第08話 - 変身ベルトは男の美学
前回のあらすじ。
女性陣の不満を何とかいなす事に成功した渉は、テロリストが使っていた潜水艇を無事に横須賀へと転送させた。
だがそれは、「日を改めてトータルエクリプス島に招待する」という約束を交わした上での任務達成であった。
時差を気にすることなく楽しむため、土曜日の夜に島へ移動し、朝焼けを楽しみながらビーチを満喫しようという計画を立てる渉達。
しかし、島へ移動しようと転移部屋を目指す渉達の前に、夥しい数の学園関係者(主に女生徒)が警備員棟に群がる。
その凄まじい人数を目にし、渉はたった一言を呟く事しかできなかった「………どうしてこうなった?」と…。←今ココ
警備員棟に群がる数百人の人だかりを見て呆気にとられていると、人の整理をしていたと思しき私服の女性が俺に気付いて駆け寄ってきた。
よく見たらその女性は、テロ騒動以降ちょくちょく会話する機会が増えた警備員のリーダーさんだった。
新婚さん故に「土日は旦那さんと二人の時間を楽しむために、なるべく休めるようシフト組んでるのよ~」などと惚気ていたはずだが、今日はこんな事態になってしまったため突然呼び出されたのだろう。
私服姿で作業しているのは、そのせいと見た。
そんな彼女の私服だが、淡い水色のブラウスに、白いフレアスカートといったカジュアルな服装をしていて、ピシッとした警備員スタイルでは分からなかった可愛らしさが垣間見える。
湯冷め対策なのか、単なる寒さ対策なのか、肩にはストールが巻かれていた。夏場に突入しているとはいえ、学園は海風が吹いてくるから夜は冷えるもんなぁ…。
とりあえず、お風呂上りだったのに呼び出されたのだとしたら、本当にお疲れ様ですとしか言えない。
「渉君、丁度いいところに…。お願い、ちょっと手伝って。学園の転移魔法陣に設定されている待機時間の影響で、ご覧の通り渋滞しちゃってるの。
大隈さんから聞いたんだけど、渉君は例の無人島への魔法陣を取り出せるのよね? しかも、待機時間無しの物を。…お願い、緊急措置としてそれを使わせて欲しいの!」
「……えっ?! じゃあコレってやっぱり、無人島への転移待ちの人だけで溢れ返ってるんですか?」
まぁ、十中八九そうだろうとは思っていたけどね。
だって、こんな凄まじい数の人がこんな時間に警備員棟に押し掛けるなんて、普通じゃ考えられないもの…。
「えぇ…。どうやら渉君達が、この時間くらいから向こうに行って“朝焼けを満喫する”という話がどこかから漏れてしまったようで…」
リーダーさんの言葉を聞き、身に覚えのあった俺達の動きが止まる。
水曜日の夕飯時の話だ。俺達は食堂で、楽しげに土曜日の予定を話しあっていた記憶がある。
そう、「どこかから漏れた」ではない。むしろ、本人達がダイレクトに垂れ流ししていたわけだ。
つまるところ、この騒ぎは俺達が引き起こした事態という訳で、その尻拭いは俺達がやるべきである。
転移魔法陣を一番使い慣れてるのは俺だし、俺が頑張るべきだろうなぁ…。
くそぅ、自分の迂闊さが憎らしい。
「それにしても、妙齢の人妻に『渉君、お願い、欲しいの!』なんて言わせるとか。まるでエロゲーの主人公みたいだな、BB」
「日の出まで時間がないってのに、悪意ある端折り方でからかうなっての!」
100%事実無根なノーマン発言ではあるが、莉穂姉達からほんのりと疑惑の眼差しで見られてしまっているやるせなさを力に変えて右手に身体強化を施し、ノーマンの額に必殺の拳を入れる。
「…今、何かしたかね?」
“ドゴォッ!”という、普通ではまず聞かないようなえげつない音がしたが、ノーマンは軽く仰け反っただけで涼しい顔をしていやがった。
対戦車ライフルをまともに食らって、ようやく“かすり傷を負うか負わないか”という規格外のヤツだから、この程度じゃあ堪えはしないと思っていたが、実際に目の当たりにすると凄く釈然としないものがある。
「………はぁ~、“効く”なんて思ってはいなかったが、ここまで無ダメージとは…。まぁいい。
で。さっきの転移魔法陣の件ですが、転送先の魔法陣は一ヵ所しかないので、どの道渋滞が起きる羽目になります。俺が一度向こうに行って、臨時の魔法陣を30個ほど設置してきますんで少し待ってて下さい」
ノーマンへのツッコミを諦め、リーダーさんに向き直り俺の提案を伝える。
俺とノーマンの過激なやり取りを目の当たりにして驚いていたリーダーさんだったが、すぐに俺の言葉を理解してコクコクと頷いてくれた。
