法律がない…あるいは、法律を気にしなくても良い場所であれば、莉穂姉以外の三人も結婚の対象に含まれる可能性はあるってことかな?」
「…なんだよ。さっきから聞いてりゃ、まるで『滝川達ともくっつけよ』と言わんばかりに…」
「渉だって、なんやかんやで俺と網谷をくっつけようとしてるだろ? たとえば、さっきの朝焼けイベントなんて、明らかにそれ狙いだったしな」
「あ~…、やっぱバレちゃってた? でも、文句を言いたげな感じだけど、なんだかんだでちゃんと網谷を誘って連れてきたじゃんか?」
「渉の事だから、もし俺が『網谷に聞いたけど、土曜日の夜は収録が有るから来れないってさ』とメールで返信しても、網谷にメールして『収録があるって聞いたけど本当?』ってな感じに確認してたろ、絶対」
「フ…、流石は我が幼馴染だ。俺の行動が見事に読まれてる…」
「そんなんだから、俺も素直に誘わざるを得なかったんだよ。で? 俺の事はいいから、さっきの質問に答えてもらおうか?」
天野の狙いはよくわからないが、周囲の女生徒達が聞き耳を立てているのを感じるな。
特に、当事者である滝川、由子お姉ちゃん、マチュアの三人からは物凄い目力を感じる。
「よし、分かった。法律とかを考えない状態だったら、他の三人をどう扱うか…それについて答えてやろうじゃないか。ただし、天野。お前にも同時に答えてもらうぞ? “お前に催眠魔法を使い、この世界を二次元の世界として強制認識させた場合、網谷を恋愛対象として見るか否か”についてな!」
どうだ、これなら天野だってそう簡単に答えられるわけ──
「……いいだろう、どっちか片方だけが答えるってのはフェアじゃないからな。俺もその問いに答えようじゃないか」
──ぐぬぬ…。こやつ、実に男らしい…。
「その意気や良し! じゃ、“せーの”で言うぞ」
「あぁ、分かった」
二人して「すぅ~…」と大きく息を吸い、一拍置いたあと同時に口を開いた。
「「せーの! ぶっちゃけ、自分でもよく分からん! ……ですよね~? だって、今まで考えた事がないんだもの、そんな簡単に明確な答えなんて出ないって」」
厳密に言えば、天野の場合は月曜日に会った際に俺から提案した話ではあるが、こいつは昔も今も二次元を追う者だ。
催眠を掛けて、二次元の世界だと思い込む様になった…というもしもの話を考えても、そう簡単に割り切ってイメージする事は難しいだろう。
同様に、俺も莉穂姉以外とは結婚しないものと信じて疑う事がなかった。
滝川も由子お姉ちゃんも…ついでにマチュアのボディも、正直言って性欲を刺激される程度には意識はしてしまう事も多々あったが、男性としては不可避の反応と言えよう。
しかし、だからと言って「俺の嫁」などと気軽に言えないくらいには、良識を持って接していたのだ。仮に、「法律を気にしなかったらどう思う?」と言われても、そうそう節操なしに「重婚バッチコイ!」とか言えるわけがない。
もっとじっくりと滝川達の事を考えないと、答えなんて出せないって…。
まぁ、そもそもそんな状況になる事はないから、本腰を入れて考えても無駄だとは思うけどな。
俺にジト目を向けて来る三人には悪いけど、こればかりはどうしようもないだろう。そう簡単に法律が変わるなんて事は無いのだから…。
「んで、天野はどうしてまた今みたいな“もしも”の状況を考えさせたんだ? そう簡単に法律が大きく変わるなんて事ありえないってのに…」
「だって、ココ、魔法で飛んで来なけりゃ、外から見つかる事の無い秘境なんだろ?」
「突然なんだよ…。あぁ、その通りだ。どの国にも属さない、いわゆる“公海”に浮かぶ島に、師匠が認識阻害の魔法陣を常に展開するように調整したんだから、まずもって俺達以外に知ってるヤツは居ないだろうさ」
俺の返答を聞いて、ニヤリと天野が笑顔を浮かべる。
なんだろう、非常に嫌な予感を感じさせる笑顔なんですけど…。
「つまり、この島って“どの国からも独立している”って事だろ? ってことは、この島に住む限り、日本の法律は適用外じゃねぇの? って思ったんだよ」
「「……あ」」
俺とノーマンの口から、驚きと納得が入り混じった様な声が出る。
そして、滝川やマージちゃん達からは「それだわ!」という歓喜の声が巻き起こっていた。
「そ、そうか! つまり、トータルエクリプス島では、日本で使えないノーマンの国際免許を活かすこともできるってわけだな! なるほど! 天野、頭いい!」
「BB、誤魔化しても現実は変わらねぇぞ」「渉、誤魔化しても現実は変わらねぇぞ」
俺が苦し紛れにかました盛大なすっとぼけは、ノーマンと天野の冷静なツッコミで叩き落とされた。
そうだね。確かにこの島では、師匠から譲り受けた俺の意思一つで適法にも違法にもできるもんね。
一夫多妻を許可しても、多夫一妻を許可しても、18歳未満の運転免許を許可しても良いんだもんね。
そうか、ガンプラはどんな自由な発想で作ったっていいんだ!
「…ごめん、マジで重婚云々については保留にさせて下さい。気持ちの整理がつかないんで…」
だが俺の口からは、そんな煮え切らない言葉が出てきていた。
滝川達からは酷く不満気な声が返ってくるが、こればかりは簡単に決められないだろう。今まで生きてきた中で培われた良識や常識から考えて…。
毎度読んでいただきありがとうございます。
今回は投稿がかなり遅れてしまい、申し訳ないです。
そして、文量が多い割には、話は進んでいません(いつもの事ですが)
ちなみに、今回はこんな内容になりましたが、第一章の一話の前書きにも書いた通り、ハーレム化はさせる予定はないです。…ノーマンの方はハーレムエンドになりそうですが…。
次回更新も、また金曜日予定になります。




