第07話 - 義弟と義姉、感動の再会
渉のシスコン要素が火を吹きます。
─ 2012年4月20日(金) 09:09 ─
「よし!催眠完了…っと。 ってわけで…莉穂姉、助けに来たよ!」
「渉、来てくれると信じてたわ!」
ガシィッ!──
テロリストの襲撃事件からおよそ50分、ねんがんの義姉ちゃんとハグができたぞ!
「何このバカップル…」
「………」
抱きしめあってイチャイチャしている俺たちの横で、ノーマンはゲンナリしながら物申し。催眠状態にしたテロリストは、ジト目で無言の非難を訴えていた。
まったく、義姉の抱き心地を堪能してヘヴン状態になっているというのに無粋な連中だ。
「うっせ、ノーマン! 俺は今、10分前に疲れ果てた心を、莉穂姉を抱きしめることで癒しているんだ!」
「そうよ!2年ぶりだってのに、デリカシーが足りないところはちっとも変ってないのね! アメリカ留学で何を学んできたのよ! 60分ぶりに義弟の匂いを堪能してるんだから邪魔しないで!」
「えー?俺、悪者扱いかよー。久しぶりに会ったってのに俺の扱いがぞんざい過ぎない? それにホラ、二人とも周りをよく見ろよ、軒並み呆れられてるぜ? つか莉穂姉、俺の格好とテロリストを鎮圧する手際を見て、本当にアメリカ留学に行ってたとでも思ってるの?!」
確かに、教室内の面々からは「また始まった」と言わんばかりの表情しか窺えない。
ちょっと失礼して、心の声を聞いてみるとしようか。
[早く終わらないかな…][砂糖吐けそう…][私も甘~い恋がしたいなぁ…ここまでいきたくはないけど][見た目だけは良いカップルなんだけどなぁ…][いくら血が繋がってないとはいえ、姉と弟なのによくやるわ…]
何という事でしょう、周りからは「呆れた」という感情以外感じられません。
でも、それ以上にショックだったのは──
[渉大好き。渉尊い。渉愛してる。あぁぁぁああ渉の匂いクンカクンカ…ふぁあああ堪らない。渉渉渉渉わたるわたルわタルワタル…]
──莉穂姉が想像以上に末期だったことである。これあかんやつや。
今までは、親しき仲にも礼儀ありということで精神感応魔法による好感度レベルを測ることはなかったが、このままエスカレートすると莉穂姉と滝川の間で“Nice Boat.”な展開になりかねない。
俺は一度力強く抱きしめたあと、名残惜しい気持ちを堪えつつ莉穂姉の肩に手を置き、目いっぱいを腕を伸ばして距離を取ってみた。
普段ならもう少し抱きしめあうところだが、今は莉穂姉のヤンデレレベルの測定が先である。
とりあえず、引き離したことにより莉穂姉に外見的な変化が見受けられるかをチェックだ。
まずは瞳の変化の有無。ヤンデレであれば、透明感を持っていた目が濁り始め、ハイライトが消えるといった変化が始まるが……どうやら問題ないらしい。焦げ茶色の瞳は澄み切っており、くりくりとした目を瞬かせながら俺の突然の行動に驚いているだけのようだ。瞳孔が開ききったりすることも無く、いつも通り実に愛らしい。
次に表情。普段であれば女子大生としても十分通用するような、キリッとした精悍な顔立ちだが、今は純粋に「え?どうしたの?」と言わんばかりの表情をしている。ヤンデレによくある“イチャイチャできなくなった瞬間に無表情になる”といったことも無く、実に美しい御尊顔である。
抱きついたついでに確認しておいたが、髪型もいつも通り背中の半ばくらいまである黒髪ロングストレートがベースであった。前髪は滝川と同じく目にかからない程度の長さだが、耳の上の髪は長く伸ばされており、左右の一房をそれぞれ軽くねじりを加えながら側頭部を沿うように後ろに回し、後頭部でピン止めしている。ピン止めして余った左右の髪は、シュシュで一房に纏めてから垂らされおり、ピンを上手く隠しつつお洒落なローテールといった感じにまとまっている。ロングストレートの上にローテールが重なるという一粒で二度おいしい髪型である。
休日になると時間に余裕ができるためか、耳の上の髪をそれぞれ三つ編みにして可愛らしさをUPさせている。さすがに後頭部でまとめた髪は三つ編みにはしていないが、何にせよ顔を突っ込んでクンカクンカしたくなるほどの魔力を秘めた美しき御御髪である。
そして、極めつけにグラビアアイドル顔負けの、“ボンッ!キュッ!ボンッ!”なワガママボディ。齢17歳にして93cmのGカップという破壊力である。真正面から見ても服の陰影で「すごく…大きいです」ということがよく分かる。
それにしても、莉穂姉の巨乳には前から気づいていたのに、なんで滝川の方は今日まで気づかなかったんだろう…。……あぁ!思い出した。去年の今頃「ついにGカップになったわ!」とか言いながら莉穂姉が俺の頭を抱き抱えてきたから、それ以降意識してしまったんだ。あの日は、柔らかいのに暴力的という一見矛盾した感覚を肌で感じた日だったなぁ…。