「よし…。じゃあ、ノーマン。この前のマットを出すから、俺が転移したら皆が群がらないようにお前がガードしといてくれ。ビーチ周辺に臨時の魔法陣を設置したらすぐにこの魔方陣に戻ってくるから」
「了解」
先ほどまでのおふざけな感じの雰囲気から一転、ノーマンからまともな返事が返ってくる。
その反応に俺は満足して頷くと、空中に魔方陣を展開して転移魔法陣の刻まれた特殊マットを取り出し、トータルエクリプス島へ転移するのだった。
とりあえずアレだ。自分達で撒いた種だし、さっさと解決しちまおう…。
▲▽△▼△▽▲
転移したあと、セーフハウスから200mほど離れたビーチに移動した俺は、横須賀に潜水艇を転移した時と同じく“待機時間設定無し”、“承認設定無し”の転移用魔法陣を30個設置した。
潜水艇を転移の際は転移完了後に自動消滅するタイプで展開したが、今回は俺が消すまでは展開し続けるという設定で作り出している。
そんな感じで魔方陣を設置し終えたあと、急いでセーフハウスに戻り特殊マットの方の魔法陣に転移。予定通り、並み居る人々を新たに増設した転移魔法陣へ誘導させ、騒ぎを終結させることができた。
少しドタバタしてしまったが、莉穂姉と一緒にトータルエクリプス島で朝焼けを堪能できたから良かったと思っておこう。
「…で。無人島と聞いていたのに、ココがやたらと賑やかになっている経緯は分かった。だが、なんで俺達まで招待されたのか? その辺を詳しく」
「私は、薫と一緒に綺麗な朝焼けを堪能できたから、誘ってくれた渉君にはお礼の言葉しかないわ」
俺達の前には、異なる反応を示す二人の幼馴染──天野と網谷の姿があった。
俺達は現在、朝日がきらめくビーチではしゃぎ回っている学園の女性陣を横目に見ながら、幼馴染ズを含めたお馴染みのメンバーだけで集まり、セーフハウスのリビングにて会話をしている。
尚、二人がここに居る理由は、今しがた網谷も言ったように俺が呼び出したからである。
ちなみに、二人を連れて来た流れを説明すると…。
木曜日の夜、天野宛に『16日(土)の夜10時20分前後に、俺の家に来い。あ、都合が合うなら網谷も連れてきてね♪』という内容のメールを送信。天野から『あいよ』という返信をもらう。
土曜日になり、ノーマン達をトータルエクリプス島に転移させてから天野を呼びに行こうと思った矢先、大渋滞を目の当たりにして大わらわ。
大人数を転送している最中に天野から「お前ん家着いたぞ」と電話が入る。
「もうちょっと時間がかかるから、家の塀に隠れて網谷とイチャイチャして待っててくれ」とウィットに富んだジョークを交じえつつ待ってて欲しい旨を伝えたところ、天野から「生身の女相手にイチャイチャしたくねぇよ…」とゲンナリされる。
しかし、その反応から網谷が一緒に居るという事はわかったので、さっさと渋滞を解消させて迎えに行く事を決意。
事態が収束したのち、急いでノーマン達をビーチへ転移させ、東京の実家直通の魔法陣が刻まれた特殊マットを取り出して天野達を迎えに行く。
急いで二人を玄関に通し、トータルエクリプス島直通の魔法陣マットに乗ってもらい俺が魔力を供給させて強制転移。
セーフハウスの転移部屋に移動した事で呆気にとられている二人を引っ張り、皆がいるビーチに合流。
皆で仲良く朝焼けを堪能したあと、現在に至る…そんな流れである。
……しまった、今思い出してみると、急いでいたせいで土足で家の中を走り回ってたわ、俺。
いや、今はそんな事を思い出してへこんでる場合じゃない。天野の疑問に答えてやらねば…。
「天野はともかく、網谷まで誘ったのは“天野から網谷への好感度”を上げるためだね。南国のビーチで綺麗な朝焼けを堪能し、ロマンティックな雰囲気を味わう二人の男女──」
「いや、他にも人が百人単位でいっぱいいただろ? 雰囲気も何もないと思うんだが…。だいたい、二次オタの俺がリアル女子と朝焼けを見たところで、『あぁ、横にいるのが二次元美少女だったら完璧だったのに…』という感想しか出ねぇっての。
それで? 網谷を一緒に呼んだ理由は分かった。じゃあ、俺を呼んだ本来の目的ってのはなんだ? 少なくとも、朝焼けを見せるためじゃないんだろ?」
「──まったく、そんなんじゃ女子にモテないぞ?」
「下手にモテて、渉みたいに4人もリアル美女・美少女をはべらせる状態になるくらいなら、モテない方がマシだよ」