さて、最後に御御足。いつも通りの白いニーソを着用しており、スカートと素肌と膝上部分のニーソの比率が4:1.5:2くらいになるよう装着されている。実に俺得な絶対領域の配分である。ニーソが莉穂姉の太ももに少し食い込んでいる様子がもう堪りません。
…ふぅ。莉穂姉のヤンデレ度診断をしていたはずなのに、危うく俺が熱いパトスを迸らせてしまうところだった。見ているだけで俺の理性をゲシュタルト崩壊させかけるとは、莉穂姉は俺にとって神にも悪魔にもなれる人物だな。
では仕上げに、最も重要な精神方面のチェックだ。外見上に変化が無くても、内心大荒れだった場合は最終手段を使わざるを得ない。俺は催眠魔法を使う可能性も視野に入れつつ、意を決して莉穂姉に精神感応魔法を使った。
[え?なんで急に離れて…それに何か、じっと見られているような。 ハッ!?これはまさか、ファーストキッスの前振り?! さっきは急な安心感からの反動ですごく積極的になっちゃってたし、この機に乗じて渉も一歩前進する気なのね?! お父さん、お母さん、孫の顔を見られるのもそう遠くないかもしれません。期待して待っていてください。 さぁ!バッチコーイ!]「ん~…」
良かった。さっきの暴走っぷりは、極度の緊張から解き放たれた反動だったんだ。「中に誰も居ませんよ」なんて展開が待ち構えてなくて本当に良かった。ただ単に、俺と同レベルの手遅れな義弟好きなだけだったんだ。
では、据え膳食わぬはなんとやらなので…渉、ファーストキス!行きまーすっ!
「じゃ、BBと莉穂姉の挨拶も終わったみたいだし、さっさと学園の解放をやっちゃおうぜ、なっ!」
「「アーッ!ノーマンのバカー!!」」
もうあと1cmというところでノーマンが俺の首根っこを引っ掴み、俺と莉穂姉は再び離れ離れにされてしまった。二人分の悲鳴が3-Aの教室に響く。
ぐぬぬ…ノーマンめ、まるで子猫をひょいとつまむ様に持ち上げやがる。そのくせして、神力による身体強化を行っていないのだからまるで勝てる気がしない。こっちはノーマンの握力に捻り潰されないよう、首周辺の強度を魔力で補強するだけで手一杯だというのに…。
ちなみに現在、あらんかぎりの集中力で肉体強度を高めているのだが、ノーマンの指が食い込んでいるあたりからミシミシという音が聞こえてくる。首を持たれた瞬間、咄嗟に発動させたから良かったものの、一般人だったら首が潰されるレベルの握力なんだろうな……変な痕がつかなけりゃいいけど。
「今よっ!誰か莉穂を押さえてっ!」
莉穂姉が慌てて追いかけようとしていたが、誰かが発した合図によって飛び出したクラスメイト二人に取り押さえられてしまった。
“ロミオとジュリエット”あたりのメロドラマのような絵面だったらまだ好かったのに、ノーマンが俺を宙吊りにしてるせいでさながら“王○の幼○を取り上げられた○ウシ○”の図である。
「いやーっ!離してー!! 渉ぅぅ~!」
[[[[[誰だか分からないけど、良くやったわ!サングラスの子!]]]]]
莉穂姉の切ない悲鳴が響く中、先輩方から無言の歓声を受けるノーマンだった。
くそっ…こんなことなら、すぐに魔法を解除しておけばよかった。俺にしか聞こえてないのに、俺に対する同情が一切聞こえてこないとか何の嫌がらせだよ、これ。
─ 同日 09:16 ─
「…ただいま」
「歩かずに戻ってくるとは、いい御身分になったものね」
ノーマンにぶら下げられたまま2-Bに戻ってくると、ジト目の菜月先生が嫌味と共にお出迎えしてくれた。俺にそういった趣味はないので、ジト目で話しかけるのやめて下さい。地味に心が痛いです。
「これはこれで、首周辺の強度をあらんかぎりの集中力で高めているから、地味に辛い──」
「あ。ごめん、今離すわ」
ゴッ──
半ばいじけた感じに体育座り状態で持ち上げられていた俺の身体が、ノーマンの宣言と同時に自由落下を始める。1mも無い高さからの落下だったが、首に集中させていた肉体強度上昇の魔法を移すことも出来ず、強かに尻を打つ羽目になってしまった。
「──がっはっ! 尻が!尻がガチで痛ぇ…。 ちょっと、ノーマン!お前さっきからいきなり過ぎなんだよっ! 心の準備も無しに首を引っ掴まれたり、床に落とされたり…いきなりやられる方の身にもなれっての!」
「渉、落ち着きなさい。そこの黒薔薇三連星が、物凄い勢いであなた“総受け”の妄想を始めているわ。 今後、そこのグラサンと会話する際は、言動に注意した方が見のためよ」