「待ちたまえ、確かにはべらせているように見えるかもしれないが、本命は莉穂姉一択だ。ただ、離しても引っ付いてくるから最早諦めているだけで…。
それと、前にも説明した通りマチュアは俺達が創ったアンドロイドだから、“現実”と言えるかどうか微妙なところだぞ」
マチュアの件を聞いて何か思うところがあったのか、天野は少し考え込んだ後に一言呟いた。
「………。つまり、“空気嫁”ってやつだな。まぁ、身も蓋も無い言い方するとダッチ──」
「“嫁”!? 渉! 私、今初めて“渉の嫁”という認識で呼ばれました!」
「落ち着け、マチュア! ただの隠語だ! 真っ当な意味の“嫁”じゃねぇ!」
喜びはしゃぐマチュアに落ち着くよう説明していると、網谷が熱の籠った瞳で天野の腕を取って話し始めた。
「ねぇ、薫…。さっきのって、『女子から想われるのは、網谷だけで十分』って意味で言──」
「いやリアル女子にモテたいと思ってないから、その発想は無かった」
天野のヤツ、網谷の期待をバッサリと切り捨てやがった。
「うぅっ…」と押し殺した雰囲気の泣き声を出しつつ、妙にスローモーションな動きで目元を拭いつつ崩れ落ちる網谷。よく見れば、目尻には薄らと涙が浮かんでいる。
何だろう…普通の洋服を着ているというのに、何故か和服姿で咽び泣く町娘の幻影が重なって見えるぞ。これが、女優業も熟す現役トップアイドルの迫力というヤツか…。
網谷…恐ろしい子!
「ふぅ…。ある意味、BB並みに潔い捻くれっぷりだなぁ…」
天野と網谷のやり取りを見ていたノーマンが、俺を引き合いに出して失礼な事を言いやがる。
「おい、ちょっと待て。俺はちゃんとリアル女子に興味深々だから、ここまで捻くれてないぞ?! ただ、その興味対象が莉穂姉に極振りされてるだけで──」
「「「「「いや、十分捻くれてるって…」」」」」
何故か莉穂姉以外の全員から総ツッコミを受ける羽目になってしまった。…解せぬ。
仕方ない、これ以上力説しても形勢は変えられないだろうし、脱線していた話題を本来の流れに修正して誤魔化そう。
「ンンッ…。まぁ、俺達が捻くれてるかどうかは一旦置いておくとして…。天野、お前を呼んだ理由だったな? それはな……コイツをお前に渡すためだ」
本日も大活躍していた物を取り出すときに使う転移魔法陣を空中に展開し、その中から一抱えほどの長方形のダンボールを取り出す。
中身を知っている俺とノーマン、マチュア以外の全員の視線がダンボールに集中する。
「渉、このダンボールは一体…?」
「フッ…コレはだな──」
「薫ならば、中身を見れば一発で理解できるハズだぜ?」
「──だから、なんでノーマンが偉そうに言うんだよっ! 俺、今、説明しようとしてたよね?! ドヤ顔でっ! なんでそれを横から掻っ攫っちゃうかなぁ…。まったく、この前といい、今といい…。まぁいいや、ノーマンが言った通り天野なら見れば想像がつくだろうしな」
やや釈然としない気持ちを残しつつ、皆の視線が集中する中でダンボールを開く。
するとその中には…。
「「「「「これは……ベルト?」」」」」
「ま…まさか……。おい、渉。このベルトって、もしかして!?」
疑問符を浮かべる女性陣とは対称的に、キラキラとしたエフェクトが見えそうなくらいに期待を露わにする天野。
俺は鷹揚に頷き、天野の想像を肯定してやる。
「あぁ、ご想像の通り“変身ベルト”だ」
そう。ダンボール中には、月曜日の夜に義父さんに設計図を渡した変身ベルトが入っていたのだ。それが木曜の夕方に届いたので、土曜日──つまり今日の朝焼け満喫ツアーのついでに天野に声を掛けたという流れである。
まぁ、ベルトと一緒にとんでもない額が記載された請求書まで入っていたのは予想外だったが、今まで軍から出ていた給料もあるし払えない金額ではなかった。
さて、これで天野の興味をベルトに釘付けにできただろう。
あとは、ベルトを交渉材料にして“とある頼み事”を持ちかけるとしようか…。
毎度読んでいただきありがとうございます。
また次回も金曜日更新予定です。
…水着回を入れたいが、吾輩の文章力ではイマイチ良さを表現できる気がしない…。
絵を描けば早いのかもしれないが、それは更にハードルが高い。
結論! やっぱ、作家さんや漫画家さんやイラストレーターさんは凄ぇやっ!(小並感)
2018/4/27 天野への声掛けメールを送った時間帯を、“昼”から“夜”に修正。