菜月先生に言われ黒薔薇三連星の方を見やると、確かに爛々《らんらん》とした目で俺たち……いや、涙目で尻をさすっている俺を凝視していた。
普段は陶磁器のように白いきめ細やかな肌をしている三人だが、今は興奮と期待で頬を染めている。髪はしっとりとした黒髪で、顔立ちも大和撫子といった雰囲気が漂う美人であり、黙っていれば文句のない和風美少女三人組である。だが、腐女子だ。
俺は居た堪れない気持ちを押し込め、教職員棟と警備員棟の解放についてノーマンと話し合うことにした。…だが、その前に最初に気絶させたテロリストを起こして催眠魔法をかけておこう。
「忠告ありがとう、マジカルゆかりん。 でも、あの様子だともう何しようと手遅れな気がするから、潔く諦めるわ。 …で、一つお願いがあるんだけど、そこに転がってるヤツをマジカルゆかりんの魔法で叩き起こしてくれないかな? 起きたと同時に、俺が催眠魔法使って催眠状態にしちゃうからさ」
「なんで催眠魔法が使えて、“睡眠導入魔法”の応用ができないのよ? 難易度的にどう見ても逆じゃない」
「それは、その…ホラ、さっきマジカルゆかりんが乱交疑惑の話をしたじゃない? あの時、理事長や教職員の人たちには説明したんだけど…あの事件、俺が自分に使った睡眠導入魔法が原因だったんだよね。 それ以降、どうも使うのに抵抗があってさ。上手く魔法式を構築できる自信がないんよ…」
睡眠導入魔法は、文字通り対象を眠りに誘う魔法だ。練習次第では質の良い睡眠をとらせることもでき、熟練者になれば“確実な快眠”と“心地の良い起床”が約束された優れものである。視覚目盛魔法とは逆で、常に人気上位にランキングされる魔法だ。
そう、眠らせるだけではなく、目覚めさせることも可能な魔法なのである。これで、テロリストを起こして貰おうという寸法だ。
去年のGW、俺が自分自身に睡眠導入魔法を使ったために、とある事件が発生してしまったのだが、これは思い出したくもないので割愛させて頂こう。
「それって、完全に精神的外傷じゃないの。 はぁ、何であれ早いうちに克服なり何なりして、無理やりにでも使えるようにしておきなさい。いざって時に地味に便利なんだから。 というか、渉くらいの腕なら、超手加減した“雷撃魔法”で叩き起こすこともできるんじゃない?」
そう、RPGや小説などでもお馴染みの“火炎魔法”、“氷結魔法”、“雷撃魔法”、“治癒魔法”といったメジャーな魔法に関しては、この籠月学園に修学している以上、普通に扱えるようになって当然の必修魔法である。人によって、得意な系統や威力の強弱に差は出るものの、二年への進級にはこれらが申し分なく使えるようになることが合格基準となっているのだ。
俺に至っては幼少の頃から鍛えていたので、一流と言っても過言ではない。過言ではないのだが…。
「だって、叩き起こす程度のショックってなると、直に皮膚に触れて威力調整しないと下手すりゃ気絶が長引くだけでしょ? となると、手首とか首筋に触れることになるわけだ」
「そうね」
「マジカルゆかりんは容易な方法が他にあるのに、わざわざ触りたいと思う?コイツらに」
「…なんか、汗とかでヌメッとしてそう…まぁ、確かになるほど、それが理由ってわけね。 いいわ。起こすついでに、私の方で暗示もかけてあげる。どういった内容にしたの?」
触った時の感触を少し想像してしまったのか、顔をしかめながら俺の意図を組んでくれる菜月先生。催眠までは面倒なんじゃなかろうかと思っていたのだが、「久々に腕が鳴るわ」みたいな感じでやる気満々のお顔である。
暗示の内容を伝え終わると、30分ほど前にノーマンが言ったセリフを菜月先生にも言われてしまった。
「渉、意外とえげつないわね」
「えー? エコでクリーンなリサイクルだと思うんだけどなぁ」
「人に優しくないでしょうが。 自分の意思が捻じ曲げられてるのよ?」
「マジカルゆかりん、よく考えて。テロなんて、他人に迷惑かけまくる行為だよ? そんな奴らの意思を尊重したら、つけあがるでしょ。 今まではた迷惑な事をしてきた分、徹底的に利用させてもらわなくちゃ」
「…言われてみればそうね。 じゃ、さっさとやっちゃいましょうか」
言うや否や、僅か10秒足らずでテロリストを催眠状態にしてしまった菜月先生の手腕に、俺は改めて戦慄を覚えつつ「俺も本腰入れてマスターしよう」と心に決めるのだった。
どう考えても、今回の騒動だけで終わるとは思えないからな。裏に教祖様とやらが居る以上は…。
“月○日の○わわ”の“○イちゃん”って、本当にデカかったんだな…とカップ数を考えてて心底感じました。
アニメ終盤でJだったもんな…高校生でありながら…ゴクリ。